恋するだけでは、終われない / お別れしたって、忘れない

「……美也(みや)ちゃん、そろそろ切るね。お話ししてくれてありがとう」
「どういたしまして。じゃぁ、いってらっしゃい」


 ……玲香(れいか)にそう伝えると、わたしはスマホの画面が暗くなるまでしばし待つ。


「玲香とはしばらく、お別れかぁ〜」
「いや、美也ちゃんこそ。先に大学いったのにそれいうの?」

 それもそうだと、ふたりで笑い合いながら。
 お互いの大好きな人の話しも……少しはした。



『恋するだけでは、終われない / 恋したことなら、忘れない』



 玲香が教えてくれた、次回作のタイトルは。
 いまのわたしたちには……ちょっとつらいかな。

「そうですか? 美也ちゃんなんて、なにがあってもめげないでしょ?」
「そ、そんな無敵じゃないよわたし」
「自分で無敵とかいう人、普通いませんけどね〜」
 玲香は、楽しそうに笑うと。

「きっと美也ちゃんじゃないから、心配しなくていいんじゃないですか?」
 やさしい声で、付け加えてくれた。


「れ、玲香もねっ!」
「はいはい、無理しないでいいですから」

 あぁ……。
 なんだか、玲香って。


 ……わたしよりもずっと、『お姉ちゃん』みたいだ。


「それよりも美也ちゃん。読者のみなさんへの感謝のスマイル、お願いしますね」
「えっ、わたし?」

「こういうのは……美也ちゃんでしょう」
「せ、せっかくだから。玲香もやっとこうよぉ〜」
「とっても高いですよ、わたしの笑顔」
「わたしのだって……安くはない」
「はいはい、わかりました。じゃぁ一緒にしますよ」


 では、読者のみなさん。
 随分と高いらしい玲香の笑顔を、ぜひ想像してあげてください。
 きっと今夜は、わたしのそれよりも。

 海原(うなはら)君への想いがいっぱいっぱい、詰まっているはずですから……。




 部屋の電気を、消す前に。
 机の上の写真立てを手に取り『みんな』を見る。

「……強いなぁ、玲香」
 わたしは、寂しい。
 大学が楽しくないわけではない。
 ただ単純に、みんなといられないのが寂しい。


「そうだ! そういえば!」
 玲香は『最悪の場合』、高校を留年するのだといっていた。

「それって……海原君と同学年ってこと?」
 あぁ……寝る前なのに思い出した。
 どうしよう、来年玲香が。
 もし海原君と『同じクラス』だったりしたら……。


「ダメだよ玲香。勉強しよう!」
 あの子のことだけど、念のため。

 わたしは今度の連休に、学問の神様めぐりでもして。
 可能な限りお守りを集めにいこうと。
 慌ててカレンダーを見る。


「ダメだうちの大学、連休も講義あるんだった……」
 そもそも、だからみんなに会いにいけないのに。
 あぁ、このままだと。
 あの子たちに『また暴走してる』とかいわれそうだ。

 でも、そう考えているうちになんだか。
 少し楽しくなって……眠れる気がしてきた。




「……おやすみなさい」
 写真立ての中の誰かさんに、小さく声をかけ。

 わたしはゆっくり……目を閉じた。






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シリーズ・七作目となりました。
『恋するだけでは、終われない / お別れしたって、忘れない』

最後までご愛読いただき、誠にありがとうございました。

膨大な数の小説から、本シリーズと本作を発掘してくださり。
加えてこのページまでお付き合いくださった、読者のみなさまに。
今回も深く、感謝しております。


<作者注:2026年7月20日、以降の文章を更新させていただきました>


さて、開始が大幅に遅れておりました次回作ですが。
このたび『8月10日(月曜日)』より、連載を開始させていただきます。

作者といたしまして、新作掲載まで相当な期間があいてしまいましたことを。
みなさまに、深くお詫びいたします。

同時に、彼ら『丘の上』放送部員たちのすごす日々は。
もう少し続いてまいりますので。
次回作以降も……お楽しみいただければ幸いです。




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つくばね なごり
最新作



……ようやくたどり着いたこの場所を、わたしは誰にも譲らない。



『恋するだけでは、終われない / 恋したことなら、忘れない』



2026年8月10日(月曜日) 連載開始(予定)です。



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[おまけ:僕は先輩のことを、少しだけ疑っていた]


「作者の人、ずいぶんと仕事が遅いんですね」
 放送室で、僕がポロリと口にすると。

 三藤(みふじ)先輩が、ボソリと。
「海原くん、人にはいろいろと事情があるのよ」
 ため息まじりに……つぶやいている。

「は、はぁ……」
 以前にも感じたのだが、先輩は意外と作者の人に理解がある。


 ……ということは。も、もしかして。


「海原くん?」
 マズい、また心の中を読まれたらしく。

「なにを考えているのかしら?」
 先輩の瞳が、すでに『否』と伝えている。


「もしわたしが作者なら、そもそも『誰も』登場させないわよ」
「へ?」

 ……先輩がいま、特に女子など不要だと口にした気がするけれど。

「なにかしら?」
「な、なんでもありません」

 とにかく、三藤先輩は。
 作者の人では……ないらしい。




「そろそろ、時間ですね」
「そうね」
 僕の呼びかけに、三藤先輩は短く答えると。

「次回作が、ようやくはじまるわね」
 長い黒髪を、澄ました顔でサッとはらったものの。


 その横顔はなんだか……少しだけうれしそうだった。