薬師の冷遇妻が解く、公爵家の秘密 〜放置した旦那様が溺愛に変わるまで〜

それから一年が過ぎた。
いや、正確には一年と三ヶ月が経った。

颯介と澄乃の夫婦関係は、名ばかりのものに留まっていた。
同じ屋根の下に住み、同じ食卓で食事を摂ることもあるが、夫婦としての間柄は空白のままであった。

初夜に起きたことが、その後も繰り返された。
澄乃と颯介の間に何かが育まれようとするたびに、静花が現れる。
あるいは体調を崩し、あるいは泣き喚き。

「お兄様が来てくれなければ眠れない」

と言って女中を寄越した。
颯介は必ずそちらへ向かった。

澄乃はそれを止めなかった。
止める気持ちもなかったと言えば嘘になるが、澄乃にはこの家の事情が徐々にわかってきていた。

御堂静花は、颯介の父である先代公爵が後に迎えた後妻の蓮子の連れ子であった。

御堂家の実の血は引いていない。
しかし先代公爵が他界した後、蓮子は御堂家に残り、静花も御堂家で育った。

颯介と静花は、実の兄妹ではない。
しかし颯介は静花を、幼い頃から実の妹として扱い、静花が体の弱い子であり、たびたび病に倒れるたびに、颯介は側にいた。

それが今の状況を生んでいた。

静花は十六歳になっていた。
見目麗しく、白い肌と儚げな目をした少女。

澄乃が御堂家に来てから、静花は澄乃にほとんど口をきかなかった。
廊下ですれ違えば顔を背け、食事の席では颯介とのみ話した。

澄乃を邪魔者として見ている。それは明らかだった。
後妻の蓮子も、似たようなものであった。
蓮子は、時折わざとらしいほど穏やかな口調で言った。

「御堂家は大きいでしょう。奥様には、あまり奥様らしいことを求めませんの。静花のこともわたくしで見ますので」

世話を期待されていたにも関わらず、近付くことを拒まれていたのだ。
表向きは礼儀を守っていたが、その目には冷ややかなものが宿っていた。
それは思いやりの形をした線引きだった。

「澄乃さんは本当に堅実な方ね」

と言う蓮子の声には、いつも微妙なものが含まれていた。
澄乃は静かに生活した。
朝は早く起き、庭を歩き、書を読む。

実家から持ってきた薬の書物も大切に持っており、折々に読み返す。
使用人たちには丁寧に接し、食事の好みや体の具合を気にかけた。
彼女は孤独だったが、孤独に飲み込まれてはいなかった。

颯介とは、ほとんど会話がなく、朝食の席で挨拶を交わし、時折廊下で顔を合わせる。
それだけ。

彼は忙しく、内務省の仕事と、公爵家の家務と、静花の世話と——彼の時間は常にどこかへ取られていた。

「奥様、お顔の色が優れませんが」

ある朝、澄乃の身の回りの世話をする女中がそう言った。

「少し眠れなかっただけよ」
「昨夜も、静花様が……」

澄乃は女中の言葉を止めた。
言わなくてもわかる、という沈黙。

「いいのよ。静花様はお体が弱いのだから」

それ以上でも、それ以下でもない本心。
不満がないとは言えないが、怒りを抱える気力も今の澄乃にはない。
ただ、この家でどう生きていくかを、静かに考えていた。

颯介が頭痛に悩まされるようになったのは、その頃からのこと。
正確には以前からそういう傾向はあったのだが、仕事が立て込み、静花の体調が思わしくない時期と重なり、頭痛の頻度が増していた。

「旦那様、またお頭が?」

と宮部老人が心配そうに言うのを、澄乃は廊下から偶然聞いた。

「構わない。薬を飲んだ」
「しかし、あのお薬はあまり効かないとおっしゃっていたではございませんか」
「他に方法もない」

颯介の声は疲れていた。
澄乃はその場を通り過ぎたけれど、心の中で何かが引っかかった。

薬が効かない頭痛。
澄乃は自室に戻り、薬の書物を取り出した。