年が明け、春が来た。
梅の花が咲き始めた御堂家の庭に、澄乃と颯介は並んで立っていた。
「約束通りだな」
颯介が言うと、澄乃は微笑んだ。
「昨年の秋に、来春一緒に見ようとおっしゃいましたね」
「覚えていたか」
「もちろんです」
白い梅の花が、朝の光の中で静かに咲き、甘い香りが、冬から春への移ろいの中に漂っている。
颯介は澄乃の傍に立ち、梅を見ながら言った。
「静花の学校が、来月から決まった」
「それは良かったです」
「女学校だ。静花が自分で選んだ。随分と積極的になった」
「静花様は元来、そういうお方だったのだと思います。ただ、囲いの中に長くいて、できないと思わされてきた。本当の姿が、ようやく出てきているのでしょう」
「お前のおかげだ」
「静花様と旦那様の力です」
「頑固だな」
「旦那様こそ」
二人は少しの間、黙って梅を見ていた。
颯介が澄乃の手を取った。
ゆっくりと、静かに。澄乃はその手を握り返した。
颯介は何も言わなかったが、その表情に満足した様子が滲んだ。
澄乃は梅の花を見ながら、一年前の自分には、こんな春が来るとは思っていなかった。
孤独な夜が続いて、自分がこの家のどこにいるのかわからなくて、それでも静かにやり過ごしていた。
でも今、颯介の手がある。傍に人がいる。
その温もりは本物だと、澄乃にはわかった。
「澄乃」
颯介が呼んだ。
「はい」
「好きだ」
簡単な言葉だった。
飾りのない、短い言葉。
しかしだからこそ、それは颯介らしかった。
澄乃は颯介を見て、微笑んだ。目の端が少し滲んだが、それは隠さなかった。
「私も……私も、旦那様のことが好きです」
颯介は澄乃の肩を引き寄せた。
澄乃はその胸に、静かに頭を預けた。
梅の花が風に揺れ、甘い香りが二人を包む。
澄乃は颯介の傍に立ったまま、白い梅の花を見上げた。
春の光の中で、御堂家の庭は穏やかに輝いていた。
梅の花が咲き始めた御堂家の庭に、澄乃と颯介は並んで立っていた。
「約束通りだな」
颯介が言うと、澄乃は微笑んだ。
「昨年の秋に、来春一緒に見ようとおっしゃいましたね」
「覚えていたか」
「もちろんです」
白い梅の花が、朝の光の中で静かに咲き、甘い香りが、冬から春への移ろいの中に漂っている。
颯介は澄乃の傍に立ち、梅を見ながら言った。
「静花の学校が、来月から決まった」
「それは良かったです」
「女学校だ。静花が自分で選んだ。随分と積極的になった」
「静花様は元来、そういうお方だったのだと思います。ただ、囲いの中に長くいて、できないと思わされてきた。本当の姿が、ようやく出てきているのでしょう」
「お前のおかげだ」
「静花様と旦那様の力です」
「頑固だな」
「旦那様こそ」
二人は少しの間、黙って梅を見ていた。
颯介が澄乃の手を取った。
ゆっくりと、静かに。澄乃はその手を握り返した。
颯介は何も言わなかったが、その表情に満足した様子が滲んだ。
澄乃は梅の花を見ながら、一年前の自分には、こんな春が来るとは思っていなかった。
孤独な夜が続いて、自分がこの家のどこにいるのかわからなくて、それでも静かにやり過ごしていた。
でも今、颯介の手がある。傍に人がいる。
その温もりは本物だと、澄乃にはわかった。
「澄乃」
颯介が呼んだ。
「はい」
「好きだ」
簡単な言葉だった。
飾りのない、短い言葉。
しかしだからこそ、それは颯介らしかった。
澄乃は颯介を見て、微笑んだ。目の端が少し滲んだが、それは隠さなかった。
「私も……私も、旦那様のことが好きです」
颯介は澄乃の肩を引き寄せた。
澄乃はその胸に、静かに頭を預けた。
梅の花が風に揺れ、甘い香りが二人を包む。
澄乃は颯介の傍に立ったまま、白い梅の花を見上げた。
春の光の中で、御堂家の庭は穏やかに輝いていた。



