薬師の冷遇妻が解く、公爵家の秘密 〜放置した旦那様が溺愛に変わるまで〜

澄乃から話を聞いた翌週、颯介は独自に調査を始め、内務省の人脈を使い、柴田という医師の経歴を調べた。

柴田三郎。
大阪出身の四十二歳。
医師免許は持っているが、もとは小さな診療所を営んでおり、様々な訴えを受けて何度か場所を移しているという記録があった。
御堂家に来るようになったのは、蓮子が後妻として入って来た七年前からのことである。

颯介はさらに、蓮子と柴田の関係について調べた。
結果は、一月もかからずに出た。

柴田三郎と御堂蓮子は、七年以上にわたって不倫関係にあった。
柴田が御堂家の出入りを許されるようになったのも、蓮子の取り計らいによるものだった。
颯介は書斎でその報告書を読みながら、長い間黙っていた。
澄乃は颯介に呼ばれ、書斎を訪ねた。

「読んでくれ」

颯介は報告書を差し出した。
澄乃は読みながら、胸の中に冷たいものが流れた。
蓮子と柴田の関係は明白だった。
しかしそれ以上に、澄乃が気になったのは静花の薬の記録であった。

「旦那様、この記録をご覧ください。静花様の薬の処方が変わっている時期があります」

澄乃は報告書の一部を指さした。

「三年前から、処方の内容が変わっています。それ以前の処方は比較的妥当なものに見えますが、この時期を境に、先日私が問題視した成分が加わっています」
「三年前というと」
「柴田先生が静花様の主治医として頻繁に来るようになった時期と重なります」

颯介の顔が、かすかに青ざめた。
澄乃は静かに続けた。

「医学的に確認が必要ですが……もし意図的に静花様を弱らせ続けるような薬が投与されていたとしたら、それは医師として決してあってはならないことです」
「——つまり。柴田は、静花を故意に弱らせていた、ということか」

澄乃は颯介の目を見た。

「確認が必要です。ただ、私には……そう疑わずにはいられません」

子の病気を偽り、あるいは作り出し、周囲の同情と注目を集める——そういう行為が起きうることは、洋書の医学書にも記述されていた。
澄乃が以前読んだ書物の中に、似たような事例を記述したものがあった。
それを颯介に説明した時、颯介は長い間何も言わなかった。

澄乃は言葉を選んで続けた。

「蓮子様が静花様の病気を使って、この家での地位と旦那様の注目を繋ぎ留めようとしていた可能性があります。先代公爵様がお亡くなりになり、旦那様が家を継がれてから、蓮子様の立場は弱くなっていきました。旦那様が妻を迎えることになれば、さらにその立場は不安定になる」
「だから静花を」
「あくまで推測です。でも、もし柴田という医師が意図的に静花様を弱らせ、蓮子様がそれを利用していたとしたら……静花様自身も、長年その中に置かれ続けていたことになります」

颯介は椅子の背もたれに深く身を預け、天井を見た。

「静花は……静花は、何も知らずに……」
「はい。静花様は犠牲者です」

颯介は片手で顔を覆うと、しばらく、書斎に沈黙が満ちた。