空色の小鳥は、恋をしていた

 その夜以来、優希の肩を撫でるのが奏楽のルーティンになった。
 次の日も、その次の日もお願いされたので、三日目からは奏楽から声をかけた。
 
(僕的には小鳥を握り潰しているだけだけど。それでも、染谷に触れる)

 双方、合意の上で触る名目ができた。
 今の状況に喜んでいる自分がいる。

(僕は、なんて浅はかなんだ。大きな問題が、そのままだ。小鳥が消えない)

 もう一週間経つのに、小鳥が優希の肩から消える気配はない。
 毎晩、小鳥を握り潰しての睨み合いが続いている。

(あの小鳥、どうやったら消えるんだろう)

 そもそも、どうして現れたのかもわからない。
 消し方なんか、見当もつかない。

(ポルターガイストだって、また起きないとは限らないんだし)

 春休みが終わって帰ってきてから、二週間で三回起きた。
 頻度で考えたら、そろそろ次が起こるかもしれない。
 
「早く、ゴールデンウィークにならないかなぁ。でもなぁ……」

 長期休暇で実家に帰れば、ポルターガイストに優希を巻き込む事態は避けられる。
 しかし、もれなく優希の肩に小鳥を載せたまま、距離を開けることになる。
 それはそれで問題だ。
 奏楽はテーブルに突っ伏した。
 夕食が終わった食堂で一人、部屋に戻らずウダウダしている。
 部屋にいると優希の肩の小鳥が気になったり、ポルターガイストに怯えたりして、考えが纏まらない。

(放課後は手芸部に行ったり、教室で時間を潰せるけど。今のところ、寮の部屋でばかり、変なことが起こっているから)

 優希から目を離すのも怖いが、考える時間も欲しかった。

「あれ、奏楽じゃん。夕飯、終わったのに何やってんの?」

 後ろから声をかけられて、振り返る。
 クラスメイトの鷹宮(たかみや)颯真(そうま)だ。

(染谷と同じ、サッカー部の無自覚モテ組だ)

 明るくて元気で、さっぱりした気質の颯真は、話しやすくて接しやすい。意識しなくても人を惹きつけるし、モテている自覚も薄めだ。

「ちょっと、ウダウダしてる」

 テーブルの上で脱力したまま、颯真を振り返る。

「何でゴロゴロしてんだよ。相変わらず可愛い系だな」
「可愛くないし」

 颯真が面白そうに笑う。
 奏楽は、ぷっくりと頬を膨らませた。
 颯真はいつも同じような言い回しで奏楽を揶揄う。良い友達だと思っているが、そういうところはよろしくない。

「こういうトコな」

 颯真が奏楽の膨らんだ頬を指で突く。
 空気が抜けて頬が萎んだ。

「んで、何やってんの? 部屋、戻んないの?」
「ちょっと、考え事してんの」

 颯真が隣に腰掛けた。
 
「ふぅん……優希と喧嘩でもしたの?」
「してない」

 颯真の問いかけに、被せ気味に答えた。

「それも、そうか。優希って誰かと喧嘩とかするタイプじゃないもんな」

 颯真がテーブルに頬杖を突く。
 確かに優希は、喧嘩するより仲裁する側の人だと、奏楽も思う。

「あ、そういえば。奏楽って、優希と好きな人の話とかする?」
「えぇ⁉ なんで?」

 思わず、飛び上がって驚いた。
 颯真がつられて驚いた。

「3組の女子に優希の好きな人、聞かれたから。奏楽なら知ってるかなって思っただけなんだけど……何故、そんなに驚く?」
「だって、急だから」

 心臓がバクバクしている。

(そんな話、聞きたくない。染谷に好きな人がいたら、ショック死しそう)

 誰が好きか聞かなくても、いると知っただけでへこむ。

「染谷と、そういう話、したことないよ」

 奏楽はちょっとだけ俯いた。
 優希とは普通に仲が良いと思うが、お互いに踏み込んだ話はしない。
 それが共同生活のルールだと思っているし、特別何かを感じたこともなかった。

(けど、改めて聞かれると、少し悲しいな)

 優希との距離を再認識させられた気になる。

「まぁ、ルームメイトだからって何でも話すわけじゃないよな。俺も結斗と、そういう話しない」
「……颯真って、好きな人いるの?」

 何となく聞いたら、颯真がくりっと振り返った。

「いないけど。奏楽はいるの?」

 何とも言えずに、奏楽は黙り込んだ。
 奏楽を眺めていた颯真が、察した顔をした。

「あー……奏楽、顔なぁ」

 颯真が何か言いかけて、やめた。

「え? 何?」
「いや、何でもない」

 颯真が絶妙な顔をしている。
 
「変なこと聞いて、ごめんな。優希に好きな奴いんのって聞いた時は、適当にはぐらかされたんだ。だから、いるのかなって思って奏楽に聞いてみただけだから」

 颯真の言葉が、ざっくり刺さった。

「友達の好きな人とか、簡単に話すの、デリカシーない!」

 颯真の胸をポカポカと叩く。
 そんな話、聞きたくなかった。
 奏楽の腕を掴まえて、颯真が苦笑した。

「俺が思っただけだって。実際は、わかんないよ」
「でも、良くない!」

 半泣き状態で、奏楽はまた颯真の胸を叩いた。