色んな事件があったゴールデンウィークも、あっという間に終わった。
休みが明けて、奏楽たちにはいつもの日常が戻ってきた。
想いを打ち明け合って以来、優希の右肩に幽霊もスライムも、小鳥も現れることはなかった。
奏楽が悩まされていたポルターガイストも、パタリと起こらなくなった。
空色の小鳥のあみぐるみは、優希が御守りと一緒に持っている。
ほんのり雨の匂いがし始めた五月の下旬。
奏楽たちは手芸部の活動場所である家庭科室に集まっていた。
「いい感じ。優希、目を付けるの上手になったね」
出来上がったあみぐるみに縫い付けた目を、ちょいちょい指で確認する。
「やっと、毛糸で縫うくらいはできるようになったよ」
一仕事終えた後のように、優希が息を吐いた。
「細かい作業、苦手だよなぁ、優希は。俺の縫い目を見てみろよ。国宝級だぞ」
颯真が得意げにパッチワークの一部を見せ付ける。
「国宝級とまではいわないけどぉ、鷹宮の縫い目は細かくて綺麗だよね。パッチワークは縫い目を折り返すから、そこまで綺麗じゃなくても平気だよぉ」
花音が褒めながら笑った。
その隣では、千尋と結斗が編み物の本に釘付けた。
二人は棒編みで帽子を作っている。
「帽子なら本にも載ってるけど、イメージ違うんでしょ」
千尋の問いかけに、結斗が小さく頷いた。
「花の装飾は要らない。もうちょっと深くて、上が余るくらいがいい」
「文化祭で売る商品だよ」
呆れる千尋を、結斗が振り返る。
「今から作れば、何個かできるだろ。一個は自分用にする」
「篠原の帽子に花の装飾が付いてたら、可愛いのにぃ」
花音が残念そうに零した。
「俺に可愛さ、必要ないでしょ」
結斗が呆れている。
休み明け、颯真が結斗に手芸部入部について話してくれた。
幽霊部員でもいいと伝えたのだが、意外にも結斗は手芸に興味があったらしい。
サッカー部と掛け持ちの優希や颯真より、こまめに通ってくれる。
むしろ、颯真まで手芸部に入部したのが意外だった。
(しかも、優希より巧いんだよね。優希、気にするかな)
颯真と優希はサッカー部がメインだから、文化祭で個人の作品販売はせず、他の部員のサポートに入っている。
優希は奏楽のあみぐるみの手伝いだ。
花音のパッチワークのサポートに入っている颯真は、普通に器用だ。
「結斗ちゃんにお花、似合うと思うわ~。けど、本人が好きじゃないなら、いらないわね~」
詩織がカギ編みで作った花の小物を結斗の髪に翳す。
そっけない結斗でも、詩織は無碍にできないらしい。
大人しく飾られていた。
「デザイン、書いてみてよ。パターン、起こしてあげるから」
「そんなこと、できるの?」
千尋の提案に、結斗が驚いている。
「帽子くらいなら、普通にできるけど。私ができなくても、佳奈先輩ができるよ」
千尋の指名に、佳奈が得意げに顎を上げた。
「手芸なら、大体何でもできるぞ。頼りたまえ」
とても誇らしげで、嬉しそうだ。
「すごいなぁ。手芸部はプロの集まりだね。皆、何でもできる」
優希が何気なく褒めた。
手芸部の面々が、照れた顔で目を逸らした。
(みんな、褒められ慣れてないから、反応に困っている)
かくいう奏楽も、そのうちの一人だが。
「染谷君も、綿入れと目を縫い付けるの、上手になったわ~」
詩織に褒められて、優希が照れた。
とても嬉しそうだ。
「鷹宮は早いし上手だから、自分の作品を作ったらどうだ?」
佳奈に振られて、颯真が考える顔をした。
「それもいいけど。今は、一ノ瀬のサポートでいいかな。夏に向けて、サッカー部が忙しくなるしな」
颯真が勇気に目を向ける。
優希が頷いた。
「パーソナルトレーニングも多くなるし、今のようには通えないと思うので」
「なるほど、残念だが仕方ない。なぁ、奏楽坊」
佳奈のニヤついた目が奏楽に向く。
「奏楽坊って、やめてください」
作業の手元を見詰めながら、奏楽は抗議した。
ゴールデンウィークに閃いた呼び名が佳奈の中で定着している。よろしくない。
(僕は毎日、寮で優希に会えるから、いいもん)
はっきりと気持ちを伝えあってから、二人の距離感が変わった。
今は離れていても、遠くには感じない。
「俺も奏楽にあみぐるみ作ってあげられるようになりたいな」
せっせと綿を詰めながら、優希が息を吐いた。
「もし、俺が奏楽に作るなら、どんなあみぐるみが欲しい?」
優希に問われて、その胸ポケットに目が行った。
去年、奏楽が作った水色の小鳥は、優希の胸ポケットに収まっている。
(僕が作った、あみぐるみは水色の……空色の、小鳥)
そう思うだけで、胸が熱くなる。
あの小鳥が幽霊にまでなって優希に張り付いていたと思うと、尚更だ。
(優希は、何だろう。キラキラの王子様……ライオン? ちょっと違う気がする)
皆が噂するような正統派王子様。
前は、そう思っていたけれど。
今は、優希の見え方が少し変わった。
(キラキラしてるけど、眩しすぎなくて。格好良いけど、可愛い)
奏楽は手元の毛糸を眺めた。
「黄色の、ワンちゃんかな」
「黄色い犬? なんで?」
目の前にある黄色い毛糸を手に取る。
「希望の色で、可愛いから。優希はワンちゃんて感じ」
黄色い毛糸を揺らして見せる。
優希が嬉しそうに微笑んだ。
「いつか作ってプレゼントできるように、練習するね」
奏楽の手から黄色い毛糸を受け取って、優希が微笑む。
その笑顔に胸が甘く締まる。
外は曇って、梅雨が近い。
なのに、奏楽の心は晴れたまま、もう夏空の色をしていた。
休みが明けて、奏楽たちにはいつもの日常が戻ってきた。
想いを打ち明け合って以来、優希の右肩に幽霊もスライムも、小鳥も現れることはなかった。
奏楽が悩まされていたポルターガイストも、パタリと起こらなくなった。
空色の小鳥のあみぐるみは、優希が御守りと一緒に持っている。
ほんのり雨の匂いがし始めた五月の下旬。
奏楽たちは手芸部の活動場所である家庭科室に集まっていた。
「いい感じ。優希、目を付けるの上手になったね」
出来上がったあみぐるみに縫い付けた目を、ちょいちょい指で確認する。
「やっと、毛糸で縫うくらいはできるようになったよ」
一仕事終えた後のように、優希が息を吐いた。
「細かい作業、苦手だよなぁ、優希は。俺の縫い目を見てみろよ。国宝級だぞ」
颯真が得意げにパッチワークの一部を見せ付ける。
「国宝級とまではいわないけどぉ、鷹宮の縫い目は細かくて綺麗だよね。パッチワークは縫い目を折り返すから、そこまで綺麗じゃなくても平気だよぉ」
花音が褒めながら笑った。
その隣では、千尋と結斗が編み物の本に釘付けた。
二人は棒編みで帽子を作っている。
「帽子なら本にも載ってるけど、イメージ違うんでしょ」
千尋の問いかけに、結斗が小さく頷いた。
「花の装飾は要らない。もうちょっと深くて、上が余るくらいがいい」
「文化祭で売る商品だよ」
呆れる千尋を、結斗が振り返る。
「今から作れば、何個かできるだろ。一個は自分用にする」
「篠原の帽子に花の装飾が付いてたら、可愛いのにぃ」
花音が残念そうに零した。
「俺に可愛さ、必要ないでしょ」
結斗が呆れている。
休み明け、颯真が結斗に手芸部入部について話してくれた。
幽霊部員でもいいと伝えたのだが、意外にも結斗は手芸に興味があったらしい。
サッカー部と掛け持ちの優希や颯真より、こまめに通ってくれる。
むしろ、颯真まで手芸部に入部したのが意外だった。
(しかも、優希より巧いんだよね。優希、気にするかな)
颯真と優希はサッカー部がメインだから、文化祭で個人の作品販売はせず、他の部員のサポートに入っている。
優希は奏楽のあみぐるみの手伝いだ。
花音のパッチワークのサポートに入っている颯真は、普通に器用だ。
「結斗ちゃんにお花、似合うと思うわ~。けど、本人が好きじゃないなら、いらないわね~」
詩織がカギ編みで作った花の小物を結斗の髪に翳す。
そっけない結斗でも、詩織は無碍にできないらしい。
大人しく飾られていた。
「デザイン、書いてみてよ。パターン、起こしてあげるから」
「そんなこと、できるの?」
千尋の提案に、結斗が驚いている。
「帽子くらいなら、普通にできるけど。私ができなくても、佳奈先輩ができるよ」
千尋の指名に、佳奈が得意げに顎を上げた。
「手芸なら、大体何でもできるぞ。頼りたまえ」
とても誇らしげで、嬉しそうだ。
「すごいなぁ。手芸部はプロの集まりだね。皆、何でもできる」
優希が何気なく褒めた。
手芸部の面々が、照れた顔で目を逸らした。
(みんな、褒められ慣れてないから、反応に困っている)
かくいう奏楽も、そのうちの一人だが。
「染谷君も、綿入れと目を縫い付けるの、上手になったわ~」
詩織に褒められて、優希が照れた。
とても嬉しそうだ。
「鷹宮は早いし上手だから、自分の作品を作ったらどうだ?」
佳奈に振られて、颯真が考える顔をした。
「それもいいけど。今は、一ノ瀬のサポートでいいかな。夏に向けて、サッカー部が忙しくなるしな」
颯真が勇気に目を向ける。
優希が頷いた。
「パーソナルトレーニングも多くなるし、今のようには通えないと思うので」
「なるほど、残念だが仕方ない。なぁ、奏楽坊」
佳奈のニヤついた目が奏楽に向く。
「奏楽坊って、やめてください」
作業の手元を見詰めながら、奏楽は抗議した。
ゴールデンウィークに閃いた呼び名が佳奈の中で定着している。よろしくない。
(僕は毎日、寮で優希に会えるから、いいもん)
はっきりと気持ちを伝えあってから、二人の距離感が変わった。
今は離れていても、遠くには感じない。
「俺も奏楽にあみぐるみ作ってあげられるようになりたいな」
せっせと綿を詰めながら、優希が息を吐いた。
「もし、俺が奏楽に作るなら、どんなあみぐるみが欲しい?」
優希に問われて、その胸ポケットに目が行った。
去年、奏楽が作った水色の小鳥は、優希の胸ポケットに収まっている。
(僕が作った、あみぐるみは水色の……空色の、小鳥)
そう思うだけで、胸が熱くなる。
あの小鳥が幽霊にまでなって優希に張り付いていたと思うと、尚更だ。
(優希は、何だろう。キラキラの王子様……ライオン? ちょっと違う気がする)
皆が噂するような正統派王子様。
前は、そう思っていたけれど。
今は、優希の見え方が少し変わった。
(キラキラしてるけど、眩しすぎなくて。格好良いけど、可愛い)
奏楽は手元の毛糸を眺めた。
「黄色の、ワンちゃんかな」
「黄色い犬? なんで?」
目の前にある黄色い毛糸を手に取る。
「希望の色で、可愛いから。優希はワンちゃんて感じ」
黄色い毛糸を揺らして見せる。
優希が嬉しそうに微笑んだ。
「いつか作ってプレゼントできるように、練習するね」
奏楽の手から黄色い毛糸を受け取って、優希が微笑む。
その笑顔に胸が甘く締まる。
外は曇って、梅雨が近い。
なのに、奏楽の心は晴れたまま、もう夏空の色をしていた。



