優希に押し倒されたまま、奏楽はその背中を凝視した。
背後に立って二人を眺めていた幽霊の色が褪せ始めている。
「幽霊僕が、消えそう」
奏楽が呟くと、優希が弾かれたように起き上がった。
「え? 消えるの?」
優希が自分の肩や背中に触れる。
今の幽霊奏楽は、優希より一歩下がっているから、手は届いていない。
「どうして、急に……」
消す方法なんて、見当もつかなかった。
御守りだって、効果はなかったのに。
色を落とした幽霊の輪郭が、空気に溶ける。
幽霊の目が、奏楽に向いた。
ドキリと、心臓が跳ねた。
『よかったね』
薄く開いた唇が、確かにそういった。
ぼんやりして表なんかなかった目が、優しく微笑んだように見えた。
その瞬間、幽霊の体が弾けた。
「え! 弾けちゃった……」
「弾けた⁉」
優希が慌てている。
窓から入り込む朝陽に照らされて、幽霊の欠片がキラキラと光った。
光の欠片が優希と奏楽に降り注ぐ。
まるで幻想的な光景に、呆気にとられた。
――ポトリ
奏楽と優希の間に、何かが落ちた。
二人は、同時に目を向けた。
そこには、水色の小鳥が落ちていた。
奏楽が優希のために作った、あみぐるみだ。
「これ……」
優希が驚いた様子で拾い上げた。
「どうして、ここに」
奏楽は、ぽつりと呟いた。
あみぐるみを見詰めながら優希が、はにかんだ。
「そっか、だから……見付けられなかったのか。ずっと一緒にいたんだね」
あみぐるみを大事そうに手で包んで、優希が胸に抱いた。
「優希?」
首を傾げる奏楽に、優希があみぐるみを見せた。
「ずっと枕元に置いていたのに、気付いたらなくなっていたんだ。どれだけ探しても、見付けられなくて……俺の、宝物なのに」
宝物、という言葉が恥ずかしくて、嬉しい。
返事をしたいのに、言葉にならない。
「俺も奏楽に誤魔化していたこと、あるんだ。奏楽が一生懸命、俺のために作ってくれたあみぐるみを失くしたって、言えなかった」
あみぐるみを見詰めていた優希の目が、奏楽に向く。
「だから、これで、あいこ……でも、いいかな」
申し訳なさそうに、優希がお伺いを立てるような視線を投げる。
その顔が可愛くて、奏楽は小さく吹き出した。
「うん、いいよ。誤魔化したのも、内緒も、おあいこね」
幽霊の話ができなかったのも。
小鳥のあみぐるみを失くしたことも。
言えなかった秘密を打ち明け合って、あいこにして、新しい今日を始める。
この朝から、二人の恋人の時間が始まるから。
「それじゃ、朝ご飯を食べて」
「部活に行こうか」
優希の手に、奏楽は手を重ねる。指先が絡んで、体温が流れ込む。
朝の光が、小鳥を柔らかく照らしていた。
静かだった朝の空気が、ゆっくりと動き出した。
背後に立って二人を眺めていた幽霊の色が褪せ始めている。
「幽霊僕が、消えそう」
奏楽が呟くと、優希が弾かれたように起き上がった。
「え? 消えるの?」
優希が自分の肩や背中に触れる。
今の幽霊奏楽は、優希より一歩下がっているから、手は届いていない。
「どうして、急に……」
消す方法なんて、見当もつかなかった。
御守りだって、効果はなかったのに。
色を落とした幽霊の輪郭が、空気に溶ける。
幽霊の目が、奏楽に向いた。
ドキリと、心臓が跳ねた。
『よかったね』
薄く開いた唇が、確かにそういった。
ぼんやりして表なんかなかった目が、優しく微笑んだように見えた。
その瞬間、幽霊の体が弾けた。
「え! 弾けちゃった……」
「弾けた⁉」
優希が慌てている。
窓から入り込む朝陽に照らされて、幽霊の欠片がキラキラと光った。
光の欠片が優希と奏楽に降り注ぐ。
まるで幻想的な光景に、呆気にとられた。
――ポトリ
奏楽と優希の間に、何かが落ちた。
二人は、同時に目を向けた。
そこには、水色の小鳥が落ちていた。
奏楽が優希のために作った、あみぐるみだ。
「これ……」
優希が驚いた様子で拾い上げた。
「どうして、ここに」
奏楽は、ぽつりと呟いた。
あみぐるみを見詰めながら優希が、はにかんだ。
「そっか、だから……見付けられなかったのか。ずっと一緒にいたんだね」
あみぐるみを大事そうに手で包んで、優希が胸に抱いた。
「優希?」
首を傾げる奏楽に、優希があみぐるみを見せた。
「ずっと枕元に置いていたのに、気付いたらなくなっていたんだ。どれだけ探しても、見付けられなくて……俺の、宝物なのに」
宝物、という言葉が恥ずかしくて、嬉しい。
返事をしたいのに、言葉にならない。
「俺も奏楽に誤魔化していたこと、あるんだ。奏楽が一生懸命、俺のために作ってくれたあみぐるみを失くしたって、言えなかった」
あみぐるみを見詰めていた優希の目が、奏楽に向く。
「だから、これで、あいこ……でも、いいかな」
申し訳なさそうに、優希がお伺いを立てるような視線を投げる。
その顔が可愛くて、奏楽は小さく吹き出した。
「うん、いいよ。誤魔化したのも、内緒も、おあいこね」
幽霊の話ができなかったのも。
小鳥のあみぐるみを失くしたことも。
言えなかった秘密を打ち明け合って、あいこにして、新しい今日を始める。
この朝から、二人の恋人の時間が始まるから。
「それじゃ、朝ご飯を食べて」
「部活に行こうか」
優希の手に、奏楽は手を重ねる。指先が絡んで、体温が流れ込む。
朝の光が、小鳥を柔らかく照らしていた。
静かだった朝の空気が、ゆっくりと動き出した。



