空色の小鳥は、恋をしていた。

 三階を一通りと、一階の食堂を確認したが、優希の姿はなかった。
 途方にくれた奏楽は、サッカー部の部室に向かうことにした。
 通りかかった新しい洗面台の前で、颯真に会った。

「おぅ、おはよう、奏楽」
「ねぇ、颯真。優希、見てない? 部屋にいないんだ。サッカー部ってこんなに朝早くから練習するの?」

 捲し立てるように質問する奏楽に、颯真が仰け反った。

「休み中は基本、八時半より前の練習、できないぜ。食堂じゃねぇの?」
「食堂にもいないんだよ。洗面台も確認したけど、いない」

 まさかと思い、古い洗面台も見に行ったが、優希はいなかった。
 不安過ぎて、顔がどんどん下がる。
 奏楽を眺めていた颯真が、考える仕草をした。

「自習室とか、ランドリーは?」

 颯真に問われて、奏楽は首を振った。
 考えた素振をした颯真が、言いづらそうに口を開いた。

「あー……もしかしたら、開かずの寮室かな。優希は鍵、持ってねぇと思うけど。京久野にでも借りたのかな」

 颯真が、もごもごと口の中で独り言を話す。

「開かずの寮室って、もしかして七不思議の?」

 奏楽は颯真の胸に縋り付いた。
 勢いが強すぎて、颯真が後退った。

「そうそう、七不思議の六個目、開かずの寮室。実際は使われてないだけで、鍵があれば開くんだけど」

 ゾクリとして、奏楽は颯真から離れた。

「なんで、そんな部屋に」

 昨日、佳奈から七不思議の話を聞いて、興味を持ったんだろうか。
 優希は鏡も乗り気でないような態度だったのに。

「……あの部屋なぁ。暗黙に使う奴は使ってんだけど。優希は、そういうタイプじゃない気がするけど」

 颯真が煮え切らない説明をしながら、奏楽を眺めた。

「奏楽も、ここにいるし。お前らの場合、必要ないからな」

 颯真の言葉が理解できなくて、奏楽は難しい顔をした。

「隠れたい奴とか、いろんな事情で部屋に帰れない奴とか、二人きりになりたい奴が、内緒で使ってんの。優希が使ったんだとしたら、籠ったかな」
「籠る? なんで?」

 颯真が、奏楽をチラ見した。

「うーん……優希の事情はわかんねぇけど。何となく察しは付くよ。奏楽が扉を叩けば、流石に開けてくれるだろ。行ってみたら? 洗面台とは反対側の一番端の部屋」
「それって、僕と優希の部屋の斜め前?」

 使われずに常時、施錠されている部屋があるのは知っている。
 まさか、あの部屋が七不思議の六つ目だとは思わなかった。

(どうして、そんなに近くに籠ってるの? 何かあったの?)

 いてもたってもいられなくて、奏楽は踵を返した。

「ありがとう、颯真!」
「ちゃんと仲直りしろよ~」

 喧嘩してないと言い返したかったが、奏楽は口を引き結んだ。
 
(喧嘩したほうがマシかもしれない。優希に何かあったら、どうにかなってたら、どうしよう)

 胸が苦しい。
 ビリビリと痺れる手で、御守りを握り締める。
 嫌な予感だけが、どんどん膨らんでいった。