空色の小鳥は、恋をしていた。

 散らばった本を片付けて、点呼まで宿題をした。
 奏楽が疲れている様子だったので、今日は早めに寝ることにした。

(ていうか、俺が疲れた)

 優希は静かに息を吐いた。
 トランプで色んな表情の奏楽を堪能したり。
 風呂で颯真に嫉妬したり。
 湯船の中で手を握って嬉しそうにする奏楽が、いつもより可愛かったり。
 挙句、部屋でポルターガイストが起きて、奏楽を押し倒した。

(もう少しで、キスするところだった)

 正直、優希にとってはポルターガイストより大事件だ。
 キスなんかしたら、あと二年も同じ部屋で過ごせない。

(本なんか、いくらだって浮き上がったらいい。そのたびに奏楽を庇う名目で押し倒せる)

 そういう思考が光の速さで脳内を巡る。

(だから最低なんだよ、その考えが。奏楽は本気で怯えているのに、欲で暴走するとか馬鹿なのか)

 心の中で天使と悪魔が喧嘩する。

(でも、奏楽に肩を撫でてもらうと、本当に楽なんだよな。軽くなるっていうか、内側に溜まっている物が出ていく感じっていうか。しかも、きもちい……)
 
 その思考は流石に削除した。
 悪魔を心から追い出す。優希の中の天使が勝った。
 泣いている奏楽の顔が、不意に浮かんだ。

(本当に怖かったんだ。なのに俺に隠して、一人で必死に耐えて……ごめんな、奏楽)

 模様替えと言われるたびに違和感はあった。
 何かを隠しているんだろうとは思っていた。

(まさか、怪現象だったなんて。そりゃ、言えないよな。俺が奏楽の立場でも、信じてもらえないかもって不安になる)

 けれど、優希は現場を目の当たりにした。
 これからは、一緒に悩んで、考えられる。
 奏楽の気持ちに寄り添える。
 それが何より嬉しかった。

(距離を置こうと思っていたけど。一人にしたら、奏楽はもっと怖いかもしれない)

 奏楽のポルターガイストを知っているのは、優希だけだ。
 ここで距離を置いたら、奏楽はきっと優希に嫌われたと勘違いする。

(その勘違いだけは、絶対に嫌だ。ポルターガイストなんて、普通じゃあり得ないことだけど。たとえ怪現象でも、初めて二人だけの秘密を持てたんだから)

 それが心地良いなんて言ったら、奏楽は悲しむだろうか。怒るだろうか。
 でも優希は、ポルターガイストが二人だけの特別のような気になっている。
 近くにいられる大義名分を手に入れて、安心している。

(もっと奏楽に頼られたい。力になりたい。だって俺は、奏楽のこと……)

 眠気が襲って、思考が鈍る。
 薄れる意識の中で、肩が熱を上げていた。
 甘く疼いて熱を持つ肩は、優希の心みたいだった。