空色の小鳥は、恋をしていた。

 寮内放送が入って、夕食の時間を告げた。

「もう、そんな時間か」

 颯真が時計を見上げた。

「そろそろ終わりにする? 一度、部屋に戻りたいし……奏楽も戻る?」

 振り返ったら、奏楽が立ち上がった。

「うん、僕も一緒に戻る」
「んじゃ、また食堂で」

 颯真に手を振って、優希は奏楽と部屋に戻った。

(そういえば写真、撮れなかったな)

 奏楽とツーショット写真が撮れるのを、ちょっとだけ期待した。
 ババ抜きが白熱して、それどころではなかった。
 優希的にはババ抜き中の奏楽が可愛くて、頭から抜けていた。
 
「いっぱい勝って、良かったね」

 優希が奏楽のババを引きまくった結果、颯真と優希の心理戦になり、颯真が惨敗した。

「うん、楽しかった。トランプ久し振りだったし、颯真とこんな風に遊ぶの、初めてだったから」

 奏楽が、優希を見上げた。

「僕らも部屋で、ゲームとかする? 二人で」

 優希の心臓が止まりかけた。
 奏楽の笑顔も言葉も、破壊力がありすぎる。

(そんな嬉しそうに、二人でって……深い意味なんか、ないんだろうけど)

 いちいち反応する自分が悲しい。
 けれど、奏楽の笑顔が自分に向くのは純粋に嬉しい。

「そう……だね。でも今日は、宿題しないとかな。進んでないから」

 さりげなく顔を腕で隠しながら逸らす。
 顔も耳も熱い。絶対に真っ赤だ。

「そうだった。僕も宿題、進んでないんだった」

 奏楽は気付いた顔で蒼褪めた。

「夜は、一緒に宿題しよ。早めにお風呂に入って、集中しよ!」

 拳を握り締めて奏楽が決意している。

「……一緒に?」
「教え合いっこしようって、約束。どっちからする? 数学する? 英語か古典、する?」

 その約束は優希も覚えている。
 あの時は、特に深く考えもしないで話したと思う。

(意識してなかったから。まさか、こんなことになるなんて)

 あの時はただ、ルームメイトと親睦を深める程度の気持ちだった。
 
(でも、違った。あの時だって俺は単に、奏楽と今より仲良くなって、距離を縮めたかっただけなんだ)

 無自覚の想いで距離を詰めた。
 意識した今は、過去の自分の行動が痛い。
 とはいえ、嬉しそうに話す奏楽を見ていると、ナシにはできない。

(約束を切り出したのは、俺だから)

 宿題だけは、奏楽に近付く自分を許そうと思った。

「今日から宿題、始めよっか。夕食の後、風呂を済ませて……」
「お風呂も、一緒に行く? 約束、したから」
「え?」

 奏楽が優希を見上げている。
 身長差があるから、見上げられると奏楽が上目遣いになって、やけに唇が目に付く。
 優希の思考が爆発した。

(それも俺が言い出したんだ。今だけタイムリープしないかな)

 過去に戻って、あの時の自分の口を塞ぎたい。

「ちょっ……と、待って」

 優希は、こそこそと颯真にメッセした。

『夕飯が終わったら爆速で風呂に来い』

 心と顔を整えて、奏楽に向き直る。

「うん、行こうか。奏楽と一緒にお風呂、初めてだね」
「そう……だね」

 奏楽が、俯いた。
 陰る顔が、照れているように見える。
 その顔に爆死した。

(俺の目、おかしくなってる。奏楽の表情が、俺に都合よく見える……奏楽から、目が離せない)

 こんな状態で、あと二年も共同生活ができるのか、不安になった。
 熱を上げる右肩に触れる。
 じわじわと疼いて、内側から膨らむ何かが飛び出しそうだった。