空色の小鳥は、恋をしていた。

 颯真の部屋でトランプを準備していたら、奏楽が来た。
 大袋の菓子を抱える奏楽を、優希はぼんやり眺めた。

(お菓子もってる。可愛い……)

 部屋着の奏楽は見られているが、今日はラフな私服だ。
 それも余計に可愛く見える。

「奏楽、こっち座れよ」

 椅子に掛けた颯真が、優希の隣を指さした。

「お招き、ありがとう……」

 奏楽がおずおずと、床に座る優希の隣に腰掛けた。

(近い……! いつもより、距離が近い)

 普段は隣通しの机で椅子に掛けているから、距離が保てるのに。
 床に直座りだと、距離感がバグる。
 優希は、こっそり奏楽から離れた。

「本当にトランプしてたんだね」
「奏楽が混ざりたいって言ってたから、声掛けた」
「うん、楽しみ」

 奏楽が素直に笑う。
 可愛いが、その笑顔が颯真に向いていると思うと釈然としない。

「これ、お菓子。食べながら、遊ぼ」
「お、サンキュ。優希、カード切って」

 奏楽から受け取った菓子の袋を開けながら、颯真にトランプを渡された。
 優希は黙々とカードを切った。

「何やるの?」
「ババ抜きやろうぜ。三人なら楽しいだろ」
「そうだね。二人じゃ、つまらないもんね」

 颯真と笑い交じりに話す奏楽が、無邪気で可愛い。
 湧き上がる煩悩を抑えながら、優希はカードを配った。

「じゃ、俺から時計回りな」

 じゃんけんの強い颯真が一発勝ちしてトランプが始まった。
 颯真にカードを引かれて、奏楽を振り返る。
 優希はピタリと動きを止めた。

(奏楽の顔が険しい……ババ、持ってる顔してる)

 控えめに、ぴょこんと頭を出しているカードが、ババなんだろう。

(あえて引くべきか。だけど……)

 優希は、如何にも怪しく頭を出すカードの隣を引いた。
 奏楽が、わかり易くショックを受けた顔をする。
 しょんぼり肩を落として、奏楽が颯真からカードを引いた。

(かっわいい……次は引いてあげよう)

 予想通りの奏楽が観られて、優希は満足した。
 隣で颯真が、笑いを噛み殺している。

「優希はババ抜き強いから、二人で優希を負かすぞ、奏楽」
「別に強くない。何情報?」
「俺情報。空気とか顔色読むの、巧いじゃん」
「そんなことないから。勘がいいのは颯真のほうだろ」

 空気や顔色を読むのはただの癖で、特技ではない。
 颯真のほうが勘の良さを巧く使っていると思う。

「奏楽、ババ持ってても、顔に出すなよ」

 颯真の注意に、奏楽が無言で深く頷いた。
 
(釣りだよ、奏楽……そんな神妙な顔したら、持ってますって言ってるのと同じだから)

 奏楽は全然気づいていない。むしろ真剣だ。
 だから、可愛い。

(素直で真っ直ぐで、一生懸命で。俺にないもの、たくさん持ってる)

 そんな奏楽が、一秒ごとに愛おしくなる。
 こんな些細な友達同士のゲームでさえ、奏楽の可愛さを再確認する。
 優希にカードを向けた奏楽が、考える顔をした。

「ちょっと待って!」
「ん? うん」

 奏楽が、一生懸命カードをシャッフルする。
 手元のカードを広げて、一枚をぴこっと頭一つ上にする。

(きっと、アレの隣がババなんだろうなぁ)

 さっき、優希が引っ掛からなかったから、今回も同じ罠を仕掛けて、一ターン前に優希が引いた場所にババを仕込んだのだろう。
 颯真の話を聞いて、奏楽なりに考えたっぽい。

(じゃぁ、同じとこ、引こう)

 どのカードを引こうか手を迷わせる振りをする。
 奏楽の目は、優希の指先と自分のカードしか見ていない。
 今なら奏楽の表情を正面から見放題だ。

(不安そう……颯真の言葉、気にしてるんだな)

 奏楽が、唇を引き結んで、指先を見詰める。

(奏楽が、俺の指先だけ、見てる。奏楽が……)

 軽く限界を感じて、優希は頭一つ飛び出しているカードに触れた。
 奏楽の顔が悲しく歪む。
 唇をきゅっと噛む仕草に、ドキリとした。

(その顔は、反則……)

 指を滑らせて、さっきと同じ、飛び出したカードの隣を引いた。
 奏楽の顔が、ぱっと明るくなった。
 肩まで嬉しそうに浮かれた様子で、奏楽が颯真を振り返る。
 優希は、引いたカードに目を落とした。

(やっぱり、ババだった……かわ、かわい……可愛いしかない。あの顔が俺だけに向いていたと思うと、余計に可愛い)

 頭の中に可愛いしか浮かばない。
 優希は一人静かに悶えた。
 
「あー、優希と心理戦になっちゃった」

 颯真が楽しそうに呟いた。

「颯真の癖なら、大体知ってるから」

 優希はニコリと笑んだ。
 可愛い奏楽が堪能できて、優希の心は大満足だ。
 いつもより右肩が軽い。
 気分が良いから、颯真が引かなそうな場所にババを置いてあげた。