空色の小鳥は、恋をしていた

 授業が終わり、奏楽は外を眺めた。
 まだ四月の末なのに、緑が濃く鮮やかになって、夏みたいな強い日差しに揺れる。

「明日から、ゴールデンウィークだ」

 楽しみと不安が混ざり合って、吐きそうだ。

「奏楽は、家に帰んの?」

 後ろから肩を突かれた。
 振り返ると、颯真がニコリと笑んだ。

「部活があるから、残るよ。颯真も部活でしょ」
「ん、そう。手芸部もゴールデンウィークに部活するんだ」

 颯真が意外そうな顔をした。

「今年は一年生が入らなかったから、作戦会議だって。あと、文化祭の準備」
「気合入ってんだ。楽しそうじゃん。じゃ、今年は奏楽も寮に残留組だ」
「ゴールデンウィークって、何か特別なことあるの?」

 去年は部活がなかったので、家に帰った。
 長期休暇中の寮に残るのは、初めてだ。

「特にないかな。人が半分以下に減るから、静かってくらい」
「そっか」
「長期休暇中はオバケが出やすいらしいから、見ないように気を付けろよ」
「えぇ⁉」

 今まさに絶賛、オバケに怯え中なのに。これ以上、増えたら困る。

「明倫の七不思議って有名だろ。しかも男子寮に一個目の七不思議があるし」
「それ、手芸部の部長も話してたよ」

 七不思議に興味があるのは佳奈だけではないらしい。

「颯真もそういう話、好きなの?」
「あんまり。俺は幽霊とか見たことないから、信じてないなぁ」
「だよね」

 奏楽だって、最近までそうだった。
 
「でもさ、なんか出たら、面白いよな。夜の寮内一周とか、してみる?」
「しない、絶対にしない」

 颯真が手をぶらぶらしながら笑う。
 奏楽は真顔でフルフル首を振った。

「いいじゃん、優希も誘って三階の洗面台を見に行くとかさ」
「無理。だったら部屋でゲームするほうがいい」
「それもいいな。どうせなら普段、やらないゲームする? トランプとか」
「確かにカードゲームって、あんまりやらないよね」

 アナログゲームをする機会が滅多にない。
 ちょっと楽しそうだ。

「ていうか、颯真は夜遊びがしたいの?」
「結斗が帰っちゃうからさ。部屋で一人は淋しいだろ」
「篠原と颯真って、仲良かったっけ?」

 ルームメイトだが、仲良く話している姿が想像できない。
 まるで性格が真逆な二人だ。

「普通。普段から、あんまり喋らない」
「じゃぁ、良くない?」

 颯真が首を傾げて考える顔をした。

「なんか違うんだよ。一人だと、なんか淋しいの」
「そういうものなんだ」

 一年の時、奏楽が帰った部屋で一人だった優希も、寂しかったんだろうか。

(いやいや、他の部屋に遊びに行ったりできるし。それはない)

「奏楽が残るなら、優希は俺の部屋に来ないだろうし、俺が遊びに行く」
「え? 休み中は、染谷が颯真の部屋に行ってたの?」
「お互いの部屋、行き来してた。んで、トランプしてた。二人だから、すぐ飽きたけど」
「そうだろうね」

(颯真と染谷は仲良しだし、ルームメイトがいなければ、遊びに行くよね)

 普通のことなのに、ちょっとだけ颯真に嫉妬する。

「でも、行かないほうが、奏楽は嬉しいか」
「なんで? 三人でトランプしようよ」

 机に頬を乗せた颯真が、奏楽を見上げる。
 何を言われているのかわからなくて、奏楽は首を傾げた。

「二人きりが静かでいいかなぁって」

 やっぱりよくわからない。

「二人、きり……」
 
 言葉を反復したら、急に恥ずかしさが込み上げた。
 同時に、颯真の意図が読めた。

「な……なん……なんで」

 顔が、どんどん熱くなっていく。

(僕の気持ち、どうして颯真が知ってるの? ていうか、その話してる? 僕の勘違い?)

 色んな気持ちが錯綜して言葉にならない。
 口をハクハクする奏楽の肩を、颯真がポンポン叩いた。

「いいって、いいって。二人でババ抜きしろって」
「二人ババ抜き、つまんないじゃん!」
「じゃ、スピードとかやれば?」
「そうじゃない!」

 颯真の肩をポカポカ叩く。
 笑いながら、颯真が奏楽の腕を掴まえる。
 颯真が気付いているのかいないのか、聞きたいけど聞けなかった。