うつらうつらと目を醒ます。
変わらぬ天井が目に入った。
(体、かなり楽になった。薬が効いたのかな)
優希はのっそり起き上がった。
水を飲もうとして、ペットボトルを手に取る。
かなり減っていたはずだが、新しいものが置いてあった。
(奏楽が……換えてくれたのかな)
そういえば、奏楽の声を聞いた気がする。
時計を見たら、もう夕方だった。
昼休みに奏楽が様子を見に来てくれたのかもしれない。
(なんか、くすぐったい)
さっきまで重かった右肩が、少しだけ軽くなった。
不意に枕元を眺める。
(あれ……この辺にいつも、置いていたのに)
奏楽が作ってくれた、水色の小鳥のあみぐるみが見当たらない。
ペットボトルを置いている盆や、枕をひっくり返して探す。
布団まで捲くり上げて探したのに、どこにもない。
「落とした、とか?」
二段ベッドの上から、床を眺める。
(最近、奏楽が部屋の掃除をしてたっけ。見付けたら、教えてくれるよな)
もしかしたら、優希がぞんざいに扱っていると勘違いして自分で持っているかもしれない。
奏楽なら、そういう勘違いをしかねない。
(奏楽って、変に後ろ向きなとこあるから、あり得る)
時々、自分のことをモブ男子とかいうし、全体的に自己評価が低い。
(あんなに可愛いのに、モブとか絶対ない。でも、気付いてなさそう)
周りの生徒たちが奏楽をどう評価しているのか。
きっと正しい情報を把握していないだろう。
「小鳥のあみぐるみ、拾ったとか。奏楽に聞いて……みても、教えてくれなそう」
顔に出るから、知らなければ反応でわかるが。
もし隠していたら、きっと教えてくれない。
(仮に床に落ちてるの見付けたら、俺が大事にしてないって思うよな)
そんな勘違いは絶対にされたくない。
大切にしているとわかってほしい。
失くしたくないから大切に、いつでも触れられる場所に置いていたのに。
(机の引き出しに入れておけばよかった。失くすとか、最低だ)
奏楽が優希のためだけに作ってくれたものなのに。
右の肩が、ずんと重くなった気がした。
(探そう。絶対、見つけないと。奏楽が俺のためにくれた、初めてのモノなのに)
暗い気持ちで項垂れていたら、鍵が開く音がした。
「染谷、起きてる?」
部屋の電気を付けて、奏楽が戻ってきた。
電気がついて、薄暗くなっていたことに気が付いた。
「調子、大丈夫そう? 起きて平気?」
「うん……熱は下がったよ」
奏楽が二段ベッドの梯子に昇る。
額の冷却シートを剥がした奏楽の指が、頬に触れた。
ドキリとして、体が強張った。
「本当だ。良かった……でも明日、念のため病院に行ったほうがいいよ」
「そう、だね。そうする」
鼓動が、いつもより早い。
奏楽が触れた場所が、じんわり熱くなる。
「あのね! これ!」
奏楽が思い切った様子で、優希に小さな神の袋を差し出した。
袋には「明倫神社」と書いてある。
「これ……御守り?」
白い紙袋には、朱色の御守りが入っていた。
「染谷の風邪が早く治ると良いなって、思って」
「わざわざ、神社に行ってくれたの? 俺のために?」
「うん……だって。僕のせいだから」
奏楽の顔が泣きそうに歪む。
(風邪ひいただけなのに。うつしたこと、責任とか感じてるのかな)
同じ部屋で生活していれば、それくらいは仕方がない。
そんなことで怒ったりしないのに。
思わず伸びそうになった指を、慌てて引っ込めた。
(危ない、触れるとこだった。また奏楽に風邪を戻したら、意味ない)
優希は手の中の御守りを見詰めた。
(俺のために……今日はずっと、俺のこと考えてくれてたのかな)
そう思ったら、自分でも驚くほど嬉しかった。
右の肩が、少しだけ軽くなった気がした。
冷たかった体に熱が戻ったみたいだ。
「小鳥遊のせいじゃないから、気にしなくていいよ。でもこの御守りは、すごく嬉しい」
微笑んだら、奏楽の表情が和らいだ。
優希の胸も、安堵した。
奏楽の視線が、優希の肩に向いた。
「ねぇ、染谷。体調、本当に大丈夫だよね? 体が重いとか痛いとか、ないよね?」
怯えたような表情で、奏楽が問いかける。
優希は肩を回したり首を回したりしながら、体を確かめた。
「今朝より、かなり楽だよ。右肩も、いつもみたいに重くないし、怠くもない」
「そっか、良かったぁ」
御守りを握る優希の手を、奏楽が握り締めた。
奏楽の手の熱を直に感じる。
身動きができなくなった。
「この御守り、離さないで。いつも持っていて。絶対の約束!」
奏楽が真剣に勇気を見詰める。
あまりに必死で、優希は素直に頷いた。
「肌身離さず、持ってるよ。絶対に失くさない」
奏楽が積極的に持っていて欲しいと言ってくれた。
絶対に失くせない。
優希は御守りを握り締めた。
(小鳥のあみぐるみ、もう一度部屋を探してみよう。見付けられなかったら、奏楽に聞いてみよう)
奏楽と二人だけの約束ができた。
今はそれが嬉しくて、失くした宝物の話を保留にした。
変わらぬ天井が目に入った。
(体、かなり楽になった。薬が効いたのかな)
優希はのっそり起き上がった。
水を飲もうとして、ペットボトルを手に取る。
かなり減っていたはずだが、新しいものが置いてあった。
(奏楽が……換えてくれたのかな)
そういえば、奏楽の声を聞いた気がする。
時計を見たら、もう夕方だった。
昼休みに奏楽が様子を見に来てくれたのかもしれない。
(なんか、くすぐったい)
さっきまで重かった右肩が、少しだけ軽くなった。
不意に枕元を眺める。
(あれ……この辺にいつも、置いていたのに)
奏楽が作ってくれた、水色の小鳥のあみぐるみが見当たらない。
ペットボトルを置いている盆や、枕をひっくり返して探す。
布団まで捲くり上げて探したのに、どこにもない。
「落とした、とか?」
二段ベッドの上から、床を眺める。
(最近、奏楽が部屋の掃除をしてたっけ。見付けたら、教えてくれるよな)
もしかしたら、優希がぞんざいに扱っていると勘違いして自分で持っているかもしれない。
奏楽なら、そういう勘違いをしかねない。
(奏楽って、変に後ろ向きなとこあるから、あり得る)
時々、自分のことをモブ男子とかいうし、全体的に自己評価が低い。
(あんなに可愛いのに、モブとか絶対ない。でも、気付いてなさそう)
周りの生徒たちが奏楽をどう評価しているのか。
きっと正しい情報を把握していないだろう。
「小鳥のあみぐるみ、拾ったとか。奏楽に聞いて……みても、教えてくれなそう」
顔に出るから、知らなければ反応でわかるが。
もし隠していたら、きっと教えてくれない。
(仮に床に落ちてるの見付けたら、俺が大事にしてないって思うよな)
そんな勘違いは絶対にされたくない。
大切にしているとわかってほしい。
失くしたくないから大切に、いつでも触れられる場所に置いていたのに。
(机の引き出しに入れておけばよかった。失くすとか、最低だ)
奏楽が優希のためだけに作ってくれたものなのに。
右の肩が、ずんと重くなった気がした。
(探そう。絶対、見つけないと。奏楽が俺のためにくれた、初めてのモノなのに)
暗い気持ちで項垂れていたら、鍵が開く音がした。
「染谷、起きてる?」
部屋の電気を付けて、奏楽が戻ってきた。
電気がついて、薄暗くなっていたことに気が付いた。
「調子、大丈夫そう? 起きて平気?」
「うん……熱は下がったよ」
奏楽が二段ベッドの梯子に昇る。
額の冷却シートを剥がした奏楽の指が、頬に触れた。
ドキリとして、体が強張った。
「本当だ。良かった……でも明日、念のため病院に行ったほうがいいよ」
「そう、だね。そうする」
鼓動が、いつもより早い。
奏楽が触れた場所が、じんわり熱くなる。
「あのね! これ!」
奏楽が思い切った様子で、優希に小さな神の袋を差し出した。
袋には「明倫神社」と書いてある。
「これ……御守り?」
白い紙袋には、朱色の御守りが入っていた。
「染谷の風邪が早く治ると良いなって、思って」
「わざわざ、神社に行ってくれたの? 俺のために?」
「うん……だって。僕のせいだから」
奏楽の顔が泣きそうに歪む。
(風邪ひいただけなのに。うつしたこと、責任とか感じてるのかな)
同じ部屋で生活していれば、それくらいは仕方がない。
そんなことで怒ったりしないのに。
思わず伸びそうになった指を、慌てて引っ込めた。
(危ない、触れるとこだった。また奏楽に風邪を戻したら、意味ない)
優希は手の中の御守りを見詰めた。
(俺のために……今日はずっと、俺のこと考えてくれてたのかな)
そう思ったら、自分でも驚くほど嬉しかった。
右の肩が、少しだけ軽くなった気がした。
冷たかった体に熱が戻ったみたいだ。
「小鳥遊のせいじゃないから、気にしなくていいよ。でもこの御守りは、すごく嬉しい」
微笑んだら、奏楽の表情が和らいだ。
優希の胸も、安堵した。
奏楽の視線が、優希の肩に向いた。
「ねぇ、染谷。体調、本当に大丈夫だよね? 体が重いとか痛いとか、ないよね?」
怯えたような表情で、奏楽が問いかける。
優希は肩を回したり首を回したりしながら、体を確かめた。
「今朝より、かなり楽だよ。右肩も、いつもみたいに重くないし、怠くもない」
「そっか、良かったぁ」
御守りを握る優希の手を、奏楽が握り締めた。
奏楽の手の熱を直に感じる。
身動きができなくなった。
「この御守り、離さないで。いつも持っていて。絶対の約束!」
奏楽が真剣に勇気を見詰める。
あまりに必死で、優希は素直に頷いた。
「肌身離さず、持ってるよ。絶対に失くさない」
奏楽が積極的に持っていて欲しいと言ってくれた。
絶対に失くせない。
優希は御守りを握り締めた。
(小鳥のあみぐるみ、もう一度部屋を探してみよう。見付けられなかったら、奏楽に聞いてみよう)
奏楽と二人だけの約束ができた。
今はそれが嬉しくて、失くした宝物の話を保留にした。

