鬼のつがい~競売にかけられた没落令嬢は年下の俺様当主に甘く囲われる

 身体に伝わる振動で、百花は目を開けた。
「あ、小さな新樹様……」
 新樹がムッとした表情を見せつつも「目が覚めたのか?」と百花の頭をやさしくなでる。そこで百花ははたと気がついた。どうやら新樹の膝の上に頭を置いて、眠っていたらしい。
「も、申し訳ありません」
 慌てて身体を起こせば、そこは自動車の中だった。運転席に座る航平の後ろ姿が見えた。
「あの、採石場は……」
「怪我人の治療は終えた。人狩りも捕まえたし、行方不明だった二人も見つけた。事後処理はまだ残っているが……それは責任者の旭野に任せてきた」
 やはり人狩りは採石場で鬼族と人を狙っていたらしい。あそこで働く者の数は多いため、人狩りにとっては手っ取り早く人を手に入れるための狩り場だったのだ。
 人狩りがここまで人々の生活に近づいてきている点は、問題視しなければならないだろう。
「あの……ところで先ほど私を助けてくださったのは、新樹様ですよね?」
 新樹のこめかみがピクリと動く。
「俺は、霊力を使うと身体が成長するんだよ。だから、言っただろ? 晶翔よりでかくなるって」
 あのときの新樹は、見上げる必要があり、百花よりもずっと背は高かった。引き締まった身体に、すらりと伸びた手足。
 百花が男に連れ去られそうになったあのとき、助けてくれたのが新樹だったのだ。霊力を使って、男の動きを封じたらしい。
 新樹が助けに来てくれなかったら、離れ離れになって、二度と会えなかったかもしれない。
「あれが俺の三年後の姿だ」
 新樹が百花の髪を一房手にとり、そこに口づける。身体が小さくても大きくても、新樹は新樹。百花に居場所を作ってくれた存在だ。それを思うだけで、目頭が熱くなる。
「俺にとっておまえは、必要な存在なんだ」
 鋭い視線に射貫かれ、心臓が早鐘を打ち始めた。
「晶翔にも誰にも渡したくない。だから――」
 新樹の言葉に、百花はコクリと頷いた。

【完】