鬼のつがい~競売にかけられた没落令嬢は年下の俺様当主に甘く囲われる

 視界を奪われ両手を背中で縛られたまま薄布一枚をまとう藤澤(ふじさわ)百花(ももか)は、肌にまとわりつく熱気とにおい、そして耳に届く声や音からたくさんの人の前に晒されていると悟った。
「では、最後の商品です。見てください、器量よしの生娘です。愛玩にするも使用人にするも、それは彼女を手に入れたあなた次第。では、金貨千枚から」
 金貨千枚といえば、汗水たらして真面目に働いたときの二年分の給与になるくらいだ。
「五千……」
 すぐに数字を口にする男性の声が聞こえた。
「一万!」
「十万!」
「十万一千……」
 次々とその数が上がっていき、そこでやっと競売にかけられたと、百花は理解した。
 もう両親はすでにこの世にいないが、多額の借金が残っている。
 心は疲弊しており悲しいとか怖いとか、そんな感情もどこかに忘れてきたらしい。耳に届く数字が上がるたび、自分にそれだけの価値があるのだと優越感が湧き起こってくるのが不思議だった。
「二十万!」
「二十二万……」
 金額は次第に跳ね上がっていき、いつの間にか百花が一生働いても返せないくらいになっていた。
「二十五万!」
 その言葉を最後に周囲はシンと静まり返り、百花の心臓の音だけがトクトクとうるさい。
「他におりませんか? いないのであれば、十九番の商品は――」
「百万だ!」
 低い男性の声が響き、再び場内が静寂に包まれたと思えば、すぐにざわつき始める。
 どうする? 無理だろ、百万なんて……と、あきらめと驚きが交じった声だ。
「百万、他におりませんか?」
 この場を仕切る男性は、たっぷり間をためてから、カンカンカン……と木槌を打った。
「十九番の商品は、百五十三番が落札です」
 男の声が、熱気冷めやらぬ会場内の空気を震わせた。