君の姿を独占したい

「合唱の話、指揮者と伴奏者が誰もいない話聞いて、すぐに先生に提案した。これで思い出すかもって。そしたらやっぱり思い出さないんだね」

 寂しそうに石神は話してくれた。

 石神は俺が考えていた以上に、俺のことを考えていたみたいだった。
 ピアスを開けたのも俺がきっかけだったなんて。

「『お前体でかいし、ピアスもしてるし怖いんだよ』って、御花が最初に言ったの覚えてる?」
「お、覚えてる」
「それ聞いて、あんなに小さい【こうちゃん】がこうなるなんて思わないかってちゃんと納得したんだよ」

 石神は寂しそうにそう言った。

 たしかに、石神の最初のイメージは絶対に仲良くなれない、というものだった。
 いつも周りに女子がいて、へらへらしていて、どこか軽くて掴みどころがない。
 何を考えているのか全く分からない。

 そんなところは【こうちゃん】とは真逆の性格だ。

 性格も違くて、身長がかなり高いから、すぐに結びつくことが厳しかったのは事実だ。
 それでも、気づけなくて本当は寂しかった石神に気が付けなかったのは俺が悪い。

 俺はそっと石神の顔に近づいて、もう一度自分からキスをした。
 驚いてて目を見開いて顔が真っ赤になる石神、そんな彼のすべてが今は愛おしくてたまらない。

「笑顔がかわいくて、感情豊かで、やさしくて、そんなところに惹かれてこうちゃんのことを好きになった。はっきりいってクラスの石神は、作り笑いに見えるし、何考えているか分からない。だから、近寄りがたくて仲良くするつもりも一切なかった」

 ちゃんと、石神に伝えないと。ここで伝えないと、また逃げているのと同じだ。
 決心して、まっすぐ石神を見つめる。

「コンクールが始まって、一緒に過ごしていくうちに、イメージと違ったんだ。ちゃんと笑っているし、表情だってころころ変わる。それに優しい。石神のこと、もう一回好きになれたんだよ」

 石神は嬉しそうだけど、涙を堪えているのか必死な表情になっていた。
 俺は石神の胸元に飛び込んで、ありったけの愛をこめて抱きしめる。

「俺はこうちゃんが女の子だったから好きになったんじゃなくて、石神だから、好きになれたんだよ」

 おでこに石神の涙が伝って濡れる。
 何度も息をのみこんでは漏れ出す嗚咽を抑えきれずにいるようだ。
 苦しそうに嗚咽を我慢するたびに、腕の力が強くなる。

 そりゃ、何年も俺のこと想ってくれていたんだから、感情が溢れてしまうに決まっている。

 ごめん、ありがとう。二つの感情が混ざり合い目元がうるんでしまう。

「これからも石神と一緒にいたい」

 本心だった。

 俺は石神の呼吸が収まるまでずっと抱きしめていた。
 石神の鼓動が直で感じられていて、心地いい。暖かくてずっとこのままでいたい。

「御花、ありがとう」

 まだ呼吸は荒いのに、喉から絞り出すような声だ。
 俺は背中を撫でてあげると、石神は急に俺の体を押し倒す。

「え?」
「あー泣いた泣いた。もう十分泣いた。ありがと紫月。今度は紫月が泣く番ね」

 濡れた顔をごしごし拭いてから、前髪をかき上げると、そこにはいつもと同じ悪戯な笑みを浮かべた石神がいた。

「俺、もう泣いたから遠慮します」
「いやいや、さっき俺涙で視界ぼやけて見えなかったから、もう一回ね」
「別に俺が泣く必要なくない? 俺の番ってなんだよ」
「いや、だから、俺は紫月が泣く姿見たくて何年も待ってたのね」
「言ってること普通にひどくない?」

 腹を抱えて笑っている。
 元気になってくれたのがいいけど、俺だって別に好きで泣いているんじゃない!

 すっと顔を近づける。おでこをコツンとくっつけてから、そのままキスをする。
 さっきよりも優しくて、痛みはない。

 ただひたすら気持ちいい。

 頭がぼーっとしてきて、石神の姿が少しぶれる。
 それでも、いつもと違って余裕がない表情の石神を見て興奮してしまった。

「俺、石神の顔好きだなー」
「……はー、本当に紫月には敵わない」

 そう言ってから、耳元に顔を寄せて囁いた。

「独占したい」

 耳元から熱が体に伝わっていく。
 もう頭はパンパンで、何も考えられない。

 ただ石神に負けない、そんな風に思っていた。
 だから体を少し起こして、今度は俺が石神の耳元で囁いた。

「独占して」

 その言葉を合図に、再び二人の時間が始まった。