北の地を中心に日本各地の裏社会を牛耳るあやかしの子孫だけで構成された極道一家・青鷸組。
現在の組長は古の時代に日本を震撼させた鬼の血を引く子孫であり、文明開化によって行き場を失ったあやかしやその子孫たちに手を差し伸べて住処を提供して、仕事を斡旋していることで有名であった。
青鷸組の組員というのは、そうした者たちの中から組長を含む幹部に引き抜かれた者や自ら組への忠誠を誓った者たちの集団であり、主にあやかしと人間たちの緩衝役や人身、薬物などの売買をする売人の一掃など、警察や軍部が手を出せない汚れ役を秘密裏に担っているとのことだった。
その幹部にして次期組長候補の一人でもあった悠磨と、お互いに見ず知らずのまま――璃千花に至ってはこの家に連れて来られた三年前にはすでに、婚約関係となっていた。
神代の頃にこの日本に暮らしていた八百万の神々の子孫である葉盤家の璃千花とあやかしの子孫である青鷸組の悠磨との婚姻は、お互いの一族の繁栄のために勝手に組まれたものではあったが、悠磨は事あるごとに手紙をくれた。
悠磨は組の遣いで海を渡った先の異国の地・上海で仕事をしていたが、上海の様子や日々の出来事を手紙にしたためて璃千花に送ってくれて、璃千花もそんな悠磨に日々の出来事や日本の四季折々の様子を送るのが日課となっていた。
義母に読まれてしまうこともあってほとんどは他愛の無い内容だったが、筆まめな悠磨からの手紙は屋敷の外を知らない璃千花の世界を広げてくれて、上海の闇市場で売られていたという瑠璃色の飾り石付きの懐中時計を贈られた日には天にも昇るような心地になったものだった。
そんな悠磨が父親違いの弟――藍羽の手に掛かって夭逝したと聞かされたのは、ヒグラシが鳴く夏の暮れのことであった。
当然のことながら璃千花と悠磨の婚約関係は解消されて、青鷸組からは「別の組員を婚約者として充てがう」と言われたもののその相手は未だに決まっておらず、また璃千花自身も悠磨を忘れることができなかった。
神の子孫にして迎え入れた家には恒久繁栄が約束されると言われる葉盤家の娘でただ一人未婚である璃千花は、ここに来た時から葉盤家を栄えさせる政略結婚の道具でしかなかったが、璃千花を唯一「人」として扱ってくれたのは手紙越しの婚約者である悠磨だけだった。
そんな悠磨に連れられてこの家を出られるのなら、璃千花はあの地獄のような家で義理の両親からどんな扱いを受けて、義母に何を言われようとも構わなかった。
長らく使われていなかった離れという牢屋に入れられて、義母から重責の八つ当たりを受けようとも耐え凌げたのだった。
◆◆◆
現在の組長は古の時代に日本を震撼させた鬼の血を引く子孫であり、文明開化によって行き場を失ったあやかしやその子孫たちに手を差し伸べて住処を提供して、仕事を斡旋していることで有名であった。
青鷸組の組員というのは、そうした者たちの中から組長を含む幹部に引き抜かれた者や自ら組への忠誠を誓った者たちの集団であり、主にあやかしと人間たちの緩衝役や人身、薬物などの売買をする売人の一掃など、警察や軍部が手を出せない汚れ役を秘密裏に担っているとのことだった。
その幹部にして次期組長候補の一人でもあった悠磨と、お互いに見ず知らずのまま――璃千花に至ってはこの家に連れて来られた三年前にはすでに、婚約関係となっていた。
神代の頃にこの日本に暮らしていた八百万の神々の子孫である葉盤家の璃千花とあやかしの子孫である青鷸組の悠磨との婚姻は、お互いの一族の繁栄のために勝手に組まれたものではあったが、悠磨は事あるごとに手紙をくれた。
悠磨は組の遣いで海を渡った先の異国の地・上海で仕事をしていたが、上海の様子や日々の出来事を手紙にしたためて璃千花に送ってくれて、璃千花もそんな悠磨に日々の出来事や日本の四季折々の様子を送るのが日課となっていた。
義母に読まれてしまうこともあってほとんどは他愛の無い内容だったが、筆まめな悠磨からの手紙は屋敷の外を知らない璃千花の世界を広げてくれて、上海の闇市場で売られていたという瑠璃色の飾り石付きの懐中時計を贈られた日には天にも昇るような心地になったものだった。
そんな悠磨が父親違いの弟――藍羽の手に掛かって夭逝したと聞かされたのは、ヒグラシが鳴く夏の暮れのことであった。
当然のことながら璃千花と悠磨の婚約関係は解消されて、青鷸組からは「別の組員を婚約者として充てがう」と言われたもののその相手は未だに決まっておらず、また璃千花自身も悠磨を忘れることができなかった。
神の子孫にして迎え入れた家には恒久繁栄が約束されると言われる葉盤家の娘でただ一人未婚である璃千花は、ここに来た時から葉盤家を栄えさせる政略結婚の道具でしかなかったが、璃千花を唯一「人」として扱ってくれたのは手紙越しの婚約者である悠磨だけだった。
そんな悠磨に連れられてこの家を出られるのなら、璃千花はあの地獄のような家で義理の両親からどんな扱いを受けて、義母に何を言われようとも構わなかった。
長らく使われていなかった離れという牢屋に入れられて、義母から重責の八つ当たりを受けようとも耐え凌げたのだった。
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