それでも緊張しながら待っていると、橘がスマホを見ながら出てきて、すぐにオレに気づいた。
「あ、よかった。今、電話しようと思ってた」
「オレに?」
「うん。南に話があってさ」
「そうなんだ」
オレに電話しようとしてくれてたことが嬉しかったけど、でも、エレベーターに乗ってからふと。
話ってなんだろ、と思った。
考えたけど、何も浮かばない。他にも人が乗っていたので、黙ったまま階数表示を眺めていた。
迎えの車を待つために、駅のローターリーまで。いつもの五分を歩き始める。
「……あのさ、橘、今甘いモノ、食べたい?」
「ん? 何か持ってる?」
「うん。チョコレートなんだけど……」
ドキドキしながら、鞄の中からチョコ一粒を取り出す。
一粒四百円。金色と赤の包み紙。
めっちゃ高いチョコだ。
橘は笑顔で受け取ってくれた。
「豪華だな?」
「ん。おいしいから、食べて?」
少し歩きをゆっくりにして、橘がチョコを口に入れた。
「なにこれ。めっちゃうま」
笑顔が嬉しくて、ちょっと泣きそうになった。
やっと、渡せた。
それ、オレの人生で一番おいしいと思うチョコだよ。
と言うのは、なんとなく、やめておいた。



