三年間好きだった人に やっとチョコを渡した夜



 一粒400円。

 中三のオレにとっては、めっちゃ高いチョコレートが
 鞄の中に入っている。

 塾がもうすぐ終わる。
 視界の端に、橘がいる。

 いつもは静かな時計の音が、やけに大きく聞こえる。

 ――明日はバレンタインだ。

 中一のときも中二のときも、
 橘にチョコをあげたかった。

 と言っても、バレンタインチョコとしてあげようとしてた訳じゃない。
 塾帰りに「おいしいチョコ食べる?」くらいのノリであげるつもりだった。

 特別な意味なんて無いフリをしようとしていたのに、気持ちが入りすぎて、緊張しすぎて無理だった。
 今年こそ。


 ――塾で週三回、三時間、隣の席。会うたび、好きになった。
 成績で分かれる塾のクラス。一番上のクラスで一緒にいたいから、勉強もずっと頑張った。

 チョコひとつ、
 いつもありがとって気持ちで渡せたら、それでいい。

 たぶん、それだけですごく幸せだ。


 授業が終わり、橘が先生に呼ばれたので、先に廊下に出て、橘を待った。いつも一緒に塾を出るから、待つのは別に普通のこと。

 でも、ドキドキする。

 バレンタインで告白するために待ち伏せでもしてるみたい。
 ……いやいや、違う。


 いつも通り一緒に帰って、おいしいチョコを渡すだけ。それだけ。