その日の夕食。
僕らは三人で食卓を囲っていた。
四人でも、二人でもない。
三人で。
「そや、凪。月白くんに聞いたか?」
じぃちゃんの言葉に僕は箸を止めて、真っ白な白米を見つめる。
数秒考えた後、
「っあー!言うん忘れたあ!」
僕は箸を皿の上に置いて頭を抱えてあたふたしてしまった。
「明日言うわぁ…。」
「そないに急がんから焦らんで大丈夫よ。」
「うーーん…。」
漣は僕とじぃちゃんの顔をチラチラと見て、
「何のこと?」
首を傾げてそう言う漣。
僕は落ち込んだまま口を開く。
「畑の新じゃがさ、
量多いから収穫手伝ってくれんかなって。
あ、遊佐くんも誘おかな。」
みんなとできたら楽しそうだな、なんて想像しながらそう言うと、
「また知らんヤツの名前…。」
漣から小言が聞こえた気がした。
しかし、
「ん?なんか言うた?」
「ううん。
ほら、都会住んでる人が畑仕事なんかしてくれるやろかと思って。」
「あー、、確かに…。」
***
「ってことなんやけど、どう?」
学校からの帰り道、僕らはいつものように帰っている。いつもと違うところと言えば、三人だということ。つ
「え?!行きたい行きたい!面白そうじゃん!」
「真琴うっさ。」
月白くんは両耳を押さえて、その左肘で遊佐くんの肩を突いた。
僕は左に並ぶ月白くんの顔を覗き込む。
「月白くんはどう?」
彼は僕の方を向いて、顎に手を置く。
「良いけど、、、そっか、なるほど。
あの土地って東雲のじぃさんのだったのか…。」
「あ、詳しく言うたらひぃじぃちゃんやけどね。」
「あそこずっと気になってたんだよなー。
他に畑なんてねぇのにあそこにドンってあるからさ。」
「僕がいてたとこやと畑も田んぼもめっちゃあるで。」
笑いながらそんなことを言う。
実際、転校先のここでは畑と言える物はじぃちゃん家でしか見たことがない。
公園を通り過ぎた先にあるT字路へ辿り着いた時、
「あっ、兄さん……と、」
新しい中学校の制服姿の弟が。
僕を見つけた漣は笑顔を浮かべたかと思えば、月白くんを見てどこか不機嫌そうな顔つきになる。
「よぉ、弟。」
「________こんにちは。」
「・・・
─────えっ?!弟?!」
一拍遅れた遊佐くんが目をかっ開いた。
僕は漣を手招きしてから、漣が隣に来た。
「うん、僕の弟の漣。」
「へー何年?」
「中3です。」
めんどくさいんだろうなと感じさせる口調だ。
おそらく全員が感じたのではないだらうか。
即答だし。
「まだまだわけぇじゃん。」
遊佐くんは漣に寄る。
対して漣は、顔を上げるだけで全く動じていなかった。
遊佐くんが漣へと手を近づけて行く。
漣は警戒したが、それは杞憂だったようで。
「若いうちは遊べよ?」
「は?」
漣の頭にポンっと遊佐くんの大きな手が置かれた。
固まる漣は一度下に下げた顔を再び上げて、遊佐くんと目を合わせた。
「いや、お前の言う“遊ぶ”は意味がちげぇんだよ。」
遊佐くんは漣の頭上に置いた手を己の後頸に添えて、笑う。
「え〜?せっかくモテるんならいろーんな子と遊ばないと損じゃん?」
「「「ないない。」」」
僕ら他三人は口を揃える。
「クズや。」
「きっも。」
「ごめんやけどチャラい人苦手…。」
「ヒドィイー!」
遊佐くんがバタバタと手足を動かし始める。
年下の漣よりも幼い様の彼を冷えた目で見てしまった。
「でも、やっぱ兄弟なのな。あれ。」
月白くんは親指で公園の奥を示す。
僕らは体を傾けてそちらを見ると、
「やっぱり!転校生の?!」
「漣くんでしょ?!」
「高校生と一緒じゃん。お兄さんかな。」
小声で話しているようだが、本人たちが思っている以上に大きな声で、こちらまで届いている。
「東雲の弟も兄貴と一緒でモテんだな。」
僕はゆっくりと首を傾げる。
そして、思ったことをそのまま、正直に口にしてしまった。
「僕も漣も東雲やわ。ややこしいて。」
「_______なら…」
風が吹いて、僕の前髪が揺れた。
そろそろ切らないとと思いつつもまだ長い前髪が、僕の目元にかかった。
月白くんはその髪を指で横に流し、顔を近付ける。
「─────── なぎ。」
心臓が止まる。
そして一際大きく鼓動したのが感じられた。
僕も彼も、どこか違う世界に隔離された。
この空気を味わっていたかった。
だが、直ぐに戻される。
「目の前でイチャイチャしてんなよ。」
僕と月白くんの間に顔を埋めて、遊佐くんが悪態吐いた。
「何勝手に下の名前で呼んどんの。
てか触んなし。僕の許可取ってからにしてもろて。」
遊佐くんの倍以上の言葉を漣が呟いた。
そんなことを急に言われてしまい、身体中に羞恥心が駆け巡った。
「えっあの、別にっ!下の名前、でも…いいよ……。」
僕はみんなの視線から逃げるように顔を逸らし、足を動かす。
「はっ、はよ帰ろ。」
僕について三人も後を追う。
ただ、僕が気づかなかったのは、
後ろで遊佐くんがニヤニヤと笑っていたこと。
漣が月白くんを怒りを込めた瞳で睨みつけていたこと。
月白くんが、誇らしげに、満足げに、笑っていたこと。
***
ピーンポーン
家中にインターホンの音が鳴り響いた。
待ち望んでいたその音。
そして、
「悪ぃ遅くなった。」
待ち望んでいた、その声。
「ごめーん桃李が転けて泣きじゃくったからぁ〜。」
「え?!転けた?!」
「ちげぇって俺じゃねぇ。転けたのはこいつ。」
「えーーーてへぺろ?」
「おっそいわぶりっ子が。」
二人は体を傾けて、僕の先の人を見る。
そして僕も振り返ろうとした時、
「兄さん、倉庫にバケツ取りに行こ。洗わなやし。」
「えぁ、うん。あっ、
二人はそっちから裏回って。じぃちゃんおるから。」
そう言って、僕は家の左側にある細い道を指す。
その間も、漣は僕の手を引っ張っていた。
「オッケ〜。」
二人はそのまま、裏の畑へと歩き出した。
遊佐くんは置いておいて、
玄関までではなく、月白くんが我が家に来てくれた事が、、
(嬉しいな。)
***
6月中旬。
梅雨前だから最後の力を振り絞ったのか、
時期からは考えられないほどのさんさん照り。
洗ったから水滴がついているバケツを持って、家の直ぐ裏に辿り着く。
「じぃちゃん遅なってごめん。」
「バケツてこれでかまへ……ん?」
漣と僕が目にした光景。
小さな椅子にすわるじぃちゃん。
じぃちゃんの肩を揉む月白くん。
じぃちゃんの手をマッサージする遊佐くん。
「おう大丈夫よ、おおきに。」
じいちゃんはバケツを見て、優しく笑む。
目が点に、口が一文字になった僕たち2人に。
「あっうん…。
つ、月白くん?何してんの?」
「ん?あー」
「肩触ってたら、揉もかって言うてくれてん。
ありがとうね。桃李くんも真琴くんも。」
「____とぅ…」
何かが、ずっしりと乗しかかった。
息をするのがしんどくて、呼吸が浅くなった。
「大丈夫っすよ。俺肩揉み得意なんで。」
答えは分かってた。
(僕だってまだ、
月白くんのこと下の名前で呼んだことないのに…。)
恥ずかしい。
自分が醜い。
こんな嫉妬心を抱くなんて。
相手は大切な祖父だ。
名前呼びがどう言うことかなんて、祖父は知らないし気にも留めない。
気にしてるのは自分だけ。
こんな自分が、本当に、
(恥ずか)
僕の思考は止まった。
左手には、温かい感触。
「バケツ、持つ。」
触る月白くんが見上げていた。
じぃちゃんは先に畑の中を進んで、目的地に向かっていた。
遊佐くんと漣が何か話していた。
「______や、いいよ。」
僕はバケツを渡さず、逃げるように彼から離れ、じぃちゃんの後を追う。
あの真っ直ぐな綺麗な瞳に、
汚らわしくて醜い僕が映っているのだと
思えてしまった。
(嫉妬でこんなんなるとか、子供やん。)
噛んだ下唇が痛くて、赤い跡がついた。
***
「このあたり?」
「近いわ。
もーちょい離さなじゃがいも刺さってまうやろ。」
「ん〜〜…ここ?」
「アホか!」
漣と遊佐くんの話し声。
「そうそう、てこ使って持ち上げてみ。」
「よっっ。わっ、すっげぇ本当に出てきた。」
「案外量多いやろ。」
じぃちゃんと月白くんの話し声。
みんなはスコップでじゃがいもを掘っていた。
一方僕は、茎からじゃがいもを取り外している。
(スコップ足りんくてちょうど良かったんかも。)
僕は月白くんのその笑顔へと、視線を馳せた。
(もっと近くに行きたいて、思ってまう。
いや、ダメや僕は、、ゲイやったらダメなんやから。)
握っていたじゃがいもを引きちぎった。
自分では気づかなかった。
考えれば考えるほど、今までの彼への接し方が分からなくなっていたんだ。
「皮薄いかて優しくな。」
「へー皮薄いんすか。」
「そうそう。皮ごと料理に使えるから楽やねん。」
「確かに、剥かないでいいのは楽っすね。」
「桃李くんもよぉさん持って帰ってええで。まだまだあるかいて。」
月白くんは軍手をはめた手で、零れ落ちたじゃがいもを拾い上げた。
それを僕の隣にあるバケツへと腕を伸ばし、入れようとするが、届かない様子。
しゃがんでいるから動きにくそうだった。
目の前の月白くんの手にあるじゃがいも。
それに僕が手を添えて、受け取りバケツに入れた。
普段なら何かしら言っていたはずなのに、
言葉が出てこなかった。
「ありがと。」
月白くんが僕の顔を覗き込もうとしているのが見える。
視線を合わさずに、下のまだ繋がっているじゃがいもに顔を向けた。
「ん。」
明らかにいつもとは違う対応。
絶対、変に思われた。
不思議と僕だけが、ここにいちゃいけない気がした。
少し距離の空いた場所にいる漣と遊佐くんも何故か仲良くなってるし。
「俺はね、じゃがいもは揚げるのがいっちばん好き。」
「いやじゃがいもは煮たのが一番ええわ。」
「いやいや揚げ物でしょ〜?」
「何も分かっとらんやん。いっちゃん美味しく食べれるんは煮物や。」
「はぁ〜?!」
漣があんなに楽に話せるのは珍しいから、
たぶん、おそらく、きっと、、
仲良くなってるはず。
それからは、僕は悶々と考え続けて作業を進めていた。
じぃちゃんから受け取ったじゃがいもを取り外してバケツに入れる。
その繰り返し。
だがそんな中、僕が入れようとしたバケツはもう既に満タンで山型になっていた。
(あ、、気付かなんだ…。
漣の方もバケツもーそろいっぱいになるし、、)
「じぃちゃん、バケツ新しいの取ってくるわ。このバケツも一旦置いてくる。」
僕は軍手を外しながら立ち上がった。
それと同時に、月白くんも。
「俺も行く。」
僕が持とうとしたバケツの取手を彼が掴み、歩き出す。
「えっ、あ、ありがと。」
僕は彼に続いて後を追う。
一緒に来てくれるなんて、思ってなかったな。
僕らは三人で食卓を囲っていた。
四人でも、二人でもない。
三人で。
「そや、凪。月白くんに聞いたか?」
じぃちゃんの言葉に僕は箸を止めて、真っ白な白米を見つめる。
数秒考えた後、
「っあー!言うん忘れたあ!」
僕は箸を皿の上に置いて頭を抱えてあたふたしてしまった。
「明日言うわぁ…。」
「そないに急がんから焦らんで大丈夫よ。」
「うーーん…。」
漣は僕とじぃちゃんの顔をチラチラと見て、
「何のこと?」
首を傾げてそう言う漣。
僕は落ち込んだまま口を開く。
「畑の新じゃがさ、
量多いから収穫手伝ってくれんかなって。
あ、遊佐くんも誘おかな。」
みんなとできたら楽しそうだな、なんて想像しながらそう言うと、
「また知らんヤツの名前…。」
漣から小言が聞こえた気がした。
しかし、
「ん?なんか言うた?」
「ううん。
ほら、都会住んでる人が畑仕事なんかしてくれるやろかと思って。」
「あー、、確かに…。」
***
「ってことなんやけど、どう?」
学校からの帰り道、僕らはいつものように帰っている。いつもと違うところと言えば、三人だということ。つ
「え?!行きたい行きたい!面白そうじゃん!」
「真琴うっさ。」
月白くんは両耳を押さえて、その左肘で遊佐くんの肩を突いた。
僕は左に並ぶ月白くんの顔を覗き込む。
「月白くんはどう?」
彼は僕の方を向いて、顎に手を置く。
「良いけど、、、そっか、なるほど。
あの土地って東雲のじぃさんのだったのか…。」
「あ、詳しく言うたらひぃじぃちゃんやけどね。」
「あそこずっと気になってたんだよなー。
他に畑なんてねぇのにあそこにドンってあるからさ。」
「僕がいてたとこやと畑も田んぼもめっちゃあるで。」
笑いながらそんなことを言う。
実際、転校先のここでは畑と言える物はじぃちゃん家でしか見たことがない。
公園を通り過ぎた先にあるT字路へ辿り着いた時、
「あっ、兄さん……と、」
新しい中学校の制服姿の弟が。
僕を見つけた漣は笑顔を浮かべたかと思えば、月白くんを見てどこか不機嫌そうな顔つきになる。
「よぉ、弟。」
「________こんにちは。」
「・・・
─────えっ?!弟?!」
一拍遅れた遊佐くんが目をかっ開いた。
僕は漣を手招きしてから、漣が隣に来た。
「うん、僕の弟の漣。」
「へー何年?」
「中3です。」
めんどくさいんだろうなと感じさせる口調だ。
おそらく全員が感じたのではないだらうか。
即答だし。
「まだまだわけぇじゃん。」
遊佐くんは漣に寄る。
対して漣は、顔を上げるだけで全く動じていなかった。
遊佐くんが漣へと手を近づけて行く。
漣は警戒したが、それは杞憂だったようで。
「若いうちは遊べよ?」
「は?」
漣の頭にポンっと遊佐くんの大きな手が置かれた。
固まる漣は一度下に下げた顔を再び上げて、遊佐くんと目を合わせた。
「いや、お前の言う“遊ぶ”は意味がちげぇんだよ。」
遊佐くんは漣の頭上に置いた手を己の後頸に添えて、笑う。
「え〜?せっかくモテるんならいろーんな子と遊ばないと損じゃん?」
「「「ないない。」」」
僕ら他三人は口を揃える。
「クズや。」
「きっも。」
「ごめんやけどチャラい人苦手…。」
「ヒドィイー!」
遊佐くんがバタバタと手足を動かし始める。
年下の漣よりも幼い様の彼を冷えた目で見てしまった。
「でも、やっぱ兄弟なのな。あれ。」
月白くんは親指で公園の奥を示す。
僕らは体を傾けてそちらを見ると、
「やっぱり!転校生の?!」
「漣くんでしょ?!」
「高校生と一緒じゃん。お兄さんかな。」
小声で話しているようだが、本人たちが思っている以上に大きな声で、こちらまで届いている。
「東雲の弟も兄貴と一緒でモテんだな。」
僕はゆっくりと首を傾げる。
そして、思ったことをそのまま、正直に口にしてしまった。
「僕も漣も東雲やわ。ややこしいて。」
「_______なら…」
風が吹いて、僕の前髪が揺れた。
そろそろ切らないとと思いつつもまだ長い前髪が、僕の目元にかかった。
月白くんはその髪を指で横に流し、顔を近付ける。
「─────── なぎ。」
心臓が止まる。
そして一際大きく鼓動したのが感じられた。
僕も彼も、どこか違う世界に隔離された。
この空気を味わっていたかった。
だが、直ぐに戻される。
「目の前でイチャイチャしてんなよ。」
僕と月白くんの間に顔を埋めて、遊佐くんが悪態吐いた。
「何勝手に下の名前で呼んどんの。
てか触んなし。僕の許可取ってからにしてもろて。」
遊佐くんの倍以上の言葉を漣が呟いた。
そんなことを急に言われてしまい、身体中に羞恥心が駆け巡った。
「えっあの、別にっ!下の名前、でも…いいよ……。」
僕はみんなの視線から逃げるように顔を逸らし、足を動かす。
「はっ、はよ帰ろ。」
僕について三人も後を追う。
ただ、僕が気づかなかったのは、
後ろで遊佐くんがニヤニヤと笑っていたこと。
漣が月白くんを怒りを込めた瞳で睨みつけていたこと。
月白くんが、誇らしげに、満足げに、笑っていたこと。
***
ピーンポーン
家中にインターホンの音が鳴り響いた。
待ち望んでいたその音。
そして、
「悪ぃ遅くなった。」
待ち望んでいた、その声。
「ごめーん桃李が転けて泣きじゃくったからぁ〜。」
「え?!転けた?!」
「ちげぇって俺じゃねぇ。転けたのはこいつ。」
「えーーーてへぺろ?」
「おっそいわぶりっ子が。」
二人は体を傾けて、僕の先の人を見る。
そして僕も振り返ろうとした時、
「兄さん、倉庫にバケツ取りに行こ。洗わなやし。」
「えぁ、うん。あっ、
二人はそっちから裏回って。じぃちゃんおるから。」
そう言って、僕は家の左側にある細い道を指す。
その間も、漣は僕の手を引っ張っていた。
「オッケ〜。」
二人はそのまま、裏の畑へと歩き出した。
遊佐くんは置いておいて、
玄関までではなく、月白くんが我が家に来てくれた事が、、
(嬉しいな。)
***
6月中旬。
梅雨前だから最後の力を振り絞ったのか、
時期からは考えられないほどのさんさん照り。
洗ったから水滴がついているバケツを持って、家の直ぐ裏に辿り着く。
「じぃちゃん遅なってごめん。」
「バケツてこれでかまへ……ん?」
漣と僕が目にした光景。
小さな椅子にすわるじぃちゃん。
じぃちゃんの肩を揉む月白くん。
じぃちゃんの手をマッサージする遊佐くん。
「おう大丈夫よ、おおきに。」
じいちゃんはバケツを見て、優しく笑む。
目が点に、口が一文字になった僕たち2人に。
「あっうん…。
つ、月白くん?何してんの?」
「ん?あー」
「肩触ってたら、揉もかって言うてくれてん。
ありがとうね。桃李くんも真琴くんも。」
「____とぅ…」
何かが、ずっしりと乗しかかった。
息をするのがしんどくて、呼吸が浅くなった。
「大丈夫っすよ。俺肩揉み得意なんで。」
答えは分かってた。
(僕だってまだ、
月白くんのこと下の名前で呼んだことないのに…。)
恥ずかしい。
自分が醜い。
こんな嫉妬心を抱くなんて。
相手は大切な祖父だ。
名前呼びがどう言うことかなんて、祖父は知らないし気にも留めない。
気にしてるのは自分だけ。
こんな自分が、本当に、
(恥ずか)
僕の思考は止まった。
左手には、温かい感触。
「バケツ、持つ。」
触る月白くんが見上げていた。
じぃちゃんは先に畑の中を進んで、目的地に向かっていた。
遊佐くんと漣が何か話していた。
「______や、いいよ。」
僕はバケツを渡さず、逃げるように彼から離れ、じぃちゃんの後を追う。
あの真っ直ぐな綺麗な瞳に、
汚らわしくて醜い僕が映っているのだと
思えてしまった。
(嫉妬でこんなんなるとか、子供やん。)
噛んだ下唇が痛くて、赤い跡がついた。
***
「このあたり?」
「近いわ。
もーちょい離さなじゃがいも刺さってまうやろ。」
「ん〜〜…ここ?」
「アホか!」
漣と遊佐くんの話し声。
「そうそう、てこ使って持ち上げてみ。」
「よっっ。わっ、すっげぇ本当に出てきた。」
「案外量多いやろ。」
じぃちゃんと月白くんの話し声。
みんなはスコップでじゃがいもを掘っていた。
一方僕は、茎からじゃがいもを取り外している。
(スコップ足りんくてちょうど良かったんかも。)
僕は月白くんのその笑顔へと、視線を馳せた。
(もっと近くに行きたいて、思ってまう。
いや、ダメや僕は、、ゲイやったらダメなんやから。)
握っていたじゃがいもを引きちぎった。
自分では気づかなかった。
考えれば考えるほど、今までの彼への接し方が分からなくなっていたんだ。
「皮薄いかて優しくな。」
「へー皮薄いんすか。」
「そうそう。皮ごと料理に使えるから楽やねん。」
「確かに、剥かないでいいのは楽っすね。」
「桃李くんもよぉさん持って帰ってええで。まだまだあるかいて。」
月白くんは軍手をはめた手で、零れ落ちたじゃがいもを拾い上げた。
それを僕の隣にあるバケツへと腕を伸ばし、入れようとするが、届かない様子。
しゃがんでいるから動きにくそうだった。
目の前の月白くんの手にあるじゃがいも。
それに僕が手を添えて、受け取りバケツに入れた。
普段なら何かしら言っていたはずなのに、
言葉が出てこなかった。
「ありがと。」
月白くんが僕の顔を覗き込もうとしているのが見える。
視線を合わさずに、下のまだ繋がっているじゃがいもに顔を向けた。
「ん。」
明らかにいつもとは違う対応。
絶対、変に思われた。
不思議と僕だけが、ここにいちゃいけない気がした。
少し距離の空いた場所にいる漣と遊佐くんも何故か仲良くなってるし。
「俺はね、じゃがいもは揚げるのがいっちばん好き。」
「いやじゃがいもは煮たのが一番ええわ。」
「いやいや揚げ物でしょ〜?」
「何も分かっとらんやん。いっちゃん美味しく食べれるんは煮物や。」
「はぁ〜?!」
漣があんなに楽に話せるのは珍しいから、
たぶん、おそらく、きっと、、
仲良くなってるはず。
それからは、僕は悶々と考え続けて作業を進めていた。
じぃちゃんから受け取ったじゃがいもを取り外してバケツに入れる。
その繰り返し。
だがそんな中、僕が入れようとしたバケツはもう既に満タンで山型になっていた。
(あ、、気付かなんだ…。
漣の方もバケツもーそろいっぱいになるし、、)
「じぃちゃん、バケツ新しいの取ってくるわ。このバケツも一旦置いてくる。」
僕は軍手を外しながら立ち上がった。
それと同時に、月白くんも。
「俺も行く。」
僕が持とうとしたバケツの取手を彼が掴み、歩き出す。
「えっ、あ、ありがと。」
僕は彼に続いて後を追う。
一緒に来てくれるなんて、思ってなかったな。

