認めさせてよ、この恋を。

翌日。
いつも通りの学校の廊下、

──────────ではなかった。


廊下にある掲示板らしき場所に生徒達が群がっていたのだ。
ちょうど僕の教室、2年A組の前だから通りづらいな、なんて思っていたが、、

「おっ!ご本人登場!」
「東雲〜!」
「東雲すげぇな!」

同じクラスの男子生徒達が僕を見つけて声を上げ始め、
廊下にいた生徒全員の視線が一気に僕に集まる。

「__________えっと……???」

そろそろ覚えないととは思いつつも、坊主頭の子が駆け寄って来た。
そして僕の首を傾げた様子を見て、僕の手を引っ張ってその掲示板に向かう。

「早く見ろって!すげぇよ!」

連れられて目にしたのは掲示板前面に貼られた大きな紙。
2年生での、
中間テスト5教科合計点数の順位を示していた。
特に光って見えるのが3人の名前。

「お前2位だってさ!」
「すっげぇ!」
「あれあれあの子!2位の東雲くん!」
「あっ、噂の転校生?!」

いろんな声が飛び交っているが、僕にはどれも雑音にしか聞こえない。
自分が軽く200人以上いる学年の中で2位ということもそれ程気に留めることもなかった。

僕が一目引いたのは一番上にでかでかと書かれた文字。

『月白桃李 494点』

僕はそれを見て目を開いた。
もちろん驚きはしたが予想より遥かに上だった。

「月白までもーちょいだったなぁ〜。」
「仕方ねぇよ。月白頭良いし。」
「いつも点数高いしねぇ。」
「お前は下がったな!」
「は?!」

話が僕から切り替わったタイミングで、僕はひっそりとその場から姿を消し、教室へと向かう。
扉を跨ぎ、目の前にはいつも僕より早く着いている彼がいた。

「月白くん、おはよ。」

「ん。はよ。」

月白くんはスマホを触っていたけど、挨拶する時は僕の顔をちゃんと見てくれた。
昨日あんなことがあったからか、真正面から彼の顔を見ることに、僕の方が照れてしまう。

「凄いなぁ、中間テスト。
月白くんぶっちぎりの一位やん。」

「_______まぁな。」

照れているけど、自信満々なその様子が可愛らしい。

みんなは月白くんが頭が良いからとか、いつもだからとか、なんて言っていたけど。
僕は知ってたよ。

「僕も月白くんみたいに勉強頑張らんとやわ。
_____________努力できて、ほんますごいなぁ。」

月白くんのスマホを触っていた指が止まる。瞬きを1度して、視線を交わす。
どこからどう見たって、驚いた表情をしていた。

僕も君と一緒だから、分かるんだ。

──────────  一番求めている言葉を。





「へへっ」

月白くんはどこか、安心し切ったような表情をした。

「けどお前だってすげぇじゃん。」

「え?」

僕は目を点にした。
まさか自分のことを振られると思っていなかったから。
カバンから筆箱を出す手が止まる。

「俺と7点しか変わんねぇ。」

僕は自然に椅子に座り、驚きを覆い隠す。

「頑張ったかいてなぁ。次はもっと頑張るわ。」

「なら俺も抜かれねぇように頑張る。」



この悲しみも痛みも、極小数の人にしか分からないだろう。
だけど僕らはその傷を互いに舐め合う。
他のどんな人でもない、月白くんと。


***


その日、
4限終了のチャイムが鳴ったと同時に、
廊下に足音が響き渡る。
そしてそれは彼の登場で止んだ。

「東雲!
お前何軽々しく俺の順位抜かしちゃってんの?!」

………………



「遊佐くん…」
「真琴…」

僕は冷めた目で遊佐くんを見据えた。
きっと月白くんも。

だって、
月白くんに夢中になり過ぎてて
3位が遊佐くんだったことを完全に忘れていたから。

***

「ふふぁひほほへぇんすうたひゃふえ?」

口いっぱいにご飯を頬張った遊佐くんが何かを話した。
おそらく、『二人とも点数高くね?』といった所だろう。

「俺がお前に負けるわけねぇだろ。」

「ムキィィィィ」

二人の様子を傍観しながら、僕は弁当箱からミートボールを箸で取り、口に入れた。

「あっ…ならさならさ、
教科で勝負しようぜ!
俺が負けた分、弁当から好きなの取っていい!
俺が勝った分、お前らの弁当から頂く、どうよ?!」

(どうよて言われてもなぁ…)

僕が苦笑混じりに内心呟くと、

「いいぜ。恥書いても知らねぇかんな。」

月白くんは手に持っていた箸を置き、
乗り気になってしまう。
諦めのついた僕も、

「ええよ。」

承諾した。

「よっし。じゃぁ俺、桃李、東雲の順な。」

遊佐くんが喧嘩前のヤンキーのように握り拳を包み、音を立てる。

「まず英語。87点!」

「98点。」

「___100点…。」

遊佐くんから無言の圧が僕に向かう。

「国語、92点!」

「97点。」

「___99点。」

遊佐くんの目がかっぴらいて圧がより増した。
正直中々に怖い。

「数学、89点…。」

「100点。」

「95点。」

遊佐くんがキリッと月白くんを睨むが、月白くんはその視線を受けても誇らしげだ。

「理科、91点。」

「99点。」

「93点。」

月白くんは理数系なんだなと二人の様子を他所に思った。
僕は文系だから少し羨ましい。

「最後に社会!これは自信あんだよ!95点!」

「100点。」

「____100点…。」

…………

遊佐くんが自信満々に言った点数を、敵二人が最高点で上回ってしまった。

「何だよ…こんな化 バケモノ反則だろうがぁ…」

遊佐くんは両手で顔を覆い隠し、左右に揺れ始める。
僕は何故か申し訳ない気持ちになってきた。

「こんな俺から昼飯を奪おうっていうの?!ひどい!」

「自分から言い出したことだろうが。」

「ひぃぃぃぃん…」

「僕は別に、いいよ?」

そう手を振って下がろうとすると、

「まじ?!さっすがしっのっのっめ〜!」

「んだよ、褒美ねぇのかよ。」

月白くんのその言葉に遊佐くんは何やら思いついた顔をして、指で指し示す。

「んじゃ二人交換したらいいじゃん。
頑張ったご褒美。」

僕と月白くんは目を合わせる。
正直嬉しい。けど、月白くんは嫌がらないだろうか、なんてことを頭に過ぎるが。

「____いい?」

月白くんが首を傾げてそう聞いて来た。
僕よりも身長の高い彼が可愛く見えてしまい、
僕の心がギュンッと音を立てた気がした。

「もちろんもちろん。」

弁当箱を差し出すと、月白くんは悩んだ末に弁当箱の端にあるフライドポテトを取った。

「えーー。いーな。俺も欲しぃー。」

遊佐くんがそんなことを言い、僕は別に構わなかったのだが、

「かまへ」

「いーや。ダメだ。教科全部負けてんだからな。」

月白くんに断ち切られた。
月白くんは彼の弁当箱を差し出してくれる。
どれも目を引く物ばかりだが、
僕はアレが忘れられなかったのだ。

「卵焼き、もらってもいい?」

月白くんは僕のフライドポテトを咥えたまま頷いた。
そして僕はそれを箸で取ってから、

「ありがとう。」

と言ってすぐに頬張る。

前に食べてからずっと忘れられず、家でも作った。
だけどこの味には出逢えなくて、長らく待ち望んだ物だったのだ。

「んーー!」

僕は目を瞑って、卵焼きの優しい味を存分に味わう。
僕の頬は完全に垂れていただろうな。

「ふっ。」

微かな笑い声が聞こえて目を開ける。
その声の主は月白くん。



「________かわい。」



僕の顔を見てそんな口説き文句を言うもんだから、
僕の頬は直ぐに形を取り戻す、そして弁当の色を飾るミニトマトの色を帯びてしまう。
せめてそんな風に笑わなかったら、ここまで赤くはならなかったかもしれないのに。

「時間なくなるから早く食えよ!」

僕らの空間に見放された遊佐くんが割って入る。
僕は落ち着きを取り戻した振りをして昼食を再開した。
僕がこんななのに、月白くんは満足そうな表情をしている。