認めさせてよ、この恋を。

次の日、

「はよ。」

「_____おはよ。」

月白くんは何事もなかったかのように挨拶をしてくれる。対して僕の体はかちこちだ。
何でこんなにも落ち着いていられるんだろう、なんてことを考えていた。


「______と言うことで、
今日からテスト期間に入ります。」

「えーーー。」
「やだぁぁ。」

そう、なんと今日からテスト期間なのだ。
地元と進み具合が違って、追いつくのがやっとだった。

今は新たに脳内に月白くんが住み始めたから、
切り替えるのに丁度良いだろう。
静かに自分を奮い立たせた。


それからの授業はいつも通り。
内容を進める授業もあればテスト勉強として自習にあてる授業もある。
ただ、、

(進むくせにテスト出やん授業やめて欲しぃわ…)

きっと全国の高校生が思っているんだろうな。


数学の自習の時間、
集まって話しながら勉強している子もいれば、1人で黙々と勉強している子もいる。
僕は後者。
だけど隣の月白くんはどちらでもなかった。

(これは……どっちや……)

上体を屈め、机の上に置いた頭を腕で囲っていた。
眠っているのかそうでないのか。
それは分からないが僕が知りたいのはそのことではなかった。

(頭良いから勉強しやんのか、
それとも苦手やからしやん感じ…?)

思い返せば他の自習時間もこの状態だ。

けど、
昼休憩のチャイムが鳴った瞬間、
月白くんがばっと顔を上げて僕と目を合わせ、

「飯。」

(いやいや何でやねん。)


***


とある日の国語の授業。
明日からテストが始まると言うのにまだ範囲が終わっておらず、頑張っている先生。
僕もちゃんと真面目に聞いていたが、集中していたのにある単語に引き込まれてしまう。

「で、ここで彼の言う“一目惚れ”がキーワードになります。」

僕のシャーペンを持ち、動かしていた手が止まった。

「ここ、絶対テスト出しますからねー。」

思い出してしまう。
僕が告白したはずなのに
告白された側になった気分の
あの日を。

“一目惚れ”とは、本来どのようなものなのだろうか。
『一目見て惹かれる』と言うようなニュアンスなのだろうとは思う。だがそこに恋愛感情は含まれるのだろうか。
あの時は恋愛感情はないと言いはしたが、、、
月白くんはどうなんだろうか。

(もしかして、月白くんも…)

僕はおそるおそる月白くんへと顔を向ける。

(僕と一緒な__)

彼と、
─────目が合った。


心では「やばっ!」なんて思い、すぐに顔を逸らしたかった。でも、
彼はずっとこちらを見つめている。
逸らしたい、逸さなければ、と思っても僕の体は言うことを聞いてくれない。

彼は頬杖をついて目を細め、口だけを動かす。

『ひとめぼれ』

口パクでそう言われた。
窓から微風が吹かれ、月白くんの金髪をゆっくりと揺らす。
本当はゆっくりじゃないのかも、でも僕にはそう見えたんだ。

全身が熱くなっているのを感じる。
彼には今の僕がどんな風に見えるんだろう。
多分、月白くんにとっては愉快なのかも。

だって、

そんなふうに笑うんだもん。

その後の僕のノートは、
眠たくなった訳じゃないのに字が歪んでしまっていた。

***


放課後、
僕はカバンを机に置いて、「じゃあな。」と言った月白くんを見送った。

『いつも放課後どこ行っとるん?』

とは言わない。
だって、昨日その理由を知ったから。


***


そして3日間の中間考査が終わった。
帰りのショートホームルーム後。
みんなが喜びの声を上げる中、僕はテストに出てきたある問題を思い出していた。

『大問6-(5)
下線部⑤では、彼が彼女に惹かれた理由を説明しているが、それを簡潔に述べている部分を四字で抜き出せ。』

その答えが何なのかと悩んでいるわけではない。
僕が悩んでいるのはその答えそのもの、
─────『一目惚れ』だ。

僕の頭の中には『一目惚れ』というワードが蔓延っていた。

(んーーー)

「東雲。」

「__________ん?」

珍しく今日は別れの挨拶ではなく名を呼ばれた。

「お前が良かったらなんだけどさ、」

月白くんは机に置いた僕のカバンの紐に指を掛けた。

「一緒に、帰らねぇか。」


「__________うん。帰ろ。」

僕はカバンの紐を掴んで、2人で教室を出た。

大丈夫だったろうか。
ちゃんと自然な感じに返せただろうか。
嬉しさが出ていなかっただろうか。

廊下を歩く僕はそんなことを考えるが、

月白くんの言葉を聞いて、
目を輝かせてしまったことには気付けなかった。

***

同じ道を帰る僕たちは、テストの話をしていた。

「やんなー。そこ点数配分高そうやもんなぁ。」

「あの先生一年ん時も数学担当だったけど、あーいう問題の点数配分すっげぇたけぇよ。」

「わぁー。まちごぅてないか怖いわぁー…」

先に公園が見えた。
月白くんの家は公園の近く。
前は僕が泣いちゃったから来てくれたけど今日はまた違う。
もうそろそろお別れだなと思って公園を通り過ぎる前に声を掛けた。

「家この辺やんな。ほんじゃ月白くん、おつかれさ」

「いや…」

月白くんは足を止めた。
それにつられて不思議がる僕も。

僕は振り返って月白くんの顔を正面から見る。
ほっぺたを薄い赤色にして照れくさそうに、

「________送らせろよ。」

「…………ぇ」

月白くんは歩き出し、硬直する僕を通り過ぎる。

「分かれ。ばか。」

気を取り直した僕は遠ざかる月白くんへと走り、隣に並ぶ。
この空気をどうにか変えたくて、頭の中で必死に言葉を探す。

けど。
どうしても聞きたくなった。
聞かなくては僕も進めないのだから。

「月白くんさ、前に僕より先に一目惚れしてたって言うてたやん。
あれ、さ、、
─────恋愛、的…なの……?」

上目遣いで月白くんを見上げる。
彼は僕と反対を向いていたから、後頭部しか見えなかったけど。
小さく頷いたのが見えた。

「___そっ…かぁ…。

月白くん、ぼくは」

「今の。
お前から、どっちの答えにしろ聞きたいとは思ってねぇ。言ったろ。」

そっぽを向いていたのに、月白くんは顔を僕に向け、
真っ直ぐ伝えられた。

「お前が認めるまで頑張るって。
お前がちゃんと認められるように、頑張るから。
まだ、言わなくていい。」

僕の心の根元に残る、
まだまだ冷たい氷を
少し、少しだけ、
溶かしてくれた気がした。


***


月白くんはそのまま僕を家まで送ってくれて、
来た道を引き返して行った。
嫌な顔ひとつせず。

玄関に入ってから僕が廊下で悶えていたことを、
月白くんは知らない。