そして翌日、
僕は何でもないかのように学校に行って、
月白くんに「おはよう」を言って、
授業を受けて、
月白くんと遊佐くんとま昼ご飯を食べて、
また授業を受けて、
放課後を迎える。
僕はずっと平然を装えていたと思う。
それでもみんなと、否。
月白くんと放課後も一緒なことに胸躍っていた自分が確かにそこにいた。
僕らクラス全員は地元とは程遠い町中を大人数で歩いて行く。大人数といってもみんな別れていて、僕は月白くんと並んで歩いていた。
「え押しピンとちゃうん?」
「いやいや画鋲だろ。なんだよピンって。」
「えー。」
月白くんがネットで調べた関西と関東の言い方の違いについて話していた。
「予約した〇〇ですー。」
思ったより白熱して、話題はそれだけで目的地までついたのだ。
学級委員長らしき人が先陣勝ってくれるお陰で、僕らはただ列の後ろにいるだけで良かった。
人数が多いため男女で分かれることになり、女子男子共に悔しそうな表情を浮かべていた。
(月白くんお目当てやったんやろな…)
何てことを呑気に考えつつも僕は月白くんの隣に座り、
名ばかりの歓迎会が始まった。
***
多分、上手くやれている。
楽しそうに振られた話には笑顔で、時にふざけながら返す。
誰かが話している時には絶対に割り込まない。
分かりやすく、楽しそうに。
嫌な顔は絶対に見せない。
あくまで楽しそうに、振る舞う。
ほら、上手くできてる。
「東雲って何でこっちに転校して来たんだ?」
「─────えっ…」
「それ俺も気になってたー。」
「えっそれな、私もずっと聞きたかったー。」
「関西だって楽しそうじゃん。」
自分の眉が下がってしまったのに気が付き、
焦ってなんとか顔を作る。
落ち込みつつある自分の心を無理やり上げた。
考えるんだ。みんなが聞いて楽しくなる嘘を。
「いやぁ、僕が住んどった場所田舎すぎてさぁ、
ここらめっちゃ都会やし楽しそうやん。今らかて放課後にファミレス来れてるし。」
そんな嘘を並べて、
いつもと同じように薄目でみんなの様子を伺う。
「確かにな〜!」
「田舎だとファミレスもないのー?!」
「それはやだねぇ〜。」
なんて言い、
みんな笑って、新しい話に移る。
うん、できた。
僕はまた笑顔を貼り付ける。
「____さー____てんの!」
「____はは!」
「それ_______んじゃん___!」
皆んなが話してる内容が何なのかよく分からないまま僕は合わせていた。
ふと気になって隣の彼を見てみると、後ろの席の女子達に捕まっていた。
「月白くん中学一緒だよねー!」
「中学あんま覚えてねぇな。」
「えー!てか絶対モテてたでしょー?」
「分かんねぇ。」
月白くんは烏龍茶を飲みながら後ろの彼女達にそんなことを言っていた。
彼の様子を見て、僕とは違う彼の佇まいにまた惹かれてしまう。
(いやいや。せやかてダメやて。)
心だけ関西に戻ったのか自分で自分にツッコミを入れていた。
「ドリンクバー行ってくるー。」
「俺もー。」
そう言い僕の隣の通路側に座る男子生徒が立ち上がった。
その時、
通路を歩いて来ていた男性とぶつかりそうになったみたいで立ち上がったその子が勢いよく席に腰を落とした。
彼が手に持っていたコップの中にはまだメロンソーダが残っていて、その拍子にコップが宙を舞う。
(あ…やばい。ぶつかるやん。)
どーしよかな、なんて思いながら目を瞑る。
でも、それはいつまで経っても降ってこない。
「大丈夫か、東雲。」
目を開けると、至近距離に月白くんの顔があった。
月白くんの左手が緑色のドリンクが入ったコップを持っているのが視界に入る。
そんなことは今どうでもいい。
目の前には名画のモデルにだってなれる程、そして僕が一目見て惹かれるほどの美貌を持つ月白くんがいた。
きっと、僕の顔はドリンクを被ることに怯えたダサい顔でもしてるんだろうな。
普段照れ屋な月白くんが真剣な眼差しで僕を見つめている。
(だから…ダメやって……)
もっと見たい。
もっと見ていたい。
もっと目に焼き付けていたい。
だって僕は、月白くんのことが____
「あっえっ?!」
僕は自分の考えを途中で阻止し、現実へと引き戻す。
「月白くん?!って」
僕は月白くんの左手と彼の顔、そして周りを見渡して自分の状況を理解した。
「コップ取ってくれたんか?!ありがと!」
目をかっぴらいて感謝を告げる。
その間に月白くんはコップを机に置いて元に戻っていた。
「あっ、いや、…大丈夫なら別に…その、良かった。」
彼はまたいつものように照れ屋に戻った。
「まじ東雲すまん!月白もサンキューな!代わりにはい、ポテト!」
コップを浮かせた彼は手を合わせて詫びる。それを良い感じに流しておく。
僕の頭には今、月白くんしかいないのだ。
彼しか今は考えられないのだ。
***
それ以降は何もトラブルも起こさないまま、歓迎会は幕を下ろした。
初めと比べてそれぞれの仲も深まったし、僕は害のない人間だと認識されたと思う。
僕と月白くんはみんなとは反対方向だから、店の前で彼らに手を振る。
「また明日。」と言って。
女子生徒達の中には喜びの声を上げる者や別れを惜しむ様子の子たちがいた。
役目を終えた僕の右手はゆっくりと下がる。
隣にいた月白くんは手を振ることもなくその茶色い目だけで見送っていた。
僕らは橙色に染まった空の下で帰路につく。
みんなの前で頑張ったからか疲労がのしかかっていた。
せっかく月白くんと帰れるのに、なんてことをふと思い、ちらりと隣の彼へと視線を移す。
彼は無言だった。
前よりも仲良くなれたはず。そう思いたかっただけなのかもしれないけど。
もしかしてそうじゃないのか。
それとも同じく彼も疲れているのか。
分からない。
橙色の光を受けた彼の横顔に見惚れる。
彼の人格を知ってからは尚更。
(あぁ。ほんまに。)
「綺麗やわ。」
やっぱり僕は疲れているみたいだ。
ずっと口に出すことを我慢していたのに口に出てしまったのだから。
月白くんは僕に向く。
もし僕が夕陽を見て言っていたら夕陽が綺麗だと誤魔化せたのに。出来なくなってしまった。
「あーーー…わっえっ、まじか…ごめ」
「何で、さっき嘘吐いたんだ。」
言葉は出ないのに僕の口がゆっくりと開く。
「何で嘘やて」
「分かるよ。
ずっと、隣にいたから。
ちゃんと見てたから。」
彼の照れた顔が印象的すぎて忘れていた。
こんな真剣な表情をされると思い知らされる。
(そうやった…この人めっちゃかっこいいんやった…)
何か話題を変えようと考え、彼の綺麗な顔を見て思い出した。
「コップ!取ってくれてほんまおおきに。お陰でぶっかからんで済んだわ。」
なんて笑いながら言う。
でも、やっぱり今日の僕はダメみたいだ。
さっき月白くんが言ってくれた言葉が脳内を漂っていた。
「けど、あそこまでしやんでええよ。
勘違いしてまう。」
僕は下を向いてわざと月白くんの視線から逃げる。
目には涙が浮かんでいるのだろう。視界がぼやけて仕方がない。
「僕ばっか月白くんに振り回されとる。
僕ばっか月白くんにどきどきしとる。」
地面に段々と水玉模様が描かれる。
何でこんなことを言ってしまうのか。
答えは分かってる。
月白くんが『ちゃんと見てた』って言ってくれたから、
嬉しくて、弱い部分が出て来ちゃってる。
他でもない月白くんの前なんだから抑えないといけないのに。
僕の後ろを車が通った音が微かに聞こえた。
けど僕が必死に堪えようとする泣き声に掻き消されてしまう。
すると、月白くんは羽織っていたブレザーを脱いで、僕の頭に掛けた。
無言のまま僕の手を引っ張って歩き始める。
地面しか見えないけど足元の感触が変わった。土の匂いから、公園に着いたのだろう。
月白くんは公園のベンチまで僕の手と繋ぎ、引っ張ってくれた。
そのまま促されるように座って、月白くんも隣に腰掛ける。
どこまでイケメンなんだろう。
(月白くんなら、受け止めてくれるやろか…)
僕の制服を濡らし続ける涙を見送りながら悩み始める。
でも、そのお見送りは終わった。
月白くんが屈んで僕の涙を彼のハンカチで拭き取ってくれた。
持ち物検査でハンカチがなくて小学生の時に注意されたことがある、と彼が言っていたことを思い出す。
ハンカチを受け取り、彼が再び腰掛ける。
僕は顔を上げて、潤んだ瞳のまま彼と視線を交えた。
「僕な、恋愛対象が男の子やねん。」
彼は驚いた顔もせず、変わらず真剣な眼差しのまま僕の話を聞いてくれた。
僕は何でもないかのように学校に行って、
月白くんに「おはよう」を言って、
授業を受けて、
月白くんと遊佐くんとま昼ご飯を食べて、
また授業を受けて、
放課後を迎える。
僕はずっと平然を装えていたと思う。
それでもみんなと、否。
月白くんと放課後も一緒なことに胸躍っていた自分が確かにそこにいた。
僕らクラス全員は地元とは程遠い町中を大人数で歩いて行く。大人数といってもみんな別れていて、僕は月白くんと並んで歩いていた。
「え押しピンとちゃうん?」
「いやいや画鋲だろ。なんだよピンって。」
「えー。」
月白くんがネットで調べた関西と関東の言い方の違いについて話していた。
「予約した〇〇ですー。」
思ったより白熱して、話題はそれだけで目的地までついたのだ。
学級委員長らしき人が先陣勝ってくれるお陰で、僕らはただ列の後ろにいるだけで良かった。
人数が多いため男女で分かれることになり、女子男子共に悔しそうな表情を浮かべていた。
(月白くんお目当てやったんやろな…)
何てことを呑気に考えつつも僕は月白くんの隣に座り、
名ばかりの歓迎会が始まった。
***
多分、上手くやれている。
楽しそうに振られた話には笑顔で、時にふざけながら返す。
誰かが話している時には絶対に割り込まない。
分かりやすく、楽しそうに。
嫌な顔は絶対に見せない。
あくまで楽しそうに、振る舞う。
ほら、上手くできてる。
「東雲って何でこっちに転校して来たんだ?」
「─────えっ…」
「それ俺も気になってたー。」
「えっそれな、私もずっと聞きたかったー。」
「関西だって楽しそうじゃん。」
自分の眉が下がってしまったのに気が付き、
焦ってなんとか顔を作る。
落ち込みつつある自分の心を無理やり上げた。
考えるんだ。みんなが聞いて楽しくなる嘘を。
「いやぁ、僕が住んどった場所田舎すぎてさぁ、
ここらめっちゃ都会やし楽しそうやん。今らかて放課後にファミレス来れてるし。」
そんな嘘を並べて、
いつもと同じように薄目でみんなの様子を伺う。
「確かにな〜!」
「田舎だとファミレスもないのー?!」
「それはやだねぇ〜。」
なんて言い、
みんな笑って、新しい話に移る。
うん、できた。
僕はまた笑顔を貼り付ける。
「____さー____てんの!」
「____はは!」
「それ_______んじゃん___!」
皆んなが話してる内容が何なのかよく分からないまま僕は合わせていた。
ふと気になって隣の彼を見てみると、後ろの席の女子達に捕まっていた。
「月白くん中学一緒だよねー!」
「中学あんま覚えてねぇな。」
「えー!てか絶対モテてたでしょー?」
「分かんねぇ。」
月白くんは烏龍茶を飲みながら後ろの彼女達にそんなことを言っていた。
彼の様子を見て、僕とは違う彼の佇まいにまた惹かれてしまう。
(いやいや。せやかてダメやて。)
心だけ関西に戻ったのか自分で自分にツッコミを入れていた。
「ドリンクバー行ってくるー。」
「俺もー。」
そう言い僕の隣の通路側に座る男子生徒が立ち上がった。
その時、
通路を歩いて来ていた男性とぶつかりそうになったみたいで立ち上がったその子が勢いよく席に腰を落とした。
彼が手に持っていたコップの中にはまだメロンソーダが残っていて、その拍子にコップが宙を舞う。
(あ…やばい。ぶつかるやん。)
どーしよかな、なんて思いながら目を瞑る。
でも、それはいつまで経っても降ってこない。
「大丈夫か、東雲。」
目を開けると、至近距離に月白くんの顔があった。
月白くんの左手が緑色のドリンクが入ったコップを持っているのが視界に入る。
そんなことは今どうでもいい。
目の前には名画のモデルにだってなれる程、そして僕が一目見て惹かれるほどの美貌を持つ月白くんがいた。
きっと、僕の顔はドリンクを被ることに怯えたダサい顔でもしてるんだろうな。
普段照れ屋な月白くんが真剣な眼差しで僕を見つめている。
(だから…ダメやって……)
もっと見たい。
もっと見ていたい。
もっと目に焼き付けていたい。
だって僕は、月白くんのことが____
「あっえっ?!」
僕は自分の考えを途中で阻止し、現実へと引き戻す。
「月白くん?!って」
僕は月白くんの左手と彼の顔、そして周りを見渡して自分の状況を理解した。
「コップ取ってくれたんか?!ありがと!」
目をかっぴらいて感謝を告げる。
その間に月白くんはコップを机に置いて元に戻っていた。
「あっ、いや、…大丈夫なら別に…その、良かった。」
彼はまたいつものように照れ屋に戻った。
「まじ東雲すまん!月白もサンキューな!代わりにはい、ポテト!」
コップを浮かせた彼は手を合わせて詫びる。それを良い感じに流しておく。
僕の頭には今、月白くんしかいないのだ。
彼しか今は考えられないのだ。
***
それ以降は何もトラブルも起こさないまま、歓迎会は幕を下ろした。
初めと比べてそれぞれの仲も深まったし、僕は害のない人間だと認識されたと思う。
僕と月白くんはみんなとは反対方向だから、店の前で彼らに手を振る。
「また明日。」と言って。
女子生徒達の中には喜びの声を上げる者や別れを惜しむ様子の子たちがいた。
役目を終えた僕の右手はゆっくりと下がる。
隣にいた月白くんは手を振ることもなくその茶色い目だけで見送っていた。
僕らは橙色に染まった空の下で帰路につく。
みんなの前で頑張ったからか疲労がのしかかっていた。
せっかく月白くんと帰れるのに、なんてことをふと思い、ちらりと隣の彼へと視線を移す。
彼は無言だった。
前よりも仲良くなれたはず。そう思いたかっただけなのかもしれないけど。
もしかしてそうじゃないのか。
それとも同じく彼も疲れているのか。
分からない。
橙色の光を受けた彼の横顔に見惚れる。
彼の人格を知ってからは尚更。
(あぁ。ほんまに。)
「綺麗やわ。」
やっぱり僕は疲れているみたいだ。
ずっと口に出すことを我慢していたのに口に出てしまったのだから。
月白くんは僕に向く。
もし僕が夕陽を見て言っていたら夕陽が綺麗だと誤魔化せたのに。出来なくなってしまった。
「あーーー…わっえっ、まじか…ごめ」
「何で、さっき嘘吐いたんだ。」
言葉は出ないのに僕の口がゆっくりと開く。
「何で嘘やて」
「分かるよ。
ずっと、隣にいたから。
ちゃんと見てたから。」
彼の照れた顔が印象的すぎて忘れていた。
こんな真剣な表情をされると思い知らされる。
(そうやった…この人めっちゃかっこいいんやった…)
何か話題を変えようと考え、彼の綺麗な顔を見て思い出した。
「コップ!取ってくれてほんまおおきに。お陰でぶっかからんで済んだわ。」
なんて笑いながら言う。
でも、やっぱり今日の僕はダメみたいだ。
さっき月白くんが言ってくれた言葉が脳内を漂っていた。
「けど、あそこまでしやんでええよ。
勘違いしてまう。」
僕は下を向いてわざと月白くんの視線から逃げる。
目には涙が浮かんでいるのだろう。視界がぼやけて仕方がない。
「僕ばっか月白くんに振り回されとる。
僕ばっか月白くんにどきどきしとる。」
地面に段々と水玉模様が描かれる。
何でこんなことを言ってしまうのか。
答えは分かってる。
月白くんが『ちゃんと見てた』って言ってくれたから、
嬉しくて、弱い部分が出て来ちゃってる。
他でもない月白くんの前なんだから抑えないといけないのに。
僕の後ろを車が通った音が微かに聞こえた。
けど僕が必死に堪えようとする泣き声に掻き消されてしまう。
すると、月白くんは羽織っていたブレザーを脱いで、僕の頭に掛けた。
無言のまま僕の手を引っ張って歩き始める。
地面しか見えないけど足元の感触が変わった。土の匂いから、公園に着いたのだろう。
月白くんは公園のベンチまで僕の手と繋ぎ、引っ張ってくれた。
そのまま促されるように座って、月白くんも隣に腰掛ける。
どこまでイケメンなんだろう。
(月白くんなら、受け止めてくれるやろか…)
僕の制服を濡らし続ける涙を見送りながら悩み始める。
でも、そのお見送りは終わった。
月白くんが屈んで僕の涙を彼のハンカチで拭き取ってくれた。
持ち物検査でハンカチがなくて小学生の時に注意されたことがある、と彼が言っていたことを思い出す。
ハンカチを受け取り、彼が再び腰掛ける。
僕は顔を上げて、潤んだ瞳のまま彼と視線を交えた。
「僕な、恋愛対象が男の子やねん。」
彼は驚いた顔もせず、変わらず真剣な眼差しのまま僕の話を聞いてくれた。

