認めさせてよ、この恋を。


翌日。まだまだ慣れない学校へと登校した。
靴を脱ぎ上履きに変え、
階段を登り
廊下を歩いて
教室に着く。

そこに至るまで、男女問わず多くの生徒達の視線を浴びた。
転校生が来たと言う噂が一日のうちに広がったのだろう。
それも転校生がこの顔なら話が持ちきりになるはずだ。
目立つのが極めて苦手な僕からすれば居心地が悪くて仕方がない。

出来るだけ身を縮こませつつ教室のドアを開けた。
ガラララ
と音がなれば全員の視線がこちらに向けられた。
何人か見慣れない顔がある。他クラスから来た者だろうか。

「あれあれ!昨日話した王子様!」
「わほんとに顔いいじゃん。」
「目の保養だわぁ。」

小声で話されていても声が聞こえてくる。
聞こえていないとでも思っているのか。

真っ直ぐ歩いて行き、自分の席を見やると月白くんがスマホを触っている様子が目に入った。

(________昨日、ちょっとは仲良うなれた、よな…?)

僕は椅子を引いたと同時に彼に顔を向けた。

「おはよ、月白くん。昨日ありがとうな。」

「_______はよ。」

短い言葉でも、彼を少しだけだけど知れたからか、
嫌な気など一切起こらない。

(ほら、耳赤いやん。)


チャイムが鳴り、
君との距離が少しだけ近づいた一日が始まる。

***

月白くんを見ていて気づいたことがある。

1つ、月白くんも注目を浴びる側の人間なのだ。
休憩時間もそれこそ授業中にだって月白くんは色んな人の好奇の視線を浴びていた。言わずともがな僕も。

2つ、授業は真面目に聞いていない。
黒板を見ていても、何だかつまらないものでも見ているよう。それにあくびをして寝ている事も多々ある。

3つ、僕の方をよく見ては顔を赤くする。
よく目が合うのだ。僕はまぁ、気になって見ちゃう。けど目が合うってことは向こうも僕のことを見ていると言うこと。
チラッと見てみれば月白くんはこちらを見ていて、目が合えばすぐ逸らす。
短髪だからか、彼のその耳の赤いのは隠せていない。
僕と目が合って照れていることに、
少しだけ、気分が上がる。


***


そんなこんなでお昼の時間。
月白くんはまた教室を出ようと立ち上がった。
しかし、彼が教室から去ることはなかった。

「桃李〜いつもんとこ取られちったぁ〜。」

右のドアからの声。
みんながそちらを見ると同時に僕もそちらへと自然に顔を向ける。
月白くんもそちらを見ていた。

(桃李って、月白くんの…)

「うるせぇ。声でけぇよ。」

赤いような茶色のような、
そんな髪色で月白くんと同じぐらい整った顔立ち。
ドアからその生徒は月白くんの元へとやって来て、月白くんの椅子に手をつけた。
近くで見ると身長がかなり高く感じられた。
僕より高い月白くんよりも。

(月白くんの友達やろか、それにしても…)

仲がかなり良さそうだ。

「今日ここで食べようぜ!」

彼は月白くんの前の空席になった椅子に腰掛けた。
気にする素振りを何とか見せずに僕も昼食を始める。
隣の様子に押されてか、それとも興味が薄れたのか、嬉しいことに今日は誰も僕に声をかけることはなかった。

「だから言ったろ?あそこ行きたがるやつ多いから変えようぜって。」

「本当に来るとは思わねぇじゃん。
一年の棟戻りてぇ…。
_______ん?お前隣いてなかったくね?」

その生徒が僕をじっと見つめる。
何か言ったほうがいいのだろうか。
それとも知らぬ存ぜぬを通した方がいいのだろうか。
もしここで何か言えば盗み聞きだとか思われちゃうのではないだろうか。
僕の頭は悶々となる。

「______て」

「もしかして噂の転校生?!」

月白くんが言おうとしてくれた言葉を彼が遮った。
そこで僕はその生徒と目を合わせる。
どうすれば良いのか分からず頷いて返す。

「そっか〜君が〜…。確かに…。」

「え____?」

彼は椅子の背の部分に肘をついて頬を添えた。
背が高いが身を屈めて僕を見る。

「いやぁ、可愛いなぁって。」

「えっ、あっいやっ、えっと…」

僕の慌てる様子を見て彼は笑い出した。
やはりその言葉には反応しずらい僕は只々顔を赤くして俯くだけ。
こういうグイグイ来る人は対応の仕方に困って苦手だ。

「やっぱりかわ」

「おい困ってんだろ。黙って食え。」

やっと月白くんが割って入ってくれた。

(ありがとぅぅぅ…)

心の中で感謝を彼に叫ぶ。

「いやぁ、ごめんごめん。
あっそういや言ってなかったよな。
俺はこいつの親友の遊佐真琴 。よろしくな。」

「えっと。東雲凪、です。よろしく、遊佐くん。」

「ん。
いっつもこんな仏頂面だけど仲良くしてやってくれよ。
根っこはいいやつだから。」

「お前俺のこと言ってんな。ふざけんなっ。」

月白くんは遊佐くんにチョップをかまし、かまされた遊佐くんは「ははは!」と笑い出す。
そして思い出したかのような様子で、

「そういや桃李お前、女子の告白また振ったらしいじゃん。」

「_______なんで知ってんだよ。」

「昨日だろ?はっ。噂になってんぞー。」

「取り敢えず付き合ってみれば?後から好きになるかもしんねぇじゃん。」

「言ってろクズが。
そう言うのは、ほら、その、、、だめだろ!」

赤い顔でそんな綺麗事を言う君が、ひどく愛らしいと感じた。

「へいへい。どーっせ、お前はそういう奴だよな。
な!東雲くん!」

「えっとぉ……」

「…………ふんっ。」

月白くんは二度目のチョップを遊佐くんにかました。


***


その日から、僕らは3人でお昼休みを過ごすことになった。
2人といてる時は他の生徒に比べてともに過ごすことに苦痛を感じなかった。むしろ、楽しかった。
遊佐くんは話を広げてくれるからコミュ障の僕にとってはありがたかったし、無口な月白くんとも話すきっかけもいくらでも作れた。

仲良くなってから月白くんのことがよくわかった。いや、分かっていたけど確信がなかったから、断定できなかったのだ。そう、彼は、


ツンデレだ。




「ねぇの?貸してやるよ。」

筆箱や机上を探しても見つからない消しゴム。
忘れたのかと思い月白くんに貸して欲しいとお願いする前に彼から声がかかった。
空中まで伸ばされた腕。その手の下に僕の手を持っていけば彼は消しゴムを置いてくれた。

「えっ、ありがとう!でも何で分かったん?」

「いやまぁ、えっと、動きがでけぇんだよ。」

彼は頬を染めながらもそう言ってくれた。
前までは顔を逸らしていたのに、今は向き合ってくれている。

「そっか。ほんまおおきに。」

心を開いてくれる彼に、僕自身も心が開いていくのをよく感じられた。

消しゴムを動かす手を他所に、僕は視線を彼に向ける。

(月白くんってあれやな、仲良なったらキャラ変わるタイプや。)

初対面の印象とは大違い過ぎた。

例えば、


遊佐くんに驚かされたのを根に持ったのかシャーペンに入ってるシャー芯を抜いて反応を嘲るし、

・・・

「月白くん、何してるん?シャー芯抜いて。」

4限終了のチャイムが鳴り、月白くんは何か思いついたかのような顔をしてシャーペンの蓋を開け、中のものを出し始めていた。
僕の問いかけに彼は小さな悪戯っ子のような笑みで人差し指を口元に当てる。

「シーーー
まぁ見とけって。」

いつものように遊佐くんがやってきて月白くんの前の席の椅子を引いて座る。

「まじ原せんの授業つまねぇの。ってかあれ絶対ズラじゃねぇの。」

月白くんが悪意たっぷりの表情で一枚の紙とさっき抜いたシャーペンを渡した。

「なぁ真琴。東雲がお前の漢字知りてぇんだとさ。」

(あっえっぼく?!)

遊佐くんは僕の顔を見ても怪しむことなくそれらを手に取った。

「お?いーよいーよ。えっとね〜。」

カチカチカチカチ

普通なら2.3回で出て来る芯が出てこない。

「ん?」

まぁそんなこともたまにある。僕だって。
けれどもこれは意図的なもの。

カチカチカチカチカチカチカチカチ

「あれ、出ねぇ…」

カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ

いつまで経っても出てこないシャー芯。
遊佐くんに段々と苛立ちが募っていくのを感じる。
視界の端で体がプルプルと震えていて、おそるおそる見やると口を押さえて耐えている月白くん。
でも我慢も限界みたいで、

「ふっ、はははっ!
ざまぁみやがれバカ真琴!
俺にあんなことするからだっつーの!」

なんともしょうもない嫌がらせ。

・・・

それに、
ちょっと褒めたらすぐ照れる。それか調子に乗り出す。

・・・

「月白くんの爪、えらい綺麗な縦爪やなぁ。
形めっちゃ綺麗やん。」

「え?あ、
そ、そうか?
別に、何もケアとかしてねぇけど…」

英語の授業で、隣の子と文を読み合う機会がよくある。
今もそれ。
そして、教科書を握る彼の手にはハンドモデルさんもびっくりなほど美しい爪が並んでいた。
それを褒めると、彼は口をとんがらせてそっぽを向く。
だがそんなことはどうだって良い。本当に綺麗で見惚れてしまう。
僕はその爪を凝視する。

「綺麗やなぁ…」

周りのペアはもう読み終えたらしかった。
そして耐えかねた月白くんが持ち上げていた教科書を下げ、僕と顔を合わせた。

「……東雲…ペアワーク、終わりだって。」

僕は彼を見上げ、耳まで真っ赤な彼と目が合った。
今までで一番近い距離で。

「あっ、ええごっごめん!」

僕は直ぐに座り直し、黒板へと向く。

「_____で、ここに______」

先生から放たれている言葉は僕の鼓動で掻き消されていた。

***


とまぁ、
初対面とは違い、彼の本当の面を知ることができた。

(なんか、)



「かわいいな。」


「____________え?」


僕は咄嗟に口を押さえた。
その言葉を僕の口から放たれたのか知りたくて。
しかしそれは僕からではなかったようだ。

「その卵焼き。」

気付けばもうお昼時間。
目の前にあるのは僕のお弁当。
そしていつものメンツ。
声が聞こえた隣を見ると、月白くんが僕の卵焼きを指差して側に寄っていた。

「っあー!えっと、、
今日はじぃちゃんが朝から畑仕事やったから、自分で作ったんよ。」

遊佐くんと月白くんが僕の弁当箱を覗き、
ハート型に揃え、胡麻と海苔で顔を描いた卵焼きを見つめていた。

「なんか色俺のとちげぇな。俺のだし巻き〜。」

「俺の砂糖。」

「えっ?!砂糖?!」

僕は驚いて月白くんの弁当箱を覗いた。
その時、月白くんと頭がぶつかりそうになったが良い感じに避けてくれたようだった。

「砂糖入れるのもあるんやぁ。僕の醤油やで。」

「「醤油?!」」

遊佐くんが人差し指を出して、何だか可愛らしく振る舞い始めた。

「東雲く〜ん。ひ・と・つ・卵焼き欲しぃなぁ〜。交換しよ〜。かっこハート。」

一々言葉で『かっこハート』なんて言うんだから本人も自覚しているんだろうな、なんてことをぼんやりと思い、弁当箱を差し出した。

「ええよ。」

遊佐くんはウキウキで僕の卵焼きと遊佐くんのを交換した。

「ありがと〜ん。かっこハート。」

それはそうと、僕は月白くんのに興味津々だった。まぁ、確かに砂糖入りっていうのも気になるけど。
自分から切り出すのは少し恥ずかしくもある。だって普段こんなこと言わないのだから。

「_____月白くん。」
「_____東雲。」

「「あ─────。」」

顔を見合わせて固まる僕ら2人に痺れを切らしたのは遊佐くんだった。

「もー何なのお前ら!」

遊佐くんは月白くんの弁当箱を取り上げて箸を突っ込み、同じく僕のにも突っ込んだ。

「これでいいだろ?!
そろそろどっちかは素直になれっての!」

僕の弁当箱には新しく、程よい焼き目のついた卵焼きが現れた。

「あっ、ありがと!月白くん。遊佐くんも。」

月白くんも同じく弁当箱を見つめていた。

「うん。俺も、ありがと。」

彼の優しい笑みにやられたのは恐らく僕だけじゃなく、僕らの真逆の教室の端に集ってこちらの様子をチラチラと見ていた女子達もだろう。

月白くんの砂糖入りの卵焼きを頬張ると、見かけによらず柔らかかった。そして甘い。
見た目は焼き色のお陰で硬めに見えたのに、
中身は柔らかくて、優しい味だった。





***



放課後、僕は隣に掛けられた鞄を手に取る。隣の月白くんはまだ座っていて、教科書を整えていた。
けど、僕らは一緒に帰らない。
放課後、月白くんは直ぐに帰らずに何処かに行っている。それも1人で。
だから今日も挨拶をしてから教室を去ろうと思ったが、

「なーなー東雲ー!」

「_______っな、なに?」

僕の机にクラスのムードメーカーであろう坊主頭の生徒がやって来た。
最近はずっと月白くんと一緒だったから接し方が分からなくなってしまっていた。

「もーすぐ中間始まるからさ、明日の放課後、ファミレスで東雲の歓迎会しようぜ!」

「え?」

彼の後ろにはクラスの大多数の生徒達が集っていた。

おそらく、
僕の歓迎会なんて名ばかりで、新クラスとなって1ヶ月しか経っていないクラスの子達と話せる機会に胸躍っているのだろう。

(なら僕がしやなあかんことは…)

僕は“もうこのクラスに馴染めました”という思いを込めた笑顔で、

「うん!もちろん!」

(どう?心ん中でガッツポーズ決めてんとちゃうん?)

何てことを考え、皆んなの様子を伺ってから心の内で胸を撫で下ろす。

「まじ?!じゃあ」

「なぁ。」

その声と2歩程の足音が教室に響き渡る。
彼は僕の机にそっと手を置いて、

「俺も行っていい?」

数秒の沈黙。
皆が思っただろう。

『普段距離を作りたがる月白が自分から名乗り出た』

それを受け止めた後、教室がわっ!と騒がしくなる。

「え?!まじ?!」
「月白くん来てくれるの?!」
「うれしぃー!」
「もちろんウェルカムだってー!」

月白くんは了承を得ると、バッグを持ってそそくさと教室を去っていく。なのに教室はまだ騒がしい。
僕だけがまだその喜びを受け止められていなかった。