認めさせてよ、この恋を。

ただの兄弟愛。
兄ちゃんはそう思ってるはず。
ずっと隠せている。
ちょっと他の兄弟よりは重ための、
ただの兄弟愛だと。



ゲーム機を2台持って、

「ねぇにぃちゃん遊ぼ!」
「いーよ。」


幼稚園の帽子を手に、

「にぃちゃん見つけたでー!」
「ありがとー漣!」


ランドセルを背負って、

「にぃちゃん行こー!」
「ちょっと待って〜!」


学校の宿題をもって、

「にぃちゃんこれ教えて欲しいー。」
「いーよ。」


小さい頃からずっと。
にぃちゃんだけを追っていた。
にぃちゃんはゲームが好きだから誘えば絶対乗ってくれた。
にぃちゃんが無くした幼稚園の帽子。
無くしたなんて思っているだろうけど実際は僕が隠したもの。
僕が隠したものを僕が見つけて、気付かないにぃちゃんは喜んでくれた。
ランドセルはにぃちゃんが黒色だから僕もお揃いで黒色を真っ先に選んだ。
学校の宿題なんて、全て理解してる。
でも分からない振りをしてにぃちゃんによく聞きに行っていた。
僕が理解できたかのような様子を見せたらにぃちゃんも喜んでいた。
騙されている所も可愛いな。

ずっと
ずっと
ずっと
にぃちゃんだけが一番だった。
でも、、、


「行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい。」

僕が小学3年生ぐらいの時だったかな。
にぃちゃんがよく家を出て遊びに行くことが増えた。
いつもは学校の後は僕と二人だったのに。
にぃちゃんは外で誰かと遊んでいる。

僕もクラスの子達からよく誘われるけど良い感じの理由をつけて避けていた。
あいつらよりもにぃちゃんと一緒にいたかったから。

その日、

「ただいまー!」

にぃちゃんが元気良く帰ってきて、

「ねー母さん!明日友達家に連れてきてもいい?
うちでゲームしたいねんけど。」

「いーよ。部屋の片付け手伝ってな。」

「はぁーい!」

笑顔で話すにぃちゃん。
僕はにぃちゃんを出迎えようとソファから立ったまま動けなかった。

僕とにぃちゃんの居場所が、
脅かされる。


***


「あ、漣。
この子僕の友達の中島くん。」

「______こんにちは。」

「こんにちは!弟の漣くんやろ?よろしくな!」

家のリビング。
僕とにぃちゃんがいつも座るソファには、
にぃちゃんと中島が座っていた。
僕はその横に置いているソファの付属品の椅子に座っていた。

(なんやねんこいつ。)


そんな日が、長らく続いた。
にぃちゃんの前だがら印象良く振る舞ったおかげか、直ぐに中島は僕と打ち解けれたと思っていた。

(バカなやつ。)


だけど、
僕が4年生に、にぃちゃんが6年生のある日から、
にぃちゃんの何かが変わった。
不自然になった、と言う方が正しいかも。




「____宿題してくる。」

テレビを一瞥してからリビングを去るにぃちゃん。
テレビに映っているのは恋愛ドラマ。



「やんな〜それでさー……」

買い物帰り。
僕とにぃちゃんは並んで歩き、楽しく話していた。
だけど急に黙り込む。
目の前には手を繋いだ男女のカップル。



にぃちゃんの何かが変わった。

「にぃちゃん。なんか悩み事?」
「ううん。お腹すいたなーって。」

「にぃちゃん。なんか考えてる?」
「そんなことないよ。宿題めんどくさいわ〜。」

僕がいくら探りを入れてもにぃちゃんは全て交わしていく。
ここでにぃちゃんのその悩みを解決して、にぃちゃんの中での僕のランキングを上げたかったのに、それは叶わなかった。
そんな中、転機が訪れる。

僕が小学6年生、にぃちゃんが中学2年生のある日、
二人でじぃちゃんの家に泊まりにいくことになった。

じぃちゃんが一緒とはいえ、にぃちゃんと二人で楽しい時間を過ごし、
いつもは別々の部屋だけどこの日だけは、
二人で一緒に寝ていた。

寝たふりをして、薄い目でにぃちゃんの横側を眺めていた。

(にぃちゃんの顔見てたら全然寝れやんな。
てかにぃちゃんも寝やんのやろか。)

なんて思っていた夜。
だが、にぃちゃんが布団から起きた。
そして襖を開けて、唯一の明かりがあるリビングへと歩いて行った。
にぃちゃんが通路で立ち止まる足音を確認して、僕はゆっくりと起きて耳を澄ませる。

「じぃちゃん。あのさ、僕______」



その日、
僕は初めてにぃちゃんの秘密を知った。

(そっか。)

(そっか。)

「にぃちゃん…」

僕は口元を両手で隠す。
まぁ、誰も見ていない。

(男の子が好きなんやぁ。)

僕のこの満面の笑みを。

男の子が好きってことは、一応僕だって入る。
男の子だから。
血の繋がりは感情でなんとか出来るだろう。
そう、
僕にも、
やっと、
やっと、
可能性が見えた…!


それから、僕は必死ににぃちゃんにアピールした。

風呂から上がったら上裸でにぃちゃんの前をわざと歩いた。
甘えるふりをしてボディタッチを増やした。
隣にいる時間を長くした。

だけど、
全く効果は現れない。
只々僕の苛立ちが募るだけ。
僕はこんなにもにぃちゃんのことが好きなのに。

そんな日々が続き、にぃちゃんが高校生になった。
知ってる。
高校生って恋愛真っ只中のステージだって。
もしかしたらゲイのにぃちゃんにも…






「やっほー!漣くん!お邪魔してまーす!」

学校からの帰宅後。
リビングに入ると、そこには中島がいた。
その隣にはゲームのコントローラーを持ったにぃちゃんが。

(_______こいつ、使ったら……
あいやでも、あかんやろ。流石に。だってにぃちゃんが…けど、
もしにぃちゃんが、僕を頼ってくれるなら……。)

悪い想像を、してしまったんだ。


「ごめんトイレ行ってくるわ〜。」
「おー。」

そう言ってにぃちゃんはリビングから立ち去った。
それを確認した僕は中島の元へ行く。

「中島くん。あのさ、にぃちゃんからあのこと聞いた?」

「あのことって?」

「にぃちゃんが_________男の子好きってこと。」


その後の中島は素晴らしいほど良いように動いてくれて、僕の作戦は成功した。
にぃちゃんの脳内のその悩みを膨れ上がらすことができた。
そう、本当に、
成功してしまった。


にぃちゃんが高校に行って、僕が中学2年生になった。
玄関の扉が開いて、その薄暗い廊下へと出た。

「にぃちゃん!おかえ…」

「_____うん。」

家に帰ってきたにぃちゃんはすぐ2階に行って自分の部屋に行った。
それを玄関に残された僕は見送る。
よく仕事で家を出る両親。
そのおかげでにぃちゃんと僕は家で2人のことが多かった。
それなのに、僕らの関わりはだんだんと減っていく。
にぃちゃんが、避け始めた。

聞くまでもなかった。
中島が良いように動いてくれたのだ。
でも、

「にぃちゃんが、僕頼ってくれやんのなら、
意味、ないやん…。」

にぃちゃんのために
中島ににぃちゃんの秘密を言ったのに。

にぃちゃんのために、
悪いと分かっていてそれをしたのに。

にぃちゃんにはもう、
僕しかいないでしょ、?

僕に相談して。
僕を頼って。
僕だけを信頼して。

神様、お願い。

僕を
にぃちゃんの、
凪の、
東雲凪の、
唯一にして。


***


良いのか悪いのか。
きっと悪い。
だけど、僕にとってはほんの少しだけ良いことに、

『落ち着いて聞いてください。
お母さんとお父さんが、

___________亡くなられました。』


あの日、
にぃちゃんが両親にそのことを相談しようとしたその日の夜。
家に来たのは両親ではなく警察だった。

目の前で泣き崩れるにぃちゃん。
僕だって、にぃちゃんと一緒で悲しくて、泣いちゃった。
だけど、数日経てば僕の心は希望に満ち溢れていたんだ。

(やっと、やっとにぃちゃんの唯一になった!
にぃちゃんの家族はもう僕しかおらんのや…!)


僕らはまだ子供だから、養ってもらうために親戚に引き取ってもらうことになった。

少し、魔が差したのかも。
試したかったんだ。
にぃちゃんがどれくらい僕が大事なのか。

「にぃちゃん。」

二人しかいないリビング。
にぃちゃんはソファでうつ伏せになっていた。
僕はにぃちゃんの隣に座る。

「なに。」

「引き取ってもらう場所のことなんやけどさ、」

(お願い。)

「仲良い子いてるから学校変えたくないんよな。」

(言って。)

「だからおばちゃん家行こかなって。」

(漣と一緒に行くって…!)

「にぃちゃんはどうする?」

数秒の沈黙の後。
篭った声がリビングに響いた。

「じぃちゃん家、行く。」

「__そっか。
_____________そっか。」

僕は口を開こうとするが、やめた。
下唇を強く噛む。

『僕もやっぱりじぃちゃん家行く。』
なんて言おうとした。
あまりにもリスクが大きい。
だからその言葉を無かったことにした。

ならどうしたらいい?
僕がにぃちゃんにとっての、
大切な存在に、唯一になるには。

「にぃちゃん。」

僕はにぃちゃんを抱きしめた。
にぃちゃんの体は冷たくて、脱力し切っている。
それが肌で感じられて、

「寂しいな。離れ離れや。」

「__________うん。」

僕は汗を浮かばせつつ、思わず笑ってしまった。


***


時は経て僕がじぃちゃん家に引っ越してきたその日。
にぃちゃんの下校をコンビニで待っていた。
にぃちゃんに、
会える。

(あの時、言わんでほんま良かったな。
だって、)

視界に入ったのは僕の愛しいにぃちゃん。

「兄さん!」

「漣!」

気付いたにぃちゃんは僕に向かって手を上げる。
にぃちゃんの元に僕は駆け足で走って行く。

「久しぶり!」

「久しぶりぃ!会いたかったで兄さん!」

僕はにぃちゃんをぎゅっっと抱きしめる。

(だって、)

にぃちゃんの体に僕は頭を擦り付ける。
優しい笑みじゃない、こっちの笑顔を見られたくない。

(だって、
会えない時間が、僕らの愛を育んでくれるはずやろ?)

僕はチラッと僕ら二人の邪魔者を睨んだ。
不可抗力にもモテてしまうにぃちゃんの周りには、女達がよく蔓延っていた。
この男は、あの女達と何かが似ていたんだ。

そして、再会したにぃちゃんの雰囲気は元に戻っていた。
僕との再会を喜んだからだと、思いたかった。
けど、にぃちゃんの学校での話を聞いていて分かった。
その月白が、変えたのだ。

僕じゃない。
僕じゃなかった。
にぃちゃんの救世主になったのは、
月白だった。
まだ日の浅いにぃちゃんの友達の、
月白桃李だった。
僕じゃ、ないんだ。

(何でそんなに笑えるようになってんの。
何で月白と話す時緊張してんの。
何で僕と話す時顔暗くなってたん。)


***


ある日の学校からの帰り道。
僕はまた、にいちゃん達と下校中に出会った。

「兄さん!」

「あ漣!おつかれ〜。」

「兄さんもお疲れ。あと、、」

僕は月白と遊佐をチラッと見て、

「お二人さんも。」

「わっ、俺らひとまとめで言われたぞ桃李ぃ。」

「はいはい。」

にぃちゃんが歩き出し、僕はその隣に行こうとする。
だが、背後から遊佐が僕の袖を引っ張ってきた。

「兄貴の恋は応援しろよ。ブラコン弟。」

遊佐は僕の耳元で二人には聞こえない小声で話した。
それを聞いた僕は遊佐をキリッと睨み付ける。

「うっさいわ。兄さんとの時間邪魔すんな。」

「えーん。」

そう。
にぃちゃんが、
月白と付き合ってしまった。

良い感じに突いて破滅に追い込んでやりたかったのに、
それは叶わなかった。
僕のにぃちゃんは、
この男の彼氏になったんだ。
でも、絶対にぃちゃんを取り戻す。
僕のことだけ考えてくれるように。

こんなやつより
僕の方が、
にぃちゃんを知ってる。
にぃちゃんといた年月が長い。
にぃちゃんのことが好き。

僕は誰よりも、

『世界で一番、にぃちゃんを愛してる。』