俺の涙も止まった後、
「で、何で泣いてたん?」
「_________直球じゃねぇか。」
少年が急に俺の方を向いて、胸が一際高鳴った。
「分かんねぇ。
多分、解放された気にでもなったんじゃねぇの。」
海の遥か遠く、地平線を眺めてそう話す。
何で、今まで黙っていたことを、
自分の内に秘めていたことをこいつに話してしまうのだろう。
「解放って、何から?」
つぶらな瞳で見つめられると、本心全て曝け出してしまいたくなる。
「悩みとか…?」
「何、なんか悩んでんの?」
流石に質問づくしをくらい、これはいけないと、
「見ず知らずのやつにそんなベラベラ話さねぇよ。」
ブレーキをかけることができた。
少年は驚いた表情をした。
眉を下げて、悲しそうな。
(流石に、言い過ぎたか…。)
顔を背けようと動かした時、
「僕は凪。」
唐突な彼からの自己紹介。
凪という少年は目を逸らすことなく俺を見つめる。
「君は?」
また、口が勝手に動いてしまう。
「____桃李。」
「桃李くんやね。はいっ!」
凪は手をパンッと大きな音を立てて叩いた。
ニッと笑って俺に笑いかける。
「これで見ず知らずやないやろ?」
俺はその時、後悔した。
なぜ今まで凪と出会えなかったのだろう。
彼ともっともっともっと早く、出会いたかった。
「ぷっ、なんだよそれ。
あーもういいや。聞いてくれるか?」
「うん、もちろん。」
この景色を脳内刻みながら、もう素直に言ってやった。
「俺バスケ部に入ってんだ。ちょー上手い。
朝練早く行って休憩時間も必死に練習してるから。
けど、みんなもコーチも天才だとか元々素質があるとか言ってる。
楽しそうだったから始めたのに、今はみんなのイメージ壊さないように頑張ってる感じ。」
俺は凪に顔を向ける。
下手な笑顔で繕って、
「これが悩み。胸糞悪ぃよな。」
凪を見ると、俺よりもしんどそうな顔をしていた。
俺もまた、それに驚く。
「せやな。胸糞悪い。僕も似たようなもんやから。
勝手に期待されて、勝手にライバル意識持たれて。この頑張りやめたらみんなに失望されるんやろうなって。」
凪は俺よりももっと遠い、遠くの彼方を見据えていた。
風は俺たちの髪を靡かせるが、俺にとっては風なんかよりも凪から流れるこの波に呑まれてしまいそうだった。
「楽しい?」
「全然。」
「そっか。」
凪は前屈みになっていた体を起こし、その透き通った瞳を俺に向けた。
「そりゃ嫌になるわなぁ。」
そんな顔で、俺の、俺の
気持ちを分かってくれたのが嬉しかった。
他の誰でもない。
この初めて会った少年に。
「僕は桃李くんに楽しんでいて欲しいよ。
どうするんか決めるんは桃李くんやけどね。」
不思議な空気を纏う少年。
俺は既に、彼へと魅き込まれていたのだろう。
「凪は、
この辺りに住んでんのか。」
凪は口元に人差し指を置いて斜め上に視線をやる。
「んーこの町ではないけど近いよ。
桃李くんは?」
「俺は関東。」
「えっ?!関東?!やから標準語なんか!
えでもじゃぁ何でここおるん?」
「あーそれは…」
「あーね…え、、じゃぁ今ここおるんやばくない?」
俺は口を開く。
遠くの白岩をチラッと見てから再び凪を見る。
体が無性に揺れだした。
「やばいやばいやばいやばいめっちゃ震えてるやん!」
「やべぇ………。」
か細い声で言葉を呟く。
そして丁度、下の方で声がした。
「桃李ー!」
「どこ〜?!」
コーチと真琴の声だった。
俺は振り返ってその声を確かに聞いた。
「流石にバレちまったか。」
俺の背が軽く押された。
押された衝撃で一歩足が出てから振り返る。
「じゃぁね。桃李くん。」
凪は俺を押したその右手を握りしめた。
「心配してくれてる、から。」
「________凪は?」
凪は俺に体を向けたまま、青い海に目をやった。
風が止んできて、波が少し落ち着いてきていた。
「僕はまだここにおるよ。
僕は“凪”が好きやから、それを見るまではまだ帰らん。」
どういうこと?
“凪”って?
家族は?
お前だって心配されてるんじゃねぇの?
聞きたいことはまだあった。
でも、
「桃李ー!」
「ここじゃねぇの〜?」
「向こうにいてんのかー?」
声が若干遠くなった。
早く、行かなくてはいけない、けど……
「桃李くん。」
凪は背の高い俺を見上げて、
「じゃぁね。話せてよかった。」
強引に肩を押されて、嫌々ながら足が動く。
「行って。ね?」
俺も凪も、その時の表情を言葉で表すなら同じだったと思う。
『寂しい』
俺は一瞬躊躇ったが、首を振る。
そして凪が引っ張って進んで来た通路へと走り出す。
肩から彼の手が離れた感覚がした。
「じゃぁな!ありがと、凪。」
俺はそう言って振り返った。
凪は微笑んで手を振っていた。
軽く頷いたのを見て、俺は階段を駆け降りた。
((もっと、話したかった。))
階段を降りる足音が響き渡る。
それに気付いた真琴が階段を見て、
「桃李ぃ〜!!」
真琴がこちらへと走って来た。
手を広げて抱きしめられるのを待っているようだったが、俺は真琴を通り過ぎてこちらを見るコーチの元へと行く。
「コーチ、俺、」
コーチの後ろにはバスケ部のメンバー達もいる。
それでも、俺は俯いていた顔を上げた
「俺、バスケ部やめる。」
一斉に周囲全員が驚いた顔をする。
でも、俺だけは笑っていた。
いや、本当は俺だけじゃなかった。
気付かなかったんだ。
階段の頂上。あの通路の初期地点。
そこで凪が俺の姿を見据えていたことに。
風は止み、海の遠くの彼方では、
“凪”になっていた。
***
そして、凪が再び俺の前に現れたその日の放課後。
外は雨。
教室から置き傘で置いていた自分の傘をとって教室を出る。
まだ教室に残っていた東雲をチラッと見ると、外の景色を眺めていた。
(傘、あんのかな。)
俺は重たい足取りで階段を降りて、靴を履き替えた。
まだ人の少ない正面玄関を抜けて傘を差し、すぐ右に曲がり、
校舎の側面へと歩いて行く。
俯けていた顔を上げてその先にいる3人の女子達が視界に入る。
彼女達まで歩いて行き、足を止めた。
「わーかっこい!」
「来てくれたじゃん!」
「早く早く!」
「頑張れ!」
「う、うん、」
小声で話しているようでも、普通に耳に入ってくる。
こんなことはざらにあるから、何となく何事かを知っているが、、
「なに?俺のこと呼び出して。」
「きゃー!」
「かっこいい!」
一人の女生徒を真ん中に、サブの二人が後ろで声を上げる。
真ん中の生徒。
(確か、2年で一番可愛い子……とか言ってたっけな。)
どうしても、彼と比べてしまう。
彼だったら良かったのに。
なんて考えていたら、
「つ、月白くん!
1年生の頃からずっと好きでした!
付き合ってください!」
雨音が良く聞こえる。
泥が跳ねて靴に付くのが嫌だな、なんて思う。
本当に、どうでも良かった。
彼じゃないなら、他の人はどうだっていい。
「悪ぃけど、今そういうの興味ねぇから。
あと俺、あんたのこと知らねぇし。
じゃ。」
俺はそう言って立ち去った。
背後から何か声が聞こえる。
それでも、振り返らなかった。
玄関まで歩いて来てから、帰ろうとする足を止めた。
淡い期待を抱き、靴箱まで行く。
まだ、
(あった…。)
彼の方があったことにどこか安堵した。
彼と会えることを願って、外で傘を差して彼がくるのを待つ。
そして、彼の姿が目に入る。
手には皆が持っている傘はなかった。
声をかけたい。
でも、
足が、口が、動かなかった。
ただただ迷う彼の様子を見るだけだった。
だが、
彼が外へ走り出すような仕草をとった時、
その時になってようやく、
「傘ねーの?」
声が出た。
その下校で、
あの頃と同じ近い距離で、君の隣にいられた。
***
「ってこと。
な?
言った通り、俺の方が先に一目惚れしてたろ?」
俺はその少年の今の姿と視線を馳せた。
公園のベンチ。
俺の座る隣で、同じ制服を着た、背もたれに背を預けて天を見上げている彼に。
「思い出したわ。あの、、
─────────泣いてた子や。」
・・・・・・
「うわぁああ!」
思い出して顔が明るくなった凪とは対照的に、俺は耳を真っ赤にして自分の顔を両手で覆った。
「それを言われると思ってお前に言いたくなかったんだこんちくしょー…!」
「まぁまぁ。」
俺の肩をポンポンと叩く凪の手が止まる。
「会えてよかった。
僕も会いたいて思ってたから。」
俺は指の力を緩めて、その隙間から凪の顔を覗く。
あの日出会って、ずっと思っては、
会えぬことに寂しさを抱いていた。
凪が。
今は自分の隣にいる。
恋人として。
「やっぱり、きれいだな。」
全てが。
美しく、
綺麗だ。
学校で初めて凪を見た時、
あの頃から凪は変わったのだと思っていた。
あの頃の凪は、
遠慮なんてなく直球な質問をするやつで、
澄んだ瞳で俺を見つめていて、
俺の背中を押してくれた。
けど、
教卓の前で自己紹介をする凪は、
どこか諦めたような表情で、
淀んだ瞳で、
元気さがあの頃に比べてなかった。
それでも、
話せばあの頃が垣間見えるタイミングも多々あった。
そして今。
恋人になった彼を見て、
俺の心は確かに認めた。
もしかしたらあの頃から本当に変わったのかもしれない。
両親の死。自己嫌悪。
でも、彼の心の美しさは確かに廃れていなかった。
俺は、
あの頃から、
君のことが、
凪のことが、
忘れられなくて、
ずっと、
ずっと、
「好き。」
顔を覆う手のせいで声が篭った。
漏れ出た言葉に二人とも驚いた。
俺は顔を上げて凪の顔を覗く。
俺と同じ、
「僕も、」
真っ赤な顔。
「僕も好きやよ。桃李くん。」
俺の溢れ出た告白に、凪はちゃんと返してくれた。
「2回目は月白くんからやったね、告白。」
照れつつも笑ってそんなことを言う。
だが、否定させて欲しい。
「1回目も俺だろ。」
「いーや僕やよ。うちの倉庫で!」
「いやいやいや凪を家に送った時言ったじゃねぇか!
『お前より先に、俺はお前に一目惚れしてた。』
───────────────って!」
「で、何で泣いてたん?」
「_________直球じゃねぇか。」
少年が急に俺の方を向いて、胸が一際高鳴った。
「分かんねぇ。
多分、解放された気にでもなったんじゃねぇの。」
海の遥か遠く、地平線を眺めてそう話す。
何で、今まで黙っていたことを、
自分の内に秘めていたことをこいつに話してしまうのだろう。
「解放って、何から?」
つぶらな瞳で見つめられると、本心全て曝け出してしまいたくなる。
「悩みとか…?」
「何、なんか悩んでんの?」
流石に質問づくしをくらい、これはいけないと、
「見ず知らずのやつにそんなベラベラ話さねぇよ。」
ブレーキをかけることができた。
少年は驚いた表情をした。
眉を下げて、悲しそうな。
(流石に、言い過ぎたか…。)
顔を背けようと動かした時、
「僕は凪。」
唐突な彼からの自己紹介。
凪という少年は目を逸らすことなく俺を見つめる。
「君は?」
また、口が勝手に動いてしまう。
「____桃李。」
「桃李くんやね。はいっ!」
凪は手をパンッと大きな音を立てて叩いた。
ニッと笑って俺に笑いかける。
「これで見ず知らずやないやろ?」
俺はその時、後悔した。
なぜ今まで凪と出会えなかったのだろう。
彼ともっともっともっと早く、出会いたかった。
「ぷっ、なんだよそれ。
あーもういいや。聞いてくれるか?」
「うん、もちろん。」
この景色を脳内刻みながら、もう素直に言ってやった。
「俺バスケ部に入ってんだ。ちょー上手い。
朝練早く行って休憩時間も必死に練習してるから。
けど、みんなもコーチも天才だとか元々素質があるとか言ってる。
楽しそうだったから始めたのに、今はみんなのイメージ壊さないように頑張ってる感じ。」
俺は凪に顔を向ける。
下手な笑顔で繕って、
「これが悩み。胸糞悪ぃよな。」
凪を見ると、俺よりもしんどそうな顔をしていた。
俺もまた、それに驚く。
「せやな。胸糞悪い。僕も似たようなもんやから。
勝手に期待されて、勝手にライバル意識持たれて。この頑張りやめたらみんなに失望されるんやろうなって。」
凪は俺よりももっと遠い、遠くの彼方を見据えていた。
風は俺たちの髪を靡かせるが、俺にとっては風なんかよりも凪から流れるこの波に呑まれてしまいそうだった。
「楽しい?」
「全然。」
「そっか。」
凪は前屈みになっていた体を起こし、その透き通った瞳を俺に向けた。
「そりゃ嫌になるわなぁ。」
そんな顔で、俺の、俺の
気持ちを分かってくれたのが嬉しかった。
他の誰でもない。
この初めて会った少年に。
「僕は桃李くんに楽しんでいて欲しいよ。
どうするんか決めるんは桃李くんやけどね。」
不思議な空気を纏う少年。
俺は既に、彼へと魅き込まれていたのだろう。
「凪は、
この辺りに住んでんのか。」
凪は口元に人差し指を置いて斜め上に視線をやる。
「んーこの町ではないけど近いよ。
桃李くんは?」
「俺は関東。」
「えっ?!関東?!やから標準語なんか!
えでもじゃぁ何でここおるん?」
「あーそれは…」
「あーね…え、、じゃぁ今ここおるんやばくない?」
俺は口を開く。
遠くの白岩をチラッと見てから再び凪を見る。
体が無性に揺れだした。
「やばいやばいやばいやばいめっちゃ震えてるやん!」
「やべぇ………。」
か細い声で言葉を呟く。
そして丁度、下の方で声がした。
「桃李ー!」
「どこ〜?!」
コーチと真琴の声だった。
俺は振り返ってその声を確かに聞いた。
「流石にバレちまったか。」
俺の背が軽く押された。
押された衝撃で一歩足が出てから振り返る。
「じゃぁね。桃李くん。」
凪は俺を押したその右手を握りしめた。
「心配してくれてる、から。」
「________凪は?」
凪は俺に体を向けたまま、青い海に目をやった。
風が止んできて、波が少し落ち着いてきていた。
「僕はまだここにおるよ。
僕は“凪”が好きやから、それを見るまではまだ帰らん。」
どういうこと?
“凪”って?
家族は?
お前だって心配されてるんじゃねぇの?
聞きたいことはまだあった。
でも、
「桃李ー!」
「ここじゃねぇの〜?」
「向こうにいてんのかー?」
声が若干遠くなった。
早く、行かなくてはいけない、けど……
「桃李くん。」
凪は背の高い俺を見上げて、
「じゃぁね。話せてよかった。」
強引に肩を押されて、嫌々ながら足が動く。
「行って。ね?」
俺も凪も、その時の表情を言葉で表すなら同じだったと思う。
『寂しい』
俺は一瞬躊躇ったが、首を振る。
そして凪が引っ張って進んで来た通路へと走り出す。
肩から彼の手が離れた感覚がした。
「じゃぁな!ありがと、凪。」
俺はそう言って振り返った。
凪は微笑んで手を振っていた。
軽く頷いたのを見て、俺は階段を駆け降りた。
((もっと、話したかった。))
階段を降りる足音が響き渡る。
それに気付いた真琴が階段を見て、
「桃李ぃ〜!!」
真琴がこちらへと走って来た。
手を広げて抱きしめられるのを待っているようだったが、俺は真琴を通り過ぎてこちらを見るコーチの元へと行く。
「コーチ、俺、」
コーチの後ろにはバスケ部のメンバー達もいる。
それでも、俺は俯いていた顔を上げた
「俺、バスケ部やめる。」
一斉に周囲全員が驚いた顔をする。
でも、俺だけは笑っていた。
いや、本当は俺だけじゃなかった。
気付かなかったんだ。
階段の頂上。あの通路の初期地点。
そこで凪が俺の姿を見据えていたことに。
風は止み、海の遠くの彼方では、
“凪”になっていた。
***
そして、凪が再び俺の前に現れたその日の放課後。
外は雨。
教室から置き傘で置いていた自分の傘をとって教室を出る。
まだ教室に残っていた東雲をチラッと見ると、外の景色を眺めていた。
(傘、あんのかな。)
俺は重たい足取りで階段を降りて、靴を履き替えた。
まだ人の少ない正面玄関を抜けて傘を差し、すぐ右に曲がり、
校舎の側面へと歩いて行く。
俯けていた顔を上げてその先にいる3人の女子達が視界に入る。
彼女達まで歩いて行き、足を止めた。
「わーかっこい!」
「来てくれたじゃん!」
「早く早く!」
「頑張れ!」
「う、うん、」
小声で話しているようでも、普通に耳に入ってくる。
こんなことはざらにあるから、何となく何事かを知っているが、、
「なに?俺のこと呼び出して。」
「きゃー!」
「かっこいい!」
一人の女生徒を真ん中に、サブの二人が後ろで声を上げる。
真ん中の生徒。
(確か、2年で一番可愛い子……とか言ってたっけな。)
どうしても、彼と比べてしまう。
彼だったら良かったのに。
なんて考えていたら、
「つ、月白くん!
1年生の頃からずっと好きでした!
付き合ってください!」
雨音が良く聞こえる。
泥が跳ねて靴に付くのが嫌だな、なんて思う。
本当に、どうでも良かった。
彼じゃないなら、他の人はどうだっていい。
「悪ぃけど、今そういうの興味ねぇから。
あと俺、あんたのこと知らねぇし。
じゃ。」
俺はそう言って立ち去った。
背後から何か声が聞こえる。
それでも、振り返らなかった。
玄関まで歩いて来てから、帰ろうとする足を止めた。
淡い期待を抱き、靴箱まで行く。
まだ、
(あった…。)
彼の方があったことにどこか安堵した。
彼と会えることを願って、外で傘を差して彼がくるのを待つ。
そして、彼の姿が目に入る。
手には皆が持っている傘はなかった。
声をかけたい。
でも、
足が、口が、動かなかった。
ただただ迷う彼の様子を見るだけだった。
だが、
彼が外へ走り出すような仕草をとった時、
その時になってようやく、
「傘ねーの?」
声が出た。
その下校で、
あの頃と同じ近い距離で、君の隣にいられた。
***
「ってこと。
な?
言った通り、俺の方が先に一目惚れしてたろ?」
俺はその少年の今の姿と視線を馳せた。
公園のベンチ。
俺の座る隣で、同じ制服を着た、背もたれに背を預けて天を見上げている彼に。
「思い出したわ。あの、、
─────────泣いてた子や。」
・・・・・・
「うわぁああ!」
思い出して顔が明るくなった凪とは対照的に、俺は耳を真っ赤にして自分の顔を両手で覆った。
「それを言われると思ってお前に言いたくなかったんだこんちくしょー…!」
「まぁまぁ。」
俺の肩をポンポンと叩く凪の手が止まる。
「会えてよかった。
僕も会いたいて思ってたから。」
俺は指の力を緩めて、その隙間から凪の顔を覗く。
あの日出会って、ずっと思っては、
会えぬことに寂しさを抱いていた。
凪が。
今は自分の隣にいる。
恋人として。
「やっぱり、きれいだな。」
全てが。
美しく、
綺麗だ。
学校で初めて凪を見た時、
あの頃から凪は変わったのだと思っていた。
あの頃の凪は、
遠慮なんてなく直球な質問をするやつで、
澄んだ瞳で俺を見つめていて、
俺の背中を押してくれた。
けど、
教卓の前で自己紹介をする凪は、
どこか諦めたような表情で、
淀んだ瞳で、
元気さがあの頃に比べてなかった。
それでも、
話せばあの頃が垣間見えるタイミングも多々あった。
そして今。
恋人になった彼を見て、
俺の心は確かに認めた。
もしかしたらあの頃から本当に変わったのかもしれない。
両親の死。自己嫌悪。
でも、彼の心の美しさは確かに廃れていなかった。
俺は、
あの頃から、
君のことが、
凪のことが、
忘れられなくて、
ずっと、
ずっと、
「好き。」
顔を覆う手のせいで声が篭った。
漏れ出た言葉に二人とも驚いた。
俺は顔を上げて凪の顔を覗く。
俺と同じ、
「僕も、」
真っ赤な顔。
「僕も好きやよ。桃李くん。」
俺の溢れ出た告白に、凪はちゃんと返してくれた。
「2回目は月白くんからやったね、告白。」
照れつつも笑ってそんなことを言う。
だが、否定させて欲しい。
「1回目も俺だろ。」
「いーや僕やよ。うちの倉庫で!」
「いやいやいや凪を家に送った時言ったじゃねぇか!
『お前より先に、俺はお前に一目惚れしてた。』
───────────────って!」

