時岡に言われた“特別”の真意が分からないまま、文化祭から数日経った。
「太田、別れたらしいぞ」
昼休みの屋上で弁当を食っていると、淀金が俺たち3人にクラスの男子の恋愛事情を教えてきた。
「へぇ。長かったっけ?」
「いや、夏休み前に付き合い始めたはずだから…3、4ヶ月?」
「みじけー」
「鷲尾んとこの安定した付き合いを見習ってほしいもんだよな」
「だな。長続きの秘訣なに?」
片瀬に聞かれた鷲尾は、
「長続きの秘訣?んー、何だろうな…まぁ、でも…嘘ついたり、隠し事したりしないようにはしてるかな」
「あーそれは大事だよな。好きな子に大事なこと隠されてたら凹むし」
「…。」
俺は、時岡に隠し事をしているだけじゃなくて、そこに嘘まで重ねている。もしバレたら、時岡はどう思うんだろう。凹むどころか、最低な奴だと軽蔑され、廊下ですれ違っても目の合わない、挨拶すらしない関係に戻っちゃうかもしれない。
つうか、時岡は今も俺をトーイ王子やウサギだと疑ってんのかな。
「あ、時岡発見!」
最上階の渡り廊下を通って教室に戻る途中、淀金に言われて下を見ると、1階を歩く時岡や依田の姿があった。
あぁ、遠くからでもカッコいい。1人だけオーラが違う。
「カッコ良すぎて死にそう、とか思ってる?」
隣で見てる鷲尾が見透かしてくる。
「いっそ死んで、時岡の守護霊にでもなろうかな」
「あはは、何だそれ。サイコパスな愛だな」
「よーし。丹羽のために、こっち見ますようにって祈るか」
そう言った片瀬は胸あたりで両手を組み、祈り始める。鷲尾と淀金も祈りだし、傍から見ればおかしな光景だ。まぁ、こいつらのこういうノリ嫌いじゃないけど。
「お前らの祈りパワー低そう…なん……」
視線を鷲尾たちから下に戻した時、時岡がこっちを見ていて、目が合った。
「えっ」
まさか自分たちの祈りが効くとは思っていなかった片瀬たちは、静かに興奮している。
時岡はスマホに何か打った後、スマホを指差し俺に見るようにジェスチャーをしてきた。
急いでスマホを確認すると『今日の放課後、図書室寄らない?』とメッセージが来ている。
俺は時岡に向かって、大きく丸のジェスチャーをした。それを見た時岡は軽く微笑み、先に進んでいた依田たちを追いかける。
スマホを握りしめたまま、その場にへにゃんとしゃがみ込んだ俺。
「俺らすごくね!?」
「祈ってみるもんだな」
「つうか、丹羽大丈夫か?」
「…やべぇ、すげぇ好きだわー」
心から出た俺の言葉に淀金は半分ふざけて聞いてくる。
「え、俺らのこと?時岡のこと?」
「…どっちも」
放課後、図書室の奥の本棚前で、適当に手に取った小説を読む俺は、ずっと同じページを読んでいる。
「にーわっ」
静かな声で俺の名前を呼んだ時岡は、顔を覗きこんでくる。
…ドキッ
「何読んでんの?」
「…SF小説」
席に移動すると、向かいではなく俺の横に座った時岡。たったこれだけの行動に嬉しくなってしまう俺は、勘違い野郎かもしれない。
「図書室に用あったん?」
「ちょっと調べ物したくて。30分くらいで終わると思うから、丹羽さっきのSF読んでていーよ」
「いや、あれはいいや。漫画コーナー行ってくる」
俺たち以外に5、6人いる静かな空間で、ノートを開きメモを取る時岡の横で、漫画を読む俺。図書室だから会話がなくて当たり前なんだけど、無言でも気まずい感じにならないの、なんか良いな。
「…終わったぁ。ごめん、お待たせ」
「お疲れ。あ、この巻終わるまで待ってもらっていい?すぐ読み終わるから」
「もちろん」
2人で校門に向かい歩く。
「これから梨花ちゃんの迎え?」
「うん。丹羽も行く?」
「梨花ちゃんに会いてーけど、今日宿題多いから大人しく帰るわ」
「そっか。また会いに来てやってよ」
「うん」
また今日も特別の意味を聞きそびれた。というよりも、聞いて真実を知るのが怖いのかもしれない。俺の思っている特別じゃなかったら、この気持ちをどうすればいいのか分からなくなるから。まだ好きでいたいという我儘を優先してしまう。
数日後、バイトの休憩中に手嶋さんが不意に聞いてきた。
「そういえば、例のお友達にはまだバレてないの?」
「えっ?」
「妹想いのお友達。トーイ王子だって疑われてたじゃん」
「あー、最近は前よりマシになったというか、ヒヤヒヤする場面は減りましたね」
「そっか、良かったね。でもさ、浮気疑われてる時と同じで、気抜いた時に凡ミスしてバレるから気をつけて」
「ちょ、ビビらせないでくださいよ。つうか、そういう経験あるんすか?」
「…ノーコメントで」
月曜日、帰りのホームルームが終わり、みんなが教室を出て行く中、俺は立つ気がない。
「丹羽ー、帰ろうぜー」
「悪りぃ、日誌書かなきゃだから」
「そっか、待っとこか?」
「いや、先帰ってていいよ」
「おっけ。じゃあ、また来週な。お疲れー」
「うん、お疲れ」
1人になった教室で、ほぼ白紙の学級日誌と睨めっこしながら指でシャーペンを回す。
「居残り?」
鞄を持った時岡がドアから現れ、俺の席に近づいてくる。
「…日誌書き忘れてて」
「まとめて書く派なんだ」
そう言いながら、前の席に横向きで座った時岡。
もし時岡と同じクラスで、こんな風に席前後だったら、毎日すげー楽しいだろうな。
そんな妄想をしつつ、呑気に日誌を書いていた。
「この字…」
俺の字を見た時岡は呟いた。
「どうかした?」
「…前にさ、梨花が遊園地で迷子になったことあって」
あ、あの時か…。
「不安そうにしてた梨花に、スタッフさんがメッセージ書いた風船くれてみたいでさ…特徴のある字だったからすごく覚えてんだよね」
…待って、嫌な予感がする…。
シャーペンを持つ指先に力が入る。
「あれ書いたの……丹羽?」
「…。」
時岡の視線が俺を捉えて離さない。
これ以上嘘を重ねても何の意味もない。どんどん言いづらくなるだけだ。分かってる。
それでも言うか迷ってるいるのは、俺の正体、嘘をついたこと、全ての事実を知った時岡の出す答えが全く読めないから。俺への視線が特別から他人になるのが怖いから。
「あ、こんなとこにいた」
俺たちの空気を遮るように、依田がドアから声をかける。
「放課後、理科室寄れって言われたの忘れてるだろ」
中に入らず依田は時岡に言う。
「あ、そうだった。わざわざ呼びに来てくれてありがと」
時岡は立ち上がり「じゃ、お疲れ」と俺に一言だけ言って、依田と行ってしまった。
残された俺は、ほぼ書き終えた日誌の上に伏せ、大きくため息をついた。
「はぁー…嘘だろぉ…」
俺は次の日から校内で時岡を避けるようになった。仕方なくすれ違ってしまう場面でも時岡の顔を見ることはない。避けられたり、目を逸らされたりする可能性を自分から無くしにいったのだ。我ながらダサい小心者だと思う。
そんな平日の学校生活をなんとか乗り切り、迎えた三連休。連休中日の今日も遊園地のイベントは盛りだくさん。トーイ王子としてステージや園内を盛り上げる俺は、時岡のことを考える暇がないくらい朝から大忙しだ。
「ママー!トーイおうじいたよー!!」
夕方、トーイ王子の姿でポップ姫とグリーディング中、女の子の声が聞こえた。
近づいて来たのは梨花ちゃんだった。その後ろからショートヘアの綺麗な女性がやって来る。
「ママ、いっしょにしゃしんとろ!」
…この人、時岡の母さん!?
「うん、撮ろうか!にぃにに撮ってもら…あれ、慎どこ行った?」
あ、時岡も一緒に来てんだ。
「あ!にぃにー!しゃしんとってー!」
現れた時岡を見て、ハラハラしてしまう。トーイ王子の姿なんだから、隠れる必要はないのに。
トーイ王子と撮り終えた3人は仲良く次の場所へ移動していく。
梨花ちゃんと2人で来ている時とは違い、今日の時岡の顔は、兄であり、高校生の息子で少し子供っぽく見えた。俺はそれがなんだかすごく嬉しくて、安心した。
外が暗くなった頃、俺はウサギの着ぐるみ姿で、園内を歩き回っている。今日は特別にいつもより閉園時間が遅く、これからナイトショーが開催されるのだ。夜のトーイ王子は他のスタッフにお任せして、俺は迷子や落とし物などの確認をしている。
この辺はあんま人来ないもんなぁ。つうか外暗いし、一旦脱いでから見回りしたいかも。
その時、後ろから声がした。
「あ、ウサギさん。こんばんは」
振り向くと時岡が軽く手を振っている。
…時岡!?
小さく会釈した俺に対し、時岡は言う。
「夜のショー参加しないんですね」
頷いた俺は、2回時岡を指差し、首を傾げ、君は観に行かないのかとジェスチャーで聞いた。
「夜のショーやパレードって、幻想的で綺麗だなと思うんですけど、ちょっと苦手なんですよね。あ、別に怖いとかじゃなくて、寂しい気持ちになっちゃうんですよ。なんか、あぁこれで幸せな時間が終わっちゃうんだなって、しんみりした気分になるのあの儚さが苦手というか…分かります?」
なんか分かる気がする。楽しい時間のはずなのに、暗闇の中で輝く光たちが幸せの終わりを一方的に知らせてくる感じ。
多分俺、時岡との関係に儚さを勝手に感じてて、一瞬で壊れるんじゃないかって不安になってる。時岡が夜のショーを観ないように、今の俺は時岡と向き合わないようにして逃げている。
「お仕事の邪魔してすみません。じゃあ、失礼します」
立ち去ろうとする時岡の後ろ姿を見ながら、今伝えなきゃ何も変わらないと思った。
ガバッ…俺は着ぐるみの頭部分を取り、
「時岡っ…!」
背中に向かって大きな声で呼び止めた。
振り返った時岡は、俺の姿を見て目を見開き驚いている。
「…ずっと…ずっと嘘ついててごめん…、時岡が疑ってたとおり…見ての通り俺がウサギでもあるし…トーイ王子の中の人…です…」
「…。」
「…言い訳に聞こえるかもしんねーけど、家族以外に着ぐるみしてること言ってなくて…淀金たちさえ知らないんだ…。だから、その…時岡や梨花ちゃんにだけ黙ってたわけじゃないのは、信じてほしい…」
時岡の顔がまともに見れない。ほんとダサいな俺…。
ー…ぎゅっ…
突然時岡に抱きしめられた。
えっ…ー
「太田、別れたらしいぞ」
昼休みの屋上で弁当を食っていると、淀金が俺たち3人にクラスの男子の恋愛事情を教えてきた。
「へぇ。長かったっけ?」
「いや、夏休み前に付き合い始めたはずだから…3、4ヶ月?」
「みじけー」
「鷲尾んとこの安定した付き合いを見習ってほしいもんだよな」
「だな。長続きの秘訣なに?」
片瀬に聞かれた鷲尾は、
「長続きの秘訣?んー、何だろうな…まぁ、でも…嘘ついたり、隠し事したりしないようにはしてるかな」
「あーそれは大事だよな。好きな子に大事なこと隠されてたら凹むし」
「…。」
俺は、時岡に隠し事をしているだけじゃなくて、そこに嘘まで重ねている。もしバレたら、時岡はどう思うんだろう。凹むどころか、最低な奴だと軽蔑され、廊下ですれ違っても目の合わない、挨拶すらしない関係に戻っちゃうかもしれない。
つうか、時岡は今も俺をトーイ王子やウサギだと疑ってんのかな。
「あ、時岡発見!」
最上階の渡り廊下を通って教室に戻る途中、淀金に言われて下を見ると、1階を歩く時岡や依田の姿があった。
あぁ、遠くからでもカッコいい。1人だけオーラが違う。
「カッコ良すぎて死にそう、とか思ってる?」
隣で見てる鷲尾が見透かしてくる。
「いっそ死んで、時岡の守護霊にでもなろうかな」
「あはは、何だそれ。サイコパスな愛だな」
「よーし。丹羽のために、こっち見ますようにって祈るか」
そう言った片瀬は胸あたりで両手を組み、祈り始める。鷲尾と淀金も祈りだし、傍から見ればおかしな光景だ。まぁ、こいつらのこういうノリ嫌いじゃないけど。
「お前らの祈りパワー低そう…なん……」
視線を鷲尾たちから下に戻した時、時岡がこっちを見ていて、目が合った。
「えっ」
まさか自分たちの祈りが効くとは思っていなかった片瀬たちは、静かに興奮している。
時岡はスマホに何か打った後、スマホを指差し俺に見るようにジェスチャーをしてきた。
急いでスマホを確認すると『今日の放課後、図書室寄らない?』とメッセージが来ている。
俺は時岡に向かって、大きく丸のジェスチャーをした。それを見た時岡は軽く微笑み、先に進んでいた依田たちを追いかける。
スマホを握りしめたまま、その場にへにゃんとしゃがみ込んだ俺。
「俺らすごくね!?」
「祈ってみるもんだな」
「つうか、丹羽大丈夫か?」
「…やべぇ、すげぇ好きだわー」
心から出た俺の言葉に淀金は半分ふざけて聞いてくる。
「え、俺らのこと?時岡のこと?」
「…どっちも」
放課後、図書室の奥の本棚前で、適当に手に取った小説を読む俺は、ずっと同じページを読んでいる。
「にーわっ」
静かな声で俺の名前を呼んだ時岡は、顔を覗きこんでくる。
…ドキッ
「何読んでんの?」
「…SF小説」
席に移動すると、向かいではなく俺の横に座った時岡。たったこれだけの行動に嬉しくなってしまう俺は、勘違い野郎かもしれない。
「図書室に用あったん?」
「ちょっと調べ物したくて。30分くらいで終わると思うから、丹羽さっきのSF読んでていーよ」
「いや、あれはいいや。漫画コーナー行ってくる」
俺たち以外に5、6人いる静かな空間で、ノートを開きメモを取る時岡の横で、漫画を読む俺。図書室だから会話がなくて当たり前なんだけど、無言でも気まずい感じにならないの、なんか良いな。
「…終わったぁ。ごめん、お待たせ」
「お疲れ。あ、この巻終わるまで待ってもらっていい?すぐ読み終わるから」
「もちろん」
2人で校門に向かい歩く。
「これから梨花ちゃんの迎え?」
「うん。丹羽も行く?」
「梨花ちゃんに会いてーけど、今日宿題多いから大人しく帰るわ」
「そっか。また会いに来てやってよ」
「うん」
また今日も特別の意味を聞きそびれた。というよりも、聞いて真実を知るのが怖いのかもしれない。俺の思っている特別じゃなかったら、この気持ちをどうすればいいのか分からなくなるから。まだ好きでいたいという我儘を優先してしまう。
数日後、バイトの休憩中に手嶋さんが不意に聞いてきた。
「そういえば、例のお友達にはまだバレてないの?」
「えっ?」
「妹想いのお友達。トーイ王子だって疑われてたじゃん」
「あー、最近は前よりマシになったというか、ヒヤヒヤする場面は減りましたね」
「そっか、良かったね。でもさ、浮気疑われてる時と同じで、気抜いた時に凡ミスしてバレるから気をつけて」
「ちょ、ビビらせないでくださいよ。つうか、そういう経験あるんすか?」
「…ノーコメントで」
月曜日、帰りのホームルームが終わり、みんなが教室を出て行く中、俺は立つ気がない。
「丹羽ー、帰ろうぜー」
「悪りぃ、日誌書かなきゃだから」
「そっか、待っとこか?」
「いや、先帰ってていいよ」
「おっけ。じゃあ、また来週な。お疲れー」
「うん、お疲れ」
1人になった教室で、ほぼ白紙の学級日誌と睨めっこしながら指でシャーペンを回す。
「居残り?」
鞄を持った時岡がドアから現れ、俺の席に近づいてくる。
「…日誌書き忘れてて」
「まとめて書く派なんだ」
そう言いながら、前の席に横向きで座った時岡。
もし時岡と同じクラスで、こんな風に席前後だったら、毎日すげー楽しいだろうな。
そんな妄想をしつつ、呑気に日誌を書いていた。
「この字…」
俺の字を見た時岡は呟いた。
「どうかした?」
「…前にさ、梨花が遊園地で迷子になったことあって」
あ、あの時か…。
「不安そうにしてた梨花に、スタッフさんがメッセージ書いた風船くれてみたいでさ…特徴のある字だったからすごく覚えてんだよね」
…待って、嫌な予感がする…。
シャーペンを持つ指先に力が入る。
「あれ書いたの……丹羽?」
「…。」
時岡の視線が俺を捉えて離さない。
これ以上嘘を重ねても何の意味もない。どんどん言いづらくなるだけだ。分かってる。
それでも言うか迷ってるいるのは、俺の正体、嘘をついたこと、全ての事実を知った時岡の出す答えが全く読めないから。俺への視線が特別から他人になるのが怖いから。
「あ、こんなとこにいた」
俺たちの空気を遮るように、依田がドアから声をかける。
「放課後、理科室寄れって言われたの忘れてるだろ」
中に入らず依田は時岡に言う。
「あ、そうだった。わざわざ呼びに来てくれてありがと」
時岡は立ち上がり「じゃ、お疲れ」と俺に一言だけ言って、依田と行ってしまった。
残された俺は、ほぼ書き終えた日誌の上に伏せ、大きくため息をついた。
「はぁー…嘘だろぉ…」
俺は次の日から校内で時岡を避けるようになった。仕方なくすれ違ってしまう場面でも時岡の顔を見ることはない。避けられたり、目を逸らされたりする可能性を自分から無くしにいったのだ。我ながらダサい小心者だと思う。
そんな平日の学校生活をなんとか乗り切り、迎えた三連休。連休中日の今日も遊園地のイベントは盛りだくさん。トーイ王子としてステージや園内を盛り上げる俺は、時岡のことを考える暇がないくらい朝から大忙しだ。
「ママー!トーイおうじいたよー!!」
夕方、トーイ王子の姿でポップ姫とグリーディング中、女の子の声が聞こえた。
近づいて来たのは梨花ちゃんだった。その後ろからショートヘアの綺麗な女性がやって来る。
「ママ、いっしょにしゃしんとろ!」
…この人、時岡の母さん!?
「うん、撮ろうか!にぃにに撮ってもら…あれ、慎どこ行った?」
あ、時岡も一緒に来てんだ。
「あ!にぃにー!しゃしんとってー!」
現れた時岡を見て、ハラハラしてしまう。トーイ王子の姿なんだから、隠れる必要はないのに。
トーイ王子と撮り終えた3人は仲良く次の場所へ移動していく。
梨花ちゃんと2人で来ている時とは違い、今日の時岡の顔は、兄であり、高校生の息子で少し子供っぽく見えた。俺はそれがなんだかすごく嬉しくて、安心した。
外が暗くなった頃、俺はウサギの着ぐるみ姿で、園内を歩き回っている。今日は特別にいつもより閉園時間が遅く、これからナイトショーが開催されるのだ。夜のトーイ王子は他のスタッフにお任せして、俺は迷子や落とし物などの確認をしている。
この辺はあんま人来ないもんなぁ。つうか外暗いし、一旦脱いでから見回りしたいかも。
その時、後ろから声がした。
「あ、ウサギさん。こんばんは」
振り向くと時岡が軽く手を振っている。
…時岡!?
小さく会釈した俺に対し、時岡は言う。
「夜のショー参加しないんですね」
頷いた俺は、2回時岡を指差し、首を傾げ、君は観に行かないのかとジェスチャーで聞いた。
「夜のショーやパレードって、幻想的で綺麗だなと思うんですけど、ちょっと苦手なんですよね。あ、別に怖いとかじゃなくて、寂しい気持ちになっちゃうんですよ。なんか、あぁこれで幸せな時間が終わっちゃうんだなって、しんみりした気分になるのあの儚さが苦手というか…分かります?」
なんか分かる気がする。楽しい時間のはずなのに、暗闇の中で輝く光たちが幸せの終わりを一方的に知らせてくる感じ。
多分俺、時岡との関係に儚さを勝手に感じてて、一瞬で壊れるんじゃないかって不安になってる。時岡が夜のショーを観ないように、今の俺は時岡と向き合わないようにして逃げている。
「お仕事の邪魔してすみません。じゃあ、失礼します」
立ち去ろうとする時岡の後ろ姿を見ながら、今伝えなきゃ何も変わらないと思った。
ガバッ…俺は着ぐるみの頭部分を取り、
「時岡っ…!」
背中に向かって大きな声で呼び止めた。
振り返った時岡は、俺の姿を見て目を見開き驚いている。
「…ずっと…ずっと嘘ついててごめん…、時岡が疑ってたとおり…見ての通り俺がウサギでもあるし…トーイ王子の中の人…です…」
「…。」
「…言い訳に聞こえるかもしんねーけど、家族以外に着ぐるみしてること言ってなくて…淀金たちさえ知らないんだ…。だから、その…時岡や梨花ちゃんにだけ黙ってたわけじゃないのは、信じてほしい…」
時岡の顔がまともに見れない。ほんとダサいな俺…。
ー…ぎゅっ…
突然時岡に抱きしめられた。
えっ…ー



