金曜日、保育園から3人で帰り、俺は時岡の家にいる。
「かいせーくんは、おきゃくさまだからここでまっててね!」
俺をリビングの椅子に座らせた梨花ちゃんは、時岡のいるキッチンに行き、料理を手伝い始めた。
ーあ、めっちゃ良い匂いしてきた。
「いただきます!」
「めしあがれ!」
出来立てのビーフシチューをゆっくり口に運んだ。
「…ん、うまい!」
「やったね、にぃに」
「だな」
食べながら梨花ちゃんが聞いてくる。
「かいせーくん、どっちのおへやでねる?」
「どっち?」
「りかとママのおへやか、にぃにのおへや」
「えっ…、ママが居ない日は梨花ちゃん、にぃいと寝てるんだよね?」
「ううん。わたし、ひとりでねれるもん。ママいないときは、トーイおうじのおっきいぬいぐるみとねるの」
「あ、そうなんだ」
梨花ちゃんと寝る場合、会った事ない時岡の母さんのベッド借りることになるよな?それは失礼な気がするな。でも…ベッドの横に布団敷いて寝るとしても、時岡の部屋で一夜を過ごすなんて…難易度高過ぎだって!
考え込んでいると、時岡が口を開いた。
「俺の部屋でいいよね?」
有無を言わさない感じで聞かれて「あ、うん」と即答してしまう。
「かいせーくん、おふろどうぞ」
風呂から上がったパジャマ姿の梨花ちゃんが、リビングに戻ってきた。
「お先でした」
その後ろから、片手で髪をタオルで拭く時岡が現れる。
…ずきゅん
いや、風呂上がりのそんな姿とか反則だから。
湯船に浸かる俺は、この後平常心を保てるか心配になっている。
やっぱ、失礼承知で梨花ちゃんと寝るべきだった?
風呂から出て、梨花ちゃんと少しお喋りして、3人で2階に上がった。
「かいせーくん、おやすみ」
「うん、おやすみ」
梨花ちゃんが部屋に入っていったのを見届けて、時岡と隣の部屋へ。
「どうぞ」
「…失礼します…」
室内は、最低限のものが並んだシンプルな空間だった。
床を見ると敷布団が見当たらない。
あれ、今から待ってくんのかな?
「ごめん、ウチ来客用の布団とかなくて。このベッド、セミダブルだから男2人でもギリいけると思う」
…え?えええ?まさか、同じベッドで寝んの!?
「えっ、いやいや、いいって。俺、床で寝るし」
「何でだよ」
そう言った時岡は、布団をめくりベッドの上へ移動する。
そして、突っ立っている俺を見て、さらっと言ってきた。
「…一緒に寝よ」
「…っ!」
ぶわぁっと一気に体温が上がる。
好きな相手に、こんなシチュエーションで、そんなこと言われて平気な奴いる?
「お邪魔します…」
少しだけ間を空けてベッドの上に座った。鼓動の激しさが落ち着かないまま、緊張で俺は自分で自分をさらに追い込んでしまう。
「あ、あのさ…」
「なに?」
「文化祭って…誰と回んの?」
1週間後に迫った文化祭。先約があっても仕方ない。
「初日は笠原たちとかな。2日目は、まだ決めてないけど…」
「あ、なら…」
誘いかけた瞬間、
「丹羽と回りたいかな」
時岡は俺の顔を見ながらそう言った。
「えっ」
「時間合えばだけど」
「あっ、うん、回ろ!俺、時間全然合わせれるし」
…やっべ、めちゃくちゃ嬉しい。わぁー、月曜鷲尾達に即報告だな。
「そろそろ寝よっか。真っ暗で寝れる人?」
「うん、大丈夫」
「おっけ」
部屋の明かりが消え、2人で布団の中に寝転んだ。
「…おやすみ」
「おやすみ」
目を閉じて10分ぐらい…いや、寝られるわけねーじゃん!
仰向けに寝る時岡が、万が一俺の方へ寝返りを打ったらいけないと思い、時岡に背を向けた状態で寝ている俺。視界に姿が入らなければ平気だと思っていたのに、全然違った。姿が見えない分、寝息や体の動きに敏感になって、時岡がすぐ後ろにいることをより意識してしまう。
ドキドキドキ…ー
真っ暗で静かな部屋の中で、俺の鼓動だけがずっとうるさい。
俺は枕元に置いているスマホで時間を確認した。
「寝れないの?」
いきなり背中から時岡に聞かれ、驚いてしまう。
「うわっ…ごめん、眩しかった?」
後ろを振り向くと、時岡が仰向けのまま顔だけこっちを向いていた。
「ううん、大丈夫」
「久々に友達の家に泊まるからかな?眠いはずなのに寝れなくて」
ドキドキして寝れないなんて言えない。
「そっか。…じゃあ、梨花にたまにするんだけど…」
時岡は体もこっちへ向け、俺の胸あたりを片手で優しくトントンし始めた。
「…!?」
え、待って待って。寝かしつけしようとしてくれてんだろうけど、ごめん、すげー逆効果!落ち着くどころか、もう心臓爆発しそうでやばい!…つうか、胸あたりトントンされてたら、ドキドキしてんのバレるんじゃね!?
「あの…時岡…」
「ん?」
眠そうなとろんとした表情を見せた時岡。
…ドクンッ
「…何でもない……おやすみ」
「うん、おやすみ」
時岡は目を閉じて、寝ながら小さくトントンを続けている。
「…。」
きっと、こんな風に愛情込めて寝かしつけしてもらったから、梨花ちゃんは1人で寝るの平気になったのかもな。
翌日、目が覚めたら隣に時岡の姿がなかった。
リビングに降りて行くと、時岡がキッチンで朝飯を作っていた。
「あ、おはよう」
「おはよ…。梨花ちゃんは?」
「珍しくまだ寝てる。いつもは早起きなんだけど」
「今日は保育園休み?」
「うん。いつもは土曜も行ってるんだけど、今日は丹羽と遊びたいらしい」
「マジか。そんなん言われたら、全力で遊ばせてもらわなきゃな」
「ふふ、よろしく」
梨花ちゃんと午前中は家の近くの公園で遊んで、昼からはテレビゲームやお絵描きを楽しんだ。
夕方、俺の帰宅時間が近づいた頃。疲れた果てた梨花ちゃんはお昼寝をしてしまい、別れの挨拶を出来ないまま帰ることになった。
「ごめんな、起きるまで居られなくて」
「全然。梨花のわがままに付き合ってくれてありがと。起きたら楽しかったこと全部夢だと思うかもね」
「それ複雑ー」
「あはっ。…また泊まり来てやって」
「うん…ありがと」
家までの帰り道。夢じゃないかと思っているのは、梨花ちゃんじゃなくて俺の方だ。
時岡と一緒に下校して、時岡兄妹の作った飯食って、時岡のベッドで並んで寝て、朝から夕方まで遊んで…。もしかして俺、ずっと夢ん中だったのかな?
昨日からの2日間。時岡から俺への視線は、トーイ王子やウサギを疑うものじゃなくて、純粋に友達として向けられているものだと感じた。それがホッとする半面、友達としか見られていない当たり前のことにショックを受ける自分がいる。
月曜日の昼休み。屋上で弁当を食いながら、時岡の家に泊まったことを聞いた鷲尾たちは、大きな声で驚いている。
「何その展開!?そんなご褒美タイムあって、丹羽よく手出さなかったな」
「いやいや、相手男子だから」
「いや、女子が相手でもその流れで手出すのは、アウトだろ」
「で、文化祭誘えた?」
「うん、2日目に一緒に回れそう」
「おぉ、まじか!良かったな!」
「これ、相手が女子なら脈ありって思っちゃうけど、基準が違うからむずいな」
「それな」
「さすがに学校行事のテンションで告るとかしねぇよな!?」
「するわけねーじゃん。まずは友達として信頼関係というか、絆を深めるのが先だと思うし」
「おー、丹羽くんいつになく慎重ですねぇ」
「まぁ、簡単には恋愛モードに持っていけねーだろ」
「そうなんだよなぁ。好きになった側の俺ですらあんな戸惑ったのに、男友達からいきなり恋愛っぽい雰囲気醸し出されたら200パー引くよな」
「つまりあれだよ。友達として心開いた関係になって、そっからじわじわと、ドキドキさせにいくって感じ」
片瀬が今後の流れをまとめ、それを淀金が一言でまとめた。
「じわドキ作戦か!」
「うわ、ダセェ名前」
鷲尾の言葉に笑った俺らは、無理難題な恋バナをしているとは思えないほど楽しそうだ。
そして、あっという間に文化祭初日の金曜日。生徒と教師のみが参加する校内公開日だ。
多目的室に巨大なブロックアートを展示している俺たちのクラス。展示のみなので、今日明日の役割は受付しかなく、2人一組30分ずつだから、残りはほぼ自由時間だ。
ここ数日の製作は神経を使う細かい作業が多くて、死ぬほど大変だったが、その分本番は思いっきり楽しめる。
「じゃあ、鷲尾後でな」
「おう、楽しんで」
教室の前で鷲尾と別れ、淀金、片瀬と移動する。
文化祭委員の鷲尾は受付係はしないが、その他の仕事があるため、俺たちと違い当日も忙しい。
「どっから見るー?それとも先に食う?」
「混む前に食っとくか」
「そだな。なんか明日の方がどこの模擬店も50円値上がりするらしいぞ」
「え、そうなん!?じゃあ、今日のうちに人気そうな店は制覇しとこ」
「そういや、時岡のクラス何だっけ?」
「射的や輪投げとか縁日みたいなやつって言ってた」
「へぇ。せっかくなら時岡がいる時に行きたいよな!」
「いついるの?」
「いや、それは聞けてない」
そんな会話をしていると「丹羽」と声が聞こえ、振り返ると時岡と依田がいた。
「お、お疲れ」
「お疲れさま。丹羽、いつクラスの受付?」
「えっと、12時半から」
「そっか。じゃあ、それぐらいに見に行くよ」
「あ、うん。あ!時岡は…いついる?」
「13時半から中にいる」
「分かった。そんくらいにみんなで行くわ」
「了解。じゃあ、また後で」
「うん、また」
時岡の後ろ姿を見ていたら
「え、めちゃくちゃ脈ありじゃね?」
「思った」
俺たちのやりとりをすぐ横で見ていた淀金と片瀬に言われる。
「普段の時岡をそんな知らねーけど、なんか丹羽に対して特別な感じした」
「明日2人で回る時、進展ありそうだな」
「え、まじで?」
もし、時岡の中で俺の存在が特別になっていってるなら、それはすごく嬉しい。今日明日で、関係が深まればいいな…。
「かいせーくんは、おきゃくさまだからここでまっててね!」
俺をリビングの椅子に座らせた梨花ちゃんは、時岡のいるキッチンに行き、料理を手伝い始めた。
ーあ、めっちゃ良い匂いしてきた。
「いただきます!」
「めしあがれ!」
出来立てのビーフシチューをゆっくり口に運んだ。
「…ん、うまい!」
「やったね、にぃに」
「だな」
食べながら梨花ちゃんが聞いてくる。
「かいせーくん、どっちのおへやでねる?」
「どっち?」
「りかとママのおへやか、にぃにのおへや」
「えっ…、ママが居ない日は梨花ちゃん、にぃいと寝てるんだよね?」
「ううん。わたし、ひとりでねれるもん。ママいないときは、トーイおうじのおっきいぬいぐるみとねるの」
「あ、そうなんだ」
梨花ちゃんと寝る場合、会った事ない時岡の母さんのベッド借りることになるよな?それは失礼な気がするな。でも…ベッドの横に布団敷いて寝るとしても、時岡の部屋で一夜を過ごすなんて…難易度高過ぎだって!
考え込んでいると、時岡が口を開いた。
「俺の部屋でいいよね?」
有無を言わさない感じで聞かれて「あ、うん」と即答してしまう。
「かいせーくん、おふろどうぞ」
風呂から上がったパジャマ姿の梨花ちゃんが、リビングに戻ってきた。
「お先でした」
その後ろから、片手で髪をタオルで拭く時岡が現れる。
…ずきゅん
いや、風呂上がりのそんな姿とか反則だから。
湯船に浸かる俺は、この後平常心を保てるか心配になっている。
やっぱ、失礼承知で梨花ちゃんと寝るべきだった?
風呂から出て、梨花ちゃんと少しお喋りして、3人で2階に上がった。
「かいせーくん、おやすみ」
「うん、おやすみ」
梨花ちゃんが部屋に入っていったのを見届けて、時岡と隣の部屋へ。
「どうぞ」
「…失礼します…」
室内は、最低限のものが並んだシンプルな空間だった。
床を見ると敷布団が見当たらない。
あれ、今から待ってくんのかな?
「ごめん、ウチ来客用の布団とかなくて。このベッド、セミダブルだから男2人でもギリいけると思う」
…え?えええ?まさか、同じベッドで寝んの!?
「えっ、いやいや、いいって。俺、床で寝るし」
「何でだよ」
そう言った時岡は、布団をめくりベッドの上へ移動する。
そして、突っ立っている俺を見て、さらっと言ってきた。
「…一緒に寝よ」
「…っ!」
ぶわぁっと一気に体温が上がる。
好きな相手に、こんなシチュエーションで、そんなこと言われて平気な奴いる?
「お邪魔します…」
少しだけ間を空けてベッドの上に座った。鼓動の激しさが落ち着かないまま、緊張で俺は自分で自分をさらに追い込んでしまう。
「あ、あのさ…」
「なに?」
「文化祭って…誰と回んの?」
1週間後に迫った文化祭。先約があっても仕方ない。
「初日は笠原たちとかな。2日目は、まだ決めてないけど…」
「あ、なら…」
誘いかけた瞬間、
「丹羽と回りたいかな」
時岡は俺の顔を見ながらそう言った。
「えっ」
「時間合えばだけど」
「あっ、うん、回ろ!俺、時間全然合わせれるし」
…やっべ、めちゃくちゃ嬉しい。わぁー、月曜鷲尾達に即報告だな。
「そろそろ寝よっか。真っ暗で寝れる人?」
「うん、大丈夫」
「おっけ」
部屋の明かりが消え、2人で布団の中に寝転んだ。
「…おやすみ」
「おやすみ」
目を閉じて10分ぐらい…いや、寝られるわけねーじゃん!
仰向けに寝る時岡が、万が一俺の方へ寝返りを打ったらいけないと思い、時岡に背を向けた状態で寝ている俺。視界に姿が入らなければ平気だと思っていたのに、全然違った。姿が見えない分、寝息や体の動きに敏感になって、時岡がすぐ後ろにいることをより意識してしまう。
ドキドキドキ…ー
真っ暗で静かな部屋の中で、俺の鼓動だけがずっとうるさい。
俺は枕元に置いているスマホで時間を確認した。
「寝れないの?」
いきなり背中から時岡に聞かれ、驚いてしまう。
「うわっ…ごめん、眩しかった?」
後ろを振り向くと、時岡が仰向けのまま顔だけこっちを向いていた。
「ううん、大丈夫」
「久々に友達の家に泊まるからかな?眠いはずなのに寝れなくて」
ドキドキして寝れないなんて言えない。
「そっか。…じゃあ、梨花にたまにするんだけど…」
時岡は体もこっちへ向け、俺の胸あたりを片手で優しくトントンし始めた。
「…!?」
え、待って待って。寝かしつけしようとしてくれてんだろうけど、ごめん、すげー逆効果!落ち着くどころか、もう心臓爆発しそうでやばい!…つうか、胸あたりトントンされてたら、ドキドキしてんのバレるんじゃね!?
「あの…時岡…」
「ん?」
眠そうなとろんとした表情を見せた時岡。
…ドクンッ
「…何でもない……おやすみ」
「うん、おやすみ」
時岡は目を閉じて、寝ながら小さくトントンを続けている。
「…。」
きっと、こんな風に愛情込めて寝かしつけしてもらったから、梨花ちゃんは1人で寝るの平気になったのかもな。
翌日、目が覚めたら隣に時岡の姿がなかった。
リビングに降りて行くと、時岡がキッチンで朝飯を作っていた。
「あ、おはよう」
「おはよ…。梨花ちゃんは?」
「珍しくまだ寝てる。いつもは早起きなんだけど」
「今日は保育園休み?」
「うん。いつもは土曜も行ってるんだけど、今日は丹羽と遊びたいらしい」
「マジか。そんなん言われたら、全力で遊ばせてもらわなきゃな」
「ふふ、よろしく」
梨花ちゃんと午前中は家の近くの公園で遊んで、昼からはテレビゲームやお絵描きを楽しんだ。
夕方、俺の帰宅時間が近づいた頃。疲れた果てた梨花ちゃんはお昼寝をしてしまい、別れの挨拶を出来ないまま帰ることになった。
「ごめんな、起きるまで居られなくて」
「全然。梨花のわがままに付き合ってくれてありがと。起きたら楽しかったこと全部夢だと思うかもね」
「それ複雑ー」
「あはっ。…また泊まり来てやって」
「うん…ありがと」
家までの帰り道。夢じゃないかと思っているのは、梨花ちゃんじゃなくて俺の方だ。
時岡と一緒に下校して、時岡兄妹の作った飯食って、時岡のベッドで並んで寝て、朝から夕方まで遊んで…。もしかして俺、ずっと夢ん中だったのかな?
昨日からの2日間。時岡から俺への視線は、トーイ王子やウサギを疑うものじゃなくて、純粋に友達として向けられているものだと感じた。それがホッとする半面、友達としか見られていない当たり前のことにショックを受ける自分がいる。
月曜日の昼休み。屋上で弁当を食いながら、時岡の家に泊まったことを聞いた鷲尾たちは、大きな声で驚いている。
「何その展開!?そんなご褒美タイムあって、丹羽よく手出さなかったな」
「いやいや、相手男子だから」
「いや、女子が相手でもその流れで手出すのは、アウトだろ」
「で、文化祭誘えた?」
「うん、2日目に一緒に回れそう」
「おぉ、まじか!良かったな!」
「これ、相手が女子なら脈ありって思っちゃうけど、基準が違うからむずいな」
「それな」
「さすがに学校行事のテンションで告るとかしねぇよな!?」
「するわけねーじゃん。まずは友達として信頼関係というか、絆を深めるのが先だと思うし」
「おー、丹羽くんいつになく慎重ですねぇ」
「まぁ、簡単には恋愛モードに持っていけねーだろ」
「そうなんだよなぁ。好きになった側の俺ですらあんな戸惑ったのに、男友達からいきなり恋愛っぽい雰囲気醸し出されたら200パー引くよな」
「つまりあれだよ。友達として心開いた関係になって、そっからじわじわと、ドキドキさせにいくって感じ」
片瀬が今後の流れをまとめ、それを淀金が一言でまとめた。
「じわドキ作戦か!」
「うわ、ダセェ名前」
鷲尾の言葉に笑った俺らは、無理難題な恋バナをしているとは思えないほど楽しそうだ。
そして、あっという間に文化祭初日の金曜日。生徒と教師のみが参加する校内公開日だ。
多目的室に巨大なブロックアートを展示している俺たちのクラス。展示のみなので、今日明日の役割は受付しかなく、2人一組30分ずつだから、残りはほぼ自由時間だ。
ここ数日の製作は神経を使う細かい作業が多くて、死ぬほど大変だったが、その分本番は思いっきり楽しめる。
「じゃあ、鷲尾後でな」
「おう、楽しんで」
教室の前で鷲尾と別れ、淀金、片瀬と移動する。
文化祭委員の鷲尾は受付係はしないが、その他の仕事があるため、俺たちと違い当日も忙しい。
「どっから見るー?それとも先に食う?」
「混む前に食っとくか」
「そだな。なんか明日の方がどこの模擬店も50円値上がりするらしいぞ」
「え、そうなん!?じゃあ、今日のうちに人気そうな店は制覇しとこ」
「そういや、時岡のクラス何だっけ?」
「射的や輪投げとか縁日みたいなやつって言ってた」
「へぇ。せっかくなら時岡がいる時に行きたいよな!」
「いついるの?」
「いや、それは聞けてない」
そんな会話をしていると「丹羽」と声が聞こえ、振り返ると時岡と依田がいた。
「お、お疲れ」
「お疲れさま。丹羽、いつクラスの受付?」
「えっと、12時半から」
「そっか。じゃあ、それぐらいに見に行くよ」
「あ、うん。あ!時岡は…いついる?」
「13時半から中にいる」
「分かった。そんくらいにみんなで行くわ」
「了解。じゃあ、また後で」
「うん、また」
時岡の後ろ姿を見ていたら
「え、めちゃくちゃ脈ありじゃね?」
「思った」
俺たちのやりとりをすぐ横で見ていた淀金と片瀬に言われる。
「普段の時岡をそんな知らねーけど、なんか丹羽に対して特別な感じした」
「明日2人で回る時、進展ありそうだな」
「え、まじで?」
もし、時岡の中で俺の存在が特別になっていってるなら、それはすごく嬉しい。今日明日で、関係が深まればいいな…。



