君の中身が知りたくて

 時岡への恋心らしきものに気付いて数日。俺は、かなり戸惑っていた。男を好きになること、敵対視してきた高身長を受け入れること、色んなことが初めてで、現実かどうか分からなくなるほど頭ん中がぐるぐるしていた。

 俺、ほんとに時岡を恋愛として好きなの?

 休み時間、机に伏せている俺に鷲尾が声をかける。
「丹羽、次の時間買い出し行ける?」
「うん、行けるー」
「おっけ、ありがと。片瀬と淀金連れて行って大丈夫だから」
「うぃー」

 先週の金曜から来月にある文化祭に向けた準備が始まっていた。鷲尾は文化祭委員のため、全体の進捗状況を把握しながら取り仕切る役割。しっかり者の鷲尾にぴったりだ。

 「鷲尾の彼女、文化祭来んのかな?」
買い出しの帰り道、淀金が言ってくる。
「来るんじゃない?」
「写真しか見たことねぇけど、たしか可愛かったよな」
「うんうん。つまり、文化祭に友達連れて来たら、俺らにも可愛い子との出会いがあるってことだな!」
「あれか、可愛い子の周りは可愛いシステム」
「そーそー」
「なんだよ、そのシステム。女の子はみんな可愛いだろ」
「わー片瀬くん優しそうに見えて、チャラーい」
「どこがだよ」
「みんなに優しいのが片瀬の良いとこだけど、女子は自分にだけの特別がほしいんだよ。片瀬みたいなタイプは彼女出来ても、私のこと本当に好きなの?とか聞かれて振られるな」
俺の言葉に片瀬は気まずそうに黙る。
「あれ…もしかして図星?経験あり?」
「おい丹羽、片瀬の辛い過去を掘り返してやんなよー」
「悪りぃ悪りぃ。大丈夫だって、改善すれば」
「…うん」
「でもさ、そうやって振られたり、別れたりする原因が同じだと改善しやすくていいよな。俺、毎回違うから阻止できないんだよなぁ!」
「たとえば?」
「連絡の頻度が少ないとか、男友達優先しすぎとか、ドキドキしないとか」
「淀金って恋愛不向きなんだな」
「え、そう!?彼女いても、友達と遊びたいのは当たり前じゃね!?連絡だって毎日は無理でも、ちゃんと返信はしてたし。それに、ドキドキしないのは俺のせいなの?」
「ドキドキさせようとしなかったのが、いけなかったのかもな」
「え、ドキドキってさせるもんなの?勝手にドキドキするから恋なんじゃねーの!?」
「いや、まぁ、それも一理あるけど」
「…。」
淀金と片瀬のやりとりを聞きながら、自分の時岡に対するドキドキを思い出す。

 勝手に時岡の言動にドキドキしてるよな、俺。多分、淀金たちにおんなじ事されても何にも思わない。
 はぁ…考えれば考えるほど核心に近づいていくなぁ。…つうか、好きだって認めたところで、どうすりゃいいんだよ。



 出勤日の土曜日。スタッフルームに入るなり、先日の件を手嶋さん達にいじられる。
「あ、お忍びで来た丹羽っちだ」
「謎の3人組で来園してたねぇ」
「他人のフリするって意外とハラハラしたなぁ」
「おはようございます。…皆さん、先日は本当にほんとーにありがとうございました!完璧に知らないフリしてくれて、マジで助かりました!」
「いえいえー。で、なんで秘密だったの?」
「えっと…それは…」

 俺は、友達には着ぐるみのことを秘密にしていること、この前は行くと知らずに連れて来られたこと、あの女の子はトーイ王子と結婚したいこと、そして兄である友達は俺がトーイ王子じゃないかと疑っていることを簡単に説明した。

 「なにそれーウケるんだけど!」
「あはは!めっちゃ疑われてんじゃん」
手嶋さん達は呑気に盛り上がる。
「バラしちゃえばいいのにー。そんで、俺と結婚しようって言っちゃいなよ」
「いやいや、そんな夢壊すことできませんよ」
「あの兄妹、常連さんだよね?よく見かけるよ」
「お母さんが忙しいらしくて、代わりに友達が妹を喜ばせるためによく連れて来るみたいなんです」
「わー良いお兄ちゃんだなぁ。泣けてくるよ」
 そうなんだよ、時岡は妹想いの良い奴なんだ。その優しさも好きになった理由の一つで…。



 数日後の昼休み。久しぶりに鷲尾たちと食堂に来た。
 迷わず食券を押した鷲尾たちは、席へ移動する。俺は食券機の前で腕を組み、1人悩む。
「丹羽」
後ろから聞き覚えのある声がした。その声に無条件にドキッとしたということは…相手は決まってる。
 ゆっくり振り向くと時岡が依田たちといる。
「…よっ、お疲れ」
「お疲れ。丹羽もう決めたの?」
「いや、迷ってて。たまにしか来ねぇから」
「…これ、おすすめ」
時岡は綺麗で長い人差し指で、チキン南蛮スペシャルのボタンを指差した。
「…じゃあ、それにする…」

 俺が券を取った後、お金を入れた時岡は
「俺もこれにしよ。…お揃い」
そう目を見て言われ、顔が熱くなりそうで焦る。
 もぉー、まじで何なの!?俺はどんな気持ちでチキン南蛮食えばいいんだよ。

 テーブルに座り、目の前に置いたチキン南蛮スペシャルをじっと見る俺。
「食わねーの?」
隣で親子丼を口いっぱい頬張る淀金が聞いてくる。
「チキン南蛮見て雑念を抱く日が来るなんて…」
「何言ってんだよ。冷めないうちに食えって」
「…うん」

 これ以上この感情を1人で抱え込むのは無理だ!頭がパンクしそうになる。


 5、6時間目は、文化祭準備の時間だった。うちのクラスはブロックを使い、巨大な立体アートを展示する予定。
 俺と淀金、片瀬は教室の後ろの方で担当部分を作り進めていた。

 10分休憩になり、俺たちの所へ鷲尾が来る。
「順調?」
「順調過ぎて、もっと壮大なもん作れそう」
「勝手に変更するなよ、女子がキレるから」
「あいよー」
そんなやりとりをした後、俺は突然3人に伝えてみる。
「あのさ…」
「ん、どした?」
「俺…好きな人できたかも…みたいな?」
 3人は一瞬黙り、すぐに「えぇー!?」と揃って声を上げた。
「ちょっ、おい、どゆこと!?」
「いつから!?」
「相手誰だよ!」
興奮し、前のめりに聞いてくる3人。
「好きなの自覚したのは、ほんとつい最近で…相手は…」
好きな人いるって勢いで言ってしまったけど、相手が時岡…というか男だって言っていいのか!!
「俺らに言えない相手?」
鷲尾が不安そうに聞いてくる。
「うーん、普通じゃないというか…否定される可能性もあって…」
「そんな相手やめとけって言われそうな感じ?」
「いや、どっちかっていうと、好きになった俺を否定されそうな…」
「え、もしかして…不倫?丹羽、人妻好きなん!?」
「ちげーよ。その…」
休憩時間は残り3分半…。どうする?言う?隠す?
 迷っている俺を見て、片瀬は口を開いた。
「無理に言わなくていいよ。言いたくなったら教えて。ただ、俺らは丹羽が誰を好きになっても否定しないから」
「そーだそーだ!相手が犯罪者だろうが、2次元だろうが、誰でも応援するし!」
「…ありがと。…その…時岡なんだ、好きなやつ」
勇気を振り絞った俺の発言に、また3人は目を見開き、驚いている。
「え…時岡って…あの時岡?隣のクラスで、背の高い男の…」
「…うん」
…やっぱビビるよな。いきなり友達から男が好きとか言われたら。
「いやいや、あんだけ高身長のやつ敵とか言ってたのに、好きになってんのウケんだけど!」
「あはは、丹羽は結局、身長高いのが好みなのか」
「いやっ、別に背で選んだわけじゃ…」
「いいじゃん、時岡。あんま詳しく知らねーけど、良い奴そうだし」
「…引かねーの?男なのに男好きになってんの」
「いや、引かねぇよ。これまで普通に彼女いたの知ってるし、男が好きというより時岡だから好きになった感じだろ?」
鷲尾は当たり前のように言ってくる。
ーこいつら、どんだけ最高の友達なんだ。

 チャイムが鳴り「また放課後、話聞かせて」と鷲尾は離れていき、淀金と片瀬は上機嫌にブロック制作を再開した。


 放課後の渡り廊下で、今の自分の気持ちは恋愛としての好きなのか3人に相談すると、口を揃えて言ってくる。
「「そんなの完全に恋じゃん」」
「やっぱそう思う?」
「どう考えても好きだって、それは」
「多分あれだろ。相手が男だから好きなわけないって思い込んでたんだよ。女に置き換えてみろって。即好きって分かんだろ?」
「…たしかに」
「え、俺らはさ、ただ見守って応援しとけばいいわけ?同性だから協力しやすいとは思うけど」
「いや、隣のクラスで絡みないし、無理にお前らがアクションとか起こさなくていいよ。その代わり、俺たぶん、好きって認めた途端めっちゃ顔や言葉に出ちゃうと思うから、周りにバレそうな時はフォローしてほしいかな」
「あはは、丹羽恋する乙女じゃん」
「難易度の高い恋ほど応援しがいがあるな!」
「とりあえず文化祭一緒に回るの誘えば?」
「うん…そうだよな」

 文化祭を誘う前に、俺には難関が待っている…。



 金曜日の放課後、俺は緊張した面持ちで靴箱の外に立っている。
 「丹羽、お待たせ」
時岡が俺の顔を少し覗き込んでくる。
…ドキッ

 「じゃあ、行こっか」
「…うん」

 今日は、梨花ちゃんと約束したお泊まりの日。傍からすれば、男友達の家に泊まりに行くだけに思うだろう。しかし、そんな生ぬるいもんじゃない。だって俺は、時岡を好きだと自覚し、絶賛片想い中の身なんだから。

 2人で梨花ちゃんを保育園へ迎えに行く。
「梨花が朝から丹羽に久々に会えるのすげぇ楽しみにしてた」
「まじで?やべーな、そろそろトーイ王子抜いちゃうかもな」
「あはっ、トーイ王子手強いよ?」
久しぶりに見た時岡の笑顔に頬が染まる。

 え、俺こんな調子で今夜乗り切れる?

「俺、友達が家に泊まるの小学生以来」
「え、そうなの?」
「うん。…だからちょっと緊張してる」
そう言いながら口角を少し上げて、俺を見た時岡はどこか嬉しそうだ。

 やべ…今の表情ズルすぎ。