君の中身が知りたくて

 時岡の見舞いに行った次の日。今日からテスト週間が始まった。
 登校前に時岡から連絡があり、自分も梨花ちゃんも元気になったから、今日から学校、園に行けると教えてくれた。
 靴箱に着くと時岡の姿が見えた。

…ドキッ

 え、なんか今…

 「あ、丹羽。おはよう」
「…おはよ」
「昨日ほんとありがと」
「ううん。むしろいきなり行って悪りぃ」
「びっくりしたけど、俺1人だったら梨花の世話限界になりそうだったから助かった。…あ、そうだ。テスト明けの土曜か日曜ヒマ?梨花が丹羽と行きたいとこあるみたいなんだけど」
「日曜なら空いてるけど…」
「じゃあ、日曜空けててほしい」
「了解」

 時岡の教室前で別れる際、
「また連絡するね、じゃ」
「…うん、また」
特別なやりとりをしているみたいで、少し照れてしまう。


 それからは時岡と校内ですれ違うと、必ずアイコンタクトを交わすようになった。というか、俺が時岡のことを見てたら向こうが気付いてくれる感じ。

 つうか、なんで俺は、時岡のこと探してんだよ…。



 翌週、木曜日の放課後。テスト最終日だった俺は、珍しく平日のスタッフルームに居る。
 「お疲れ様でーす!あれ、丹羽っちだ。平日いるのレアじゃん」
出勤してきた手嶋さんに声をかけられた。
「お疲れ様です。この前の三連休、テスト期間で出勤できず迷惑かけたんで、早く終わった今日は出ようと思って」
「そうなんだね。学生の本業は勉強なんだから、迷惑だなんて思わなくていいのに」
「そういう手嶋さん、フルで出てたじゃないですか」
「私だって試験とか忙しい時は休むよ。というか、彼氏いないから連休暇なだけよ…」
「あ…なんかすいません」
「悲しくなるから謝らないで。丹羽っち、彼女いるんだっけ?」
「いや、いないですよ」
「意外とモテそうなのにね」
「意外とって…」
「好きな子もいないの?」
「好きな…子…」
何故か時岡の顔が頭をよぎって焦った。

 いやいやいや、ないないない…。



 時岡兄妹との約束の日曜日。
 昼過ぎ、時岡の家で待ち合わせし、3人でバスに乗り込んだ。
 その車内で、梨花ちゃんに「俺とどこ行きたいの?」と聞くと予想外の返答に言葉を失う。
「あのねぇ、トーイおうじにあいにいくの!」
「え……。トーイ王子って、この前誕生日お祝いした?」
「うん!かいせーくんあったことないでしょう?」
「う、うん、ないけど…」
 いやいや、こんな展開聞いてないって!だって俺ここにいるよ?いや、俺が休みの日でも園内にトーイ王子はいるけどさ。待って待って、こんなの正体暴くための罠じゃん!…落ち着け、俺。この時間に手嶋さんたちに連絡しても、仕事中だろうから間に合わない。どうにか園内のスタッフと俺が知り合いなことがバレないようにしないと…。

 遊園地に着くと、定期的に来園しているとは思えないほど、梨花ちゃんは俺の手を引きながらルンルンで入場口へ向かう。
 まず第一関門の受付が迫ってくる。窓口にやって来た俺に気付いた受付スタッフは、あ!という顔をしたが、時岡のすぐ後ろで激しく首を横に振り、しーっと人差し指を立てる俺を見て、察してくれたようだった。
 「大人1名分、追加でお願いします」
年パスを掲示した時岡は、俺の分のチケットを購入しようとする。
「え、俺自分で払うって」
「誘ったのこっちだし、お見舞いのお礼も兼ねてるから」
「…ありがと」
…優しい。

 チケットをポケットに入れ、園内を歩き進み始めた。
 やばいな、スタッフに会うたびにさっきみたいにハラハラドキドキしなきゃならねーのか!?…あ!良いこと思いついたかも。
 「悪りぃ、ちょい先行っといて」
俺は急いで受付に戻った。

 「…お疲れ様です」
「あ、丹羽っち。びっくりしたんだけど、何でいるの?」
「すみません、事情は後で説明するんで、ちょっとお願いしてもいいですか?」
「うん?」
「インカムで皆さんに、丹羽がプライベートで園内にいるけど、知らない他人のフリしてって伝えてほしいです!まじ、一生のお願いです!」
「ふふ、訳ありなのね。了解!すぐ伝えておくね」
「ありがとうございます!」

 無事に危機回避を済ませた俺は、初めてお客として園内を楽しむことに専念する。もちろん、梨花ちゃんのしたいこと最優先で。

 「かいせーくん、こっちこっちー!」
常連の梨花ちゃんに案内されながらアトラクションを楽しんでいく。行く先々で、担当スタッフにアイコンタクトされるのは、若干気まずいけど。

 「梨花ちゃん、あそこのクレープ食べない?」
「うん、たべる!」
「俺、買ってくるね。何味がいい?」
「うーんとねぇ、イチゴカスタード!」
「おっけー。時岡は?」
「俺のは要らない」
「遠慮すんなって。チケット奢ってもらったし、ここは奢らせて」
「ありがとう。じゃあ、チョコバナナでお願い」
「はいよー」

 クレープ屋に1人で行くと、スタッフが「あ、訳あり丹羽だ」といじってくる。
「ご迷惑おかけしてまーす。えっと、イチゴカスタードとチョコバナナと…あとキャラメルスペシャルお願いします」

 「はい、梨花ちゃん」
「わぁ、ありがとう!」
「はい」
「ありがと」
 梨花ちゃんを真ん中に挟み、3人でベンチに座ってクレープを食べる。今さらだけど、周りから見ればどういう関係か気になる謎の3人組だよな。
「んー!おいしー!!にぃにもいる?」
「一口もらおっかな」
「はい、どうぞ」
ほんと仲の良い兄妹だよな。
 梨花ちゃんに差し出されたクレープを控えめにかじった時岡。
「かいせーくんもあげる!」
「え、いいの!?」
時岡のかじった反対側を一口食った。
「わたしもかいせーくんのたべてもいーい?」
「もちろん!ここキャラメルたくさんだから美味しいよ」
「…もぐ。…ほんとだ、あまーい!にぃにもたべてみて!」

 えっ…!?…いやいや、さすがに梨花ちゃんの後とはいえ、俺のやつ食わないだろ。…な?

 時岡と目が合い「一口いい?」と言われ、今の流れで断る勇気もなく「…どーぞ…」と答えた。
 梨花ちゃんの頭上あたりで俺のクレープにかぶりついた時岡。俺の目線は無意識に時岡の口元にいってしまって、豪快に食う姿にドキッとする。
「うま。…俺のも食べる?」
口元のクリームをぺろっとしながら聞かれて、思わず「うん」と返事した。
「あ、次の部分バナナないから…」
そう言って一口食べて「ん」とバナナのある美味しい部分を差し出してきた。
 おいおい、わざわざ間接キスになりますアピールしてくんなよ!今ので完全に意識がそっちにいっちまっただろ!…え、こいつ無意識にこんなことしてきてんの?前々から距離感おかしいとは思ってたけどさ…嘘だろ…。

 激しくなっていく鼓動がバレないように必死になる。
「い、いただきます…」
俺が食った瞬間、時岡は優しく口角を上げた。
「……ありがと」
 俺、いま絶対顔真っ赤だと思う…。

 「かいせーくん!トーイおうじいたよー!」
ステージ近くにいたトーイ王子を見つけて走り出す梨花ちゃん。外から動いているトーイ王子を見るのは新鮮だった。
 多分、中に入ってんの横田さんだな。

 「かいせーくん、トーイおうじとしゃしんとったら?」
「え、写真?」
「あ、にぃにと3にんがいいよ!わたし、とってあげる!」
えええー、どんな図だよ!

 時岡のスマホを小さな手で構えた梨花ちゃんは、慣れた手つきでシャッターを押した。
 撮り終えると、トーイ王子は俺をじっと見て大きく頷いた。俺も小さく頷き、その場から離れる。

 つうか、俺が今ここにいて、トーイ王子がいるの見たら、時岡の俺への疑惑晴れたんじゃね?…あれ、でも今はトーイ王子じゃなくて、ウサギを疑われてんのか?そういや、今日ウサギさん見てねぇな。

 「きょうは、にぃにのうさぎさんいなかったね」
俺の脳内を聞いていたかのように梨花ちゃんが時岡に言う。
「だな。会ったらしたいことあったのに」
嫌な予感がする…。
「なにをー?」
「かけっこ」
…え?
「なんでかけっこするのー?」
「ウサギさんの足が速いか確かめたくて。ほら、ウサギと亀の話でも足速いって言ってるだろ?ほんとなのかなって」
…違う。ウサギの中身が俺だと確認するためだ。体育祭で俺の速さを知ったから…。
「にぃいのほうが、はやいんじゃないの?」
「そう思ってたんだけど、予想外に速い可能性あるから」
そう言った時岡の視線は、俺を向いている。
「…。」

 最後に3人で観覧車に乗った。
ー観覧車なんて何年振りだろ…。
 「きょう、すっごくたのしかった!かいせーくんありがとう!」
あぁ、なんて純粋で可愛いんだ。
「こちらこそ楽しい所に連れて来てくれて、トーイ王子も紹介してくれて、本当にありがとね」
「わたし、トーイおうじとけっこんできなかったら、かいせーくんとする!」
「え、俺でいいの!?」
「うん!だってかいせーくんやさしくて、かっこいいもん!」
「えー嬉しすぎるんだけど。梨花ちゃんがトーイ王子とうまくいくように願ってるけど、もしダメだったらいつでも俺んとこおいで」
「やったー!…あ!こんど、りかのおうちにおとまりにきて?」
「お泊まり?」
「ママがしゅっちょう?でいないひがあるの。にぃに、とまっていいよね?」

 待って。クレープ一口食べ合うだけで、あんな感じになっちゃったのに、泊まりとか無理無理!
 …つうか、最近の俺の時岡に対するこの気持ち何…?会えば目で追ってるし、話すとちょっと緊張するし、もっと知りたいなって思うし…。

 「うん、泊まり来てよ」
窓から差し込む陽射しに照らされた時岡は、すげぇ綺麗でカッコいい。そんな姿に見つめられ、こんなこと言われたら心臓止まりそうなんだけど…。あれ、これって友情なんかじゃなくて…まるで…

…恋じゃね?