「あ…もしかして、王子じゃなくてウサギ?」
朝の靴箱で、ろくに挨拶すらした事のない時岡に肩を組まれ、俺は絶体絶命のピンチに陥っている。
「……何の話?」
焦る気持ちを必死に隠し、平然を装いながら言った。肩から腕を離した時岡は、さらに追求してくる。
「うーん、丹羽ってバイトしてる?」
「バイト…して…」
…誰か…誰か助けてくれ!!
「丹羽、おはよう!」
淀金がナイスタイミングで現れ、俺は急いで淀金の腕を引き、足早に教室へ向かった。
つうか、何であんなに知りたがるんだよ。着ぐるみん中が誰とか知らない方が平和に決まってんだろ。それとも、俺の弱みを握って何か要求してくるつもりじゃ…。
「丹羽?」
「え?」
「なに険しい顔してんだよ」
色々考えているうちに教室に着いたようだ。
「つーか、さっき時岡と話してた?」
「なんか急に話しかけられて…」
「え、何で?」
「さぁ…」
着ぐるみの正体じゃないかと疑われているなんて言えない…。
昼休み、鷲尾の席周辺に集まり、コンビニで買ったパンを食っていた。
「つーか、お前らってバンバン外で練習してんのに、あんま焼けねぇよな?」
淀金が鷲尾と片瀬に問いかける。
「お高めの日焼け止めを定期的に塗り直してるからな」
「それでも焼けちゃうけどなぁ」
「へぇ、大変だな。丹羽も夏休み中とか焼けなかったみたいだけど、室内が多かったの?」
「あー…うん、まぁ」
淀金たちには、イベント系のバイトをしているとだけ伝えているため、フェスなどのイベントスタッフをイメージされている。
ある意味外仕事だけど、着ぐるみだから焼けないんだよなぁ。
パンを食い終え、持って来ていた水筒が空になったので、1人で自動販売機へ買いに行く。
珍しく自販機周りには誰もいなくて、完全に気を抜いていた俺は呑気に鼻歌を歌っていた。
ガコンッ…出てきたペットボトルを取り出すと「その曲…」と声がした。
突然の声にビクッとなりながら、パッと振り返ると時岡がいる。
…あ、やべ…。
俺が口ずさんでいたのは、遊園地で流れているテーマ曲。CMでも流れていない、園内でしか聴けない曲だ。
他の奴ならスルー、または、何だよ今の曲、と突っ込んでくるぐらいで済む。だが、相手は年パスを所持し、俺の正体を疑っている時岡。最悪だ、タイミングが悪過ぎる…。
「…。」
自販機と背の高い時岡に挟まれ、圧迫感が半端ない。
20センチ以上の差がある俺を見下ろしながら時岡は口を開く。
「今の曲…何で知ってるの?」
「え…俺、なんか歌ってた?」
苦し紛れの返事を聞いた時岡は、小さな声でテーマ曲を歌い始めた。
嘘だろ、歌詞まで覚えてんのかよ…。つうか、じっと見つめられながら歌われんの、めっちゃ恥ずいんだけど…。
「…って感じの歌なんだけど分かる?」
こいつ、クールなくせに意外としつこい。…この謎のやりとりを終わらせる方法は1つだと分かってる。でも今ここで認めんのは、なんか嫌なんだよなぁ。
「…分かんねぇよ」
冷たく言い、その場から離れた。
「…。」
数日後、来週に控える体育祭に向け、グラウンドで応援合戦の練習が行われていた。
今日は学年ごとで練習するため、1年の6クラス全員集まってるわけだけど…。
「…。」
時岡から熱い?鋭い?視線を感じるのは、俺の勘違いだと思いたい。
俺はそばにいる淀金たちにお願いをする。
「3人とも、俺を囲んでくれー」
「いや、何でだよ」
「誰にも見られたくない気分なんだって」
「大丈夫、囲まなくても見えないって」
「うるせぇ」
「囲まれたら暑くない?大丈夫か?」
なんだかんだ言いつつ俺を囲ってくれた3人。
「そういや、高身長トリオも揃ってリレー出るらしいぞ」
鷲尾の言葉に
「じゃあ、対決できるな!」
と淀金は嬉しそうに言う。
俺たちもリレーに出場予定のため、4人中2人か3人は必ずトリオの誰かと走ることになる。
「脚長いし、速いんだろうな」
「背高い奴って一歩が大きいもんな」
「短足だったら許せるのに」
中心で捻くれ発言をする俺を3人は、ぎゅーっと押してくる。
「おいっ、やめろって」
「丹羽は脚の長さ関係なく速いだろー」
「そーだそーだ。アンカーするくせにー」
「せっかく1位取れてもそんな性格じゃ、女子に嫌われるぞー」
「そーだそーだ」
「…。」
鷲尾たちの隙間から周りを見ると、沢山の女子が時岡たち3人を頬を染め見ている。
あの3人、ムカつくことに背が高いだけじゃなく、顔もまぁまぁ良い。そりゃあ女子は、放っておかないよな。
応援合戦の練習が始まった。うちの高校の体育祭は、種目は縦割りの組対抗戦だが、応援合戦だけは学年対決になっている。1位になった学年全員には、食堂メニューの無料券が貰えるらしい。
練習中の俺は、動きの最終確認をしつつ、不意に感じる時岡からの視線に身構えていた。
「おはようございまーす!」
スタッフルームに入った俺は、すでにほんのり汗をかいている。
一昨日から世間は奇跡の5連休。もちろん遊園地は、連日イベント盛りだくさん。俺はマネージャーの優しさで今日までの3日間は働き、明日明後日は休み。手嶋さんは5連勤するそうだ。
園内の着ぐるみ専属スタッフは俺と手嶋さんだけ。着ぐるみを着られる身長の残り数名のスタッフは別に担当の仕事があり、忙しい時や俺たちが休みの時に代打でキャラクターになってくれる。
夕方、閉園まで約1時間。トーイ王子としての役目を終えた俺は、最後の力を振り絞り、ウサギさんとして風船を持ち、園内を歩き回っていた。
「迷子センターに妹さんをお探しのお兄様1名」
インカムに迷子の情報が流れてきた。
うちの遊園地では、まずスタッフにインカムで迷子の詳細が伝えられ、その後に放送で園内のお客様たちに知らせるようになっている。
「名前はトキオカ リカちゃん。4歳、女の子」
え、リカちゃんが迷子…?
「身長は105センチぐらい。服装はドット柄の水色ワンピース。トーイ王子のポシェットを身につけている。髪型はふたつ結び。レストラン近くのトイレではぐれたそうです」
子供達の相手をしながら、俺もリカちゃんを必死に探す。
10分後、観覧車近くで泣きそうな顔をしているリカちゃんを発見した。
あぁ、良かった…。
俺は下を向くリカちゃんの前にしゃがみ、風船に書いたメッセージを見せた。
『にぃにがまってるよ』
メッセージを読んだリカちゃんは、安心した様子で笑顔になった。
俺はリカちゃんを抱っこして、迷子センターまで送り届けた。
園内を探し回っていた時岡も、スタッフから見つかったと連絡があり、センター内で待機中だった。
「にぃにーー!」
時岡の顔を見て緊張の糸が切れたのか、大粒の涙を流しながら俺から時岡の腕の中へ移動したリカちゃん。
そんなリカちゃんを抱きしめ「怖い思いさせてごめん。もう大丈夫だから」と優しく伝える時岡からは深い愛を感じた。
「ウサギさんにお礼を伝えたいんで、少し話す時間もらってもいいですか?」
センターから出る際、時岡は他のスタッフにそうお願いし、俺を人の少ない場所へ連れて行った。
ベンチに座るリカちゃんは、泣き疲れたようで、時岡に膝枕されスヤスヤ寝ている。
そんな2人と距離を空け、ベンチの端っこに座っているウサギ姿の俺。
「妹のこと見つけてくれてありがとうございました。…あの、ウサギさん。俺のこと覚えてますか?少し前に友達になったんですけど」
ーいや、友達になった覚えはねぇけど…。
そう思いつつ、とりあえず頷いた。
「そういえば自己紹介してなかった。時岡 慎、高校1年です。この子は梨花です」
軽く自己紹介した時岡は、相変わらずのクールな顔で、思いもよらぬことを話し始める。
「うちの親、梨花が2歳の時に離婚してるんです。だから梨花にとって俺は兄でもあり、父親の代わりでもあるんです」
「…。」
「母親は俺たちを育てるために朝から晩まで働きっぱなしで、ゆっくり話す時間もあんまりなくて。俺はもう高校生だから親との時間が少なくても平気だけど、梨花は口に出さないけど寂しいと思ってるはずなんです。だから少しでも寂しさが和らいだら良いなと思って、よくここに連れて来てて…」
そうだったのか…。
「最初に連れて来たのは春頃だったんですけど、その時から梨花はトーイ王子が大好きで…初恋ってやつです」
…え、初恋!?
「初めてトーイ王子に会った時、全力で自分のことをお姫様扱いしてくれたのが、めちゃくちゃ嬉しかったみたいで。そこからはファン通り越して恋してる感じで、ポップ姫に嫉妬してるレベルです」
…やべ、可愛いなそれ。
「でも、ある程度の年齢になったら、中に人が入ってるって分かっちゃうじゃないですかぁ?その時に梨花はどう思うんだろうって1人で考えて、ショックを受けるのか、中の人に会いたいと思うのか…。もし、梨花が中の人に会いたいって言ったら、父親代わりとしては会わせたい気持ちなんですよ」
…ん?
「ただ、梨花に会わせる前に俺が会ってどんな人なのか知っておきたいなと思ってて。変な奴なら会うの阻止したいし」
…んんん?
「だからウサギさん、友達としてお願いがあります。…トーイ王子の中の人、紹介してほしいです」
…いや、何でだよっ!!……あ、だからあんなにしつこく正体を知りたがってきたのか。
「…。」
妹を想う気持ちは痛いほど分かる。こんな事情聞かされて心が動きそうになる気持ちもある。だけど、今はまだ教えるわけにはいかねぇよ。
俺は心を鬼にして首を大きく横に振り、両手でバツのジェスチャーをした。
「俺たち親友なのに…」
おい、いつ親友に昇格したんだよ。
「…分かりました。今日は諦めます。またお願いしに来るんで、気が変わったら教えて下さい。…じゃあ、今日は本当にありがとうございました」
会釈し、リカちゃんをおんぶした時岡は、出口に向かい帰って行く。その後ろ姿を見ながら俺は思う。
トーイ王子の中身が俺だと分かったら、どう思うんだろ。堂々とリカちゃんに会わせる?それとも、こんな器の小さい嘘つき男はアウト?
朝の靴箱で、ろくに挨拶すらした事のない時岡に肩を組まれ、俺は絶体絶命のピンチに陥っている。
「……何の話?」
焦る気持ちを必死に隠し、平然を装いながら言った。肩から腕を離した時岡は、さらに追求してくる。
「うーん、丹羽ってバイトしてる?」
「バイト…して…」
…誰か…誰か助けてくれ!!
「丹羽、おはよう!」
淀金がナイスタイミングで現れ、俺は急いで淀金の腕を引き、足早に教室へ向かった。
つうか、何であんなに知りたがるんだよ。着ぐるみん中が誰とか知らない方が平和に決まってんだろ。それとも、俺の弱みを握って何か要求してくるつもりじゃ…。
「丹羽?」
「え?」
「なに険しい顔してんだよ」
色々考えているうちに教室に着いたようだ。
「つーか、さっき時岡と話してた?」
「なんか急に話しかけられて…」
「え、何で?」
「さぁ…」
着ぐるみの正体じゃないかと疑われているなんて言えない…。
昼休み、鷲尾の席周辺に集まり、コンビニで買ったパンを食っていた。
「つーか、お前らってバンバン外で練習してんのに、あんま焼けねぇよな?」
淀金が鷲尾と片瀬に問いかける。
「お高めの日焼け止めを定期的に塗り直してるからな」
「それでも焼けちゃうけどなぁ」
「へぇ、大変だな。丹羽も夏休み中とか焼けなかったみたいだけど、室内が多かったの?」
「あー…うん、まぁ」
淀金たちには、イベント系のバイトをしているとだけ伝えているため、フェスなどのイベントスタッフをイメージされている。
ある意味外仕事だけど、着ぐるみだから焼けないんだよなぁ。
パンを食い終え、持って来ていた水筒が空になったので、1人で自動販売機へ買いに行く。
珍しく自販機周りには誰もいなくて、完全に気を抜いていた俺は呑気に鼻歌を歌っていた。
ガコンッ…出てきたペットボトルを取り出すと「その曲…」と声がした。
突然の声にビクッとなりながら、パッと振り返ると時岡がいる。
…あ、やべ…。
俺が口ずさんでいたのは、遊園地で流れているテーマ曲。CMでも流れていない、園内でしか聴けない曲だ。
他の奴ならスルー、または、何だよ今の曲、と突っ込んでくるぐらいで済む。だが、相手は年パスを所持し、俺の正体を疑っている時岡。最悪だ、タイミングが悪過ぎる…。
「…。」
自販機と背の高い時岡に挟まれ、圧迫感が半端ない。
20センチ以上の差がある俺を見下ろしながら時岡は口を開く。
「今の曲…何で知ってるの?」
「え…俺、なんか歌ってた?」
苦し紛れの返事を聞いた時岡は、小さな声でテーマ曲を歌い始めた。
嘘だろ、歌詞まで覚えてんのかよ…。つうか、じっと見つめられながら歌われんの、めっちゃ恥ずいんだけど…。
「…って感じの歌なんだけど分かる?」
こいつ、クールなくせに意外としつこい。…この謎のやりとりを終わらせる方法は1つだと分かってる。でも今ここで認めんのは、なんか嫌なんだよなぁ。
「…分かんねぇよ」
冷たく言い、その場から離れた。
「…。」
数日後、来週に控える体育祭に向け、グラウンドで応援合戦の練習が行われていた。
今日は学年ごとで練習するため、1年の6クラス全員集まってるわけだけど…。
「…。」
時岡から熱い?鋭い?視線を感じるのは、俺の勘違いだと思いたい。
俺はそばにいる淀金たちにお願いをする。
「3人とも、俺を囲んでくれー」
「いや、何でだよ」
「誰にも見られたくない気分なんだって」
「大丈夫、囲まなくても見えないって」
「うるせぇ」
「囲まれたら暑くない?大丈夫か?」
なんだかんだ言いつつ俺を囲ってくれた3人。
「そういや、高身長トリオも揃ってリレー出るらしいぞ」
鷲尾の言葉に
「じゃあ、対決できるな!」
と淀金は嬉しそうに言う。
俺たちもリレーに出場予定のため、4人中2人か3人は必ずトリオの誰かと走ることになる。
「脚長いし、速いんだろうな」
「背高い奴って一歩が大きいもんな」
「短足だったら許せるのに」
中心で捻くれ発言をする俺を3人は、ぎゅーっと押してくる。
「おいっ、やめろって」
「丹羽は脚の長さ関係なく速いだろー」
「そーだそーだ。アンカーするくせにー」
「せっかく1位取れてもそんな性格じゃ、女子に嫌われるぞー」
「そーだそーだ」
「…。」
鷲尾たちの隙間から周りを見ると、沢山の女子が時岡たち3人を頬を染め見ている。
あの3人、ムカつくことに背が高いだけじゃなく、顔もまぁまぁ良い。そりゃあ女子は、放っておかないよな。
応援合戦の練習が始まった。うちの高校の体育祭は、種目は縦割りの組対抗戦だが、応援合戦だけは学年対決になっている。1位になった学年全員には、食堂メニューの無料券が貰えるらしい。
練習中の俺は、動きの最終確認をしつつ、不意に感じる時岡からの視線に身構えていた。
「おはようございまーす!」
スタッフルームに入った俺は、すでにほんのり汗をかいている。
一昨日から世間は奇跡の5連休。もちろん遊園地は、連日イベント盛りだくさん。俺はマネージャーの優しさで今日までの3日間は働き、明日明後日は休み。手嶋さんは5連勤するそうだ。
園内の着ぐるみ専属スタッフは俺と手嶋さんだけ。着ぐるみを着られる身長の残り数名のスタッフは別に担当の仕事があり、忙しい時や俺たちが休みの時に代打でキャラクターになってくれる。
夕方、閉園まで約1時間。トーイ王子としての役目を終えた俺は、最後の力を振り絞り、ウサギさんとして風船を持ち、園内を歩き回っていた。
「迷子センターに妹さんをお探しのお兄様1名」
インカムに迷子の情報が流れてきた。
うちの遊園地では、まずスタッフにインカムで迷子の詳細が伝えられ、その後に放送で園内のお客様たちに知らせるようになっている。
「名前はトキオカ リカちゃん。4歳、女の子」
え、リカちゃんが迷子…?
「身長は105センチぐらい。服装はドット柄の水色ワンピース。トーイ王子のポシェットを身につけている。髪型はふたつ結び。レストラン近くのトイレではぐれたそうです」
子供達の相手をしながら、俺もリカちゃんを必死に探す。
10分後、観覧車近くで泣きそうな顔をしているリカちゃんを発見した。
あぁ、良かった…。
俺は下を向くリカちゃんの前にしゃがみ、風船に書いたメッセージを見せた。
『にぃにがまってるよ』
メッセージを読んだリカちゃんは、安心した様子で笑顔になった。
俺はリカちゃんを抱っこして、迷子センターまで送り届けた。
園内を探し回っていた時岡も、スタッフから見つかったと連絡があり、センター内で待機中だった。
「にぃにーー!」
時岡の顔を見て緊張の糸が切れたのか、大粒の涙を流しながら俺から時岡の腕の中へ移動したリカちゃん。
そんなリカちゃんを抱きしめ「怖い思いさせてごめん。もう大丈夫だから」と優しく伝える時岡からは深い愛を感じた。
「ウサギさんにお礼を伝えたいんで、少し話す時間もらってもいいですか?」
センターから出る際、時岡は他のスタッフにそうお願いし、俺を人の少ない場所へ連れて行った。
ベンチに座るリカちゃんは、泣き疲れたようで、時岡に膝枕されスヤスヤ寝ている。
そんな2人と距離を空け、ベンチの端っこに座っているウサギ姿の俺。
「妹のこと見つけてくれてありがとうございました。…あの、ウサギさん。俺のこと覚えてますか?少し前に友達になったんですけど」
ーいや、友達になった覚えはねぇけど…。
そう思いつつ、とりあえず頷いた。
「そういえば自己紹介してなかった。時岡 慎、高校1年です。この子は梨花です」
軽く自己紹介した時岡は、相変わらずのクールな顔で、思いもよらぬことを話し始める。
「うちの親、梨花が2歳の時に離婚してるんです。だから梨花にとって俺は兄でもあり、父親の代わりでもあるんです」
「…。」
「母親は俺たちを育てるために朝から晩まで働きっぱなしで、ゆっくり話す時間もあんまりなくて。俺はもう高校生だから親との時間が少なくても平気だけど、梨花は口に出さないけど寂しいと思ってるはずなんです。だから少しでも寂しさが和らいだら良いなと思って、よくここに連れて来てて…」
そうだったのか…。
「最初に連れて来たのは春頃だったんですけど、その時から梨花はトーイ王子が大好きで…初恋ってやつです」
…え、初恋!?
「初めてトーイ王子に会った時、全力で自分のことをお姫様扱いしてくれたのが、めちゃくちゃ嬉しかったみたいで。そこからはファン通り越して恋してる感じで、ポップ姫に嫉妬してるレベルです」
…やべ、可愛いなそれ。
「でも、ある程度の年齢になったら、中に人が入ってるって分かっちゃうじゃないですかぁ?その時に梨花はどう思うんだろうって1人で考えて、ショックを受けるのか、中の人に会いたいと思うのか…。もし、梨花が中の人に会いたいって言ったら、父親代わりとしては会わせたい気持ちなんですよ」
…ん?
「ただ、梨花に会わせる前に俺が会ってどんな人なのか知っておきたいなと思ってて。変な奴なら会うの阻止したいし」
…んんん?
「だからウサギさん、友達としてお願いがあります。…トーイ王子の中の人、紹介してほしいです」
…いや、何でだよっ!!……あ、だからあんなにしつこく正体を知りたがってきたのか。
「…。」
妹を想う気持ちは痛いほど分かる。こんな事情聞かされて心が動きそうになる気持ちもある。だけど、今はまだ教えるわけにはいかねぇよ。
俺は心を鬼にして首を大きく横に振り、両手でバツのジェスチャーをした。
「俺たち親友なのに…」
おい、いつ親友に昇格したんだよ。
「…分かりました。今日は諦めます。またお願いしに来るんで、気が変わったら教えて下さい。…じゃあ、今日は本当にありがとうございました」
会釈し、リカちゃんをおんぶした時岡は、出口に向かい帰って行く。その後ろ姿を見ながら俺は思う。
トーイ王子の中身が俺だと分かったら、どう思うんだろ。堂々とリカちゃんに会わせる?それとも、こんな器の小さい嘘つき男はアウト?



