月末の日曜日。朝からトーイ王子になっている俺は、合間でウサギになりつつ、いつも以上にキビキビと働いていた。
園内の時計が17時半を指し、ウサギ姿の俺は急いでスタッフルームに戻った。
先に着替え終わっていた手嶋さんが、ウサギの頭を取った俺をうちわで仰いでくれながら、話しかけてくる。
「丹羽っち、今日参加するんでしょ?」
「はい。手嶋さんも参加ですっけ?」
「私は去年参加したから、今日はもう帰るよ」
「そうなんですね」
「楽しんでね。じゃ、お疲れ様」
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
私服姿に着替えた俺は、再び園内に移動する。
外はちょうど暗くなり始めていて、大きな広場に向かって歩くお客様たちの後ろをキョロキョロしながらついて行く。
「丹羽!」
「…っ!」
待ち合わせをしていた時岡が現れ、疲れが吹き飛んだ俺は駆け寄った。
「悪りぃ、待たせて」
「全然。…お疲れ様」
「ありがと」
広場に着いたタイミングで、司会役の先輩スタッフが進行をする。
「えー、皆様、本日は冬のスカイランタンフェスにご参加いただき、誠にありがとうございます!」
そう、今日は1年に一度行われるランタンイベントの日。事前申し込みした人のみ参加でき、1組に一基ランタンが配られる。
「皆様の想いが通じたのか、今夜はとても星が綺麗に見え、風も少なく、ランタンを飛ばすための日と言っても過言ではありません。では早速、ランタンについての説明をさせていただきます」
説明が終わった後、自分たちのランタンに願い事を書いていく。
「何お願いするの?」
「そりゃあ…」
大きな字で書いたのは、
“同じクラスになれますように”
「これしか今は思い浮かばなかった。もちろん、3年も同じになりてぇけど、修学旅行もあるし、一緒に学校生活楽しむなら絶対2年で同じがいい!」
「たしかに。じゃあ、その願いは丹羽に託すとして、俺は…」
時岡が綺麗な字で書いた願いは…
“永遠を誓えますように”
「いつかさ、どんな形でもいいから、2人の未来が一緒になったら嬉しいと思って」
「…。」
それぞれランタンの灯りをつけ、司会者のカウントダウンが始まった。
「5、4、3、2、1、スカイランターン!!」
一斉に夜空へ飛んでいくランタン。その光景は想像していたよりも綺麗で、写真を撮り忘れてしまうほどだった。
「綺麗だな」
「うん」
参加者が全員空を見上げている中、俺たちはこっそり手を繋いだ。
永遠を誓う日が来れば、いつでもどこでもこの手を離さずに済むんだろうな。
夕飯を店で食べた俺たちは、解散せずに俺の家へ帰った。
「夜分遅くに申し訳ありません」
「もぉー、そんな堅苦しくしないで。もう夕飯済ませたんだよね?」
「うん」
「さっきお風呂ちょうど沸いたから、身体が冷えないうちに入っておいで」
母さんのこの言い方は、また2人で入ると思っている。
時岡を見ると、一緒に入るに決まってるでしょって顔と目が合う。
「…。」
湯船に浸かる俺は、やっぱり1人で入るべきだったと後悔している。付き合ってからの時岡の本領発揮を一瞬忘れてしまっていた。
「この入浴剤、めっちゃいい匂い」
時岡の声が俺の耳元で響くのは、後ろから包み込まれる体勢になっているからだ。
素っ裸で、この密着度…。リビングに母さんがいるから余計にハラハラドキドキする。
「明日どうする?」
明日は卒業式だから、委員会や部活に入っていない俺と時岡は学校が休みだ。
「2ヶ月記念だし、どっか出掛ける?」
「そだね。天気も良さそうだし」
「よし、風呂上がったらおすすめスポット検索してみるか」
「了解」
ー付き合って2ヶ月か。一瞬だったな。
「…こっち向いて」
「ん?」
…ちゅっ
「…っ」
…ちゅ…くちゅっ…んっ…
キスをするたびに音が反響して、無駄にエロく感じる。
唇が離れ、色気全開の時岡が軽く口角を上げ言ってくる。
「丹羽えろ」
…いや、お前がなっ!
翌朝、時岡の「丹羽、起きて」の声で目が覚めた。
「…おはよ」
「おはよう」
「今、何時?」
「もう9時過ぎ」
「まじか、結構寝たな」
母さんたちはすでに出て行った後で、リビングのテーブルには置き手紙があった。
『おはよう!冷蔵庫のおにぎり温めて食べてね』
指示通りおにぎりをあっためて、インスタントの味噌汁にお湯を注いだ。
「いただきまーす」
「いただきます」
おにぎりを頬張りながら、2人だけで朝飯を食うの初めてだなと思い、一緒に暮らしたらこんな感じなのかな?とか考えてる俺は、相当浮かれている。
「あのさ、やっぱ午前中は家でゆっくりしない?」
「別にいいけど、遠出しなくて大丈夫か?」
「2人で出掛けるのは他の日でも出来るけど、こんな風に誰にも邪魔されない2人きりって貴重だなと思って」
「まぁ、確かにそうだな」
「いっぱいイチャつきたいし」
「…ごほっ、ごほっ…」
「大丈夫?」
ー朝から何言ってきてんだよ…。
「…大丈夫」
「あ、スマホ部屋に忘れた」
朝飯が終わって、時岡のスマホを取りに2階へ上がった。
「あれ、充電できてない」
「うまく挿せてなかったんじゃね?」
「かもね」
時岡は充電器のコネクタをスマホに挿し直した。
「どうする?下に戻っ…」
…ぎゅっ
いきなり時岡が抱きしめてくる。
「…えっ、どした」
「充電終わるまでイチャつこうと思っただけ」
「だけって…」
「嫌?」
「嫌じゃねぇけど…」
恥ずかしくなる俺をぐいっと抱き上げ、そのままベッドに転ばせた時岡。
そして隣に寝転んできて、じっと見つめながら唇をそっと指でなぞってくる。
「…どこまで触れていい?」
…ドクンッ
「どこ…まで…」
長い指が唇から首筋へすーっと移動していく。
…ごくん…
綺麗な指先でもっと触れてほしいのか、その透き通る肌に思う存分触れたいのか。どちらにせよ、深く触れ合えることがどれだけ幸せなことなのか早く噛み締めたい。
「…どこまでも…どうぞ」
「ふふっ。じゃあ、お言葉に甘えて…」
スマホの充電が終わっても、時岡の唇が、指先が、肌が、俺に触れ続けて離れない。
「好き」「可愛い」「まだいい?」不意の甘い言葉がさらに体温を上昇させる。
いつもはクールで掴めない時岡の感情が、ストレートにぶつかってくる。それがたまらなく嬉しくて、愛おしい。
俺いま…世界一幸せかも。
約3週間後。体育館では、修了式が行われていた。3年生のいない体育館はいつもより広くて、少し寂しい。
ーこんな風に斜め後ろから時岡を見るのも最後かもなぁ。
「あー、今日で1年も終わりかぁ」
最後のホームルームが終わり、渡り廊下で淀金たちと話していた。
「あっという間だったな」
「2年も同じクラスになれっかな?」
「6クラスあるし、4人全員一緒は無理だろ」
「だよなー。よし、職員室のパソコンハッキングして名簿の中いじるか!」
「淀金にそんな技術あんの?」
「…ない!」
「なんだよ。まぁ、せめて2人ずつがいいな」
「つうか丹羽は、俺らより時岡とがいいだろ?」
「何言ってんだよ。どっちもに決まってんだろ」
「おいおい、恋も友情も希望するなんて、贅沢な奴だな」
「短い青春を謳歌するなら、貪欲じゃなきゃだろー」
「独り身の俺や片瀬はどうすんだよー。謳歌負けじゃんか」
「謳歌負けってなんだよ」
「俺は彼女いなくても大丈夫だけど」
「うわ、余裕こいてんな。…あっ、丹羽の愛しの彼氏はっけーん!」
両手を双眼鏡みたいにした淀金は、下を見ている。俺たち4人の視線は、1人で歩く時岡の後ろ姿を捉えた。
「前にさ、こっから時岡が気付くように祈ったの懐かしくね?」
「あーそんなことしたなぁ!」
「またやってみる?」
「やっちゃうか」
こいつらのふざけたノリは永遠だな。
祈りを捧げ始めた3人の横で、頬杖をつきながら時岡の後ろ姿を見ていた。
ただ歩く後ろ姿もかっこいいとか何なの。あぁー、好き。
心の中で呟いた瞬間、時岡が振り向き上を見た。
「あ…」
俺の声に淀金たちも目を開け「おぉ!やっぱ俺らすげぇー!」と盛り上がりだす。
「丹羽!愛叫んどけって!」
「はぁ!?誰かに聞かれたらどーすんだよっ」
「俺らが横でふざけてたらガチだと思われないって」
「ふざけるって何を…」
そう言ってる間に鷲尾が手でLとO、片瀬がVと E、淀金がハートを作った。
…どんだけ器用なんだよ。
「はぁ…」
ここまできたら仕方ない。淀金たちのおふざけを微笑ましく見ている時岡に大声で叫んだ。
「すぅーっ…時岡ー!愛してるーーーっ!!」
思った以上に声が響いて焦る俺に対し、時岡は満面の笑みを浮かべ、
「知ってるー!」
と答えた。
2人きりと違い、人前では簡単に「俺も」とか「好き」とか言わないのが時岡らしいなと思う。
「一緒に帰んなくていいの?」
「あー…」
「俺らのことは気にせず」
「うんうん。来週会うし」
「…ありがと。…時岡、そっち行くから待っててー!…じゃ、お先に」
「お疲れ」
「またなー」
「淀金たちと帰らなくて大丈夫だったの?」
「うん、大丈夫。俺は欲張りだから」
「…?」
馬鹿げたようでキラキラ輝いてる友情も、甘さと優しさに溺れるような恋も、着ぐるみとして誰かの心を癒す時間も、ずっとずっと永遠に続いてほしい。
「同じクラスになれるように神社に願掛けでも行く?」
「俺ら大吉だし、ランタン飛ばしたし、大丈夫だろ」
「あはは、たしかにね。…もし、違ったらショックだな」
「クラス違っても今まで通りのペースで会えばいいし、遊園地に来ればもっと会えるし」
「そだね。俺しか知らない丹羽が待ってるもんね」
「トーイ王子は皆んなのもんだけどな」
あの日、俺の声を聞いたのが時岡で良かった。この特別が無くならないように、トーイ王子の中身が俺なことは、もう少しだけ2人だけの秘密にしておこう。
園内の時計が17時半を指し、ウサギ姿の俺は急いでスタッフルームに戻った。
先に着替え終わっていた手嶋さんが、ウサギの頭を取った俺をうちわで仰いでくれながら、話しかけてくる。
「丹羽っち、今日参加するんでしょ?」
「はい。手嶋さんも参加ですっけ?」
「私は去年参加したから、今日はもう帰るよ」
「そうなんですね」
「楽しんでね。じゃ、お疲れ様」
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
私服姿に着替えた俺は、再び園内に移動する。
外はちょうど暗くなり始めていて、大きな広場に向かって歩くお客様たちの後ろをキョロキョロしながらついて行く。
「丹羽!」
「…っ!」
待ち合わせをしていた時岡が現れ、疲れが吹き飛んだ俺は駆け寄った。
「悪りぃ、待たせて」
「全然。…お疲れ様」
「ありがと」
広場に着いたタイミングで、司会役の先輩スタッフが進行をする。
「えー、皆様、本日は冬のスカイランタンフェスにご参加いただき、誠にありがとうございます!」
そう、今日は1年に一度行われるランタンイベントの日。事前申し込みした人のみ参加でき、1組に一基ランタンが配られる。
「皆様の想いが通じたのか、今夜はとても星が綺麗に見え、風も少なく、ランタンを飛ばすための日と言っても過言ではありません。では早速、ランタンについての説明をさせていただきます」
説明が終わった後、自分たちのランタンに願い事を書いていく。
「何お願いするの?」
「そりゃあ…」
大きな字で書いたのは、
“同じクラスになれますように”
「これしか今は思い浮かばなかった。もちろん、3年も同じになりてぇけど、修学旅行もあるし、一緒に学校生活楽しむなら絶対2年で同じがいい!」
「たしかに。じゃあ、その願いは丹羽に託すとして、俺は…」
時岡が綺麗な字で書いた願いは…
“永遠を誓えますように”
「いつかさ、どんな形でもいいから、2人の未来が一緒になったら嬉しいと思って」
「…。」
それぞれランタンの灯りをつけ、司会者のカウントダウンが始まった。
「5、4、3、2、1、スカイランターン!!」
一斉に夜空へ飛んでいくランタン。その光景は想像していたよりも綺麗で、写真を撮り忘れてしまうほどだった。
「綺麗だな」
「うん」
参加者が全員空を見上げている中、俺たちはこっそり手を繋いだ。
永遠を誓う日が来れば、いつでもどこでもこの手を離さずに済むんだろうな。
夕飯を店で食べた俺たちは、解散せずに俺の家へ帰った。
「夜分遅くに申し訳ありません」
「もぉー、そんな堅苦しくしないで。もう夕飯済ませたんだよね?」
「うん」
「さっきお風呂ちょうど沸いたから、身体が冷えないうちに入っておいで」
母さんのこの言い方は、また2人で入ると思っている。
時岡を見ると、一緒に入るに決まってるでしょって顔と目が合う。
「…。」
湯船に浸かる俺は、やっぱり1人で入るべきだったと後悔している。付き合ってからの時岡の本領発揮を一瞬忘れてしまっていた。
「この入浴剤、めっちゃいい匂い」
時岡の声が俺の耳元で響くのは、後ろから包み込まれる体勢になっているからだ。
素っ裸で、この密着度…。リビングに母さんがいるから余計にハラハラドキドキする。
「明日どうする?」
明日は卒業式だから、委員会や部活に入っていない俺と時岡は学校が休みだ。
「2ヶ月記念だし、どっか出掛ける?」
「そだね。天気も良さそうだし」
「よし、風呂上がったらおすすめスポット検索してみるか」
「了解」
ー付き合って2ヶ月か。一瞬だったな。
「…こっち向いて」
「ん?」
…ちゅっ
「…っ」
…ちゅ…くちゅっ…んっ…
キスをするたびに音が反響して、無駄にエロく感じる。
唇が離れ、色気全開の時岡が軽く口角を上げ言ってくる。
「丹羽えろ」
…いや、お前がなっ!
翌朝、時岡の「丹羽、起きて」の声で目が覚めた。
「…おはよ」
「おはよう」
「今、何時?」
「もう9時過ぎ」
「まじか、結構寝たな」
母さんたちはすでに出て行った後で、リビングのテーブルには置き手紙があった。
『おはよう!冷蔵庫のおにぎり温めて食べてね』
指示通りおにぎりをあっためて、インスタントの味噌汁にお湯を注いだ。
「いただきまーす」
「いただきます」
おにぎりを頬張りながら、2人だけで朝飯を食うの初めてだなと思い、一緒に暮らしたらこんな感じなのかな?とか考えてる俺は、相当浮かれている。
「あのさ、やっぱ午前中は家でゆっくりしない?」
「別にいいけど、遠出しなくて大丈夫か?」
「2人で出掛けるのは他の日でも出来るけど、こんな風に誰にも邪魔されない2人きりって貴重だなと思って」
「まぁ、確かにそうだな」
「いっぱいイチャつきたいし」
「…ごほっ、ごほっ…」
「大丈夫?」
ー朝から何言ってきてんだよ…。
「…大丈夫」
「あ、スマホ部屋に忘れた」
朝飯が終わって、時岡のスマホを取りに2階へ上がった。
「あれ、充電できてない」
「うまく挿せてなかったんじゃね?」
「かもね」
時岡は充電器のコネクタをスマホに挿し直した。
「どうする?下に戻っ…」
…ぎゅっ
いきなり時岡が抱きしめてくる。
「…えっ、どした」
「充電終わるまでイチャつこうと思っただけ」
「だけって…」
「嫌?」
「嫌じゃねぇけど…」
恥ずかしくなる俺をぐいっと抱き上げ、そのままベッドに転ばせた時岡。
そして隣に寝転んできて、じっと見つめながら唇をそっと指でなぞってくる。
「…どこまで触れていい?」
…ドクンッ
「どこ…まで…」
長い指が唇から首筋へすーっと移動していく。
…ごくん…
綺麗な指先でもっと触れてほしいのか、その透き通る肌に思う存分触れたいのか。どちらにせよ、深く触れ合えることがどれだけ幸せなことなのか早く噛み締めたい。
「…どこまでも…どうぞ」
「ふふっ。じゃあ、お言葉に甘えて…」
スマホの充電が終わっても、時岡の唇が、指先が、肌が、俺に触れ続けて離れない。
「好き」「可愛い」「まだいい?」不意の甘い言葉がさらに体温を上昇させる。
いつもはクールで掴めない時岡の感情が、ストレートにぶつかってくる。それがたまらなく嬉しくて、愛おしい。
俺いま…世界一幸せかも。
約3週間後。体育館では、修了式が行われていた。3年生のいない体育館はいつもより広くて、少し寂しい。
ーこんな風に斜め後ろから時岡を見るのも最後かもなぁ。
「あー、今日で1年も終わりかぁ」
最後のホームルームが終わり、渡り廊下で淀金たちと話していた。
「あっという間だったな」
「2年も同じクラスになれっかな?」
「6クラスあるし、4人全員一緒は無理だろ」
「だよなー。よし、職員室のパソコンハッキングして名簿の中いじるか!」
「淀金にそんな技術あんの?」
「…ない!」
「なんだよ。まぁ、せめて2人ずつがいいな」
「つうか丹羽は、俺らより時岡とがいいだろ?」
「何言ってんだよ。どっちもに決まってんだろ」
「おいおい、恋も友情も希望するなんて、贅沢な奴だな」
「短い青春を謳歌するなら、貪欲じゃなきゃだろー」
「独り身の俺や片瀬はどうすんだよー。謳歌負けじゃんか」
「謳歌負けってなんだよ」
「俺は彼女いなくても大丈夫だけど」
「うわ、余裕こいてんな。…あっ、丹羽の愛しの彼氏はっけーん!」
両手を双眼鏡みたいにした淀金は、下を見ている。俺たち4人の視線は、1人で歩く時岡の後ろ姿を捉えた。
「前にさ、こっから時岡が気付くように祈ったの懐かしくね?」
「あーそんなことしたなぁ!」
「またやってみる?」
「やっちゃうか」
こいつらのふざけたノリは永遠だな。
祈りを捧げ始めた3人の横で、頬杖をつきながら時岡の後ろ姿を見ていた。
ただ歩く後ろ姿もかっこいいとか何なの。あぁー、好き。
心の中で呟いた瞬間、時岡が振り向き上を見た。
「あ…」
俺の声に淀金たちも目を開け「おぉ!やっぱ俺らすげぇー!」と盛り上がりだす。
「丹羽!愛叫んどけって!」
「はぁ!?誰かに聞かれたらどーすんだよっ」
「俺らが横でふざけてたらガチだと思われないって」
「ふざけるって何を…」
そう言ってる間に鷲尾が手でLとO、片瀬がVと E、淀金がハートを作った。
…どんだけ器用なんだよ。
「はぁ…」
ここまできたら仕方ない。淀金たちのおふざけを微笑ましく見ている時岡に大声で叫んだ。
「すぅーっ…時岡ー!愛してるーーーっ!!」
思った以上に声が響いて焦る俺に対し、時岡は満面の笑みを浮かべ、
「知ってるー!」
と答えた。
2人きりと違い、人前では簡単に「俺も」とか「好き」とか言わないのが時岡らしいなと思う。
「一緒に帰んなくていいの?」
「あー…」
「俺らのことは気にせず」
「うんうん。来週会うし」
「…ありがと。…時岡、そっち行くから待っててー!…じゃ、お先に」
「お疲れ」
「またなー」
「淀金たちと帰らなくて大丈夫だったの?」
「うん、大丈夫。俺は欲張りだから」
「…?」
馬鹿げたようでキラキラ輝いてる友情も、甘さと優しさに溺れるような恋も、着ぐるみとして誰かの心を癒す時間も、ずっとずっと永遠に続いてほしい。
「同じクラスになれるように神社に願掛けでも行く?」
「俺ら大吉だし、ランタン飛ばしたし、大丈夫だろ」
「あはは、たしかにね。…もし、違ったらショックだな」
「クラス違っても今まで通りのペースで会えばいいし、遊園地に来ればもっと会えるし」
「そだね。俺しか知らない丹羽が待ってるもんね」
「トーイ王子は皆んなのもんだけどな」
あの日、俺の声を聞いたのが時岡で良かった。この特別が無くならないように、トーイ王子の中身が俺なことは、もう少しだけ2人だけの秘密にしておこう。



