君の中身が知りたくて

 2月になり、今日からテスト週間が始まった。
「頭シャキッとするように、あえて窓開ける?」
俺や鷲尾たち4人は、放課後の教室でテスト勉強をしている。
「開けるなら1センチ未満にして」
「それ意味ねーじゃん」
「冬の隙間風の威力なめんなよ」
「はいはい」

 1時間後、ある程度出題範囲を復習し終わり、集中力が切れた俺たちは、ノートを広げたまま他愛ない話をする。
「春休み、順番にお泊まり会しようぜ」
「4泊5日ってこと?」
「1泊2日を4回?」
「うわー、どっちもしんど!」
「誰かの家に2泊とかの方がよくね?」
「だな。じゃあ、丹羽ん家で!」
「はぁ!?なんでだよ」
「すげー快適なんだもん。風呂は広いし、飯美味いし、寝心地良いし」
「寝心地良かったのは、お前が俺を抱き枕にしてたからだろうが」
「え、そうだっけ?…あ!」
 淀金がドアの方を見ていきなり発したので、みんなで振り向くと時岡がいた。
「お疲れ様」
「お疲れ」
「ちょっとだけ丹羽借りてもいい?」
時岡は3人に尋ねた。
「どーぞどーぞ!むしろ、こっちが借りてる身なんで」
「ふふ、ありがと」
「…?」
 なぜ呼ばれたのか分からないまま、手ぶらで時岡のいる廊下へ出た。

 誰もいない階段の踊り場に着くと時岡は足を止めた。
「なんか急用?」
そう言った瞬間、時岡が俺の右手を持ち上げ、手首に何かをはめた。
「…っ!?」
手首を確認すると、シルバーのバングルが付けられている。
「…これ…」
「今日で1ヶ月だから。安物で申し訳ないけど」
「え…あっ、1ヶ月記念日!」
「うん」
「待って、俺何も用意してねーよ。ほんとごめん!」
「別に要らないって。俺が勝手にしただけだから」

 たった1ヶ月でアクセサリーをプレゼントするなんて重い男だと思う奴もいるかもしれねーけど、今の俺はそんなこと1ミリも思わない。

 「…時岡、ちょいしゃがんで」
「…?」
顔の高さが同じになり、
…ちゅ
俺は時岡へキスをした。
「…ありがと、大切にする」
「うん」


 学年末テストが終わるまで、2人で会うことはせず、毎日の連絡と校内ですれ違う際のアイコンタクトで我慢した。



 今年のバレンタインは日曜日のため、女子たちが学校で誰かにチョコを渡すとすれば、金曜日の今日か、週明けの月曜日だ。

 昼休みに鷲尾と購買でパンを買い、教室に戻ろうとしていたら、何やら廊下が騒がしい。沢山の女子が隣のクラスを覗き、その手にはラッピングされた…チョコがある。

ーこれって…もしや…

 予想は的中し、ドアから高身長トリオが出てきた。誰か1人に渡すパターン、全員に渡すパターンがあるようで、瞬く間に3人の腕の中は大量のチョコで埋め尽くされた。
「わー、モテモテだな」
「だな」
「大丈夫?ヤキモチ妬いてないか?」
「妬いてねぇよ」

 彼氏のモテモテ現場を素通りし、教室に入った。
「さっきの光景、月曜日にも見んのかな」
席に座りながら鷲尾は言う。
「え、何が?」
先に昼飯を食っていた淀金が問いかけた。
「高身長トリオが大量のチョコをもらってたんだよ」
「え、まじで!?放課後じゃなくて、昼休み狙いなのかー」
「放課後よりタイミング合わせやすそうだしな」
「放課後にもらう可能性もあるし、月曜日もありえるし…え、どんだけもらうのあいつら」
「丹羽は大丈夫なの?」
片瀬が鷲尾と同じようなことを聞いてくる。
「うん」
「お、正妻の余裕ですな!」
「そんなじゃねーよ。せっかく用意してくれるんだし、受け取ればって前に伝えてたし、ヤキモチよりも同じ男として悔しいって感じ」
「あーそっちね。大丈夫、丹羽だってもらえるチャンスあるって。鷲尾は安定の本命チョコだろ?」
「まぁな。日曜日デートするからそん時かな」
「いいよなぁ。結局、沢山もらうよりも彼女からもらう1個の方が重みがあるよなー」
ー…重みかぁ…。


 帰りのホームルームが終わり、帰る準備をしていると、隣のクラスに向かう女子たちが廊下を占領していた。
…やっぱ放課後も渡すよなぁ。

 「おーい、丹羽ー」
廊下側の窓から様子を見ていた淀金が俺を呼んだ。
「んー?」
「こっち来いって」
手招きされ、窓に近づくと1人の女子が立っていた。
「…?」
 状況が読めていない俺を置いて、淀金はニヤニヤしながら自分の席へ戻って行く。
 何だよ、あの顔。
「…あの、これ…良かったら」
いきなり丁寧に包装された箱を渡され、一瞬思考が停止する。
「……えっ、バレンタイン!?」
その子は照れながら頷き「じゃあ、また…」と足早に帰って行ってしまった。
「あっ……」

 「丹羽ーっ、良かったなー!貴重な1個だぞ!」
一部始終を見ていたであろう淀金が肩を組んでくる。
「あー、うん」
「今の子って、時岡と同じクラスだよな?知り合い?」
「全然」
「丹羽狙いとは、なかなか見る目あるな!」
「…。」
 念願のチョコなのに、なんだこの気持ち…。



 今日はバレンタインデー。日中は2月とは思えないほど暖かくなり、絶好のお出かけ日和だ。俺はトーイ王子としてバレンタインイベントに出演中。ポップ姫から巨大なチョコを受け取り、その中の小さなチョコをお客様へ配る。


 昼過ぎ、全てのショーが終わり、トーイ王子を脱いだ俺は、ウサギにはならず私服に着替える。
「あ、丹羽っち今日はもう上がりだったね」
「っす」
「じゃあ、これ。…ハッピーバレンタイン」
手嶋さんが、この時期しか買えないトーイ王子とポップ姫のチョコレートをくれた。
「わぁ、ありがとうございますっ!」
「いえいえ。じゃあ、お疲れ様」
「お疲れ様でした。失礼します」


 季節外れに汗ばむ陽気の中、上着を手に持つ俺は家のインターホンを押した。
…ガチャ
「お疲れ様、いらっしゃい」
出てきたのは、伊達メガネ姿の時岡だ。
 「お邪魔します」
玄関に入ると、すぐに甘い香りが漂ってくる。

 リビングに入り、キッチンを見たら梨花ちゃんと時岡の母さんがいた。
「あ、かいせーくんだ!」
「あっ、初めまして、丹羽 海星です」
「初めまして、慎の母です。いつも子供達と仲良くしてくれてありがとうね」
「いえ、とんでもないです」
「もうすぐ出来るみたいだからここ座ってて」
「あ、うん」

 「おまたせしましたー!」
梨花ちゃんが俺と時岡それぞれの前に大きな皿を置いた。皿の上にはガトーショコラ、バニラアイス、苺がお洒落に乗っている。
「わぁーっ、すげー!デザートプレートじゃん!」
「ママとがんばってつくったの!」
「お店みたいだね。いつもバレンタインこんなすごいの作ってるの?」
「こんなに頑張って作ったのは、今年が初めてよね?海星くんにあげるんだって張り切っちゃって」
「こんな豪華なバレンタイン初めてだ。梨花ちゃん、本当にありがとう。お母さんもありがとうございます」
「いえいえ。アイスが溶けないうちに召し上がれ」
「はい。…いただきます。……うまっ!」
「やったー!」
梨花ちゃんは、嬉しそうにお母さんとハイタッチをした。
「もう綺麗には盛らないけど、おかわりもあるから遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます!」


 「1時間くらいテストの答え合わせするから、部屋来ないで」
食べ終わった時岡は母親にそう伝え、俺の腕を引っ張り部屋へ連れて行く。
…え、そんな約束してたっけ?

 部屋のドアが閉まるなり、後ろから俺を抱きしめた時岡。
「えっ!?」
「勉強って言わないと、梨花が部屋に来ちゃうから。…久々なのに、今日2人きりになる時間なかったし」
「…。」
日に日に時岡の甘さが増していく。糖度過多になりそうだ。
 「丹羽さぁ…」
「うん?」
「うちのクラスの岩井にチョコもらった?」
ーえっ、何で知ってんの。
 バックハグをされたままで、時岡の表情が分からない。
「…あー、うん。岩井って名前なの初めて知ったけど」
「そっか。…俺、めっちゃわがままかも」
「え、なんで?」
「丹羽の優しさに甘えて、何個もチョコ受け取ったくせに、丹羽がもらった1個に嫉妬してる」
「…っ」
「昼休みの時、岩井たちが丹羽にあげるって話してるのたまたま聞いて、今日までずっとそわそわしてた」
「いや、大量のチョコもらってんの見た俺は、どんだけそわそわすればいいんだよ」
「うん、そうなんだけど。…でさ、俺にしか出来ないバレンタインを考えたわけ」

 時岡は抱きしめていた腕を離し、机の上にあった小さな箱から一粒チョコを取り出し、口に咥えた。

ー…ん?これは…

 目の前に来た時岡は顔を近づけ、俺にもう半分を咥えさせた。
 チョコは一瞬で溶け、濃厚な甘さが残る口でキスが始まる。
「…んっ…」

 キスをしながらゆっくりと押された俺は、ベッドに仰向けで寝転ぶ形になり、時岡も覆い被さるようにベッドに乗ってくる。
…カチャ
「…甘いね」
メガネを外した時岡のキスは、どんどん深くなる。

 たった一粒の重みが半端ない。身体中が幸せと甘さで包まれていく。こんなの知ったら、もう戻れない。