君の中身が知りたくて

 今日から3学期が始まった。始業式とホームルームが終わり、俺と淀金は午後から部活のある鷲尾と片瀬に合わせ教室に残り、コンビニで買ったパンを食うことにした。
 「腹減ったー」
「淀金のそのパン美味そうだな」
「だろ?新発売ー」
「それ、彼女が食べたがってたわ」
「お、じゃあ俺が食って美味かったら買ってあげろよ」
「…。」
3人には、時岡とのことをまだ報告出来ていない。

 「…はい」
俺は突然挙手をした。
「ん?どうしましたか、丹羽くん」
すぐに乗っかってくる淀金は流石だ。
「えっと…皆さんのサポートと応援のおかげもあり、無事に…付き合うことになりました!」
「…。」
3人はキョトンとしている。
「…付き合うって…時岡と!?」
「うん」
「え、まじで!?」
「まじ」
「うぉーーー!おめでとうーー!」
「すげー!良かったなぁ!」
「新学期早々ハッピーなニュース聞けて、すげー嬉しいわ」
「作戦とか考えてくれて、ほんとありがと。多分、これからも相談乗ってもらったりすると思うんで、どうぞよろしくお願いします!」
「いやー、今年1テンション上がったわ」
「おい、今年始まったばっかだから」
「あ、ちなみにお前ら以外には秘密だから、これまで通りバレないようにお願いしたいっす」
「おっけ」
「任せろ」
「でもまさか、丹羽が告るなんてなぁ」
「だよなー。もう少し確信得てから攻めると思ってた」
「いや、先に告ったのは向こうで…」
「はっ!?お前、告られたの!?」
「うん、一応」
「まじかー。うわー、時岡読めねぇー」
「そうなんだよ。あいつ、読めねーんだよ…」



 翌朝、いつも通り1人で登校する俺は、校門を抜け時岡の姿を探す。
 方向や朝のリズムが違うから一緒に登校はしない、週に1回は一緒に昼飯を食べる、放課後はお互いの予定が合う時だけ会う、という簡単なルールを決めた。

 結局、時岡を見かけることなく帰る時間になってしまった。
 淀金と別れ、とぼとぼと歩く俺に「丹羽!」と愛しい声が聞こえる。
「…っ!」
 振り向くと時岡がいて、俺の見えない尻尾が勢いよくブンブン揺れた。

 「よかった。今日全然会えなかったから」
時岡も同じ気持ちだったと分かり、口元が勝手に緩むほど嬉しくなる。
「丹羽、時間大丈夫?」
「うん」
「俺もまだ時間大丈夫だから、近くのカフェ行かない?」
「うん、行く!」


 カフェに入り、2人席に向かい合って座った。
「飲み物だけにする?なんか食べる?」
「うーん、このケーキセットもいいし、こっちのスペシャルドリンクも気になってる」
「丹羽って意外と優柔不断だよね」
「…そうかも」
「ケーキセットとスペシャルドリンク、どっちも頼んでシェアしよ」
「いいの?」
「もちろん」
「ありがと」

 「お待たせしました。ケーキセットとスペシャルドリンクです」
「ありがとうございます」
 「おー、美味そう。いただきまーす」
目の前に置かれたスペシャルドリンクを一口飲んだ。
「…うまっ!時岡も飲んでみ」
「じゃあ、交換」
お互いの飲んでいたドリンクを交換し、ストローに口をつけた。
 間接キス…にまだまだドキドキしてしまう。
「…うん、こっちも甘くて美味い」

 フォークを持とうとした時、先に時岡がフォークを掴んだ。ケーキの先端をすくった時岡は、当たり前のように俺の口へ差し出してくる。
「ん!?」
「あーん」
「…っ」
 文化祭の時と違って、ここは他に人もいる店内だ。誰かが見てるかもしれねーのに、何で時岡はいつも通りのテンションなんだよ!俺ばっかドギマギしてんじゃん。
 小さく口を開け、ケーキを食った俺は、すげぇ嬉しそうな顔をする時岡を見て、さらに顔が赤くなる。
「美味しい?」
「…うん、美味いよ」

 付き合いたてのカップルって、こんな甘ったるい感じだっけ?



 三連休明けの火曜日。3時間目が終わり、移動教室から戻っていると、廊下で時岡、笠原が前から歩いて来てるのが見えた。俺は片瀬やクラスの奴としょうもないことで盛り上がっているため、時岡の存在を視野に入れつつ、ノーリアクションで通り過ぎようとしている。
「…っ!」
 すれ違い様、教科書を持っていない方の手を時岡に軽く握られた。

…ドキッ

 びっくりして振り返ったが、時岡は知らん顔で笠原と喋っている。
「…え」
 バレないようにすんじゃねーのかよっ!ハラハラさせんなって!…もぉ。


 昼休みに空き教室で、時岡と一緒に弁当を食う俺は文句を言う。
「あーいうのやめろって。心臓に悪りぃから」
「あはは、ごめんごめん」
笑っている時岡は、多分悪いと思ってない。
「楽しそうにしてる丹羽見たら、触れたくなっちゃった」
さらっと甘いことを言われて、怒るに怒れない。
ー普段クールなくせに、俺に対しては結構大胆なんだよなぁ…。
「別にもう付き合ってんだし、他に触れるタイミングあんだろ…」
「…今とか?」
「えっ…」
 机を囲うように右隣に座っている時岡は、左手で俺の頬をぐいっと掴み、そのままキスをしてきた。
「…っ!」
「…ほんと可愛い。食べたくなる」
そう言った時岡の表情が無駄に色っぽい。

ー…は!?食うの!?……俺を?



 時岡と付き合い始めて3週間。周囲にバレたり、ケンカしたりもなく、順調な交際をしていると思う。

 体育の授業中、グラウンドでサッカーをする俺は、サッカー部にスカウトされてもおかしくないレベルのボール捌きを披露する。
「俺より上手いってなんなの」
サッカー部の大原が不満そうに言ってきた。
「背の代わりに与えられた才能だからな」
「…大きな代償だな」
「うるせぇ」
「はいはい、2人とも仲良くー」
淀金がいつもの調子で絡んでくる。
「丹羽、大原は彼女とケンカ中で荒れてんだから、優しくしてやれって」
「え、別れんの!?」
「何で嬉しそうなんだよ。…別れるわけないだろ、ケンカぐらいで」
大原の彼女って、確か2年のサッカー部マネージャーだよな?
「あんな可愛い先輩を彼女にしたんだから、大事にしろよなー。すぐ誰かに取られんぞ」
「分かってるって」

 …そうだよな、付き合ってるからってずっと自分を好きとは限らないよな。…そもそも、時岡は何で俺のこと好きになったんだろ?


 放課後、時岡と電車に乗り自分の家に向かう。今日は梨花ちゃんの迎えが無いため、俺の家に遊びに来ることになった。

 誰もいない家に着き、俺の部屋でおやつタイムを始める。
「あ、これうめぇ。個包装だから梨花ちゃんに少し持って帰れば?」
「んー」
「梨花ちゃん苦手そう?」
「いや、好きそうだけど」
「ん?」
「昨日ケンカして…」
「梨花ちゃんと?」
「うん」
「2人ケンカとかすんだ、意外」
「基本的にしないよ」
「何でケンカになったの?」
「…トーイ王子のこと」
「えっ!?どゆこと!?」
「梨花がいつもみたいにトーイ王子と結婚するって言ったから、それは無理って伝えたら怒り出して」
「いや、それは怒るだろ。いきなり無理とか言われたら」
「だってトーイ王子と結婚するのは俺でしょ?」
「…は?」
「トーイ王子は丹羽じゃん。丹羽はトーイ王子じゃん」
「ごめん、言ってる意味がわかんねー。だって梨花ちゃんはトーイ王子というキャラクターと結婚したいだけで、中身の俺自身とするって言ってるわけじゃないじゃん」
「梨花の結婚したいランキング2位は丹羽だから」
「いや、うん、だとしてもトーイ王子との結婚は無理って伝える必要なくね?仮に俺と結婚するって言ってて、ケンカすんのは分かるけどさ」
…いや、それもよくわかんねーけど。
「トーイ王子も含めて丹羽なんだから、梨花に譲るわけにはいかないよ」
「…。つうか、梨花ちゃんがトーイ王子に恋してるのも今だけだろ。どうせ小学生になったらクラスの男子が好きとか言い出すって。そんで、トーイ王子なんて頭の片隅にもいなくなるよ。…人の気持ちなんてあっけなく終わんだよ」
「…仁科の俺への気持ちもあっけなく終わるの?」
「…え?」
「どうせ続かないって思ってる?」
「思ってねぇけど…」
「けど?」
「何で俺のこと好きなんだろって疑問に思ってはいる…かも」
「…。」
自分に良さが無いなんて思わねーけど、時岡が好きになるのは不思議なんだよ。
「…入学した頃から丹羽が目に留まることが多かったんだ。最初はさ、背の低い男子だなぁ程度で見てたんだけど、球技大会で大活躍する姿を見て、どんな人なんだろって気になり始めて。…大勢の中でもすぐに丹羽を見つけられる自分に気付いて…多分その頃には好きだったんだと思う。仲良くなりたいと思ったけど、隣のクラスだし、丹羽の俺たちへの視線なんか冷たかったから」
…そりゃあ、敵対視してたからな…。
「だから、丹羽がトーイ王子かもしれないってなった時めちゃくちゃ嬉しくて、俺しか知らない丹羽がいるの夢みたいで…。トーイ王子を完璧に演じ切る丹羽も、淀金たちとふざけて楽しそうな丹羽も、スポーツ万能な丹羽も、優しい丹羽も…全部全部ぜーんぶ好き」
「…っ」

…何なのまじで。…むちゃくちゃ俺のこと好きじゃん。

「…ありがと」
「そういう丹羽は、俺のどこが好きなの?」
期待を含んだ表情で見てくる時岡は、なんだか子供みたいでかわいい。
「…家族想いなとこ…あと、クールなのに抜けてるとこもギャップ萌だし、悔しいけど背高くてかっこいいなって思う。それに、俺に対していつでも優しいとこも…すげぇ好き。…ずっとずっと好きが続いてほしい存在…です」
…あー、めちゃくちゃ恥ずい。
「…丹羽」
両手を広げ、待ち構える時岡。
 照れながら時岡の胸に飛び込んだ。
…ぎゅーっ
「今の気持ちが終わらないぐらい、俺で丹羽を埋め尽くすから…」

…あぁ、甘ったるくて愛おしいな。