夜の遊園地。自分が着ぐるみの正体だと伝えた俺は、何故か時岡に抱きしめられている。
驚き硬直する俺を抱きしめたまま口を開いた時岡。
「…教えてくれてありがとう」
「え…」
「丹羽すごいね、一人二役してたんだ。梨花の初恋相手のトーイ王子、俺の親友のウサギさん。いつも俺たちを見守ってくれてたんだね」
「…そんなことねーから…」
「そんなことあるよ」
俺の嘘を否定せず、むしろ肯定して許してくれた。やっぱ、時岡は優しいな。…つうか、こんな密着してるってことは…
「あのっ、俺今すげぇ汗くせぇから離れて!まじで」
「全然気にならないけど」
「いや、俺が気にすんだよ。早く離れろって…」
「えー、ウサギさんの体もふもふしてて、抱き心地いいのに」
「…。」
そもそも何で抱きしめてきたんだよ…。
「じゃあ、梨花たちのとこ戻るね」
「うん」
「火曜の昼休み、屋上で一緒に食べようよ」
「うん、分かった」
「決まりね。じゃ、お疲れ」
「お疲れ」
時岡との関係が終わらなくて良かったと、心の底から安心した俺は、残りの仕事をするため、気持ちを切り替える。
「よしっ!あと一踏ん張り頑張るか!」
火曜日の昼休み。約束通り一緒に昼飯を食うため、屋上で時岡を待っている。
隠し事がないってだけで、こんな清々しい気持ちで会えるんだな。早く会いてーなぁ。
「ごめん、遅くなった」
「全然。俺もさっき来たとこ」
「時岡の母さん、めっちゃ綺麗だな」
弁当を食いながらリラックスした雰囲気で話す俺たち。
「そぉ?」
「高校生の子供がいるようには見えなかった。あんな母さん、まじ羨ましいわ」
「今度直接言ってあげて。喜ぶと思うから」
「おっけ」
屋上に誰もいないことを再度確認した時岡は、改めて俺に聞いてくる。
「丹羽が、トーイ王子兼ウサギさんなんだよね?」
「…うん、そうです。俺が休みの日や無理な時は他のスタッフさんが中に入るけど、メインは俺。…梨花ちゃんに言った?」
「言うわけないじゃん。まだ中に人が入ってるなんて思ってないし」
「そうだよな、夢壊すわけにはいかねぇよな」
そういや前に、トーイ王子の中の人を判断するとか言ってたよな?
「いつか梨花ちゃんが中の人に会いたいって言ったら…俺のこと会わせられそう?」
「うーん…」
時岡は考える素振りを見せる。
え、まさかの不合格なのか!?
「梨花はさ、トーイ王子と結婚する気じゃん?それが無理なら丹羽とするって言ってて、つまりトーイ王子である丹羽は、不動の1位になるでしょ?」
「うん、そうなる…けど」
「丹羽との結婚は…阻止したいんだよね」
「えっ…俺が弟になんの嫌なの?」
「まぁ、そんなとこかな」
「えー、俺良い弟になると思うんだけど。つうか、時岡は梨花ちゃんの父親代わりでもあるから、娘さんを僕にくださいって時岡に言わなきゃか」
「そんな台詞一生言わせないから安心して」
「いや、どういう意味だよっ」
「あはは」
不意に無邪気な笑顔を見せられて、キュンとなる。
「…。」
なぁ、時岡。俺はあと一つ隠してることがあるんだよ。…それは、お前に恋してるってこと。でもさ、この想いを伝えるのは、着ぐるみ以上に勇気がいるし、せっかく距離の縮まったこの関係をまだ壊したくない。
「テスト週間が始まる日だから断ってくれていいんだけどさ」
「うん?」
「来週の水曜日、梨花がお泊まり保育で、園に泊まるんだ。親も遅く帰ってくるから…丹羽ん家に泊まり行きたいなって思ったんだけど、どう?」
「…へ?」
放心状態で教室に戻った俺に、鷲尾たちが絡んでくる。
「何ぽけーっとしてんだよ。幸せ過ぎて上の空か?」
「…やばい」
「え?どした」
「時岡が…ウチに泊まり来るって」
「「えぇー!?」」
「しーっ、声でけぇって」
「悪りぃ悪りぃ。んで、まじで泊まり来んの?」
「多分…」
「前は時岡ん家泊まりに行ったよな?今度は丹羽の家…もうだいぶ心開いた関係なんじゃね!?」
「うんうん。これはもう、じわドキ作戦の次のステージにいけるな」
「次のステージ?」
「ドキドキさせにいく段階ってこと」
「お泊まりなんて絶好のチャンスだもんな!」
「いやいや、普通に親とか姉貴いるし」
「別にいきなりイチャイチャしろって言ってねーよ。学校とは違う一面を見せて、ドキッとさせんだって」
「そんな一面待ち合わせてねぇよ」
話がまとまらないまま、本鈴が鳴る。
「とりあえず、今度作戦会議な!」
「…。」
あっという間に翌週の水曜日になり、カレンダーはもう12月だ。
「いいか?落ち着くんだぞ。暴走すんなよ?」
「しねぇよ」
「なんか俺たちの方がそわそわするな」
「それな」
昼休み、自販機に温かい飲み物を買いに行く途中、淀金たちは今日の泊まり作戦の最終確認をしてくる。
「一緒に電車に乗るとこから気抜くなよ?」
「背が低いんだから、ナチュラルに上目遣いして、可愛いほうのドキッを演出とかどう?」
「いやそんなの無理。時岡はそういうあざとさ?とか興味ねぇと思うし」
「んなのやってみねーと分かんねぇじゃん」
「つうか俺らも付いていく?今日から部活休みだし」
「お、いいなそれ」
「やめろやめろ。貴重な2人時間を邪魔すんなー」
放課後、4人で廊下を歩いていると、ちょうど時岡が教室から出てきた。
「あ、お疲れ」
「おん、お疲れ」
俺の緊張をほぐそうとしてなのか、淀金が時岡に話しかける。
「今日、丹羽ん家泊まるんだろ?俺らも行っていい?」
こいつ…余計なことを…。
「別にいいけど。夜は邪魔しないでね?」
…!?
まさかの返しに俺は頬を染め、淀金たちも驚く。
結局3人とは校門前で別れ、俺は時岡と電車に乗り込む。車内は少し混んでいて、ドア付近に横並びで立った。
人混みの中だと、時岡の背の高さがより際立ち、逆に俺は埋もれてしまう。
動き出した電車に揺られ、淀金たちの言っていたことを思い出す。
ナチュラルに上目遣い…可愛い仕草…。いや、まずその上目遣いをするタイミングがどこなのか分かんねーんだよ。
次の駅で一気に人が乗り込んできて、車内は一段と混み合う。
「ごめん、ちょっと寄るね」
流れんできた人の波から俺を守るように向かい合い、壁ドンする形で囲んできた時岡。
…ドキッ
ドキドキさせるつもりが、まんまと王道シチュエーションにドキドキさせられている。
恥ずかしさで下を向いている俺に「大丈夫?」と小さな声で聞いてくる。
あー、やめろって。至近距離でそんな声…ムズムズするから。これ以上ドキドキさせんな。
少しだけ顔を上げ、時岡の顔を見て「…大丈夫」と答えた。
「…やば」
俺の返事に何故かそう呟いた時岡は、目線を俺から窓の外へ移した。
「…?」
家に着き、玄関に入る前に時岡が鞄から紙袋を取り出した。
「え、もしかして手土産!?」
「うん」
「いや、そんなん要らねーって!気遣うなよ」
「ご家族いる日で、迷惑かけてるし」
「全然かかってねーから」
…ガチャ
「お邪魔しまーす」
「まだ母さんパートから帰って来てねぇから、とりあえず俺の部屋行くか」
階段を上り、2人で部屋に入っていく。
「時岡の部屋みてーに綺麗じゃねぇけど」
俺の部屋に時岡が居るのが不思議で仕方ない。
「飲み物取ってくるけど、何でもいい?」
「うん」
「おっけ。その辺適当に座ってて」
時岡の持ってきてくれた良いお菓子ではなく、家にあったスナック菓子を2人で食べていると、コンコンッ…ガチャ
「かいー、ちょっと上着貸して…っ」
姉貴がノックの意味がないほどの早さで部屋のドアを開け、入ってきた。
「あ、お邪魔してます」
時岡は立ち上がり、挨拶をした。
「…は…えっ、はっ!?」
姉貴は、時岡の顔と身長に語彙力を失った。
「こっちが返事してから開けろよなぁー」
「だってまさか友達来てると思わなくて」
「今日友達泊まるって、朝言ったろ?」
「そうだっけ?」
「だから今日は勝手に部屋開けんなよ」
「はーい。あっ、これから出掛けるんだけど、コート貸してくんない?」
「別にいいけど、どのコート?」
「ネイビーのやつ」
コートを受け取った姉貴は、時岡に軽く会釈して出て行った。
「似てるね」
「よく言われる」
「お姉さん、大学生だっけ?」
「うん、大学1年」
「服の貸し借りするの仲良いね、しかも男女で」
「さっき見た通り、姉貴150ないぐらいちっさいの。だからシェアしやすいし、彼氏の服借りました感出すのには、俺のサイズがちょうどいいらしい」
「へぇ。俺の服を丹羽が着たら、彼氏の借りました感出るのかな?」
「ダボダボ過ぎて、子供感しか出ねーだろ」
「あはは」
しばらくして母さんが帰って来て、2人でリビングに降りた。
「初めまして、時岡と申します。よろしくお願いします」
「そんな丁寧にしなくていいのにー。海星の母です。今日は泊まりに来てくれてありがとね!友達が泊まりにくるって言うから、てっきり淀金くんたちかと思ってたわ」
「あ、時岡が高そうなお菓子買って来てくれたから」
「もぉー気遣わないでいいのに」
「いえ、大したものじゃないので」
姉貴は外で食べて帰るらしく、父親も仕事で遅くなるため、夕飯は母さんと俺と時岡の3人で食べることになった。
「時岡くん、本当に背が高いねー。ご両親も背が高いの?」
食いながら、母さんは時岡に遠慮なく絡んでいく。
「そうですね、どちらかというと2人とも高いですかね」
「やっぱ遺伝子大事ねぇ。うちは夫婦揃って低いから、子供たちには申し訳ないことしたけど、背で結婚相手選ぶのも違うじゃない?」
「そうですね」
…おい、時岡に何の話をしてんだよ。
「お風呂2人一緒に入るでしょ?」
食い終えた後、母さんは当たり前のように聞いてくる。
「はぁ!?何でだよ!」
「え、だって淀金くんたちとは、2人ずつで入ってたじゃない」
「いや、あれは1人ずつ入ったら時間かかるから、仕方なく2人ずつで入っただけで…」
チラッと時岡を見ると目が合った。
「2人で入ろっか」
「…えっ」
どうしよう、泊まり作戦に風呂のシチュエーションは無かったんだけど!!
驚き硬直する俺を抱きしめたまま口を開いた時岡。
「…教えてくれてありがとう」
「え…」
「丹羽すごいね、一人二役してたんだ。梨花の初恋相手のトーイ王子、俺の親友のウサギさん。いつも俺たちを見守ってくれてたんだね」
「…そんなことねーから…」
「そんなことあるよ」
俺の嘘を否定せず、むしろ肯定して許してくれた。やっぱ、時岡は優しいな。…つうか、こんな密着してるってことは…
「あのっ、俺今すげぇ汗くせぇから離れて!まじで」
「全然気にならないけど」
「いや、俺が気にすんだよ。早く離れろって…」
「えー、ウサギさんの体もふもふしてて、抱き心地いいのに」
「…。」
そもそも何で抱きしめてきたんだよ…。
「じゃあ、梨花たちのとこ戻るね」
「うん」
「火曜の昼休み、屋上で一緒に食べようよ」
「うん、分かった」
「決まりね。じゃ、お疲れ」
「お疲れ」
時岡との関係が終わらなくて良かったと、心の底から安心した俺は、残りの仕事をするため、気持ちを切り替える。
「よしっ!あと一踏ん張り頑張るか!」
火曜日の昼休み。約束通り一緒に昼飯を食うため、屋上で時岡を待っている。
隠し事がないってだけで、こんな清々しい気持ちで会えるんだな。早く会いてーなぁ。
「ごめん、遅くなった」
「全然。俺もさっき来たとこ」
「時岡の母さん、めっちゃ綺麗だな」
弁当を食いながらリラックスした雰囲気で話す俺たち。
「そぉ?」
「高校生の子供がいるようには見えなかった。あんな母さん、まじ羨ましいわ」
「今度直接言ってあげて。喜ぶと思うから」
「おっけ」
屋上に誰もいないことを再度確認した時岡は、改めて俺に聞いてくる。
「丹羽が、トーイ王子兼ウサギさんなんだよね?」
「…うん、そうです。俺が休みの日や無理な時は他のスタッフさんが中に入るけど、メインは俺。…梨花ちゃんに言った?」
「言うわけないじゃん。まだ中に人が入ってるなんて思ってないし」
「そうだよな、夢壊すわけにはいかねぇよな」
そういや前に、トーイ王子の中の人を判断するとか言ってたよな?
「いつか梨花ちゃんが中の人に会いたいって言ったら…俺のこと会わせられそう?」
「うーん…」
時岡は考える素振りを見せる。
え、まさかの不合格なのか!?
「梨花はさ、トーイ王子と結婚する気じゃん?それが無理なら丹羽とするって言ってて、つまりトーイ王子である丹羽は、不動の1位になるでしょ?」
「うん、そうなる…けど」
「丹羽との結婚は…阻止したいんだよね」
「えっ…俺が弟になんの嫌なの?」
「まぁ、そんなとこかな」
「えー、俺良い弟になると思うんだけど。つうか、時岡は梨花ちゃんの父親代わりでもあるから、娘さんを僕にくださいって時岡に言わなきゃか」
「そんな台詞一生言わせないから安心して」
「いや、どういう意味だよっ」
「あはは」
不意に無邪気な笑顔を見せられて、キュンとなる。
「…。」
なぁ、時岡。俺はあと一つ隠してることがあるんだよ。…それは、お前に恋してるってこと。でもさ、この想いを伝えるのは、着ぐるみ以上に勇気がいるし、せっかく距離の縮まったこの関係をまだ壊したくない。
「テスト週間が始まる日だから断ってくれていいんだけどさ」
「うん?」
「来週の水曜日、梨花がお泊まり保育で、園に泊まるんだ。親も遅く帰ってくるから…丹羽ん家に泊まり行きたいなって思ったんだけど、どう?」
「…へ?」
放心状態で教室に戻った俺に、鷲尾たちが絡んでくる。
「何ぽけーっとしてんだよ。幸せ過ぎて上の空か?」
「…やばい」
「え?どした」
「時岡が…ウチに泊まり来るって」
「「えぇー!?」」
「しーっ、声でけぇって」
「悪りぃ悪りぃ。んで、まじで泊まり来んの?」
「多分…」
「前は時岡ん家泊まりに行ったよな?今度は丹羽の家…もうだいぶ心開いた関係なんじゃね!?」
「うんうん。これはもう、じわドキ作戦の次のステージにいけるな」
「次のステージ?」
「ドキドキさせにいく段階ってこと」
「お泊まりなんて絶好のチャンスだもんな!」
「いやいや、普通に親とか姉貴いるし」
「別にいきなりイチャイチャしろって言ってねーよ。学校とは違う一面を見せて、ドキッとさせんだって」
「そんな一面待ち合わせてねぇよ」
話がまとまらないまま、本鈴が鳴る。
「とりあえず、今度作戦会議な!」
「…。」
あっという間に翌週の水曜日になり、カレンダーはもう12月だ。
「いいか?落ち着くんだぞ。暴走すんなよ?」
「しねぇよ」
「なんか俺たちの方がそわそわするな」
「それな」
昼休み、自販機に温かい飲み物を買いに行く途中、淀金たちは今日の泊まり作戦の最終確認をしてくる。
「一緒に電車に乗るとこから気抜くなよ?」
「背が低いんだから、ナチュラルに上目遣いして、可愛いほうのドキッを演出とかどう?」
「いやそんなの無理。時岡はそういうあざとさ?とか興味ねぇと思うし」
「んなのやってみねーと分かんねぇじゃん」
「つうか俺らも付いていく?今日から部活休みだし」
「お、いいなそれ」
「やめろやめろ。貴重な2人時間を邪魔すんなー」
放課後、4人で廊下を歩いていると、ちょうど時岡が教室から出てきた。
「あ、お疲れ」
「おん、お疲れ」
俺の緊張をほぐそうとしてなのか、淀金が時岡に話しかける。
「今日、丹羽ん家泊まるんだろ?俺らも行っていい?」
こいつ…余計なことを…。
「別にいいけど。夜は邪魔しないでね?」
…!?
まさかの返しに俺は頬を染め、淀金たちも驚く。
結局3人とは校門前で別れ、俺は時岡と電車に乗り込む。車内は少し混んでいて、ドア付近に横並びで立った。
人混みの中だと、時岡の背の高さがより際立ち、逆に俺は埋もれてしまう。
動き出した電車に揺られ、淀金たちの言っていたことを思い出す。
ナチュラルに上目遣い…可愛い仕草…。いや、まずその上目遣いをするタイミングがどこなのか分かんねーんだよ。
次の駅で一気に人が乗り込んできて、車内は一段と混み合う。
「ごめん、ちょっと寄るね」
流れんできた人の波から俺を守るように向かい合い、壁ドンする形で囲んできた時岡。
…ドキッ
ドキドキさせるつもりが、まんまと王道シチュエーションにドキドキさせられている。
恥ずかしさで下を向いている俺に「大丈夫?」と小さな声で聞いてくる。
あー、やめろって。至近距離でそんな声…ムズムズするから。これ以上ドキドキさせんな。
少しだけ顔を上げ、時岡の顔を見て「…大丈夫」と答えた。
「…やば」
俺の返事に何故かそう呟いた時岡は、目線を俺から窓の外へ移した。
「…?」
家に着き、玄関に入る前に時岡が鞄から紙袋を取り出した。
「え、もしかして手土産!?」
「うん」
「いや、そんなん要らねーって!気遣うなよ」
「ご家族いる日で、迷惑かけてるし」
「全然かかってねーから」
…ガチャ
「お邪魔しまーす」
「まだ母さんパートから帰って来てねぇから、とりあえず俺の部屋行くか」
階段を上り、2人で部屋に入っていく。
「時岡の部屋みてーに綺麗じゃねぇけど」
俺の部屋に時岡が居るのが不思議で仕方ない。
「飲み物取ってくるけど、何でもいい?」
「うん」
「おっけ。その辺適当に座ってて」
時岡の持ってきてくれた良いお菓子ではなく、家にあったスナック菓子を2人で食べていると、コンコンッ…ガチャ
「かいー、ちょっと上着貸して…っ」
姉貴がノックの意味がないほどの早さで部屋のドアを開け、入ってきた。
「あ、お邪魔してます」
時岡は立ち上がり、挨拶をした。
「…は…えっ、はっ!?」
姉貴は、時岡の顔と身長に語彙力を失った。
「こっちが返事してから開けろよなぁー」
「だってまさか友達来てると思わなくて」
「今日友達泊まるって、朝言ったろ?」
「そうだっけ?」
「だから今日は勝手に部屋開けんなよ」
「はーい。あっ、これから出掛けるんだけど、コート貸してくんない?」
「別にいいけど、どのコート?」
「ネイビーのやつ」
コートを受け取った姉貴は、時岡に軽く会釈して出て行った。
「似てるね」
「よく言われる」
「お姉さん、大学生だっけ?」
「うん、大学1年」
「服の貸し借りするの仲良いね、しかも男女で」
「さっき見た通り、姉貴150ないぐらいちっさいの。だからシェアしやすいし、彼氏の服借りました感出すのには、俺のサイズがちょうどいいらしい」
「へぇ。俺の服を丹羽が着たら、彼氏の借りました感出るのかな?」
「ダボダボ過ぎて、子供感しか出ねーだろ」
「あはは」
しばらくして母さんが帰って来て、2人でリビングに降りた。
「初めまして、時岡と申します。よろしくお願いします」
「そんな丁寧にしなくていいのにー。海星の母です。今日は泊まりに来てくれてありがとね!友達が泊まりにくるって言うから、てっきり淀金くんたちかと思ってたわ」
「あ、時岡が高そうなお菓子買って来てくれたから」
「もぉー気遣わないでいいのに」
「いえ、大したものじゃないので」
姉貴は外で食べて帰るらしく、父親も仕事で遅くなるため、夕飯は母さんと俺と時岡の3人で食べることになった。
「時岡くん、本当に背が高いねー。ご両親も背が高いの?」
食いながら、母さんは時岡に遠慮なく絡んでいく。
「そうですね、どちらかというと2人とも高いですかね」
「やっぱ遺伝子大事ねぇ。うちは夫婦揃って低いから、子供たちには申し訳ないことしたけど、背で結婚相手選ぶのも違うじゃない?」
「そうですね」
…おい、時岡に何の話をしてんだよ。
「お風呂2人一緒に入るでしょ?」
食い終えた後、母さんは当たり前のように聞いてくる。
「はぁ!?何でだよ!」
「え、だって淀金くんたちとは、2人ずつで入ってたじゃない」
「いや、あれは1人ずつ入ったら時間かかるから、仕方なく2人ずつで入っただけで…」
チラッと時岡を見ると目が合った。
「2人で入ろっか」
「…えっ」
どうしよう、泊まり作戦に風呂のシチュエーションは無かったんだけど!!



