「…トーイ王子?」
「…。」
学校の渡り廊下ですれ違った瞬間、同級生の男子にそう聞かれて、思わず足を止めてしまった。
遡ること3日前の9月上旬。俺、高校1年生の丹羽 海星は、沢山の人が楽しむ遊園地にいた。俺自身は遊びに来たわけではなく、バイトとして働くために来ていた。
「そろそろスタンバイお願いしまーす!」
スタッフに指示され、俺と手嶋さんはのそのそとステージ横に移動する。
「では、大きな拍手でお迎えくださーい!」
司会者の言葉で、ステージに登場した俺たちに子供達は大歓声をあげる。
「トーイおうじー!」
「ポップひめー!!」
そう、俺は遊園地のオリジナルキャラクター『トーイ王子』の“着ぐるみ”として働いているのだ。
157センチ、男としては低身長で小柄な俺。バイトを探していた春頃、たまたま見つけた着ぐるみの求人。給料も良く、家からも行きやすかったため、応募してみたところ即採用となった。
着ぐるみの中は、想像以上に暑いし、視界は狭く歩きづらい。最初の頃は、バイト終わりは疲れ果て、抜け殻のようになっていた。とはいえ、この仕事は俺に向いていたようで、研修期間を終えた頃には、遊園地の主要キャラクターであるトーイ王子を任されることになった。
俺の適任ぶりを周りに自慢したいが、家族以外には言っていない。この遊園地は幼児から小学生をターゲットにしたファミリー向けスポットだから、高校生が来ることはほぼ無く、友達にバレる心配もないのだ。
ステージイベントが終わり、ポップ姫の手嶋さんと園内を歩き回る。
手嶋さんは大学2年生の女子で、俺よりも身長が10センチ低い。先に着ぐるみバイトを始めており、色々と親切に教えてくれる優しい先輩だ。
俺たちは子供達に囲まれ、写真撮影などに応じていく。対応をしながら周りを見ると、1人の背の高い男性が目に留まった。横には4、5歳ぐらいの女の子がいる。
ー…あれ、あの黒縁メガネの人、どっかで見たことあるような…。いや、あんな親子の知り合いいねーしなぁ。
そんなことを考えていると、親子らしき2人が近づいてきた。
「トーイおうじ、しゃしんおねがいしまっす!」
女の子が元気よく言ってくる。
トーイ王子である俺の横に立ち、スマホを構える男性に向かってピースをする女の子。俺も着ぐるみの中の視線をカメラに向けた。
…!?
スマホを構えている男性をよく見て驚愕した。
ーえっ、こいつ時岡じゃね!?
時岡というのは、隣のクラスにいる時岡 慎のこと。話したことはないが、名前は把握している。なぜなら、時岡は高身長トリオとして学校内では有名だからだ。
時岡は同じクラスの依田、笠原と仲良しで、全員身長が180センチを超えている。そのため、3人が校内を並んで歩くだけで目立つ。
普段の学校生活では、眼鏡をかけていないから一瞬分からなかったが、どっからどう見ても時岡だ。
え、時岡が何でここに!?…つうか、この子…まさか時岡の隠し子…!?
軽くパニックになっている俺に、女の子は「ありがとう」とお礼を言い、こっちに近寄る時岡の元へ行こうとする。その瞬間、トーイ王子の大きな足に引っかかってしまった女の子は、転けそうになった。
俺は、瞬時に女の子の体を受け止め支えた。
「…あっぶねぇ…」
ー…あ、やべ…思わず声が出た。
着ぐるみの中の人が声を出すのは致命的なミス。今の声のボリュームなら女の子には聞こえてないはずだけど…。
チラッと時岡を見たが、女の子に寄り添い特に変わった様子はなかった。
「助けてくれてありがとうございました」
俺に礼を言い、女の子と去っていく時岡。
つうか…結局あの子は、時岡の何なんだ…?
そして、3日後の今日。昼休みの渡り廊下で、お互い友達と歩いていた際、すれ違いざまに時岡にトーイ王子?と言われたのだ。
え…まさかあの時、俺の声聞こえてた!?
驚いて足を止めてしまった俺に、横にいる鷲尾が「どうした?」と聞いてくる。
時岡も足を止め、こっちを見ているのが気配で分かる。今、後ろを振り向いたら完全にアウトだ。
「…いや、別に」
先に進んでいた片瀬と淀金を鷲尾と追いかける。
教室に戻った俺は、鷲尾たちと話しながら内心焦っていた。
時岡と接点はないが、着ぐるみのことが何らかの形で周囲にバレれば、鷲尾たちも知ることになる。着ぐるみをしていることを馬鹿にするような奴らではないと分かっていても、今は秘密にしていたい。
「丹羽は日曜バイト?」
「…えっ、あ、いや休み」
「じゃあさ、俺らも部活休みだし、4人で遊ばない?」
「うん、いいよ」
「どこ行くかなー」
鷲尾はテニス部に所属していて、しっかり者だ。俺たち4人の中で唯一の彼女持ち。
「はいはーい!ゲーセンがいいー!」
元気よく手を上げる淀金は、ノリが良くお調子者。
「まだ外は暑いし、室内の方が良いかもな」
片瀬は鷲尾と同じテニス部で、誰にでも優しい男。
たまたま…いや、俺が背の高い奴を勝手に敵対視する癖があるから、鷲尾たちはみんな175センチ以下だ。別に背だけで友達を選んでるわけじゃねぇけど。
帰りのホームルームを終え、鷲尾たちと廊下に出ると少し先に高身長トリオが歩いていた。
「いつ見てもデケェな!」
淀金の言葉に激しく頷く。
「アイツら彼女いんのかなぁ?」
「笠原はいるって噂だけど」
「噂って…」
「まぁ、あの背で、バスケ部で、中身も外見も爽やかなら、いない方がびっくりだろ」
「まぁな…。つうかさ、背が高いだけで3割り増しでカッコよく見えるのずるくね!?」
「出たよ、丹羽の僻み」
「僻んでねーよ!だって考えてみろよ。もし、顔も性格も同じで背だけ違ったら、絶対高い方選ぶだろ!?」
「うーん、それは否定できねぇけど」
「ほらな?俺だって背が高けりゃ、今頃モテモテだったのにな」
「丹羽って身長以外に関しては、自己肯定感高いよな」
「丹羽は運動神経良いし、顔も悪くないし、今のままで十分モテる要素あるって」
片瀬の優しさが逆に辛くなる。
「…。」
土曜日、遊園地のスタッフルームに着いた俺は、ホワイトボードに書かれたスケジュールを再確認する。
ショーが午前と午後で1つずつ、あとは室内で撮影タイム、残りは風船配りっと。
「おはようございまーす!」
手嶋さんが出勤してきた。
「おはようございます」
「あ、おはよ。今日も暑いけど頑張ろうね」
「はい」
午前中のステージショーを終えた俺は、一度スタッフルームに戻った。
水分補給をしながら軽めの休憩を取り、トーイ王子とは違う着ぐるみに袖を通す。
トーイ王子とは違い、身動きの取りやすい動物人間みたいなウサギの着ぐるみを着て、風船を配りながら園内を歩き回るためだ。
入場門近くで風船を配っていると、並んでいる1組の親子が目に入る。
あれ、あの女の子って…。
急いで女の子の横を確認すると時岡がいた。
嘘、何でまた来てんの!?こういう遊園地って、たまに来るもんじゃねーの!?
窓口で時岡は年間パスポートを見せている。
…いや、年パス持ってるんかーいっ!!にしても2週連続は早くね!?
ずっと笑っているウサギさんの中で、俺は困惑の表情を浮かべた。
「あ!ウサギさんがいるー!」
女の子は元気よく俺の方へ駆け寄ってくる。
「梨花、走ったら危ないから」
後ろから時岡が声を掛けた。
この子、リカちゃんって言うんだ。
「もぉ、にぃにすぐおこるんだから」
「別に怒ってない」
ん、にぃに?…あ、歳の離れた兄妹なのか。なんとなく顔が似てるの納得。つうか先週も今日も2人だけど、両親忙しいのかな?
「うさぎさん、ふーせんもらっていいのー?」
リカちゃんに可愛く聞かれ、コクリと頷いた俺は目の前に跪き、風船を手渡した。
「わぁ、ありがとう!」
溢れる笑顔にこっちまで笑顔になる。そんなリカちゃんを優しい表情で見つめる時岡の姿が視界に入る。
妹のこと、好きなんだなぁ…。
風船を配り終わり、スタッフルームに戻る途中、トイレ近くのベンチに1人で腰掛ける時岡を見つけた。
きっとリカちゃんのトイレ待ちだろうなと思いながら通り過ぎようとした時だ。
「ウサギさん…」
時岡が立ち上がり、俺…ではなくウサギを呼び止めた。
「…。」
とりあえず大きく頭を横に傾け、クエスチョンの意思表示をする。そんなウサギの俺にぐいぐい近づいて来た時岡は、いつも通りのクールな表情で聞いてくる。
「あの、トーイ王子って高校生だったりしますか?」
どストレートな質問に思わず声が出そうになる。
それは、トーイ王子の設定の話?中の人の話?…後者か。
やっぱり時岡は、あの時渡り廊下で俺の声を聞いて、トーイ王子の正体が俺じゃないかと疑っているんだ。
トーイ王子ではなく、ウサギになっている今は、ある意味都合が良いかもしれない。
俺は大きく首を横に振った。
「そうですか」
どこか残念そうな顔を見せた時岡。ちょうどリカちゃんがトイレから戻って来た。
「あ!にぃにが、うさぎさんとおはなししてるー、ずるーい!」
ほっぺを膨らませるリカちゃんに対し、時岡は俺の肩に腕を回し、
「兄ちゃん、ウサギさんとお友達になったから」
と言いはじめた。
…は?いつ友達になるくだりあったんだよっ。
「ね、ウサギさん」
曇り一つない目で見られ、仕方なく俺も肩を組んだ。肩の位置が違い過ぎて腹が立つ。
「ほらね、仲良しこよしだから」
「…。」
そういや、クラスの情報通が言っていた。時岡はクール男子だが、どこか抜けていると…。
週明けの月曜日。朝、靴箱から上履きを出していると「おはよ」と声がした。
横を向くと時岡が立っていて、俺のことをじっと見てる。
「…。」
…え、俺と時岡って挨拶する仲だっけ…?
「おはよ、丹羽」
うわ、俺の名前把握してんじゃん。
「…お、はよ…」
上履きを履き終え、教室に向かおうとする俺に時岡がまた話しかけてくる。
「丹羽、肩組まない?」
「…へ?」
ー…肩を組むって…それって……。
土曜日にウサギの姿で肩を組んだことを思い出した。
返事を聞かずに肩を組んできた時岡は、俺が腕を回す前に、顔を覗き込んでくる。
「あ…もしかして、王子じゃなくてウサギ?」
…ドキッ…
え…何でバレた?
「…。」
学校の渡り廊下ですれ違った瞬間、同級生の男子にそう聞かれて、思わず足を止めてしまった。
遡ること3日前の9月上旬。俺、高校1年生の丹羽 海星は、沢山の人が楽しむ遊園地にいた。俺自身は遊びに来たわけではなく、バイトとして働くために来ていた。
「そろそろスタンバイお願いしまーす!」
スタッフに指示され、俺と手嶋さんはのそのそとステージ横に移動する。
「では、大きな拍手でお迎えくださーい!」
司会者の言葉で、ステージに登場した俺たちに子供達は大歓声をあげる。
「トーイおうじー!」
「ポップひめー!!」
そう、俺は遊園地のオリジナルキャラクター『トーイ王子』の“着ぐるみ”として働いているのだ。
157センチ、男としては低身長で小柄な俺。バイトを探していた春頃、たまたま見つけた着ぐるみの求人。給料も良く、家からも行きやすかったため、応募してみたところ即採用となった。
着ぐるみの中は、想像以上に暑いし、視界は狭く歩きづらい。最初の頃は、バイト終わりは疲れ果て、抜け殻のようになっていた。とはいえ、この仕事は俺に向いていたようで、研修期間を終えた頃には、遊園地の主要キャラクターであるトーイ王子を任されることになった。
俺の適任ぶりを周りに自慢したいが、家族以外には言っていない。この遊園地は幼児から小学生をターゲットにしたファミリー向けスポットだから、高校生が来ることはほぼ無く、友達にバレる心配もないのだ。
ステージイベントが終わり、ポップ姫の手嶋さんと園内を歩き回る。
手嶋さんは大学2年生の女子で、俺よりも身長が10センチ低い。先に着ぐるみバイトを始めており、色々と親切に教えてくれる優しい先輩だ。
俺たちは子供達に囲まれ、写真撮影などに応じていく。対応をしながら周りを見ると、1人の背の高い男性が目に留まった。横には4、5歳ぐらいの女の子がいる。
ー…あれ、あの黒縁メガネの人、どっかで見たことあるような…。いや、あんな親子の知り合いいねーしなぁ。
そんなことを考えていると、親子らしき2人が近づいてきた。
「トーイおうじ、しゃしんおねがいしまっす!」
女の子が元気よく言ってくる。
トーイ王子である俺の横に立ち、スマホを構える男性に向かってピースをする女の子。俺も着ぐるみの中の視線をカメラに向けた。
…!?
スマホを構えている男性をよく見て驚愕した。
ーえっ、こいつ時岡じゃね!?
時岡というのは、隣のクラスにいる時岡 慎のこと。話したことはないが、名前は把握している。なぜなら、時岡は高身長トリオとして学校内では有名だからだ。
時岡は同じクラスの依田、笠原と仲良しで、全員身長が180センチを超えている。そのため、3人が校内を並んで歩くだけで目立つ。
普段の学校生活では、眼鏡をかけていないから一瞬分からなかったが、どっからどう見ても時岡だ。
え、時岡が何でここに!?…つうか、この子…まさか時岡の隠し子…!?
軽くパニックになっている俺に、女の子は「ありがとう」とお礼を言い、こっちに近寄る時岡の元へ行こうとする。その瞬間、トーイ王子の大きな足に引っかかってしまった女の子は、転けそうになった。
俺は、瞬時に女の子の体を受け止め支えた。
「…あっぶねぇ…」
ー…あ、やべ…思わず声が出た。
着ぐるみの中の人が声を出すのは致命的なミス。今の声のボリュームなら女の子には聞こえてないはずだけど…。
チラッと時岡を見たが、女の子に寄り添い特に変わった様子はなかった。
「助けてくれてありがとうございました」
俺に礼を言い、女の子と去っていく時岡。
つうか…結局あの子は、時岡の何なんだ…?
そして、3日後の今日。昼休みの渡り廊下で、お互い友達と歩いていた際、すれ違いざまに時岡にトーイ王子?と言われたのだ。
え…まさかあの時、俺の声聞こえてた!?
驚いて足を止めてしまった俺に、横にいる鷲尾が「どうした?」と聞いてくる。
時岡も足を止め、こっちを見ているのが気配で分かる。今、後ろを振り向いたら完全にアウトだ。
「…いや、別に」
先に進んでいた片瀬と淀金を鷲尾と追いかける。
教室に戻った俺は、鷲尾たちと話しながら内心焦っていた。
時岡と接点はないが、着ぐるみのことが何らかの形で周囲にバレれば、鷲尾たちも知ることになる。着ぐるみをしていることを馬鹿にするような奴らではないと分かっていても、今は秘密にしていたい。
「丹羽は日曜バイト?」
「…えっ、あ、いや休み」
「じゃあさ、俺らも部活休みだし、4人で遊ばない?」
「うん、いいよ」
「どこ行くかなー」
鷲尾はテニス部に所属していて、しっかり者だ。俺たち4人の中で唯一の彼女持ち。
「はいはーい!ゲーセンがいいー!」
元気よく手を上げる淀金は、ノリが良くお調子者。
「まだ外は暑いし、室内の方が良いかもな」
片瀬は鷲尾と同じテニス部で、誰にでも優しい男。
たまたま…いや、俺が背の高い奴を勝手に敵対視する癖があるから、鷲尾たちはみんな175センチ以下だ。別に背だけで友達を選んでるわけじゃねぇけど。
帰りのホームルームを終え、鷲尾たちと廊下に出ると少し先に高身長トリオが歩いていた。
「いつ見てもデケェな!」
淀金の言葉に激しく頷く。
「アイツら彼女いんのかなぁ?」
「笠原はいるって噂だけど」
「噂って…」
「まぁ、あの背で、バスケ部で、中身も外見も爽やかなら、いない方がびっくりだろ」
「まぁな…。つうかさ、背が高いだけで3割り増しでカッコよく見えるのずるくね!?」
「出たよ、丹羽の僻み」
「僻んでねーよ!だって考えてみろよ。もし、顔も性格も同じで背だけ違ったら、絶対高い方選ぶだろ!?」
「うーん、それは否定できねぇけど」
「ほらな?俺だって背が高けりゃ、今頃モテモテだったのにな」
「丹羽って身長以外に関しては、自己肯定感高いよな」
「丹羽は運動神経良いし、顔も悪くないし、今のままで十分モテる要素あるって」
片瀬の優しさが逆に辛くなる。
「…。」
土曜日、遊園地のスタッフルームに着いた俺は、ホワイトボードに書かれたスケジュールを再確認する。
ショーが午前と午後で1つずつ、あとは室内で撮影タイム、残りは風船配りっと。
「おはようございまーす!」
手嶋さんが出勤してきた。
「おはようございます」
「あ、おはよ。今日も暑いけど頑張ろうね」
「はい」
午前中のステージショーを終えた俺は、一度スタッフルームに戻った。
水分補給をしながら軽めの休憩を取り、トーイ王子とは違う着ぐるみに袖を通す。
トーイ王子とは違い、身動きの取りやすい動物人間みたいなウサギの着ぐるみを着て、風船を配りながら園内を歩き回るためだ。
入場門近くで風船を配っていると、並んでいる1組の親子が目に入る。
あれ、あの女の子って…。
急いで女の子の横を確認すると時岡がいた。
嘘、何でまた来てんの!?こういう遊園地って、たまに来るもんじゃねーの!?
窓口で時岡は年間パスポートを見せている。
…いや、年パス持ってるんかーいっ!!にしても2週連続は早くね!?
ずっと笑っているウサギさんの中で、俺は困惑の表情を浮かべた。
「あ!ウサギさんがいるー!」
女の子は元気よく俺の方へ駆け寄ってくる。
「梨花、走ったら危ないから」
後ろから時岡が声を掛けた。
この子、リカちゃんって言うんだ。
「もぉ、にぃにすぐおこるんだから」
「別に怒ってない」
ん、にぃに?…あ、歳の離れた兄妹なのか。なんとなく顔が似てるの納得。つうか先週も今日も2人だけど、両親忙しいのかな?
「うさぎさん、ふーせんもらっていいのー?」
リカちゃんに可愛く聞かれ、コクリと頷いた俺は目の前に跪き、風船を手渡した。
「わぁ、ありがとう!」
溢れる笑顔にこっちまで笑顔になる。そんなリカちゃんを優しい表情で見つめる時岡の姿が視界に入る。
妹のこと、好きなんだなぁ…。
風船を配り終わり、スタッフルームに戻る途中、トイレ近くのベンチに1人で腰掛ける時岡を見つけた。
きっとリカちゃんのトイレ待ちだろうなと思いながら通り過ぎようとした時だ。
「ウサギさん…」
時岡が立ち上がり、俺…ではなくウサギを呼び止めた。
「…。」
とりあえず大きく頭を横に傾け、クエスチョンの意思表示をする。そんなウサギの俺にぐいぐい近づいて来た時岡は、いつも通りのクールな表情で聞いてくる。
「あの、トーイ王子って高校生だったりしますか?」
どストレートな質問に思わず声が出そうになる。
それは、トーイ王子の設定の話?中の人の話?…後者か。
やっぱり時岡は、あの時渡り廊下で俺の声を聞いて、トーイ王子の正体が俺じゃないかと疑っているんだ。
トーイ王子ではなく、ウサギになっている今は、ある意味都合が良いかもしれない。
俺は大きく首を横に振った。
「そうですか」
どこか残念そうな顔を見せた時岡。ちょうどリカちゃんがトイレから戻って来た。
「あ!にぃにが、うさぎさんとおはなししてるー、ずるーい!」
ほっぺを膨らませるリカちゃんに対し、時岡は俺の肩に腕を回し、
「兄ちゃん、ウサギさんとお友達になったから」
と言いはじめた。
…は?いつ友達になるくだりあったんだよっ。
「ね、ウサギさん」
曇り一つない目で見られ、仕方なく俺も肩を組んだ。肩の位置が違い過ぎて腹が立つ。
「ほらね、仲良しこよしだから」
「…。」
そういや、クラスの情報通が言っていた。時岡はクール男子だが、どこか抜けていると…。
週明けの月曜日。朝、靴箱から上履きを出していると「おはよ」と声がした。
横を向くと時岡が立っていて、俺のことをじっと見てる。
「…。」
…え、俺と時岡って挨拶する仲だっけ…?
「おはよ、丹羽」
うわ、俺の名前把握してんじゃん。
「…お、はよ…」
上履きを履き終え、教室に向かおうとする俺に時岡がまた話しかけてくる。
「丹羽、肩組まない?」
「…へ?」
ー…肩を組むって…それって……。
土曜日にウサギの姿で肩を組んだことを思い出した。
返事を聞かずに肩を組んできた時岡は、俺が腕を回す前に、顔を覗き込んでくる。
「あ…もしかして、王子じゃなくてウサギ?」
…ドキッ…
え…何でバレた?



