化け猫は一途を貫き本懐を遂げようとするもで溺愛男がそれを許さない。

「スズ。知っているか。上にいる人間は、自分が落ちることを想像できない」

私の背を撫でながら、彼は囁く声は穏やかだった。

鳴らない、荒れない、物も壊さない。
だからこそ恐ろしい。

私はどうすれば誠太郎が笑えるのか考えた。
小さな猫の脳みそで出た答えは間違っていたのかもしれない。

やがて、麗華様の縁談は破談になった。
家は世間の視線に晒され、噂は尾ひれをつけて広がる。

事実は違っても、真実よりも面白い話が勝つ。

麗華様は次第に表舞台から姿を消し、皆の憧れの的ではなくなった。

ある春の日、誠太郎は桜の下で独り立っていた。

風が花弁を散らし、彼は空を見上げ呟く。

「これで、対等だ」

その目は満たされておらず勝者の目ではない。
復讐を終えた達成感もなく、ただ、自分の中の何かを守るために、他人を壊した男の目だった。

私は、震えた。
優しくて、貧しくて、真っ直ぐだった少年。

けれど彼の中には、静かな残虐が眠っている。
踏みにじられた誇りは、血を流さずに相手を追い詰める術へと変わった。

彼は麗華様を確かに好きだったはずなのにどうして⋯⋯。