化け猫は一途を貫き本懐を遂げようとするもで溺愛男がそれを許さない。

ーー向上心は認めるけれど、私を求めるなど所詮は平民の野心。

――ああいう人間は利用するのが賢いから上手く距離をとりつつ扱おう。

整った筆跡は迷いのない文字の羅列だった。
誠太郎の呼吸が止まるのを感じる。

雪が降っていた。静かな午後だった。
彼はゆっくりとページを閉じた。

そのときの横顔は、泣きそうでも怒っているわけでもなかった。

ただ、何かが静かに壊れた顔をしていた。

それからの誠太郎は変わった。

麗華様の取り巻きに近づき噂を流した。

「華族の家は最近資金繰りが厳しいらしい」
「麗華様は縁談を焦っているとか」

根拠はないが、上流社会は噂で揺らぐ。

彼は図書館で資料を漁り、麗華様の父親の投資先を調べ上げた。
危うい事業にさりげなく火種を落とす。

匿名の投書、巧妙な誤解にすれ違いを生む言葉。

彼は直接手を下さず、ただ、風向きを変えていった。
けれど、その風は嵐になった。

ある夜、私は机に向かう誠太郎の膝に乗っていた。

彼は淡々と手紙を書いている。

『あなたが見下していた平民は、あなたよりも深く人を見ている』

インクが滲むのを見ながら、彼は小さく笑った。