化け猫は一途を貫き本懐を遂げようとするもで溺愛男がそれを許さない。

 月が雲間から顔を出す。

「にゃーん!」
(断ったの? 麗華様との縁談を?)
 世界が、止まる。

「僕は麗華を救える。立場も、名誉も、手に入る。でも、それは“君を手放す”ことが条件だ。ならば要らない」

鼓動が耳を打つ、息ができない。

「にゃーん!」
「僕はもう見下されてもいい。でも君がいない世界は嫌だ」

指が、私の小さな体を包む。

ーーずるい。

私は彼を光へ送るために、化け猫になった。
彼は私が消える道を先に潰した。

麗華との縁談を成立させる力を持ちながら、それを自ら断つことで、

私の“自己犠牲”を無意味にした。

「本懐を遂げたいなら、僕を幸せにしろスズ!」

夜風が強く吹き、月が天頂に昇る。

本来なら、私は闇に溶けるはずだった。

けれど、心が折れる音がした。

私の一途は彼を麗華へ渡すこと。

彼の一途は私を手放さないこと。

鈴子の姿が、ふっと戻る。
月光の中、私は人の形で立っていた。

制限の刻を越えて、誠太郎が目を見開く。

「どうして⋯⋯」

「誠太郎様が私を選んだから」

化け猫は、人の情を得て初めて縛りを越える。
それがこの世の理。