化け猫は一途を貫き本懐を遂げようとするもで溺愛男がそれを許さない。

――私は、あなたの飼い猫だった。
雨に濡れた路地裏、煤けた板塀の影で震えていた小さな命を、少年はそっと抱き上げた。
名を、誠太郎という。

細い腕。擦り切れた学生服。けれどその掌は、火鉢よりもあたたかかった。
「連れて帰る」

誠太郎の両親は顔をしかめた。貧しい家に猫を飼う余裕などない。
それでも誠太郎は、私を胸に抱いたまま離さなかった。

囲炉裏端で分け合った干からびた魚。

夜更けまで机に向かう彼の膝の上。
眠りに落ちるとき、私の喉は自然と鳴った。

ーー極上の愛情を、私は知った。

だからこそ、私を殺したのが、あなたの両親であったとしても関係ない。
あの夜、土間に響いた鈍い音と冷たい水に沈む感覚。

私は叫ばなかった。
誠太郎を傷つける真実なら、秘密のままでいい。

ただひとつ、未練があった。
それは誠太郎の報われない恋。

身分違いの華族令嬢、麗華様。

白百合のような佇まい、黒髪は艶やかに波打ち、陽光を浴びれば金糸の刺繍が瞬く。

あなたが遠くから見つめるその横顔は、切ないほど真剣だった。

だから私はこの世に縛られた。
怨みでもなく、執念でもない一途な願い。