【資料:あさひヶ丘署・未解決重要事件捜査記録(202X-402)】
本件は、被疑者・貴島および北見(彩乃)の逮捕をもって解決したかに見えたが、依然として多くの不可解な事象を抱えたまま、捜査は実質的な行き詰まりを見せている。
1. 児童「日向」の身元について
デパートで回収された遺体は、DNA鑑定の結果、真島さおりの実子ではないことが判明した。また、国内のどの行方不明者リストとも一致しない。この子が、どこの誰かなのかは、現在も不明である。
2. 真島さおりの生育歴
幼少期に三度の誘拐を自身が経験している。一度目は三歳の時に公園の砂場で。二度目は小学四年の下校途中。三度目は成人式の最中である。
目撃情報の少なさから、犯人はいずれも逮捕されていない。
3. 鑑定医・有坂の消息
有坂医師が「自らの脳を検収した」とされる事件後、本人の遺体は発見されていない。クリニックから発見された組織片は、鑑定の結果「人間に酷似した有機化合物」であることが判明し、医学的な矛盾を生じさせている。
*
【特別資料:あさひヶ丘中央公園 土地境界汚染調査報告書】
本報告書は、あさひヶ丘署および市役所広報課によって閲覧制限がかけられている、当該区域の歴史的変遷および過去の特異事例をまとめたものである。
■土地の成り立ち:禁忌の集積地
あさひヶ丘中央公園が建設される以前、この土地は明治中期から昭和初期にかけて「無縁仏の集積墓地」として利用されていた。
戸籍のない漂流者、伝染病による病没者、そして「理由あって名前を剥奪された罪人」の遺骸が、供養されることなくこの場所に埋め立てられたという記録が残っている。
地元では古くから「吐き出しの谷」と呼ばれ、一度運び込まれたものは物理的にも論理的にも「存在しなかったこと」にされる領域であった。昭和後期の都市開発において、大量の盛り土によって墓地は封印され、その上に現在の公園が建設されたが、地下に眠る数万の死者が、磁場と空間の論理を歪ませ続けているとの指摘がある。
■過去の猟奇的事件・事故ログ(抜粋)
♦︎1975年:砂場の「消失」事件
公園の開園直後、砂場で遊んでいたはずの幼児3名が、母親の目の前で「沈むように」消失。大規模な発掘調査が行われたが、幼児の遺体は発見されず、代わりに地中から、幼児の服を着た白骨が見つかった。
♦︎1989年:方位磁石の狂いと集団発狂
地元の小学校が公園で行った野外学習中、全生徒40名の方位磁石が同時に「トイレ」を指して固定される現象が発生。直後、生徒全員が『自分の指を噛み切る』集団自傷事件に発展。
♦︎2002年:未解決・人体発火事件
ベンチで休憩中だった高齢男性が、一瞬にして青白い炎に包まれ焼失。遺体は一切残らず、ベンチの上には小銭だけが残された。後の調査で、男性が座っていた位置は、かつての墓地における「処刑場」の真上であったことが判明している。
♦︎2015年:監視カメラの「遡行」
公園内に設置された防犯カメラに、未来の映像が映り込むバグが頻発。
■結論:
以上の事例から、『あさひヶ丘中央公園』は今後、いかなる調査も行わず、ここに封印するものである。
*
【資料:ブログ『パパ島:あさひヶ丘公園デビュー日記』最終更新】
投稿日時:202X年 6月30日 02:00
投稿者:パパ島(拘置所内特設回線より強制アクセス)
ついに、この時が来ました。
拘置所の冷たい鉄格子。人々はここを「檻」と呼びます。
昨夜、彩乃が会いに来てくれました。看守たちの目を盗み、鉄格子の隙間から僕たちは互いの愛を確認し合いました。
熱い、熱い、唇の重なり。彼女の体温が、僕の脳内に直接流れ込んできました。鉄格子の冷たさが、僕たちの熱で溶けていくのを感じました。
そのまま、僕たちは誰にも邪魔されない夜を過ごしました。
【資料:あさひヶ丘拘置所・独房監視カメラ記録(Cam-B4)】
記録日:202X年 06月30日 02:15
独房内の被疑者・貴島に異常行動を確認。
貴島は午前2時頃から、誰もいない独房の入り口の鉄格子に向かって、恍惚な表情を浮かべながら激しく悶えている。
彼は独房の冷たい床に膝をつき、鉄格子の隙間に顔を押し当てて、虚空に向かって何度も熱烈な接吻を繰り返している。
その後、彼は下半身を露出し、何もない廊下に向かって、まるで誰かを抱いているかのように激しく腰を振った。
その目は虚空を凝視しており、喉を鳴らすような声で妻と子供の名を呼び続けている。
映像に映っているのは、深夜の静まり返った廊下と、狂気に取り憑かれ、独りで性的な動作を繰り返す男の、惨めで無機質な姿だけである。
――だが、記録開始から15分後。
映像の隅、貴島が激しく腰を振るその背後の影から、何かが這い出してきた。
全身が泥に塗れた、3歳くらいの男の子。貴島の背中にゆっくりと近づき、その小さな、泥だらけの手を、貴島の肩に置いた。
貴島は動きを止め、歓喜に震えながら、ゆっくりとその「影」を振り返る。
映像は、そこで砂嵐(スノーノイズ)に包まれ、強制終了した――。
【了】
本件は、被疑者・貴島および北見(彩乃)の逮捕をもって解決したかに見えたが、依然として多くの不可解な事象を抱えたまま、捜査は実質的な行き詰まりを見せている。
1. 児童「日向」の身元について
デパートで回収された遺体は、DNA鑑定の結果、真島さおりの実子ではないことが判明した。また、国内のどの行方不明者リストとも一致しない。この子が、どこの誰かなのかは、現在も不明である。
2. 真島さおりの生育歴
幼少期に三度の誘拐を自身が経験している。一度目は三歳の時に公園の砂場で。二度目は小学四年の下校途中。三度目は成人式の最中である。
目撃情報の少なさから、犯人はいずれも逮捕されていない。
3. 鑑定医・有坂の消息
有坂医師が「自らの脳を検収した」とされる事件後、本人の遺体は発見されていない。クリニックから発見された組織片は、鑑定の結果「人間に酷似した有機化合物」であることが判明し、医学的な矛盾を生じさせている。
*
【特別資料:あさひヶ丘中央公園 土地境界汚染調査報告書】
本報告書は、あさひヶ丘署および市役所広報課によって閲覧制限がかけられている、当該区域の歴史的変遷および過去の特異事例をまとめたものである。
■土地の成り立ち:禁忌の集積地
あさひヶ丘中央公園が建設される以前、この土地は明治中期から昭和初期にかけて「無縁仏の集積墓地」として利用されていた。
戸籍のない漂流者、伝染病による病没者、そして「理由あって名前を剥奪された罪人」の遺骸が、供養されることなくこの場所に埋め立てられたという記録が残っている。
地元では古くから「吐き出しの谷」と呼ばれ、一度運び込まれたものは物理的にも論理的にも「存在しなかったこと」にされる領域であった。昭和後期の都市開発において、大量の盛り土によって墓地は封印され、その上に現在の公園が建設されたが、地下に眠る数万の死者が、磁場と空間の論理を歪ませ続けているとの指摘がある。
■過去の猟奇的事件・事故ログ(抜粋)
♦︎1975年:砂場の「消失」事件
公園の開園直後、砂場で遊んでいたはずの幼児3名が、母親の目の前で「沈むように」消失。大規模な発掘調査が行われたが、幼児の遺体は発見されず、代わりに地中から、幼児の服を着た白骨が見つかった。
♦︎1989年:方位磁石の狂いと集団発狂
地元の小学校が公園で行った野外学習中、全生徒40名の方位磁石が同時に「トイレ」を指して固定される現象が発生。直後、生徒全員が『自分の指を噛み切る』集団自傷事件に発展。
♦︎2002年:未解決・人体発火事件
ベンチで休憩中だった高齢男性が、一瞬にして青白い炎に包まれ焼失。遺体は一切残らず、ベンチの上には小銭だけが残された。後の調査で、男性が座っていた位置は、かつての墓地における「処刑場」の真上であったことが判明している。
♦︎2015年:監視カメラの「遡行」
公園内に設置された防犯カメラに、未来の映像が映り込むバグが頻発。
■結論:
以上の事例から、『あさひヶ丘中央公園』は今後、いかなる調査も行わず、ここに封印するものである。
*
【資料:ブログ『パパ島:あさひヶ丘公園デビュー日記』最終更新】
投稿日時:202X年 6月30日 02:00
投稿者:パパ島(拘置所内特設回線より強制アクセス)
ついに、この時が来ました。
拘置所の冷たい鉄格子。人々はここを「檻」と呼びます。
昨夜、彩乃が会いに来てくれました。看守たちの目を盗み、鉄格子の隙間から僕たちは互いの愛を確認し合いました。
熱い、熱い、唇の重なり。彼女の体温が、僕の脳内に直接流れ込んできました。鉄格子の冷たさが、僕たちの熱で溶けていくのを感じました。
そのまま、僕たちは誰にも邪魔されない夜を過ごしました。
【資料:あさひヶ丘拘置所・独房監視カメラ記録(Cam-B4)】
記録日:202X年 06月30日 02:15
独房内の被疑者・貴島に異常行動を確認。
貴島は午前2時頃から、誰もいない独房の入り口の鉄格子に向かって、恍惚な表情を浮かべながら激しく悶えている。
彼は独房の冷たい床に膝をつき、鉄格子の隙間に顔を押し当てて、虚空に向かって何度も熱烈な接吻を繰り返している。
その後、彼は下半身を露出し、何もない廊下に向かって、まるで誰かを抱いているかのように激しく腰を振った。
その目は虚空を凝視しており、喉を鳴らすような声で妻と子供の名を呼び続けている。
映像に映っているのは、深夜の静まり返った廊下と、狂気に取り憑かれ、独りで性的な動作を繰り返す男の、惨めで無機質な姿だけである。
――だが、記録開始から15分後。
映像の隅、貴島が激しく腰を振るその背後の影から、何かが這い出してきた。
全身が泥に塗れた、3歳くらいの男の子。貴島の背中にゆっくりと近づき、その小さな、泥だらけの手を、貴島の肩に置いた。
貴島は動きを止め、歓喜に震えながら、ゆっくりとその「影」を振り返る。
映像は、そこで砂嵐(スノーノイズ)に包まれ、強制終了した――。
【了】



