久登先輩と付き合って、一週間。この数日間は、少し大変だった。
というのも、久登先輩は前から距離感バグってたけど、恋人になった途端に、タガが外れてしまったからだ。
優等生の仮面は一体、どこにいったんだか。
昼休みも、ぱったり廊下で会った時も、所構わず触ってくる。すれ違いざまに頭を撫でられるし、抱きつかれたりもするから、付き合ってることがクラスメイトに速攻でバレた。
「はぁ⁉︎ あの白川先輩と⁉︎」
「どっちから!」
なんて相嶋と山本だけじゃなくて、他の奴らからもめちゃくちゃ、詰め寄られた。
まぁ、久登先輩が彼氏ってのは別に隠す必要はないし、俺は周りにどう思われようがいいやって、堂々としてたんだけど。
久登先輩、クラスメイトをビビらせるのだけはやめてくれって、本気で思った。
体育のペアのやつなんか「相良、ごめん。白川先輩が怖ぇから、俺もうお前と組めねぇ」って言い出した。
いや、もう何してんだよ、久登先輩。
そのせいで、俺──身長差あるのに、なんか山本と組む羽目になったんだけど。あいつと背中合わせでストレッチする度に、体が悲鳴あげるから、ほんと困った。
とはいえ、俺も大概だ。久登先輩が周りから「なんか白川先輩も人間だったんだな」とか「親近感湧くわ」とか言われてるのを見るだけで、モヤついてしまう。
重い……という点では、似た者同士なのかもしれない。
──と、そんなこんなで、三月半ばの日曜。ホワイトデーの翌日のこの日は、久登先輩との初デートだ。
ようやく春が近づいてきたような久々の晴天の下、俺たちは今、バスケの試合会場の前に立っている。
試合開始時刻まで、あと四十分。地元チームの赤いユニフォームを着たファンたちが、ぞくぞくと会場に集まってくる。
ただ、自分が試合に出るわけじゃないのに、なんでだろう。胃の辺りが気持ち悪くなってきた。
せっかくのデートなのに、もしかしたら途中で退席しなきゃなんないかも。膝が痛んだら、久登先輩にも迷惑かけるよな。どうしよう。
そんな不安までもが、胸をざわつかせる。手に汗が滲んできて、そっとズボンで拭おうとした時だ。
「ちぃちゃん、緊張してる? 大丈夫?」
久登先輩は心配そうな顔して、俺を覗き込んできた。
今日の久登先輩は、なんかいつも以上に気を遣ってくれてる。
昨日までは俺も、誕生日のリベンジマッチだって、デートの準備、張り切ってたのにな。
いざ当日になったら、なんか思うように行かなくて。駅での待ち合わせも、にいちゃんから教えてもらったカフェでの食事中も「ちぃちゃん、体調は大丈夫?」なんて、心配されてしまった。
初デートだし、久々にバスケにも触れるし。たぶん、色んな意味で緊張して、正直、今日の俺は平常心じゃないんだと思う。
俺から誘ったのに格好悪すぎるからって、つい「大丈夫です」って強がってしまった。
だけど、やっぱり俺は、久登先輩に敵わないらしい。
「ほんと? 無理しないで」
そう言いながら、久登先輩はなんでもお見通しみたいに、俺の頰に触れてくる。
「ちぃちゃんが無理するのは、やだよ」
甘えてばかりで、恥ずかしい。けど、そう言われたら、俺は弱い。ぐっと胸が詰まって、素直に白状した。
「……嘘です。ごめんなさい。ちょっと、というかかなり、緊張してます。プロの試合観るだけなのに」
「そっか。でも、大丈夫! 俺が隣にいるから!」
何が大丈夫なのかは分かんないけど、久登先輩は自信満々に言ってくれる。無意識のうちに「その自信はどこから」って笑ってしまった。
「だって、もう俺、ちぃちゃんの精神安定剤だからね〜」
「そうなんですか?」
「そう!」
力強く、久登先輩は肯定してくれる。その目は「なんにも怖いものなんてないんだよ」って、言ってくれるように見えた。
なんかふっと肩の力が抜ける。
そうだ。俺には心強い恋人がいる。この人はいくらでも、俺にパワーをくれるんだ。
「……久登先輩、手」
思わず、そう口にしていた。
「手?」
「繋いで欲しい」
「いいの? 外だけど」
久登先輩は目をぱちくりさせる。
田舎だし、男同士で手を繋いでたら、ジロジロ見られるかもしれないって、今日は一度も手を繋いでいなかった。
でも、外だけどって、今更だ。この一週間、俺たちは人通りの少ない道を選びながら、学校の帰りに手を繋いでた。
久登先輩と付き合ってること、堂々としていたい。だって、俺たち、何も悪いことはしてないんだから。
「久登先輩の手、落ち着くから」
「初デートなんだし、そこは緊張してよぉ」
そう言いながらも、久登先輩はちょっと嬉しそうだ。はにかみながら、大きな手で俺の手を包み込んでくれた。
あったかい手。
まるでその手の中が定位置みたいに、俺の手もフィットする。
ほんと久登先輩は俺の太陽だと思う。
いつもある久登先輩の温もりがないから、余計に不安になりやすかったのかもしれない。冷たくなりかけてた体が、久登先輩の熱でぽかぽかして心地良くなる。
「じゃあ、いこっか」
「はい」
会場の入り口に向かって、俺たちは歩き始めた。
というのも、久登先輩は前から距離感バグってたけど、恋人になった途端に、タガが外れてしまったからだ。
優等生の仮面は一体、どこにいったんだか。
昼休みも、ぱったり廊下で会った時も、所構わず触ってくる。すれ違いざまに頭を撫でられるし、抱きつかれたりもするから、付き合ってることがクラスメイトに速攻でバレた。
「はぁ⁉︎ あの白川先輩と⁉︎」
「どっちから!」
なんて相嶋と山本だけじゃなくて、他の奴らからもめちゃくちゃ、詰め寄られた。
まぁ、久登先輩が彼氏ってのは別に隠す必要はないし、俺は周りにどう思われようがいいやって、堂々としてたんだけど。
久登先輩、クラスメイトをビビらせるのだけはやめてくれって、本気で思った。
体育のペアのやつなんか「相良、ごめん。白川先輩が怖ぇから、俺もうお前と組めねぇ」って言い出した。
いや、もう何してんだよ、久登先輩。
そのせいで、俺──身長差あるのに、なんか山本と組む羽目になったんだけど。あいつと背中合わせでストレッチする度に、体が悲鳴あげるから、ほんと困った。
とはいえ、俺も大概だ。久登先輩が周りから「なんか白川先輩も人間だったんだな」とか「親近感湧くわ」とか言われてるのを見るだけで、モヤついてしまう。
重い……という点では、似た者同士なのかもしれない。
──と、そんなこんなで、三月半ばの日曜。ホワイトデーの翌日のこの日は、久登先輩との初デートだ。
ようやく春が近づいてきたような久々の晴天の下、俺たちは今、バスケの試合会場の前に立っている。
試合開始時刻まで、あと四十分。地元チームの赤いユニフォームを着たファンたちが、ぞくぞくと会場に集まってくる。
ただ、自分が試合に出るわけじゃないのに、なんでだろう。胃の辺りが気持ち悪くなってきた。
せっかくのデートなのに、もしかしたら途中で退席しなきゃなんないかも。膝が痛んだら、久登先輩にも迷惑かけるよな。どうしよう。
そんな不安までもが、胸をざわつかせる。手に汗が滲んできて、そっとズボンで拭おうとした時だ。
「ちぃちゃん、緊張してる? 大丈夫?」
久登先輩は心配そうな顔して、俺を覗き込んできた。
今日の久登先輩は、なんかいつも以上に気を遣ってくれてる。
昨日までは俺も、誕生日のリベンジマッチだって、デートの準備、張り切ってたのにな。
いざ当日になったら、なんか思うように行かなくて。駅での待ち合わせも、にいちゃんから教えてもらったカフェでの食事中も「ちぃちゃん、体調は大丈夫?」なんて、心配されてしまった。
初デートだし、久々にバスケにも触れるし。たぶん、色んな意味で緊張して、正直、今日の俺は平常心じゃないんだと思う。
俺から誘ったのに格好悪すぎるからって、つい「大丈夫です」って強がってしまった。
だけど、やっぱり俺は、久登先輩に敵わないらしい。
「ほんと? 無理しないで」
そう言いながら、久登先輩はなんでもお見通しみたいに、俺の頰に触れてくる。
「ちぃちゃんが無理するのは、やだよ」
甘えてばかりで、恥ずかしい。けど、そう言われたら、俺は弱い。ぐっと胸が詰まって、素直に白状した。
「……嘘です。ごめんなさい。ちょっと、というかかなり、緊張してます。プロの試合観るだけなのに」
「そっか。でも、大丈夫! 俺が隣にいるから!」
何が大丈夫なのかは分かんないけど、久登先輩は自信満々に言ってくれる。無意識のうちに「その自信はどこから」って笑ってしまった。
「だって、もう俺、ちぃちゃんの精神安定剤だからね〜」
「そうなんですか?」
「そう!」
力強く、久登先輩は肯定してくれる。その目は「なんにも怖いものなんてないんだよ」って、言ってくれるように見えた。
なんかふっと肩の力が抜ける。
そうだ。俺には心強い恋人がいる。この人はいくらでも、俺にパワーをくれるんだ。
「……久登先輩、手」
思わず、そう口にしていた。
「手?」
「繋いで欲しい」
「いいの? 外だけど」
久登先輩は目をぱちくりさせる。
田舎だし、男同士で手を繋いでたら、ジロジロ見られるかもしれないって、今日は一度も手を繋いでいなかった。
でも、外だけどって、今更だ。この一週間、俺たちは人通りの少ない道を選びながら、学校の帰りに手を繋いでた。
久登先輩と付き合ってること、堂々としていたい。だって、俺たち、何も悪いことはしてないんだから。
「久登先輩の手、落ち着くから」
「初デートなんだし、そこは緊張してよぉ」
そう言いながらも、久登先輩はちょっと嬉しそうだ。はにかみながら、大きな手で俺の手を包み込んでくれた。
あったかい手。
まるでその手の中が定位置みたいに、俺の手もフィットする。
ほんと久登先輩は俺の太陽だと思う。
いつもある久登先輩の温もりがないから、余計に不安になりやすかったのかもしれない。冷たくなりかけてた体が、久登先輩の熱でぽかぽかして心地良くなる。
「じゃあ、いこっか」
「はい」
会場の入り口に向かって、俺たちは歩き始めた。

