猫かぶりな兄の親友はブラコンの俺を構いたい

 薄々気づいてたけど、俺って久登先輩に引けを取らないくらい面倒くさいやつなのかもしれない。

「ちぃちゃーん。ねぇ、ちぃちゃんってばぁ。拗ねないでよぉ〜。俺は一生、ちぃちゃんのものでいる気満々なんだからさぁ」

 夕食を終えて自分の部屋に戻った俺は、机の前で、久登先輩に後ろから抱きつかれていた。
 
「拗ねてないです。勉強するんで、離してください。久登先輩は父さんたちの相手してたらいいじゃないですか」

 つい苛立って、可愛げない物言いをしてしまった。
 でも、こうなってしまったのも、久登先輩が人たらしだからだ。
 俺を心配して外に出てきた父さん母さんは、先輩を見つけるなり、案の定すぐに夕飯へと誘った。
 すると、さすが久登先輩だ。瞬く間に猫を被って、二人からあっという間に気に入られてしまった。
 母さんは「こんなイケメンの息子が増えるなんて〜」と、気が早いし、俺と同じくワクワクマンシールコレクターの父さんはお気に入りの一枚について熱く語り始める。
 にいちゃんからは「千茅を泣かせたら許さないからね」と散々釘を刺されてはいたけど、久登先輩は俺そっちのけで、家族に囲まれる始末だった。
 そんなやりとりが小一時間は続いた結果──俺は我慢の限界に達した。

 ──俺、部屋戻る。

 ただ立ち上がってそう伝えて、静かにリビングから出た。
 家族に嫉妬するなんて、子どもみたいだ。余裕がなさすぎだろって分かってる。
 でも、せっかく付き合えたばかりなのに、余韻に浸る間なんてあったもんじゃない。あのまま見てたら泣いてしまいそうで、逃げるしかなかった。
 そんな俺に気づいた久登先輩は、すぐに追いかけて来てくれたけど。恥ずかしいやら、悔しいやらで、素直になれずにいる。

「ちぃちゃんってば、そんなに俺が好き?」
「知らないです」

 俺はそっぽを向いて、投げやりになる。
 本当は凄く好きだ。俺との交際を快く認めてもらえるように、優等生モードになってくれたのも分かってる。
 でも、付き合ったら久登先輩ばっかり、余裕に見える。さっきまでの可愛い先輩はどこに行ったんだよ。

「え〜、冷た〜い」
「冷たくていいです」
「もぉ〜ちいちゃんってば、こっち向いてよー?」

 久登先輩は俺の腹に回す腕に、ほんの少し力を入れてくる。

「嫌です」
「へぇ〜、そんな態度とっちゃうんだぁ。それで……なんで俺は、ちぃちゃんに放置されてたの? それ、まだ聞いてないんだけど」

 いつもの軽い声色が、急に低くなる。ふざけていた空気がスッと引いて、俺は動けなくなった。
 卑怯だ。それを出されたら、もう対抗できなくなるじゃないか。

「ちぃちゃん、不貞腐れてないで、こっち向いて」

 久登先輩はそう言いながら、腕をほどいてくれる。
 渋々振り返ったら、先輩は声とは裏腹に、穏やかな眼差しを向けてくれていた。
 俺って、ほんとに久登先輩に弱いのかも。
 そんな風に見つめられたら、何もかも洗いざらい話すしかないじゃないか。

「久登先輩、ごめんなさい──」

 俺は、ようやく重い口を開いた。