にいちゃんの怒号が聞こえた後、ドタドタと階段を駆け上がってくる足音が聞こえてくる。
そのあまりの怒り具合に驚きすぎて、せっかく言おうとしてた次の言葉が出てこない。
目の前にいる久登先輩も、いつも余裕綽々とした表情から、ヤベェとでも言いたげな顔に変わっていた。
にいちゃんはただでさえ開いている部屋のドアを、ダーンと勢いよく叩いた。
その音に驚いて、俺たちの体は跳ねる。その一瞬で、にいちゃんはズカズカと部屋に入ってくると、久登先輩の首根っこに掴み掛かった。
「久登、お前なんでウチにいんの? てか、千茅に何しようとしてんだよ! この変態っ!」
にいちゃんは久登先輩より圧倒的に身長が低い。なのに、怒気をはらんだにいちゃんは、俺から久登先輩を引き離していく。
「変態ってひどくない? ただワクワクマンシール見てただけで。って……なんでここにいるってわかった感じ?」
「長谷川が久登が千茅たちといるの見てたんだよ。んで、長谷川が相嶋くんに連絡とったら、ウチにいるって聞いたわけ!」
「へぇー……クマ川と知り合い……」
久登先輩がそう呟いた瞬間、にいちゃんは掴んでいた制服の後ろ襟を力一杯、引っ張った。そのまま「クマ川言うなっ!」と言って、体勢を崩した先輩の頭に、ゲンコツを一発お見舞いする。
「いたぁっ。長谷川がクマ川呼べって言ったのにぃ」
「うるさい。てか、そもそもお前な、誕生日パーティーに主役が来なくて何してんの? せっかく俺がサプライズでケーキ用意したのにさぁ! なんか他のやつが食べ始めてカオスなんだけど⁉︎」
いつもの穏やかなにいちゃんは、どこへやら。完全にブチギレたにいちゃんの怒涛の説教モードは、大迫力だった。
ただ、久登先輩が誕生日パーティーの主役と聞いて、俺は黙っていられなかった。
「久登先輩、今日が誕生日だったんですか⁉︎」
隙を見て口を挟む。すると、久登先輩はにいちゃんに急所を押さえられたまま、俺の方を見た。
「あー、うん。そうみたい?」
「久登さぁ! ほんと自分の誕生日に興味ないよね⁉︎ 会場セッティングして、ケーキもクラッカーも用意して、皆を呼んで……俺の苦労を水の泡にする気!?」
「……ごめん。でも、ちぃちゃんが……」
「ちぃちゃんが、じゃないから! いいから来る!」
青筋を浮かべにいちゃんの目には、もはや俺すらも映っていない。
誕生日おめでとうございますなんて、言う間も無かった。
あの華奢な体に、どんだけ力があるのか。にいちゃんはずるずると久登先輩を引っ張っていく。
二人がいなくなった部屋は、嵐が過ぎ去った後のようだった。静まり返った室内に、俺だけが取り残されてしまう。
そんな俺の元に、相嶋と山本が遅れてやってくる。
「俺のせいだよな、この状態」
相嶋は申し訳なさそうに、こめかみをポリポリと掻いた。
「てか、千茅のにいちゃんってほわほわ〜可愛い〜って感じだったよな? あんなに怒るって、やっぱ親友だから?」
「……もしかして、好きだからだったりして」
山本がぼそっと呟いた言葉で、俺はハッとした。
なんで今まで、忘れてたんだろう。
にいちゃんが、久登先輩のことが好きなのかもって、ずっと思っていたのは俺だ。
いや、忘れてたんじゃない。見ないふりをしていただけなのかもしれない。
だって、俺は……久登先輩の隣に居られるにいちゃんが、羨ましかったんだ。
カラオケに行った時だって、バレンタインのことだって、俺はにいちゃんに久登先輩のことを隠した。
それらを思い出した途端、にいちゃんへの申し訳なさが込み上げてきて、口元を手で覆った。
俺は……にいちゃんになんて事を?
にいちゃんは久登先輩が好きって、知ってたのに。内緒で近づいて、距離縮めて──最悪じゃん。
その事実が胸にずしんと落ちてきて、胃が気持ち悪くなった。
先ほどまで覚えていた体の熱が、一気に冷えていく。冷たくなった指先が、震えて仕方がない。
「好き? んなわけないだろー、男同士だろ?」
「は? 相嶋の頭ん中、化石みたいになってんのか。脳内アップデートしろや。俺がお前のこと好きっつったらどーすんだよ」
俺の目の前で言い合う、相嶋と山本。だけど、二人の言葉は耳から耳へと、抜けていく。
ただ罪悪感だけが、俺の中を静かに埋めていった。
そのあまりの怒り具合に驚きすぎて、せっかく言おうとしてた次の言葉が出てこない。
目の前にいる久登先輩も、いつも余裕綽々とした表情から、ヤベェとでも言いたげな顔に変わっていた。
にいちゃんはただでさえ開いている部屋のドアを、ダーンと勢いよく叩いた。
その音に驚いて、俺たちの体は跳ねる。その一瞬で、にいちゃんはズカズカと部屋に入ってくると、久登先輩の首根っこに掴み掛かった。
「久登、お前なんでウチにいんの? てか、千茅に何しようとしてんだよ! この変態っ!」
にいちゃんは久登先輩より圧倒的に身長が低い。なのに、怒気をはらんだにいちゃんは、俺から久登先輩を引き離していく。
「変態ってひどくない? ただワクワクマンシール見てただけで。って……なんでここにいるってわかった感じ?」
「長谷川が久登が千茅たちといるの見てたんだよ。んで、長谷川が相嶋くんに連絡とったら、ウチにいるって聞いたわけ!」
「へぇー……クマ川と知り合い……」
久登先輩がそう呟いた瞬間、にいちゃんは掴んでいた制服の後ろ襟を力一杯、引っ張った。そのまま「クマ川言うなっ!」と言って、体勢を崩した先輩の頭に、ゲンコツを一発お見舞いする。
「いたぁっ。長谷川がクマ川呼べって言ったのにぃ」
「うるさい。てか、そもそもお前な、誕生日パーティーに主役が来なくて何してんの? せっかく俺がサプライズでケーキ用意したのにさぁ! なんか他のやつが食べ始めてカオスなんだけど⁉︎」
いつもの穏やかなにいちゃんは、どこへやら。完全にブチギレたにいちゃんの怒涛の説教モードは、大迫力だった。
ただ、久登先輩が誕生日パーティーの主役と聞いて、俺は黙っていられなかった。
「久登先輩、今日が誕生日だったんですか⁉︎」
隙を見て口を挟む。すると、久登先輩はにいちゃんに急所を押さえられたまま、俺の方を見た。
「あー、うん。そうみたい?」
「久登さぁ! ほんと自分の誕生日に興味ないよね⁉︎ 会場セッティングして、ケーキもクラッカーも用意して、皆を呼んで……俺の苦労を水の泡にする気!?」
「……ごめん。でも、ちぃちゃんが……」
「ちぃちゃんが、じゃないから! いいから来る!」
青筋を浮かべにいちゃんの目には、もはや俺すらも映っていない。
誕生日おめでとうございますなんて、言う間も無かった。
あの華奢な体に、どんだけ力があるのか。にいちゃんはずるずると久登先輩を引っ張っていく。
二人がいなくなった部屋は、嵐が過ぎ去った後のようだった。静まり返った室内に、俺だけが取り残されてしまう。
そんな俺の元に、相嶋と山本が遅れてやってくる。
「俺のせいだよな、この状態」
相嶋は申し訳なさそうに、こめかみをポリポリと掻いた。
「てか、千茅のにいちゃんってほわほわ〜可愛い〜って感じだったよな? あんなに怒るって、やっぱ親友だから?」
「……もしかして、好きだからだったりして」
山本がぼそっと呟いた言葉で、俺はハッとした。
なんで今まで、忘れてたんだろう。
にいちゃんが、久登先輩のことが好きなのかもって、ずっと思っていたのは俺だ。
いや、忘れてたんじゃない。見ないふりをしていただけなのかもしれない。
だって、俺は……久登先輩の隣に居られるにいちゃんが、羨ましかったんだ。
カラオケに行った時だって、バレンタインのことだって、俺はにいちゃんに久登先輩のことを隠した。
それらを思い出した途端、にいちゃんへの申し訳なさが込み上げてきて、口元を手で覆った。
俺は……にいちゃんになんて事を?
にいちゃんは久登先輩が好きって、知ってたのに。内緒で近づいて、距離縮めて──最悪じゃん。
その事実が胸にずしんと落ちてきて、胃が気持ち悪くなった。
先ほどまで覚えていた体の熱が、一気に冷えていく。冷たくなった指先が、震えて仕方がない。
「好き? んなわけないだろー、男同士だろ?」
「は? 相嶋の頭ん中、化石みたいになってんのか。脳内アップデートしろや。俺がお前のこと好きっつったらどーすんだよ」
俺の目の前で言い合う、相嶋と山本。だけど、二人の言葉は耳から耳へと、抜けていく。
ただ罪悪感だけが、俺の中を静かに埋めていった。

