猫かぶりな兄の親友は、ブラコンの俺を構いたい

 久登先輩に告白されてから、二週間と少し。今日は学年末テスト最終日だ。
 LHR後の教室からは、帰り支度を終えたクラスメイトたちが続々と出て行く。俺も荷物をまとめていると、開放感に満ち溢れた相嶋が、いつになく明るい笑顔を浮かべてやって来た。

「ちーがーやっ。せっかくテスト終わって早く帰れるんだしさー。今日はさ、千茅の家でぱーっと遊ばね?」
「え、ウチ?」

 まさかの提案に、 思わず手を止めた。
 高校に入ってから、にいちゃんの友達が来ることはあっても、俺は一度も呼んだことがない。
 バスケの全国大会前の決起会で、人を招いた以来だ。断りを入れる前に、相嶋の雑な理屈が飛び出してくる。

「えー、だって外はさみぃじゃん」
「そりゃ分かるけど。だからって俺の家って」
「いやいや、千茅。考えてみ? 山本の家なんか、隣よ? 俺、毎日毎日行き飽きたって」

 相嶋はやれやれと言ったように、肩をすくめてみせる。
 だからって、俺は関係ないだろうに。どこか行くなら、ファミレスとかゲーセンとか、駅ビルとかもあるだろ。
 ただ、そんな相嶋の隣にはいつの間にか山本が立っている。うん。ここは、山本に託すのが一番だ。俺は山本にあとは任せたと、目で訴えた。
 
「んじゃ、もうお前は一生、俺の家に来るなよ?」
「はっ? 山本いたのかよ」
「お前の声がデケェの。てか、お前はほんと俺の家に来るのは禁止。腹減ったって人の家でラーメン作るな」
「やだよ! それは別じゃん!」

 教室のざわめきよりも、相嶋の声の方が大きい。
 二人のやりとりは、相変わらず、アホみたいだ。そんな二人を見ながら、ほんの少しだけ寂しさを覚える。
 二人の距離感が羨ましいとかそう言うのじゃない。……たぶん、ここに久登先輩がいないからだ。
  先輩が隣にいるだけで、俺の体温はいつも一度くらい高くなるのに、今は少し寒い。

 学年が違うんだし、いないのが当たり前……なんだけど。このところずっと、久登先輩は何かと俺の教室に遊びに来てくれていた。
 昼休みにはワクワクマンシールを持って来てくれたし、テスト期間中は「一緒に勉強しよっか」って声を掛けてくれた。放課後は「迎えに来たよ〜」ってやって来てくれて、ずっと隣にいてくれたのだ。
 
 放課後の教室とか、図書館とか。ばあちゃんの駄菓子屋とかでも、テスト勉強に励んだ。
 時に、相嶋に泣きつかれて、山本も混ぜた四人で勉強したこともある。

 たぶん、久登先輩はあの言葉を有言実行しようとしてくれていたんだと思う。

 ──早く、ちぃちゃんに重くなってもらえるように頑張るよ、俺。

 久登先輩は、どんどん俺を沼らせようとしてくる。
 それに甘えてばかりじゃいけないのに、居心地が良すぎて、久登先輩から離れたくなくなる。自分からも、近づいてしまう。
 だからなんか、学年は違えど、久登先輩が隣にいてくれるのが当たり前な気分になっていた。

 でも、今日は──久登先輩はクラスで用事があるらしい。
 昨日、俺は校門から出た時に「テストが終わったらお疲れ様会的な感じで、一緒に過ごしませんか」って言おうとした。
 でも、ちょうどその前に「明日クラス会なんだよねー、めんどー」って言われてしまったのだ。

 テスト勉強関係なく、当たり前のように俺と一緒に過ごしてくれる時間が増えていたから、なんか地味にショックで。言われた瞬間、心がざわついた。

 あー、だめだめ。久登先輩がいくら俺に好きって言ってくれたからって、久登先輩だってプライベートがある。
 俺ばっかりに構ってはいられない。

 それに、俺も少しずつ変わったみたいだ。
 久登先輩がくれた安心感が、俺の世界を少しずつ広げてくれているのだろうか。
 少し前の俺だったら、こんな誘いは受け入れなかったのに。なぜか、久々に友達と遊ぶのもいいかなんて思えてくる。

「分かったよ。俺の家で遊ぼ。あー……でも、二人のお眼鏡にかなうゲームないかも。それでもいい?」

 そう言ったら、相嶋が自慢げに胸を張る。

「それを見越してな、俺、ソフト持って来た」
「最初からウチに来る気だったんかよ」

 突っ込んだら、今度は山本まで張り合うみたいに、手に持っていたトートバッグを持ち上げた。

「ちなみに、俺は菓子をたくさん持ってる」
「山本、お前もか」

 なんで二人して準備万端なんだか。
 呆れたように笑いが漏れて、俺の肩の力もふっと抜けた。
 俺はまとめた荷物を持って「じゃあ、行こう」と、二人に声を掛けた。