久登先輩と初めてカラオケに行った日から、10日が過ぎた。
久登先輩から「今日の放課後、空いてる?」と連絡が来るのは三日に一度くらい。この日の放課後もカラオケに来たのだけど、残すところシークレットの一つだけになった。
ただ、シークレットがこんなにも低い確率だとは、思いもしなかった。
「あと三日でシークレット出るのかなぁ……」
お年玉の残りも、随分と心許ない。夜の駅前をトボトボ歩きながら、俺の口からため息混じりの声が漏れる。
すると、久登先輩が俺の頭にポンっと軽く手を乗せてきて、励ますようにそっと撫でてくれた。
「バレンタイン当日、また俺がたくさん食べるから大丈夫だよ。きっと出るって」
その優しい言葉が身に沁みるから、余計に申し訳なくて、俺は俯いた。
久登先輩って、俺を揶揄ってくることも多いけど、本当に優しい。
久登先輩は新しいキャラを引くたびに俺にくれるし、たくさん食べて、たくさんお金がかかっているのに、自分は被ったキャラでいいって言う。
絶対、乗り掛かった船だからって、俺に合わせてくれているだろうに。優しすぎるだろ。この人。
なんだか込み上げてくるものがあって、俺はグッと奥歯を噛み締めた。
「……俺、久登先輩のお金にも時間にも迷惑かけてますよね。ごめんなさい」
俺がそう言ったら、久登先輩はさらに励ますみたいに、今度は雑な感じでガシガシっと頭を撫でてきた。
「なーにー、ちぃちゃん。ちぃちゃんらしくないよー」
「俺らしくないって……いくら俺だって、罪悪感は生まれます」
「ごめんごめん。言い方悪かったね。……ちぃちゃん、気にしないでよ。俺が好きでしてるんだし」
久登先輩は俺の頭を撫でる手を止めて「ちぃちゃんは真面目だなぁ」って、甘い声で笑う。
「あのね、あまりによく食べるもんだから、俺、小遣い以外にも、買い食い用の食費まで渡されてるんだよね。だから心配いらないよ〜」
「え、いや、でも」
「ちぃちゃんとこうして使うの、俺が嬉しいから気にしないでよ。大丈夫大丈夫」
久登先輩はけらけらと笑っている。
「なんか、その言い方……貢ぎ癖あるんですか? この前の、ワクチョコ箱買いもだけど」
「ん……どうなんだろ」
久登先輩はそう言って、ほんの少し押し黙った。
俺と違って、久登先輩は頭がいいし、きっと見える世界も違うんだと思う。だけど、何だろうな。この……なんていうか、胸がざわつくような、ちょっとこの落ち着かない感じは。
さっきまで、申し訳ない気持ちでいっぱいだったっていうのに。なんで、俺が心配してるんだ。
俺は気付けば、久登先輩に説教じみたことを口にしていた。
「久登先輩、考えるってことは片足突っ込んでますね。気をつけてくださいよ。世の中には変な人がいるんで、いいカモにされかねません」
そうは言いつつも、この人はなかなかに食えないところもあるので大丈夫だろうとは思う自分もいる。
ただ、そんな俺の言葉を聞いた先輩はというと……なんか緩み切った顔をしていた。
「えぇ〜。ちぃちゃん心配してくれるの? でもね、大丈夫だよ。俺がこんな風にするのは、ちぃちゃんだけだからさぁ」
久登先輩はそう言いながら、俺に綺麗な顔をぐいと近づけてくる。
俺だけ? っていう驚きはもちろん、久登先輩が近すぎて、心臓が飛ぶように跳ねた。
これまで何度も、久登先輩が近くにいることはあった。抱きしめられたことだってある。なのに、今の俺はこの距離の近さに耐えられそうにない。
思わず「近いです」なんて言って、顔を背けてしまった、その時だった。
「おーい、お前らだな。最近、カラオケ出入りしてるうちの生徒ってのは」
背後から、聞き覚えのある声がして、俺はビクッと肩を震わせた。
久登先輩から「今日の放課後、空いてる?」と連絡が来るのは三日に一度くらい。この日の放課後もカラオケに来たのだけど、残すところシークレットの一つだけになった。
ただ、シークレットがこんなにも低い確率だとは、思いもしなかった。
「あと三日でシークレット出るのかなぁ……」
お年玉の残りも、随分と心許ない。夜の駅前をトボトボ歩きながら、俺の口からため息混じりの声が漏れる。
すると、久登先輩が俺の頭にポンっと軽く手を乗せてきて、励ますようにそっと撫でてくれた。
「バレンタイン当日、また俺がたくさん食べるから大丈夫だよ。きっと出るって」
その優しい言葉が身に沁みるから、余計に申し訳なくて、俺は俯いた。
久登先輩って、俺を揶揄ってくることも多いけど、本当に優しい。
久登先輩は新しいキャラを引くたびに俺にくれるし、たくさん食べて、たくさんお金がかかっているのに、自分は被ったキャラでいいって言う。
絶対、乗り掛かった船だからって、俺に合わせてくれているだろうに。優しすぎるだろ。この人。
なんだか込み上げてくるものがあって、俺はグッと奥歯を噛み締めた。
「……俺、久登先輩のお金にも時間にも迷惑かけてますよね。ごめんなさい」
俺がそう言ったら、久登先輩はさらに励ますみたいに、今度は雑な感じでガシガシっと頭を撫でてきた。
「なーにー、ちぃちゃん。ちぃちゃんらしくないよー」
「俺らしくないって……いくら俺だって、罪悪感は生まれます」
「ごめんごめん。言い方悪かったね。……ちぃちゃん、気にしないでよ。俺が好きでしてるんだし」
久登先輩は俺の頭を撫でる手を止めて「ちぃちゃんは真面目だなぁ」って、甘い声で笑う。
「あのね、あまりによく食べるもんだから、俺、小遣い以外にも、買い食い用の食費まで渡されてるんだよね。だから心配いらないよ〜」
「え、いや、でも」
「ちぃちゃんとこうして使うの、俺が嬉しいから気にしないでよ。大丈夫大丈夫」
久登先輩はけらけらと笑っている。
「なんか、その言い方……貢ぎ癖あるんですか? この前の、ワクチョコ箱買いもだけど」
「ん……どうなんだろ」
久登先輩はそう言って、ほんの少し押し黙った。
俺と違って、久登先輩は頭がいいし、きっと見える世界も違うんだと思う。だけど、何だろうな。この……なんていうか、胸がざわつくような、ちょっとこの落ち着かない感じは。
さっきまで、申し訳ない気持ちでいっぱいだったっていうのに。なんで、俺が心配してるんだ。
俺は気付けば、久登先輩に説教じみたことを口にしていた。
「久登先輩、考えるってことは片足突っ込んでますね。気をつけてくださいよ。世の中には変な人がいるんで、いいカモにされかねません」
そうは言いつつも、この人はなかなかに食えないところもあるので大丈夫だろうとは思う自分もいる。
ただ、そんな俺の言葉を聞いた先輩はというと……なんか緩み切った顔をしていた。
「えぇ〜。ちぃちゃん心配してくれるの? でもね、大丈夫だよ。俺がこんな風にするのは、ちぃちゃんだけだからさぁ」
久登先輩はそう言いながら、俺に綺麗な顔をぐいと近づけてくる。
俺だけ? っていう驚きはもちろん、久登先輩が近すぎて、心臓が飛ぶように跳ねた。
これまで何度も、久登先輩が近くにいることはあった。抱きしめられたことだってある。なのに、今の俺はこの距離の近さに耐えられそうにない。
思わず「近いです」なんて言って、顔を背けてしまった、その時だった。
「おーい、お前らだな。最近、カラオケ出入りしてるうちの生徒ってのは」
背後から、聞き覚えのある声がして、俺はビクッと肩を震わせた。

