久登先輩と初めてワクチョココラボに行ってから、十日が過ぎた。
あれから三日に一度くらいの頻度で「放課後、空いてる?」と連絡が来る。今日も帰りのHR前にメッセージが来て、俺は即レスした。
ただ、今日は日直だったことを忘れてて、先に行ってもらうことになった。
雪の残る道を急いでカラオケ店へ向かう。横断歩道を渡ると、久登先輩が店の前で手を振っていた。
「ちぃちゃん、おつかれ〜」
「……なんで外で待ってるんです? 寒いじゃないですか」
「早く会いたかったから」
「なんですか、それ」
そう言いながらも、遠くからその姿が見えた時はちょっと嬉しかった。
最近、久登先輩を見ると胸がざわつく。学校で見かけるとつい目で追ってしまうし、誰かと楽しそうにしてるのを見ると落ち着かない。
自分でも、この感情がよく分からない。
けど、ここずっと、久登先輩の隣にいるのが当たり前みたいで……。誰かに取られたくない、みたいな気持ちがちょっとだけ顔を出す。
この前なんて、廊下でばったり会った時、にいちゃんが見てない隙にレアシールをポケットに突っ込んでしまった。あれは本当に、自分でも意味不明だった。
むむむっと顔を顰めていたら、久登先輩から肩をツンツンとつつかれた。
「ちぃちゃん、今日、シール引く?」
「……引くために来たんじゃないんですか?」
見上げれば、久登先輩は「ふふ。ほんとだ」と笑った。
「久登先輩って、時々なんか抜けてますよね」
「そお?」
なんて話をしながら、カラオケ店に入ろうとした時だ。
「おーい、お前らだな。最近、カラオケ出入りしてるうちの生徒ってのは」
背後から聞き覚えのある声がして、俺はビクッと肩を震わせた。
振り向くと、学校で一番怖いって有名な生徒指導の岩渕先生が仁王立ちしている。
先生は制服の上にダウンを着た俺たちを、上から下までじろじろ見ながら近づいてきた。
「お前らな〜。制服着たまま、カラオケなんか来るな。変なやつに絡まれて困るのは、お前たちだぞ」
「す、」
「すみません、僕が誘ったんです」
縮こまった俺が謝るよりも早く、久登先輩が一歩前に出た。まるで、俺を庇うみたいに頭を下げてくれる。
「ちが、」
否定しようとしたら、何も言っちゃダメだっていうみたいに、久登先輩は俺を見て、首を左右に振った。
俺はにいちゃんみたいに守りたくなるような、儚い雰囲気はない。その上、散々生意気なことをしてきた。
なのに当たり前みたいに、守ろうとしてくれるその様子に、ぐっと胸が詰まった。
岩渕先生は流石に、二年の学年トップの顔は覚えているらしい。
「白川、お前が珍しいな」
「実はワクワクマンシールのコラボシールが欲しくて……相良くんに協力してもらってたんです。一人じゃ食べるの、大変なんで」
「もしかして、相良和久の弟か?」
「あ、はい」
俺が返事すると、岩渕先生はこちらをじっと見てきた。
どうやら、久登先輩とにいちゃんの日頃の生活態度のおかげで、助かったらしい。
「白川と、相良の弟なら問題ないだろうが、ちゃんと気をつけろよ。放課後じゃなくて、カラオケ行くなら休日の昼間に行け。ほら、帰った帰った」
岩渕先生はそう言って、しっしっと手で払うような素振りをする。
「はーい。分かりました」
「わかりました」
久登先輩に続いて返事をして、仕方なく二人並んで駅の方へ歩き出した。
俯きながら歩いていると、久登先輩は遠慮がちに謝ってきた。
「……ごめんね、ちぃちゃん。さっき巻き込んじゃった」
久登先輩は俺に付き合って、カラオケに来てくれていただけだ。むしろ、怒られたのは俺のせいだと思う。
「巻き込んだのは俺では?」
そう言いながら、立ち止まった。すると、久登先輩は振り向いて、俺の二歩くらい先に留まる。
「いや、だってワクチョコとのコラボ教えたのは俺じゃん?」
「それは、そうですけど」
「で、俺がちぃちゃんに行こうよって言ったし、今日も誘った。だから、俺が巻き込みました」
「えぇ……」
「いいから、俺のせいにしてて。罪悪感抱く必要、何もないから。ね?」
久登先輩の声は甘い。相変わらず、優しい顔をして、俺を見ている。
ほんの一学年の差。なのに、こういう時の久登先輩は、何歩も先を歩いているみたいだった。
なんか、泣きそうだ。高校生になってまで、こんなことで泣きたくなんてないのに、胸が苦しくなる。
悔し泣きなのか、久登先輩を巻き込んだ罪悪感なのか、分からない。
だけど、泣き虫だった頃の俺が、すぐそこまで顔を出しそうになっていた。
「ちぃちゃんはさぁ〜」
久登先輩はくすくす笑いながら、数歩先から俺の元に戻ってきてくれる。
「顔に出て、ほんと可愛いねぇ」
いつもみたく冗談めいた声をあげて、俺の頭をガシガシと撫でてくれた。
顔に出てるって言われても、俺には久登先輩に抱くこの感情が、よく分からない。
分かるなら、先輩が教えてほしい。
「痛いです」
そうは言いながらも、撫でてくれる手がとにかく温かくて、俺は余計に泣きそうだった。
あれから三日に一度くらいの頻度で「放課後、空いてる?」と連絡が来る。今日も帰りのHR前にメッセージが来て、俺は即レスした。
ただ、今日は日直だったことを忘れてて、先に行ってもらうことになった。
雪の残る道を急いでカラオケ店へ向かう。横断歩道を渡ると、久登先輩が店の前で手を振っていた。
「ちぃちゃん、おつかれ〜」
「……なんで外で待ってるんです? 寒いじゃないですか」
「早く会いたかったから」
「なんですか、それ」
そう言いながらも、遠くからその姿が見えた時はちょっと嬉しかった。
最近、久登先輩を見ると胸がざわつく。学校で見かけるとつい目で追ってしまうし、誰かと楽しそうにしてるのを見ると落ち着かない。
自分でも、この感情がよく分からない。
けど、ここずっと、久登先輩の隣にいるのが当たり前みたいで……。誰かに取られたくない、みたいな気持ちがちょっとだけ顔を出す。
この前なんて、廊下でばったり会った時、にいちゃんが見てない隙にレアシールをポケットに突っ込んでしまった。あれは本当に、自分でも意味不明だった。
むむむっと顔を顰めていたら、久登先輩から肩をツンツンとつつかれた。
「ちぃちゃん、今日、シール引く?」
「……引くために来たんじゃないんですか?」
見上げれば、久登先輩は「ふふ。ほんとだ」と笑った。
「久登先輩って、時々なんか抜けてますよね」
「そお?」
なんて話をしながら、カラオケ店に入ろうとした時だ。
「おーい、お前らだな。最近、カラオケ出入りしてるうちの生徒ってのは」
背後から聞き覚えのある声がして、俺はビクッと肩を震わせた。
振り向くと、学校で一番怖いって有名な生徒指導の岩渕先生が仁王立ちしている。
先生は制服の上にダウンを着た俺たちを、上から下までじろじろ見ながら近づいてきた。
「お前らな〜。制服着たまま、カラオケなんか来るな。変なやつに絡まれて困るのは、お前たちだぞ」
「す、」
「すみません、僕が誘ったんです」
縮こまった俺が謝るよりも早く、久登先輩が一歩前に出た。まるで、俺を庇うみたいに頭を下げてくれる。
「ちが、」
否定しようとしたら、何も言っちゃダメだっていうみたいに、久登先輩は俺を見て、首を左右に振った。
俺はにいちゃんみたいに守りたくなるような、儚い雰囲気はない。その上、散々生意気なことをしてきた。
なのに当たり前みたいに、守ろうとしてくれるその様子に、ぐっと胸が詰まった。
岩渕先生は流石に、二年の学年トップの顔は覚えているらしい。
「白川、お前が珍しいな」
「実はワクワクマンシールのコラボシールが欲しくて……相良くんに協力してもらってたんです。一人じゃ食べるの、大変なんで」
「もしかして、相良和久の弟か?」
「あ、はい」
俺が返事すると、岩渕先生はこちらをじっと見てきた。
どうやら、久登先輩とにいちゃんの日頃の生活態度のおかげで、助かったらしい。
「白川と、相良の弟なら問題ないだろうが、ちゃんと気をつけろよ。放課後じゃなくて、カラオケ行くなら休日の昼間に行け。ほら、帰った帰った」
岩渕先生はそう言って、しっしっと手で払うような素振りをする。
「はーい。分かりました」
「わかりました」
久登先輩に続いて返事をして、仕方なく二人並んで駅の方へ歩き出した。
俯きながら歩いていると、久登先輩は遠慮がちに謝ってきた。
「……ごめんね、ちぃちゃん。さっき巻き込んじゃった」
久登先輩は俺に付き合って、カラオケに来てくれていただけだ。むしろ、怒られたのは俺のせいだと思う。
「巻き込んだのは俺では?」
そう言いながら、立ち止まった。すると、久登先輩は振り向いて、俺の二歩くらい先に留まる。
「いや、だってワクチョコとのコラボ教えたのは俺じゃん?」
「それは、そうですけど」
「で、俺がちぃちゃんに行こうよって言ったし、今日も誘った。だから、俺が巻き込みました」
「えぇ……」
「いいから、俺のせいにしてて。罪悪感抱く必要、何もないから。ね?」
久登先輩の声は甘い。相変わらず、優しい顔をして、俺を見ている。
ほんの一学年の差。なのに、こういう時の久登先輩は、何歩も先を歩いているみたいだった。
なんか、泣きそうだ。高校生になってまで、こんなことで泣きたくなんてないのに、胸が苦しくなる。
悔し泣きなのか、久登先輩を巻き込んだ罪悪感なのか、分からない。
だけど、泣き虫だった頃の俺が、すぐそこまで顔を出しそうになっていた。
「ちぃちゃんはさぁ〜」
久登先輩はくすくす笑いながら、数歩先から俺の元に戻ってきてくれる。
「顔に出て、ほんと可愛いねぇ」
いつもみたく冗談めいた声をあげて、俺の頭をガシガシと撫でてくれた。
顔に出てるって言われても、俺には久登先輩に抱くこの感情が、よく分からない。
分かるなら、先輩が教えてほしい。
「痛いです」
そうは言いながらも、撫でてくれる手がとにかく温かくて、俺は余計に泣きそうだった。

