久登先輩と初めてワクチョココラボに行ってから、十日が過ぎた。
あれから三日に一度くらいの頻度で「放課後、空いてる?」と連絡が来る。
今日もLHRが始まる前にメッセージが来て、俺は「行けます」って即座に返事した。
ただ、日直の仕事があるのを忘れていたので、今日は先に行ってもらった。
急いで、カラオケ店へ向かう。すると、なぜか久登先輩は店の前にいた。俺を見つけるなり、すぐに手を振ってくれる。
「ちぃちゃん、おつかれ〜」
「……なんで外で待ってるんです? 寒いじゃないですか」
「早く会いたかったから」
「なんですか、それ」
そう言いながらも、遠くから姿が見えた時はちょっと嬉しかった。
……最近、俺は久登先輩を見ると、なんか変だ。
学校で見かけると、つい目で追ってしまう。
前は見つける度に、全力で逃げようとしてたのに。気づいたら、久登先輩の方を探してることが増えた。
一日、顔を見ないと退屈だし。遠くに見かければ、今日みたいに気づいて欲しいと思ってしまう。
その上、誰かと楽しそうにしてるのを見ると、胸がざわつく。
自分でも、この感情がよく分からない。
けど、ここずっと、久登先輩の隣にいるのが当たり前みたいで……。誰かに取られたくない、みたいな気持ちがちょっとだけ顔を出す。
この前なんて、にいちゃんが見てない隙に「これあげます」ってレアシールをブレザーのポケットに突っ込んでしまって、自分で驚いた。
ほんと、やばいと思う。しかも、にいちゃんが久登先輩といる時にも思ってしまうとか、俺は本当におかしい。
むむむっと顔を顰めて唸っていたら、久登先輩からツンツンと肩をつつかれた。
「ちぃちゃん、今日、シール引く?」
「……引くために来たんじゃないんですか?」
「ふふ。ほんとだ」
「久登先輩って、時々なんか抜けてますよね」
「そお?」
なんて話をしながら、カラオケ店に入ろうとした時だった。
「おーい、お前らだな。最近、カラオケ出入りしてるうちの生徒ってのは」
背後から、聞き覚えのある声が飛んでくる。俺はビクッと肩を震わせた。
振り向くと、すぐそこには、学校で一番怖いって有名な生徒指導の岩渕先生が立っていた。
先生は制服の上にダウンを着た俺たちを、上から下までじろじろ見ながら近づいてくる。
「お前らな〜、夕方にカラオケなんか来るな。変なやつに絡まれて困るのは、お前たちだぞ」
「す、」
「すみません、僕が誘ったんです」
縮こまった俺が謝るよりも早く、久登先輩が一歩前に出た。まるで、俺を庇うみたいに、岩渕先生に頭を下げてくれる。
「ちが、」
否定しようとしたら、何も言っちゃダメだっていうみたいに、久登先輩は首を左右に振った。
俺は、にいちゃんみたいに守りたくなるような儚い雰囲気はない。その上、久登先輩には、散々生意気なことをしてきた。
なのに当たり前みたいに、守ろうとしてくれる様子に、ぐっと胸が詰まった。
岩渕先生は流石に、二年の学年トップの顔は覚えているらしい。
「白川、お前が珍しいな」
「実はワクワクマンシールのコラボシールが欲しくて……相良くんに協力してもらってたんです。一人じゃ食べるの、大変なんで」
「もしかして、相良和久の弟か?」
「はい」
俺が頷くと、岩渕先生はこちらをじっと見てくる。
だけど、どうやら久登先輩とにいちゃんの日頃の生活態度のおかげで、助かったらしい。
「白川と、相良の弟なら問題ないだろうが、ちゃんと気をつけろよ。放課後じゃなくて、カラオケ行くなら休日の昼間に行け。ほら、帰った帰った」
岩渕先生は仁王立ちになって、しっしっと手で払うような素振りをする。
「はーい。分かりました」
「わかりました」
久登先輩に続いて返事をして、仕方なく二人並んで駅の方へ歩き出した。
俯きながら歩いていると、久登先輩は遠慮がちに謝ってきた。
「……ごめんね、ちぃちゃん。さっき巻き込んじゃった」
久登先輩は俺に付き合って、カラオケに来てくれていただけだ。むしろ、岩渕先生に怒られたのは俺のせいだと思う。
「巻き込んだのは俺では?」
顔を上げて、立ち止まった。すると、久登先輩も俺の方を振り向いてから、二歩くらい先に留まる。
「いや、だってワクチョコとのコラボ教えたのは俺じゃん?」
「それは、そうですけど」
「で、俺がちぃちゃんに行こうよって言ったし、今日も誘った。だから、俺が巻き込みました」
「えぇ……」
「いいから、俺のせいにしてて。罪悪感抱く必要、何もないから。ね?」
久登先輩の声は甘い。相変わらず、優しい顔をして、俺を見ている。
ほんの一学年の差なのに、こういう時の久登先輩は、俺の何歩も先を歩いているみたいだった。
なんか、泣きそうだ。高校生になってまで、こんなことで泣きたくなんてないのに、胸が苦しくなる。
悔し泣きなのか、久登先輩を巻き込んだ罪悪感なのか、分からない。
だけど、泣き虫だった頃の俺が、すぐそこまで顔を出しそうになっていた。
「ちぃちゃんはさぁ〜」
久登先輩はくすくす笑いながら、数歩先から俺の元に戻ってきてくれる。
「顔に出て、ほんと可愛いねぇ」
いつもみたく冗談めいた声をあげて、俺の頭をガシガシと撫でてくれた。
顔に出てるって言われても、俺には久登先輩に抱くこの感情が、よく分からない。
分かるなら、先輩が教えてほしい。
「痛いです」
そうは言いながらも、撫でてくれる手がとにかく温かくて、俺は余計に泣きそうだった。
あれから三日に一度くらいの頻度で「放課後、空いてる?」と連絡が来る。
今日もLHRが始まる前にメッセージが来て、俺は「行けます」って即座に返事した。
ただ、日直の仕事があるのを忘れていたので、今日は先に行ってもらった。
急いで、カラオケ店へ向かう。すると、なぜか久登先輩は店の前にいた。俺を見つけるなり、すぐに手を振ってくれる。
「ちぃちゃん、おつかれ〜」
「……なんで外で待ってるんです? 寒いじゃないですか」
「早く会いたかったから」
「なんですか、それ」
そう言いながらも、遠くから姿が見えた時はちょっと嬉しかった。
……最近、俺は久登先輩を見ると、なんか変だ。
学校で見かけると、つい目で追ってしまう。
前は見つける度に、全力で逃げようとしてたのに。気づいたら、久登先輩の方を探してることが増えた。
一日、顔を見ないと退屈だし。遠くに見かければ、今日みたいに気づいて欲しいと思ってしまう。
その上、誰かと楽しそうにしてるのを見ると、胸がざわつく。
自分でも、この感情がよく分からない。
けど、ここずっと、久登先輩の隣にいるのが当たり前みたいで……。誰かに取られたくない、みたいな気持ちがちょっとだけ顔を出す。
この前なんて、にいちゃんが見てない隙に「これあげます」ってレアシールをブレザーのポケットに突っ込んでしまって、自分で驚いた。
ほんと、やばいと思う。しかも、にいちゃんが久登先輩といる時にも思ってしまうとか、俺は本当におかしい。
むむむっと顔を顰めて唸っていたら、久登先輩からツンツンと肩をつつかれた。
「ちぃちゃん、今日、シール引く?」
「……引くために来たんじゃないんですか?」
「ふふ。ほんとだ」
「久登先輩って、時々なんか抜けてますよね」
「そお?」
なんて話をしながら、カラオケ店に入ろうとした時だった。
「おーい、お前らだな。最近、カラオケ出入りしてるうちの生徒ってのは」
背後から、聞き覚えのある声が飛んでくる。俺はビクッと肩を震わせた。
振り向くと、すぐそこには、学校で一番怖いって有名な生徒指導の岩渕先生が立っていた。
先生は制服の上にダウンを着た俺たちを、上から下までじろじろ見ながら近づいてくる。
「お前らな〜、夕方にカラオケなんか来るな。変なやつに絡まれて困るのは、お前たちだぞ」
「す、」
「すみません、僕が誘ったんです」
縮こまった俺が謝るよりも早く、久登先輩が一歩前に出た。まるで、俺を庇うみたいに、岩渕先生に頭を下げてくれる。
「ちが、」
否定しようとしたら、何も言っちゃダメだっていうみたいに、久登先輩は首を左右に振った。
俺は、にいちゃんみたいに守りたくなるような儚い雰囲気はない。その上、久登先輩には、散々生意気なことをしてきた。
なのに当たり前みたいに、守ろうとしてくれる様子に、ぐっと胸が詰まった。
岩渕先生は流石に、二年の学年トップの顔は覚えているらしい。
「白川、お前が珍しいな」
「実はワクワクマンシールのコラボシールが欲しくて……相良くんに協力してもらってたんです。一人じゃ食べるの、大変なんで」
「もしかして、相良和久の弟か?」
「はい」
俺が頷くと、岩渕先生はこちらをじっと見てくる。
だけど、どうやら久登先輩とにいちゃんの日頃の生活態度のおかげで、助かったらしい。
「白川と、相良の弟なら問題ないだろうが、ちゃんと気をつけろよ。放課後じゃなくて、カラオケ行くなら休日の昼間に行け。ほら、帰った帰った」
岩渕先生は仁王立ちになって、しっしっと手で払うような素振りをする。
「はーい。分かりました」
「わかりました」
久登先輩に続いて返事をして、仕方なく二人並んで駅の方へ歩き出した。
俯きながら歩いていると、久登先輩は遠慮がちに謝ってきた。
「……ごめんね、ちぃちゃん。さっき巻き込んじゃった」
久登先輩は俺に付き合って、カラオケに来てくれていただけだ。むしろ、岩渕先生に怒られたのは俺のせいだと思う。
「巻き込んだのは俺では?」
顔を上げて、立ち止まった。すると、久登先輩も俺の方を振り向いてから、二歩くらい先に留まる。
「いや、だってワクチョコとのコラボ教えたのは俺じゃん?」
「それは、そうですけど」
「で、俺がちぃちゃんに行こうよって言ったし、今日も誘った。だから、俺が巻き込みました」
「えぇ……」
「いいから、俺のせいにしてて。罪悪感抱く必要、何もないから。ね?」
久登先輩の声は甘い。相変わらず、優しい顔をして、俺を見ている。
ほんの一学年の差なのに、こういう時の久登先輩は、俺の何歩も先を歩いているみたいだった。
なんか、泣きそうだ。高校生になってまで、こんなことで泣きたくなんてないのに、胸が苦しくなる。
悔し泣きなのか、久登先輩を巻き込んだ罪悪感なのか、分からない。
だけど、泣き虫だった頃の俺が、すぐそこまで顔を出しそうになっていた。
「ちぃちゃんはさぁ〜」
久登先輩はくすくす笑いながら、数歩先から俺の元に戻ってきてくれる。
「顔に出て、ほんと可愛いねぇ」
いつもみたく冗談めいた声をあげて、俺の頭をガシガシと撫でてくれた。
顔に出てるって言われても、俺には久登先輩に抱くこの感情が、よく分からない。
分かるなら、先輩が教えてほしい。
「痛いです」
そうは言いながらも、撫でてくれる手がとにかく温かくて、俺は余計に泣きそうだった。

