猫かぶりな兄の親友は、ブラコンの俺を構いたい【改稿作業中・4話まで済】

 久登先輩と駅前で別れた俺は、白く雪が積もった道に、ぽつぽつと自分の足跡をつけながら帰る。
 大通りから一歩奥まった家の近所は、車の通りが少ない。雪がすべての音を吸い込んだみたいに、辺りは静かだった。
 でも、そんな静寂とは反対に、俺の頭の中は、もっぱら久登先輩の音痴な歌声が繰り返されている。一緒にいた時は目の前のことでいっぱいだったのに、一人になった途端にこうだ。
 それくらい強烈な歌声だった。
 でも、おかげで、一人で歩くと心細くなる雪道でも寂しくない。むしろ、凄く今、胸が満たされていた。
 ワクワクマンシールもたくさん手に入ったし、久登先輩の弱点も知れたし。
 
「今日は楽しかったなぁ……」

 俺は余韻に浸るように呟く。
 いつもなら寒くて早く家に帰りたくなる雪道を、噛み締めるみたいにのんびり歩いた。
 家の近くの角を曲がったら、ちょうどにいちゃんがスコップを持って、雪かきをしているのが見えた。

「にいちゃん! 雪かきなら俺がするって!」
 
 急いで駆け寄って、俺はにいちゃんの手からスコップを取り上げた。

「千茅。僕はそんなに弱くないよ」
「ダメ。正月、俺と一緒に雪かきしただけで、一週間寝込んだの忘れた?」
「覚えてるけど……。それより、こんな天気なのに、今日はどこ行ってたの?」
「どこって──」

 カラオケって言ったらいいのに、俺は口をつぐんでしまった。
 だって、それを口にしたら、久登先輩と一緒だったことも言わなきゃいけない。
 なんか、にいちゃんには久登先輩とのことを、話したくなかった。
 
 久登先輩はカラオケが苦手だから、友達の誘いは全部断ってるって聞いた。
 じゃあ、あの先輩を知っているのは俺だけなのかもって思ったら、にいちゃんには内緒にしていたかった。
 にいちゃんと久登先輩が、両想いって分かってるのに。なんか、急にその事実すらもモヤモヤしてくる。意味がわからない。
 だけど……にいちゃんはいつも、久登先輩といるんだから、いいじゃんって思ってしまった。
 なんでこんな風に思うのか、分かんないけど。
 久登先輩が、俺がにいちゃんの弟だから優しくしてくれているんだとしても。あの弱点だけは、俺だけが知っていたかった。
 久登先輩だって、知られたくないだろって心の中で言い訳して。

「……どこだっていいじゃん」

 思わず、にいちゃんに冷たく言ってしまった。咄嗟に「ごめん」と謝ってしまう。

「ふーん。いいよ、別に。でも、千茅が僕に隠し事するなんて、珍しいね」

 にいちゃんは俺の顔を見ながら、ほんの少しだけ目を細めた。

「だけど、なんか良いことあったって感じの顔してたから、それはよかった」
「良いこと?」
「うん。千茅って分かりやすいから」

 それなら、今の俺のこのよく分かんない感情も、にいちゃんにバレてるんじゃないだろうか。

「あとは俺がやるから、部屋に入ってよ」

 後ろめたさを覚えながらも、誤魔化すようににいちゃんの背中を軽く押す。

「わかったよ。あったかい紅茶淹れてあげるから、早く戻ってきてね」
「わかったわかった」

 にいちゃんが家の中に入るのを見届けてから、俺はスコップを持ち直した。

「にいちゃん、ごめんな」

 そう呟いて、俺は淡々と雪かきをした。
 久登先輩との時間で浮ついていた心は、雪を片付けていくうちに、見事に落ち着いていった。