翌日、昨日までの大雪はなりを潜めて、鈍色だった空には、ほんの一時の晴れ間が見えている。
そんな日曜日に、やや一方的に約束された時間に駅前に行くと、久登先輩は既に到着していた。
久登先輩は寒がりだから、駅構内にいたらいいのに。白い息を吐く先輩は、冬のポスターモデルにでもなれそうなくらいかっこよく佇んでいた。
ネイビーのロングコートに白のタートルネック、黒のテーパードパンツ。
久登先輩は身長が高くて、肩幅も広い。おまけに顔も男前だ。大人びた容姿をしているから、私服だと大学生にも見える。
反して俺は……。近所を歩くみたいな服装だよな。
いつになく、久登先輩に対して、近づきづらさを覚えてしまった。
道行く人は久登先輩を遠巻きにチラチラと見る。
でも、久登先輩は人に注目されるのが当たり前みたいだ。普段通り、堂々としている。
だけど、久登先輩は、俺の視線に気づいた途端に、ふにゃりと笑みを浮かべた。
「あっ、ちぃちゃーん! もう来てたなら声かけてよー。適当な服着て来たから、さっむい! ちぃちゃんみたいにダウン着てくればよかった! ミスったー」
俺に駆け寄ってきながら話す先輩は、年相応だった。
さっきまで近づきにくいと思っていたのが嘘みたいに、いつも通りだ。
「あははっ、いつもの久登先輩だった。安心した」
俺は肩の力が抜けて、思わず笑ってしまった。
久登先輩はなんで俺が笑ってるのか、分かっていなくて、「えっ、何。もしかして俺、またタグでもつけたまま来た⁉︎」なんて言い出す。
いつもの久登先輩は、タグ取り忘れるのか。
それもまた面白くて、ふははっと噴き出すように俺は笑った。
一通り気が済むまで笑った頃には、久登先輩は凄く優しい顔をしていた。
赤ちゃんを見守る大人とか、小動物見てる人とか、そんな感じの。
「……ちぃちゃんさ、人前でその顔すんの、やめてね?」
「え?」
「顔には出してないだろうけど、俺ね……今、すごい動悸してるから」
「は? え? カラオケ行ってる場合じゃなくないですか。えっと、病院行かなきゃですよね。でも、日曜ってあいてるっけ」
俺は慌ててダウンジャケットのポケットに手を突っ込んで、スマホを取り出した。
「久登先輩、かかりつけってあります?」
そう言いながら久登先輩を見たら、先輩は一瞬だけ目を丸くして、それからふっと笑った。
「ちぃちゃん、そこまで深刻じゃない。てか、そういう意味じゃなくてさ……。あー、えっともう、俺、なんか今日、カラオケ何曲でも歌えそう……っていうか?」
「なんですか、それ……」
俺の口から、安堵のため息がこぼれ落ちた。
ほんの少し前の俺だったら、心配して損したって言いそうだ。だけど、今はそんな風には思わなかった。
久登先輩に何もなくて、よかったって思う。
「ちぃちゃん、ごめんね? なんか変に心配させて」
「ほんと、そうですよ」
「……えぇ〜。ちぃちゃんが、今日ほんと素直ぉ……」
久登先輩の若干、揶揄いの混じった声を聞いて、俺は少し口を尖らせた。
「素直な俺は、嫌ですか?」
「いや、嫌じゃない! むしろ嬉しい! ちぃちゃんが俺にデレてくれる日が近づいた気がして嬉しい……」
「何言ってるんですか。デレはしませんけど」
「いーや、いつか俺にデレる日くるね。よし。今日は俺、ちぃちゃんのためにいっぱい食べるから! 食べて飲んで歌って、いっぱいワクワクマンシール手に入れようね」
久登先輩は急にやる気を出したみたいに、肩をぐるぐる回し始める。
俺は「なにしてるんですか」って呆れながらも、俺のためにいっぱい食べるって言ってくれたことが、嬉しくて、胸の辺りがくすぐったくなった。
ワクチョコとコラボしているカラオケ屋は、徒歩十分。雪道は歩きづらくて、他の季節よりもちょっと遠く感じるはずなのに、久登先輩と歩くその距離はあっという間だった。
そんな日曜日に、やや一方的に約束された時間に駅前に行くと、久登先輩は既に到着していた。
久登先輩は寒がりだから、駅構内にいたらいいのに。白い息を吐く先輩は、冬のポスターモデルにでもなれそうなくらいかっこよく佇んでいた。
ネイビーのロングコートに白のタートルネック、黒のテーパードパンツ。
久登先輩は身長が高くて、肩幅も広い。おまけに顔も男前だ。大人びた容姿をしているから、私服だと大学生にも見える。
反して俺は……。近所を歩くみたいな服装だよな。
いつになく、久登先輩に対して、近づきづらさを覚えてしまった。
道行く人は久登先輩を遠巻きにチラチラと見る。
でも、久登先輩は人に注目されるのが当たり前みたいだ。普段通り、堂々としている。
だけど、久登先輩は、俺の視線に気づいた途端に、ふにゃりと笑みを浮かべた。
「あっ、ちぃちゃーん! もう来てたなら声かけてよー。適当な服着て来たから、さっむい! ちぃちゃんみたいにダウン着てくればよかった! ミスったー」
俺に駆け寄ってきながら話す先輩は、年相応だった。
さっきまで近づきにくいと思っていたのが嘘みたいに、いつも通りだ。
「あははっ、いつもの久登先輩だった。安心した」
俺は肩の力が抜けて、思わず笑ってしまった。
久登先輩はなんで俺が笑ってるのか、分かっていなくて、「えっ、何。もしかして俺、またタグでもつけたまま来た⁉︎」なんて言い出す。
いつもの久登先輩は、タグ取り忘れるのか。
それもまた面白くて、ふははっと噴き出すように俺は笑った。
一通り気が済むまで笑った頃には、久登先輩は凄く優しい顔をしていた。
赤ちゃんを見守る大人とか、小動物見てる人とか、そんな感じの。
「……ちぃちゃんさ、人前でその顔すんの、やめてね?」
「え?」
「顔には出してないだろうけど、俺ね……今、すごい動悸してるから」
「は? え? カラオケ行ってる場合じゃなくないですか。えっと、病院行かなきゃですよね。でも、日曜ってあいてるっけ」
俺は慌ててダウンジャケットのポケットに手を突っ込んで、スマホを取り出した。
「久登先輩、かかりつけってあります?」
そう言いながら久登先輩を見たら、先輩は一瞬だけ目を丸くして、それからふっと笑った。
「ちぃちゃん、そこまで深刻じゃない。てか、そういう意味じゃなくてさ……。あー、えっともう、俺、なんか今日、カラオケ何曲でも歌えそう……っていうか?」
「なんですか、それ……」
俺の口から、安堵のため息がこぼれ落ちた。
ほんの少し前の俺だったら、心配して損したって言いそうだ。だけど、今はそんな風には思わなかった。
久登先輩に何もなくて、よかったって思う。
「ちぃちゃん、ごめんね? なんか変に心配させて」
「ほんと、そうですよ」
「……えぇ〜。ちぃちゃんが、今日ほんと素直ぉ……」
久登先輩の若干、揶揄いの混じった声を聞いて、俺は少し口を尖らせた。
「素直な俺は、嫌ですか?」
「いや、嫌じゃない! むしろ嬉しい! ちぃちゃんが俺にデレてくれる日が近づいた気がして嬉しい……」
「何言ってるんですか。デレはしませんけど」
「いーや、いつか俺にデレる日くるね。よし。今日は俺、ちぃちゃんのためにいっぱい食べるから! 食べて飲んで歌って、いっぱいワクワクマンシール手に入れようね」
久登先輩は急にやる気を出したみたいに、肩をぐるぐる回し始める。
俺は「なにしてるんですか」って呆れながらも、俺のためにいっぱい食べるって言ってくれたことが、嬉しくて、胸の辺りがくすぐったくなった。
ワクチョコとコラボしているカラオケ屋は、徒歩十分。雪道は歩きづらくて、他の季節よりもちょっと遠く感じるはずなのに、久登先輩と歩くその距離はあっという間だった。

