「久登先輩って、神……?」
カラオケに入店して、早二時間。隣で『座敷童子の福招きうどん』を頬張る久登先輩を見ながら、俺はポソッと呟いた。
今日、初めて心の底から久登先輩を尊敬したかもしれない。
というのも、久登先輩は宣言通り、怒涛の勢いでコラボメニューを平らげていったのだ。
最初は、その見慣れない光景に驚いた。
だって久登先輩って体格は良いけど、柔道部とかラグビー部とかよく食べる人、みたいな体つきじゃない。
だけど、実際はめちゃくちゃ食べ方も綺麗だし、食べるのが好きってのが伝わってくる表情をする。まるでMeTube配信してる大食いアイドルみたいで、見てるこっちが気持ちよかった。
しかも、久登先輩はシールが多くもらえる地域限定メニューを中心に攻めてくれた。その結果、気づけば全11種類中もう8種類も集まったのだ。
一日でここまでいけるなんて、もう絶対、久登先輩に足を向けて寝られない。
そんなことを考えてるうちに、俺は久登先輩を凝視していたらしい。
「ちぃちゃーん。じーっと見過ぎぃ。えっち〜」
冗談めいた声がして、ハッとしたら、久登先輩はにやにやしながら俺を見ていた。
本当は尊敬して目が離せなかった。けど、そんな風に茶化されたら、素直な反応なんて出来やしない。
「なっ……! 久登先輩どんだけ食べるんだよって思ってただけなんですけど⁉︎」
「え〜、さっき、ポソッと『久登先輩って、神……?』って言ってるの、聞いちゃったけどぉ〜?」
そう言われて、一瞬ドキッとする。聞こえてたのかよ。でも、恥ずかしくて肯定するわけにもいかない。
「いや、それ幻聴じゃないですか?」
「え〜? 聞こえたけどなぁ」
「ありえないですから」
「そぉ? まぁいいや。……てか、俺、まだまだいけるけど、ちぃちゃんどうする?」
久登先輩はメニュー表を手に取りながら、首を傾げる。
「待ってください。久登先輩、まだ行けるんですか?」
「え、だって。まだ二人で12品しか食べてなくない?」
「まだ12品じゃないです! 普通はもう無理ですよ。俺の腹は限界です」
俺の胃袋パンパンで、飲み物しか入りそうになかった。
「じゃあちぃちゃんは、俺の応援でもしとく?」
「応援ですか?」
「歌ってくれてもいいよ〜? カラオケ来たのに、全く歌ってないじゃーん」
「今歌ったら、俺全部吐き出しますけど」
ありのままを伝えたら、久登先輩はテーブルにメニュー表を置いて固まった。
「それは……だめだね⁉︎」
「ですです」
「じゃあ、仕方がないなぁ。はい、復唱してね? 『久登先輩、頑張って〜♡』って」
久登先輩は女子が応援しそうなノリで、両手を頰に当てながら言う。
そんな可愛い言い方、男子高校生に要求するものじゃない。俺にできるわけないだろって、心底呆れた。
「やですよ! んな、ハート飛ばしてるみたいな言い方!」
「えぇ──⁉︎ なんでぇ〜⁉︎ それくらいあったら、俺まだまだいけるのにぃ〜!」
久登先輩は小学生が駄々を捏ねるような勢いで、騒ぐ。
しばらく食い下がられて、俺が白旗を上げた。
「……はぁ。応援したら、まだまだいけるんですね?」
「うん。余裕」
「あー、はい。わかりました。……久登先輩、がんばって」
「そんな棒読みなんかやだよ! 投げやりすぎる! もっと気持ち込めて!」
あぁ、ほんと久登先輩の面倒臭い部分が全面的に顔を出してる。尊敬した時間を、返してほしい。
でも、俺よりも圧倒的に、久登先輩が食べてくれているのだ。ここは俺が譲歩するしかない。
仕方なく、セーターの袖を捲り上げる。
「わかりました。やってやりますよ」
「ほんと? わくわく」
そんな期待の目なんて一瞬忘れて、俺はすぅっと息を吸う。
「久登先輩っ、頑張ってくださいっ!」
ただ握り拳を作って、普通に応援した。だけだったのに、何が起きたのか。
「……うっわ。破壊力えっぐぅ……」
久登先輩はすぐさま、顔を手で覆ってしまった。しばし固まったまま、動こうとはしない。
……いや、待て。その「破壊力えっぐぅ」って、俺に失礼じゃないか?
渾身の応援を、気持ち悪がったってことだろ?
なら、そんなこと言うなよ。肩透かしを食らった気分だ。
だけど、ため息を吐きそうになった時、ようやく久登先輩が手を下ろした。
もしかしたら、俺の頭はおかしくなったのかもしれない。
「ちぃちゃん、俺、頑張るね。めちゃくちゃ、頑張る」
ふにゃりと笑う久登先輩が、なんか……やたらと可愛く見えた。
意味がわからん。しかも、同時に、もっといろんな顔を見てみたいかもって思ってしまった。
──って、いや、なんでだよ。
そんな意味不明な感情に戸惑って、俺は慌てて目の前にあった飲みかけのジュースを口に運んだ。
バンシーのブルーベリーソーダ。
炭酸なのを忘れて勢いよく飲んだら、思いっきり咽せた。
カラオケに入店して、早二時間。隣で『座敷童子の福招きうどん』を頬張る久登先輩を見ながら、俺はポソッと呟いた。
今日、初めて心の底から久登先輩を尊敬したかもしれない。
というのも、久登先輩は宣言通り、怒涛の勢いでコラボメニューを平らげていったのだ。
最初は、その見慣れない光景に驚いた。
だって久登先輩って体格は良いけど、柔道部とかラグビー部とかよく食べる人、みたいな体つきじゃない。
だけど、実際はめちゃくちゃ食べ方も綺麗だし、食べるのが好きってのが伝わってくる表情をする。まるでMeTube配信してる大食いアイドルみたいで、見てるこっちが気持ちよかった。
しかも、久登先輩はシールが多くもらえる地域限定メニューを中心に攻めてくれた。その結果、気づけば全11種類中もう8種類も集まったのだ。
一日でここまでいけるなんて、もう絶対、久登先輩に足を向けて寝られない。
そんなことを考えてるうちに、俺は久登先輩を凝視していたらしい。
「ちぃちゃーん。じーっと見過ぎぃ。えっち〜」
冗談めいた声がして、ハッとしたら、久登先輩はにやにやしながら俺を見ていた。
本当は尊敬して目が離せなかった。けど、そんな風に茶化されたら、素直な反応なんて出来やしない。
「なっ……! 久登先輩どんだけ食べるんだよって思ってただけなんですけど⁉︎」
「え〜、さっき、ポソッと『久登先輩って、神……?』って言ってるの、聞いちゃったけどぉ〜?」
そう言われて、一瞬ドキッとする。聞こえてたのかよ。でも、恥ずかしくて肯定するわけにもいかない。
「いや、それ幻聴じゃないですか?」
「え〜? 聞こえたけどなぁ」
「ありえないですから」
「そぉ? まぁいいや。……てか、俺、まだまだいけるけど、ちぃちゃんどうする?」
久登先輩はメニュー表を手に取りながら、首を傾げる。
「待ってください。久登先輩、まだ行けるんですか?」
「え、だって。まだ二人で12品しか食べてなくない?」
「まだ12品じゃないです! 普通はもう無理ですよ。俺の腹は限界です」
俺の胃袋パンパンで、飲み物しか入りそうになかった。
「じゃあちぃちゃんは、俺の応援でもしとく?」
「応援ですか?」
「歌ってくれてもいいよ〜? カラオケ来たのに、全く歌ってないじゃーん」
「今歌ったら、俺全部吐き出しますけど」
ありのままを伝えたら、久登先輩はテーブルにメニュー表を置いて固まった。
「それは……だめだね⁉︎」
「ですです」
「じゃあ、仕方がないなぁ。はい、復唱してね? 『久登先輩、頑張って〜♡』って」
久登先輩は女子が応援しそうなノリで、両手を頰に当てながら言う。
そんな可愛い言い方、男子高校生に要求するものじゃない。俺にできるわけないだろって、心底呆れた。
「やですよ! んな、ハート飛ばしてるみたいな言い方!」
「えぇ──⁉︎ なんでぇ〜⁉︎ それくらいあったら、俺まだまだいけるのにぃ〜!」
久登先輩は小学生が駄々を捏ねるような勢いで、騒ぐ。
しばらく食い下がられて、俺が白旗を上げた。
「……はぁ。応援したら、まだまだいけるんですね?」
「うん。余裕」
「あー、はい。わかりました。……久登先輩、がんばって」
「そんな棒読みなんかやだよ! 投げやりすぎる! もっと気持ち込めて!」
あぁ、ほんと久登先輩の面倒臭い部分が全面的に顔を出してる。尊敬した時間を、返してほしい。
でも、俺よりも圧倒的に、久登先輩が食べてくれているのだ。ここは俺が譲歩するしかない。
仕方なく、セーターの袖を捲り上げる。
「わかりました。やってやりますよ」
「ほんと? わくわく」
そんな期待の目なんて一瞬忘れて、俺はすぅっと息を吸う。
「久登先輩っ、頑張ってくださいっ!」
ただ握り拳を作って、普通に応援した。だけだったのに、何が起きたのか。
「……うっわ。破壊力えっぐぅ……」
久登先輩はすぐさま、顔を手で覆ってしまった。しばし固まったまま、動こうとはしない。
……いや、待て。その「破壊力えっぐぅ」って、俺に失礼じゃないか?
渾身の応援を、気持ち悪がったってことだろ?
なら、そんなこと言うなよ。肩透かしを食らった気分だ。
だけど、ため息を吐きそうになった時、ようやく久登先輩が手を下ろした。
もしかしたら、俺の頭はおかしくなったのかもしれない。
「ちぃちゃん、俺、頑張るね。めちゃくちゃ、頑張る」
ふにゃりと笑う久登先輩が、なんか……やたらと可愛く見えた。
意味がわからん。しかも、同時に、もっといろんな顔を見てみたいかもって思ってしまった。
──って、いや、なんでだよ。
そんな意味不明な感情に戸惑って、俺は慌てて目の前にあった飲みかけのジュースを口に運んだ。
バンシーのブルーベリーソーダ。
炭酸なのを忘れて勢いよく飲んだら、思いっきり咽せた。

