僕がパンダを脱いだ日 ―小麦粉にまみれたツキノワグマの物語―

🐻‍❄️ パンダメイクのクマ

その粉は、指紋がつくほどに繊細で、涙が出るほどに白かった。 まさかそれが、汗と混じって自分を窒息させる「汚泥」に変わるなんて、その時のゴローは思いもしなかった。

導入:嫉妬と白い粉

山奥に暮らすツキノワグマ、ゴローは、人間から嫌われる存在だった。人里に近づけば、悲鳴と花火で追い払われ、その度に孤独感を深めた。ある日、テレビに映る白黒の獣——パンダの姿を見たとき、ゴローの心は嫉妬の炎に焼かれた。

「なぜ、あんなにただ竹を食べているだけの動物が愛され、私だけが恐れられ、嫌われるのだ?」

人間が愛するのは、「ゴロー」という恐ろしいクマではなく、「パンダ」という記号なのだと悟った。

ゴローは里の倉庫で、大量の**白い粉(小麦粉)**を見つけた。それは山や土の臭いとは全く異なる、埃っぽい、無機質な臭いを放っていた。「人間界の偽物」の臭いだった。

彼はその粉を全身に浴びた。目の周りや手足の先を黒く残し、残りを白い粉で覆う。鏡代わりの水面に映ったのは、滑稽で不格好、しかし「愛される」ための必死な願いを込めたパンダの擬態だった。体に付着した粉はサラサラとして、触れるとすぐに指紋がつくほどデリケートだった。水に触れることは、肌に針を刺されるかのような恐怖を伴った。

虚偽の人気:ベールの中の孤独

ゴローはすぐにネット上のスターとなり、集客に悩む地方の動物園に迎え入れられた。彼は愛されたが、その生活は虚偽に満ちていた。

観客の歓声は、ゴローの耳には**「自分の名前」ではない、ただの騒音として響いた。人間たちは「パンダ」に夢中だが、ゴローは檻の外にいる彼らと同じくらい、遠い場所にいる**ように感じた。

大好物の肉を我慢し、パサパサの竹を噛み続ける。舌に残る草の感触は、自分が「クマ」であることを否定し続けているという罪悪感を、小さな棘のように心に突き刺した。

夜、誰もいなくなった檻の中で、ゴローはそっと自分の毛皮を撫でた。「愛されているのは、この白い粉だ」と、自分の皮膚一枚を隔てた場所に、愛されていない本物の自分が閉じ込められているように感じた。

愛されれば愛されるほど、ゴローは自分自身から切り離され、空虚になっていった。

クライマックス:ねっとりとした崩壊

季節は真夏。ゴローは動物園の集客イベントの真っただ中にいた。連日の酷暑と偽りの生活で、ゴローの体力は限界を迎えていた。

灼熱の太陽の下、ゴローは必死に笑顔を維持しようとしたが、体内の熱はもはや抑えきれなかった。

大量の脂汗が、毛皮の下から噴き出した。

汗は、体を覆う白い粉と混ざり合い、即座にベタベタとした黄ばんだ泥へと変わっていった。それはまるで、着慣れない重い甲冑が熱で溶け、体に密着して剥がれなくなったかのようだった。ゴローは、そのねっとりとした感触に、強い嫌悪感と屈辱を覚えた。

最初に崩れたのは、目の周りだった。泥は白い粉を巻き込みながら、黒い涙のように流れ、顔全体が不潔な泥で覆われ始めた。

そして、その泥は熱せられた獣の脂と、腐敗しかけた小麦粉が混ざり合った、酸っぱく、むせ返るような不快な臭いを放った。その悪臭は、歓声の中にいた人間たちを一瞬で遠ざける「壁」となった。

「ク、クマだ!」 「汚い!臭い!」 「騙された!」

歓声は怒号と失望に変わり、ゴローの愛された虚像は、完全に崩壊した。

ゴローの全身を覆っていた白い粉は、醜い泥の塊となって地面に落ちていく。ゴローは朦朧とした意識の中で、その塊を見つめた。

(これが、私が愛されるために作り上げたもの。嫉妬と偽りで自分を追い詰めた、私の身から出た、醜い錆なのだ…)

結末:解放

ゴローは一命を取り留め、元の山へ返された。

彼はもう、パンダを羨むことはなかった。偽りの人気を追い求め、自分自身を偽り続けた生活の苦痛は、人間から恐れられ、遠ざけられる孤独よりも、遥かに耐え難いものだと知ったからだ。

ゴローは人里に近づくことなく、山奥で静かに暮らした。彼は、誰に愛されるでもなく、誰にも媚びることもなく、ありのままのツキノワグマとして生きることの、**真の「解放」**を知ったのであった。

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